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9、キャロラインの呪縛(ローランド視点)

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一息ついたアンジェリカの顔には後悔が色濃く浮かんでいた。
そして、私はきっと今わかりやすく顔が強張っていることだろう。

「このまま、話を続けますか?
仕切り直して、少し落ち着いてからでも構いませんよ。」

アンジェリカにそう提案されるほどの顔になっていたらしい。

「いや、構わない。このまま続けて欲しい。」

「・・・では、続けさせていただきますね。」

若干ためらったものの、アンジェリカは話を再開した。

「その後はあの子がわたくし達にバレないように男性と関係を持つのを見つけては、止めさせ、説得や話し合いを重ねていきましたが、最後までやめることはありませんでした。

そして、父があの子を一切表に出さなかった理由ですが、本当はあの子は公爵家の城はおろか部屋を出ることさえ許されていない存在でした。
父があの子を引き取る条件の一つとして、部屋から出さないことが挙げられていましたから。

それほどまでに前国王夫妻とその側近達は恨まれていました。
それこそ幼い頃は社交の場で、子供でしかないわたくしやお兄様たちにまでなぜあの子を生かしているのか、早く殺してくれ、などど訴えてくる者が後を断たないほどでした。そのことでお茶をかけられるなどの嫌がらせをされることもありました。

それでも年々、そういた輩は減っていきました。
恨む相手が、目にも入らず、噂も聞こえない中で、その気持ちを同じままに維持するのは難しいですから。それに彼らは彼女のことを恨んでいたわけではないですしね。

そして本当はあの子が15歳で成人する年に、貴方の国を挟んだもう一つ隣の国で生きていけるように仕事か縁談を用意するつもりでした。
ですが、その前にあの子が男性と関係を持っていることが分かったのです。
その状態であの子を余所に預けるわけにはいきません。

とはいえ、あのまま公爵家にいさせてもあの子には良くない様子でしたから、貴方のご両親に引き取ってもらうことが決まっていました。パーティーの後、そのまま連れて帰ってもらう予定だったのです。


そして、ここからはローランド様にとって辛い話になるかもしれません。
先ほど、あの子を部屋から出さないことがあの子を引き取る条件と言いましたが、あの子を引き取るにあたって3つの条件が提示されました。
1つがあの子を15の年になるまで部屋から出さないこと。
1つがあの子が死ぬまで責任持って公爵家が監視すること。
そして、最後の1つがあの子に魔術を刻むこと。

あの子に刻まれた魔術は、魔術を起動させる術式を持つ者の内、過半数が術を起動されれば右腕を、さらに残りの過半数が起動させれば左足を、さらに残りの過半数が起動させれば左腕を、さらに残りの過半数が起動させれば右足を、そこから一人でも起動させれば頭を爆破させるというものです。そしてそれは、あの子が15歳にならないと起動できないようになっていました。
その起動の術式は貴族の、一家に一人持つように渡されました。大抵の家は当主や次期当主とされる人間が持っていたようです。

先ほども言いましたが、見えない人を恨み続けるのは難しいものです。想いというものは目の前にある生活や、幸せに追いやられ、年月と共に風化していくものです。その感情を抱いたことは覚えていても、同じだけの熱量を保つもしくは再燃させるのは至難の技。
現にあの子が15歳になっても、術は発動しませんでした。

ですが、あの子は表舞台に出てきてしまいました。
母親に良く似たピンクゴールドの髪の毛、貴族の中ではパッとしない容姿。次期国王を従え、公衆の面前での婚約破棄。
あの会場の多くの人間が、思い出してしまったでしょうね貴方のお母様が婚約破棄された時のことを。奇しくも、先日のパーティーには貴方のお母様と同じ世代の方が多く参加していました。
先の国王が起こした婚約破棄の場に居合わせた方々が。

その方々が何を考えるのか、言うまでもないことです。
それほどまでの符号があってしまえば、当時の感情を呼び起こされることもありえるでしょう。
さらには王位を継ぐと言われればどうなるか。

言うまでもないでしょう?」

真っ直ぐに目を見ながら言われた言葉の数々に、衝撃を受ける。

「は、はは。じゃあ、私が彼女を表舞台に立たせようとしたから、彼女は死んだのか。」

「ええ、そうです。」

ただ、淡々と是と告げる言葉が、胸に刺さった。

「そして、我が国の貴族が貴方を王と仰ぐことも金輪際一切ありえません。」
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