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現実逃避できる期間は閉店ガラガラ

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その日から顔面凶器な彼との同居生活が始まった。

最初は、警察みたいな所に連れて行ってくれるのかな、と思っていたのだけどそんなことは無く私を養ってくれている。
暴力や暴行を振るうわけではなく、かといってこき使う訳でもない。一応、家事手伝いはしてるつもりだけど。
この人は何のために私をここに置いているのだろうか?と疑問に思う日々。

もっと言えば、ベッドの使用権は私に譲り渡していて高待遇。
1週間位たった頃に夜中に目が覚めてトイレに行こうとしたら、敷かれたラグの上で寝ている姿を見つけてびっくりした位。
次の日から何日かベッド譲り合い戦をして、毎回私が寝室に放り込まれて終わるから諦めた。


軟禁されているかと言えばそうでもない。
彼はどうやら仕事に行っているようで、朝から夕方まで居なくなるのだけど、普通に鍵をかけずに出ていくから逃げようと思えば逃げられる。
でも、ドアから見た外の風景は見たこともない街並みで、言葉も通じない中一人で外に出る勇気が出なかった。

いや、外に出る勇気が出ない理由はそれだけではなかった。
ありえないことだけど、まさか、そんなことは無いと思うのだけど、本当にここは地球上なのか、なんて馬鹿けた疑問が私の中にあった。

最初にあれって思ったのはコンセントが無かったこと。
部屋を見回して、何かが無い気がするなって思って気が付いた。
いや、もちろん電気を使わない暮らしをしているならそんなこともあるんだろうけどさ、水洗トイレにお湯が出るお風呂、コンロまであるのに電気が通ってないってある?

そう思って色々見てみると違和感がある。

トイレは水洗だけど、流すときの水がどこから来ているのか分からない。
タンク式ではないし、水が通るような配管が無い。

コンロはタッチ式で火がつくけれど、何が燃えているのか分からない。
ガスが出てくる穴みたいなモノが無いし、着火のきっかけになるような仕掛けも見当たらない。

見たことのない食べ物がある。

他にもちらほらそういうものがあって、もちろん私の気のせいで、私の知らない技術があるって言われたらそれまでかもしれないけれど・・・。

・・・マンガとか小説みたいに異世界に来ちゃった?剣と魔法の世界、みたいな?

そんなこと考えた日には、一人で大きな声で笑ってその考えを吹き飛ばした。
いやいやいや、ありえないありえない。


絶対に、そんな事はない。


答えを出すのが恐くて、彼が何もしないことをいいことに甘えて、そこに居座り続けた。


そうして生活にも慣れ、まるで同棲してるみたいに、朝、彼の作るごはんの香りで目が覚め、彼を送り出してから部屋の掃除をして夕飯を作る。
寝室と居間、トイレとお風呂場しか無いけど、全部手作業の掃除は存外大変で、でもやっぱり時間をつぶすには限度があるから、必要以上に丁寧に丁寧に掃除する。夕飯も飾り切りみたいなのに挑戦して、時間がかかるように作ってた。

そうやって、一日をつぶし日が落ちてきたころに彼が帰ってくる。
一緒にご飯を食べて、彼が片づけをしている間にお風呂に入って、寝るまでの少しの時間を使ってモノの名前を教えてもらう。
そして就寝。
ここ一週間くらいは一緒のベッドで寝てる。特に何かをするわけじゃなく、眠るだけ。
いつまでもベッドを占領するのは気が引けて、何日か私もラグで寝たりと攻防を繰り返して、最終的にこの形に落ち着いた。


そんな日々は始まった時と同じように、唐突に終わりを告げた。


同居生活を始めてからひと月近く経っていたその日。
バタンとドアの閉まる音で目が覚めた。

日が落ちても帰って来ない彼を待っているうちに、ラグの上でうたた寝をしてしまっていたみたいで窓から見える外の景色は真っ暗だった。

玄関のドアにもたれかかって動かない彼を心配して近づく。
酒臭い、と思った次の瞬間には太い腕に抱きこまれ、口の中に酒臭さが広がった。

驚きに固まった思考が動き出し、ディープキスされてる、と認識したときにはもうベッドに押し倒された後だった。
抵抗するなんて発想も浮かばないまま、されるがままにされて、あ、これ終わった後にこの人後悔するパターンだ、なんて人ごとみたいに考えた所あたりで激痛が体を襲った。

まあ、彼は身長2mはあるんじゃないかって長身に、筋肉バリバリのクマさんのような巨体。
対する私は155cm、日本人としてはまあ一般的だと思う身長に普通の体格。

こんだけの体格差があって、私の体をいたわることなく欲望のまま行為に至ればどうなるかはお察し。


激痛に苛まれ、さっさと終わってくれ、って思ったところで意識を失った。

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