6 / 15
お絵かき①
しおりを挟むふと気がつくと、周りが明るくなっていた。
一瞬どこにいるのか分からなくなったけど、すぐに思い出した。
ちょっとだけのつもりで、いつの間にか寝てしまってたのか。
横にいたはずのサクラちゃんはいなくて、無事に帰れたのだろうかと少し心配になる。
窓から外を見れば、太陽は随分と高いところにあった。
この部屋に来たときは夕方くらいだったから、随分と寝過ごしてしまったな。
ベッドからおりて、軽く伸びをする。
さすがに連絡もなしに一泊すれば、おじいちゃんたちも心配してるだろうな。
でも帰る気にはなれなくて、サクラちゃんを探さなきゃ、いなかったら帰れば良いし。
なんて言い訳じみたことを考えながら歩き出す。
部屋を出てすぐの階段を登れば、昨日サクラちゃんがいた教室についた。
「サクラちゃーん、いるー?」
声をかけながら覗き込めば、そこには雑然とした机と椅子があるだけで誰もいなかった。
まあ、いないか。
そこからぶらぶらと昨日と逆の順番に教室を覗いていく。
そして階段の手前の教室、3年生の札がかかっている教室に、彼女は、いた。
「・・・サクラちゃん?」
疑問形だったのは、サクラちゃんの様子が後ろから見ても変わっているのがわかったから。
洋服こそ変わらない様子だけど、ショートボブだった髪の毛が肩に着くくらいに伸びて、体格も成長していた。それこそ、3、4年生くらいに。
「・・・あ、よしのお姉ちゃん。」
振り返って、そう口に出したサクラちゃんの顔もどことなく成長しているようだった。
そんなサクラちゃんの顔には笑みが浮かんでいたけれど、昨日よりも控えめなものだった。
「おはよう、何してるの?」
そう言いながら、整然と並んだ机の間を縫って近づいていく。
「あ、おはよう。絵、かいてるの。」
そう言うサクラちゃんの手元のには、確かに色鉛筆と絵の描かれた画用紙があった。
サクラちゃんの前の席の椅子に座り、その絵を手に取る。絵のうまさは、まあ、年相応くらい。
「ねえ、いっしょにお絵かきしない?」
サクラちゃんは少し遠慮がちにそう言った。
「お絵かき?全然いいよ。」
昨日の校庭を走り回るよりも断然いい。
私は何も描かれていない、真っ白な画用紙を手にとった。
「でも、うーん、何を描こう?サクラちゃんは何を描いているの?」
サクラちゃんの描いている絵を見ようとしたら、パッと隠されてしまった。
「えっとね、まだとちゅうだから、見てほしくないな。」
少し気まずげに、サクラちゃんが言った。
「あ、ごめんね。そうだよね、描いてる途中の絵は見られたくないよね。」
慌てて謝った。
「あ、気にしないで。かいてるのはね、家族の絵なんだ。」
「・・・あ、そうなんだ。」
「うん、そうだ!よしのお姉ちゃんの家族の絵も見たいなぁ。」
「え、・・・家族の絵、見たい?」
「あっ、ダメならいいんだよ、別の絵にしよう。」
とっさのことで躊躇してしまった私に気がついたのだろう、サクラちゃんは慌てて言い直した。
「ううん、大丈夫だよ。家族の絵にしよう!私も書くから、そのかわりサクラちゃんの描いた家族の絵も見せてね。」
ニコッと笑ってそう言えば、サクラちゃんはほっとしたような顔を浮かべた。
そこからは静かにお絵かきタイムが始まった。
お絵かき自体すごく久しぶりなのに、家族の絵、かぁ。
お絵かきタイム、書き出す前に手が止まってしまった。
家族の絵で何を書けばいいのか分からなかった。
とにかく、何かを描かなければ、と取り敢えず自分の絵に取り掛かる。
10
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
古屋さんバイト辞めるって
四宮 あか
ライト文芸
ライト文芸大賞で奨励賞いただきました~。
読んでくださりありがとうございました。
「古屋さんバイト辞めるって」
おしゃれで、明るくて、話しも面白くて、仕事もすぐに覚えた。これからバイトの中心人物にだんだんなっていくのかな? と思った古屋さんはバイトをやめるらしい。
学部は違うけれど同じ大学に通っているからって理由で、石井ミクは古屋さんにバイトを辞めないように説得してと店長に頼まれてしまった。
バイト先でちょろっとしか話したことがないのに、辞めないように説得を頼まれたことで困ってしまった私は……
こういう嫌なタイプが貴方の職場にもいることがあるのではないでしょうか?
表紙の画像はフリー素材サイトの
https://activephotostyle.biz/さまからお借りしました。
灰かぶり姫の落とした靴は
佐竹りふれ
ライト文芸
中谷茉里は、あまりにも優柔不断すぎて自分では物事を決められず、アプリに頼ってばかりいた。
親友の彩可から新しい恋を見つけるようにと焚きつけられても、過去の恋愛からその気にはなれずにいた。
職場の先輩社員である菊地玄也に惹かれつつも、その先には進めない。
そんな矢先、先輩に頼まれて仕方なく参加した合コンの店先で、末田皓人と運命的な出会いを果たす。
茉里の優柔不断さをすぐに受け入れてくれた彼と、茉里の関係はすぐに縮まっていく。すべてが順調に思えていたが、彼の本心を分かりきれず、茉里はモヤモヤを抱える。悩む茉里を菊地は気にかけてくれていて、だんだんと二人の距離も縮まっていき……。
茉里と末田、そして菊地の関係は、彼女が予想していなかった展開を迎える。
第1回ピッコマノベルズ大賞の落選作品に加筆修正を加えた作品となります。
本を返すため婚約者の部屋へ向かったところ、女性を連れ込んでよく分からないことをしているところを目撃してしまいました。
四季
恋愛
本を返すため婚約者の部屋へ向かったところ、女性を連れ込んでよく分からないことをしているところを目撃してしまいました。
王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑
岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。
もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。
本編終了しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる