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政 略 結 婚 が!したいのです
しおりを挟む「わたくしはやっぱりライル様がいいですわ~!」
「リリーがピンチになった時に颯爽と駆けつける姿が素敵ですわよね!」
「わたくしはジャン様がいいわ!好きになったら一途な上に溺愛してくれますのよ!
わたくしもジャン様のような方と結婚したいですわ!」
「ジャン様もいいですわよね。やっぱり愛し愛されて結婚したいですわ~」
「シェイラ様はどう思われます?」
「え、私はジャン様はいかがかと・・・」
「あら、シェイラ様はジャン様が苦手なのかしら?」
「あ、えと、ちょっと一途が過ぎるかなぁ~って・・・」
「あら、そこが素敵なんじゃありませんの。」
「そうですわ」
「もう、皆様野暮なことを言ってはいけませんわ。シェイラ様にはヒーローより素敵な婚約者様がいらっしゃるもの。他の方には目が行かないのですわ。」
「あ、そうよね。シェイラ様には王子様がいらっしゃいますものね!」
「ふふふっ、羨ましいわ~」
「そ、そんなことは・・・」
「あら、謙遜なさらなくてもいいのよ。みんなお二人が相思相愛なのは知っているのですから。」
「本当に羨ましい。相思相愛と言えば、先日発売された最新刊の・・・・・・」
少女達の会話は取り留めも無く、次々に移ろいゆく・・・
「のはともかくとして、なんでみんなあんなのが好きなのかしら?」
全く理解ができないと顔に書いた少女がカシャンと音を立ててティーカップをテーブルに戻す。
シェイラが思い出すのは先日のお茶会での会話。流行りの恋愛小説でどのキャラクターのどんなところが好きか?という話題になった時のことだ。
「シェイラ、御行儀が悪いよ。」
向かいに座る、まだ幼さが抜けきっていない青年が注意する。
「だって、一途に愛する?溺愛?そんなの物語の中だけで十分!実際は厄介なだけで特にいいことは無いわよ!!
何事も程々が一番!
愛のない結婚?
ばっちこい!
愛が無くても幸せな結婚はできるわ!そうでしょ?」
「それは否定しないけど・・・」
シェイラの様子に、青年が苦笑しながら応える。
「否定しないけど、何よ!?
なに?マックスも恋愛推奨派?いいけど、私とは関係ないところでやってね!
大丈夫よ私マックスのことは信頼してるから、側妃でも妾妃でも認めるし大切にするわよ。むしろ後継とかの問題があるし積極的に相談してね。
私の理想が、陛下と王妃様みたいな立派な夫婦なのは知ってるでしょ?」
「うん、昔から父上と母上はシェイラの理想だよね。」
やはり苦笑しながら応えるマックスことマクシミリアンはこの国の第一王子で、シェイラはその婚約者。マックスが18歳で成人し、一つ年下のシェイラが17歳になる2年後に二人は婚姻を結び同時にマックスが立太子することが決まっている。
シェイラが理想としている国王夫妻は二人が物心付かぬうちに婚約が決まり、幼い頃から交流を重ねていた。恋心が生まれることはなかったが、お互いに深く信頼しあっておりとても仲が良く節度のある関係を保っているし、子供にしっかりと愛情を注いで育てている。国王の責務として、側妃を二人娶っているがその二人に対しても王と王妃はしっかりと管理し、マックス以外の王子王女が生まれたが後継問題は起こっていない。
本当にシェイラの理想だ。
自分の両親とは違って。
今の時代、貴族の結婚は家と家を繋ぐ政略結婚が主流だ。
後継の問題さえ解決すれば夫婦揃って”真実の愛”を求めて浮気するのは一般的なこと。
だからこそ夫婦の仲は冷え切っているか、事務的な関係。かつ子供の世話は乳母など使用人任せと言う家は少なくない。
そんな家庭で育つからこそ、少女達が余計に物語のヒロインのように愛されたいと願うのだろう。
そんなシェイラの家も例に漏れず、では無く、漏れたレアケースである。
シェイラの両親は恋愛結婚だ。しかも、未だにアツアツ過ぎるくらいアツアツの夫婦である。
シェイラの父は幼い頃にシェイラの母に一目惚れした。
その後、父は母と積極的に交流をもち、母が自分以外を見ることがないように甘やかし、自分を好きになるように誘導した。それと同時に外堀を埋め、母が気づいた時には逃げることができない状態だったそうだ。・・・逃げる気も無かったそうだが。
そう、まるで物語のヒーローのように、父は母を溺愛した。
それは子供ができてからも変わらず、むしろ年々愛情が深まっているようにも感じる。
父と母はお互いを愛し、子供を愛している。周りからは理想の家族と言われるまでになっているのだ。
そんな環境で育てば、愛し愛されての恋愛結婚をしたいと思うようになりそうだが、シェイラはそうはならなかった。
幼い頃からマックスの婚約者であったからか?
婚約者とうまく行かず諦念を抱いているからか?
お妃教育の影響か?
どれも違った。
先ほどまでの会話で分かる通りにマックスとの仲は良いし、信頼も築けている。
お妃教育で側妃の必要性なども学んだが、それがこの価値観に影響したかと言えばNOと言い切れる。
シェイラが恋愛結婚を望まないのは、両親の影響によるものである。
もっとはっきり言ってしまえば、父が母を愛し過ぎているからである。
父は母を愛している、子供に嫉妬を向けるくらいに。
父は一緒に遊んでくれた、本を読んでくれた、たくさんお話しをした、抱っこしてくれた、他にもいろいろしてくれた。
母も一緒に遊んでくれた、本を読んでくれた、たくさんお話しをした、抱っこしてくれた、他にもいろいろしてくれた。
思い出は沢山ある。
ただし、どちらかとの思い出だ。
そう、二人は混ぜるな危険なのである。
母とおしゃべりをしていると、父は割って入ってくる。
母に抱きかかえられていると、父はそっと私を抱き上げ使用人に渡す。
エトセトラエトセトラ...
母といるのを見つけると、父は必ず私たちを母から引き離し嫉妬を向けてきた。
昔は予定がある日の前日はいつも父が家に帰ってこないようにお祈りをしていた。
父が家にいる日は夕飯のあとのおしゃべりと母の寝かしつけが無くなる。
そして翌日、母は必ず体調が悪いといることで昼過ぎまで起きてこない。
小さい頃はとても不思議で心配で、泣いて大丈夫なのか?どうにかできないのか?と乳母に訴えたことがある。
その時乳母はとても微妙な顔をしながら、どうしようもならないのです。と私に言った。その言葉に私はさらに泣いてしまったのだ。
数年経って、母の体調不良の理由を知った時、乳母の表情に納得すると同時に、子供の純情を返せと父に言いたくなった。
母は母でいつも、父が私との間に割って入って来ても嫉妬を向けても少し困った顔をするだけでされるがままだった。
茶飲み友達(王妃様と宰相の奥様)曰く母は、
流され属性付き鈍感系天然ヒロイン
らしい。
まあともかく、そんなこんなで私は過ぎた愛情なんぞろくなもんじゃないと思うようになった。
子供にはきちんと愛情を与えて育てたいと思うようになった。
だから、過ぎた愛情のきっかけになる恋情なんて必要ない。
しっかりと信頼関係を築いた上での政略結婚が至上である。
それが、私の出した答えだ。
マックスはそんな私の理想とも言ってもいい婚約者だ。
幼い頃に決められた婚約者、恋情はないがこんな愚痴を言えるくらいに仲は良好だし、信頼関係も築けていると思う。
「さっきはあんな風に言っちゃったけど、マックスは好きな人とかいないの?」
「・・・それは婚約者にする質問かい?」
「あら、お互いに恋情を持ってるわけでなし。親同士の決めた婚約でしょ?
特に問題ないと思うけど。」
ちょっと首を傾げながら言う。
呆れたようなため息を吐かれた、ちょっとムッとする。
「いないよ。シェイラに不義理なことはしないから。
もしそんな子ができたら言うから安心して。」
思いの外真剣な目を私に向けているマックスに、一瞬ドキリとした。
「あら、一瞬ときめいちゃった。
私がいいって言っているんだから全然不義理じゃないわよ。気にしないで。」
「ああ、分かった。」
そのあとは、取り留めのない話をして帰る時間になった。
「じゃあ、そろそろ帰るわね。」
「ああ、気をつけて。」
そうしていつもと同じように帰った私はマックスが私が出て行った後に呟いたことなんて、当然知らなかった。
「・・・本当のことなんて言えるわけがないだろう・・・」
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