1 / 27
第一章 出会い〜旅の始まり
プロローグ
しおりを挟む俺、沖 紫惠琉は会社帰りに行きつけの居酒屋で同期の同僚と飲んでいた。
「はぁ…今日もすごい忙しくて疲れたなぁ~…」
同僚の山田は疲れ果てた顔でため息を尽きながら注文したビールを一気飲みした。
山田は俺と違い営業のエースで、上からの期待が半端ないらしく、いつも月の終わり頃になると愚痴を言っている。
営業部のノルマがギリギリの時は特に大変らしい。
そんな時は友人の俺を飲みに誘って愚痴りながらストレス発散をするのだ。
ちなみに俺は山田とは違い、営業部ではなく経理課だからほどほどの忙しさでしかないのでいつ誘われても問題はない。
「…それにしてもお前、全っ然浮いた話ないよな」
唐突に山田がそんな事を言ってきた。
「…別にいいだろ、俺の勝手だ。」
「まぁ、ぶっちゃけそうなんだけど、俺さ、よく取引先の人や会社の女性陣に聞かれんだよ、沖さんって付き合っている人いないんですか?って。」
「なんだそりゃ。そんな話一度も聞いたことないぞ?」
「そりゃそーだよ、本人には聞きづらいと思うぞ?でもな、考えてもみろよ、銀髪碧眼のハーフモデルのようなイケメンで、人当たりもよく、それでいて仕事もできる。そんな男がその歳で普通1人だと思うか!?今だって周りの客がお前のことチラチラ見ているんだぞ?気づいてないのか?」
呆れたような顔で山田はそんな事を言った。
「全然モテない俺にそんなこと言ったって現実味ないぞ?うっ…なんか、ちょっと胸が痛くなってきた…」
心の傷が痛む胸を押さえて渋い顔をする。
そう、この話の流れでわかるように、俺は年齢イコール彼女いない歴なのだ。
そんな心の奥底に閉じ込めておいた禁断の箱を山田は心の表面に浮き上がらせてしまったのだ。
せっかくそんな悲しいことは忘れて楽しく飲んでいたのに…と山田を軽く睨む。
すると山田は微妙な顔をして言った。
「…ホント、なんでみんなお前に声をかけないのかねぇ~…イケメンすぎるのも良くないってことなんだろなぁ。」
それからはあまりその話には触れずに、またもや山田の愚痴を聞きながら相槌を打つことに専念して過ごし、美味しい酒と料理を楽しんで今日はお開きになった。
「じゃあ明日、明後日と連休だからゆっくり休めよ!」
そんなことをお互いに交わして、俺は1人で自宅への帰り道を歩き出した。
しばらく歩いていると、ふと通りがかった店に目がいった。
(こんな所にこんな店、あったっけ…?)
その店は見た目はとても古めかしい建物で、中は薄暗い照明がついているだけで看板もなく、一体何を売っているのかも外からではよくわからなかった。
そんなにあやしい雰囲気な店なのに、それなのになぜだか無性に中に入ってみたくなり、一歩店の中に足を踏み入れた。
すると、先ほどまでと異なり中はまったくあやしい雰囲気などなく、所狭しと何に使うのかよくわからないガラクタ(のように見える)が置いてあった。
俺はそれらを見ながら奥の方へと進んでいく。
するとカウンターの所にフードを被ったおばあさんがいた。
「すみません、この店って一体何の店なんですか?」
俺は思わずそのおばあさんにそう声をかけてしまった。
おばあさんはそんな俺を見てにやりと笑い、話しかけてきた。
「ヒッヒッヒっ、何って、ここは魔道具の店さね」
「…魔道具?」
「そう、色々便利な機能のついた道具を売っているんだ。お前さんも1つ買ってみるかい?」
「便利な道具…ねぇ~…」
「そう!例えばこの首輪!この首輪は取り付けた生き物の体がどんなに大きさが変わろうとも自動調整で大きさが変わったり、これをつけた生き物がどこにいるのかもすぐに教えてくれる機能やその生き物に悪さをしようとすると守ってくれる機能もついている。他にもこの腕輪なんか、あらゆる攻撃から身を守ってくれる機能があるんだよ?」
おばあさんはすこしニヤリとしながらおすすめの品を棚から取り出してカウンターに置いた。
首輪の方はどう見ても、少しキラキラした石がついてはいるが犬用の首輪にしか見えない。
もう1つの腕輪の方はシルバーに何らかの宝石がついていてよくわからない文字が彫られている海外の民芸品みたいな感じだった。
「…なかなか2つとも綺麗だけと、首輪はペットを飼っていないからいらないし、腕輪は普段使いできないからいらないな。」
俺はきっぱりとおばあさんにそう言ってやったのだが、おばあさんはニヤリと笑った。
「まぁまぁ、持っておいても良いんじゃないかねぇ~…あっ、そうだ!お前さんにはこれを渡そう。」
そう言ってまたもやカウンターの下の棚から何かを取り出した。
それは、とても大きな卵だった。
まるでダチョウの卵のような大きさの卵で、なぜだか当たる光の角度によっては銀色にも見える不思議な卵だった。
「この卵は生きているから、肌見放さず持っていなさい。ちょっとしたおまけにこの卵を入れられる肩掛け鞄をつけてあげるさね。これは持ち主の登録をして盗難防止の魔法をかけてやるからのぉ。…とまあ、そんなことだからさっきの首輪と腕輪は購入していきなさいな。おまけしてやるさね。」
俺は酔っ払っていたこともあり、ついその卵と肩掛け鞄、首輪、腕輪を購入してしまった。
ちなみに肩掛け鞄になんだか魔法をかけるとか言っていたが、ちょっと指先に針を刺して血を出し、その血を鞄に吸い込ませるだけだった。
そんなこんなでみんな肩掛け鞄に入れて持たされたので、ついでだから今自分が持っている鞄なんかも肩掛け鞄に入れておいた。
この肩掛け鞄、不思議なことにあんなに大きな卵を入れたにも関わらず薄っぺらいのだ。
他にもたくさんいろんな物を入れていた通勤用の鞄なんかも吸い込まれるように肩掛け鞄に入っていった。
ん~、酔っているからそう見えただけかな?
その後、酔っ払っている俺はおばあさんに見送られながら店を出た。
ふとおばあさんを振り返ると、そこには店などなく、ただのコンクリートの壁があっただけだった。
「うわっっっ!!」
俺は面食らってものすごく間近にある壁から離れた。
するとあまりにも焦ったのか足がもつれ、そのまま後ろに尻餅をついてしまった。
その時にふと、あのおばあさんから購入したものなんかが入っている肩掛け鞄が目に入った。
(夢じゃ…なかったのか…?)
いろんなことがありすっかり酔いが冷めてしまったが、それでもパニックにならなかったのはあまりにも非現実的すぎたからだろう。
(…とりあえず家に帰るか)
尻餅をついたまましばらくの間ぼーっとしていたが、このままでは酔った挙げ句地べたで寝てしまう人だと思われかねないと立ち上がってまた家に向かって歩き出した。
その間中、先程のお店やおばあさんとの会話なんかを思い出しては首を傾げてばかりいたけど、結局はよくわからないという結果に落ち着く。
その時、貰った肩掛け鞄を眺めながら立ち止まった。
(とりあえず帰ったらこの鞄の中にある物を取り出してみるか)
そんなことを思って左足を踏み出したのだが、踏み出した足はそのままぽっかり空いた穴の中に踏み込んでしまった。
「うわっっっ!!」
踏み込んだ足のせいでバランスを崩し、そのまま体は穴の中に落ちてしまった。
延々と落ちていく穴の中で俺は、後に訪れるであろう穴底に叩きつけられる痛みを想像し、恐怖で気を失ってしまった。
436
お気に入りに追加
994
あなたにおすすめの小説
婚約者が私の妹と結婚したいと言い出したら、両親が快く応じた話
しがついつか
恋愛
「リーゼ、僕たちの婚約を解消しよう。僕はリーゼではなく、アルマを愛しているんだ」
「お姉様、ごめんなさい。でも私――私達は愛し合っているの」
父親達が友人であったため婚約を結んだリーゼ・マイヤーとダニエル・ミュラー。
ある日ダニエルに呼び出されたリーゼは、彼の口から婚約の解消と、彼女の妹のアルマと婚約を結び直すことを告げられた。
婚約者の交代は双方の両親から既に了承を得ているという。
両親も妹の味方なのだと暗い気持ちになったリーゼだったが…。
転生賢者と猫の旅~猫になった魔王とエルフ賢者のまったり冒険譚~
タツダノキイチ
ファンタジー
一定の周期で魔王が復活し、勇者が転生してくる世界。
そんな世界で勇者とともに魔王を討伐した賢者のジーク。
無事、魔王を討伐したかと思ったら、なんと魔王の魂がそのペット、子猫のチェルシーに乗り移ってしまった。
仕方なく、その魔王(子猫)とともに冒険の旅に出る賢者(エルフ)
冒険者として、世界各地をのんびり旅しながら、魔物と戦ったり美味しいご飯を一緒に食べたりする物語。
茶番には付き合っていられません
わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。
婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。
これではまるで私の方が邪魔者だ。
苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。
どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。
彼が何をしたいのかさっぱり分からない。
もうこんな茶番に付き合っていられない。
そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。
自称悪役令嬢な婚約者の観察記録。/自称悪役令嬢な妻の観察記録。
しき
ファンタジー
優秀すぎて人生イージーモードの王太子セシル。退屈な日々を過ごしていたある日、宰相の娘バーティア嬢と婚約することになったのだけれど――。「セシル殿下! 私は悪役令嬢ですの!!」。彼女の口から飛び出す言葉は、理解不能なことばかり。なんでもバーティア嬢には前世の記憶があり、『乙女ゲーム』なるものの『悪役令嬢』なのだという。そんな彼女の目的は、立派な悪役になって婚約破棄されること。そのために様々な悪事を企むバーティアだが、いつも空回りばかりで……。婚約者殿は、一流の悪の華を目指して迷走中? ネットで大人気! 異色のラブ(?)ファンタジー開幕!
噂好きのローレッタ
水谷繭
恋愛
公爵令嬢リディアの婚約者は、レフィオル王国の第一王子アデルバート殿下だ。しかし、彼はリディアに冷たく、最近は小動物のように愛らしい男爵令嬢フィオナのほうばかり気にかけている。
ついには殿下とフィオナがつき合っているのではないかという噂まで耳にしたリディアは、婚約解消を申し出ることに。しかし、アデルバートは全く納得していないようで……。
※二部以降雰囲気が変わるので、ご注意ください。少し後味悪いかもしれません(主人公はハピエンです)
※小説家になろうにも掲載しています
◆表紙画像はGirly Dropさんからお借りしました
(旧題:婚約者は愛らしい男爵令嬢さんのほうがお好きなようなので、婚約解消を申し出てみました)
審判【完結済】
桜坂詠恋
ミステリー
「神よ。何故あなたは私を怪物になさったのか──」
捜査一課の刑事・西島は、5年前、誤認逮捕による悲劇で全てを失った。
罪悪感と孤独に苛まれながらも、ひっそりと刑事として生きる西島。
そんな西島を、更なる闇に引きずり込むかのように、凄惨な連続殺人事件が立ちはだかる。
過去の失敗に囚われながらも立ち向かう西島。
彼を待ち受ける衝撃の真実とは──。
渦巻く絶望と再生、そして狂気のサスペンス!
物語のラストに、あなたはきっと愕然とする──。
婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた
cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。
お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。
婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。
過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。
ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。
婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。
明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。
「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。
そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。
茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。
幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。
「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?!
★↑例の如く恐ろしく省略してます。
★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。
★コメントの返信は遅いです。
★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません
悪役令嬢と弟が相思相愛だったのでお邪魔虫は退場します!どうか末永くお幸せに!
ユウ
ファンタジー
乙女ゲームの王子に転生してしまったが断罪イベント三秒前。
婚約者を蔑ろにして酷い仕打ちをした最低王子に転生したと気づいたのですべての罪を被る事を決意したフィルベルトは公の前で。
「本日を持って私は廃嫡する!王座は弟に譲り、婚約者のマリアンナとは婚約解消とする!」
「「「は?」」」
「これまでの不始末の全ては私にある。責任を取って罪を償う…全て悪いのはこの私だ」
前代未聞の出来事。
王太子殿下自ら廃嫡を宣言し婚約者への謝罪をした後にフィルベルトは廃嫡となった。
これでハッピーエンド。
一代限りの辺境伯爵の地位を許され、二人の幸福を願ったのだった。
その潔さにフィルベルトはたちまち平民の心を掴んでしまった。
対する悪役令嬢と第二王子には不測の事態が起きてしまい、外交問題を起こしてしまうのだったが…。
タイトル変更しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる