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しおりを挟む「さあリナーリ様、ノアも準備させてますので、お着替えは私がお手伝い致しますわ」
「ありがとうございます。 ですがお昼のドレスはこれしかありません」
「――はい?」
「あとは夜と、寝巻きがありますが」
「他のお洋服は?」
「はい、家を出る際にお義姉様が必要だと言うので」
「そんな……。 お帽子は? この地方は陽射しが強いですから」
「それでしたら、一つあります」
「……そうですか。 それでは、少し着付け直し致しますねっ」
◇
町を案内するって、大体ボクはあんまり町に行かないんだ。 それも二対一だぞ、圧倒的に不利だろう。
「ノア、私の帽子を貸しますので、町へ行ったらリベルノ様に買ってもらいなさい」
「え、でも……」
「リベルノ様、リナーリ様にも新しいお帽子を」
「あ、ああ、わかった」
帽子か、うん、目的があった方が助かる。 ありがとうカリナン。
「じゃあ行ってくる。 パトリック、女性が居るんだから安全運転で頼むよ」
「………」
おい、返事ぐらいしてよね。
さて、町までは大した距離じゃないけど、
「「「………」」」
車内の静けさが、距離を何倍にも感じさせる。
「リベルノ様」
「――はっ! な、なんだいノア」
「昨日は申し訳ありません。 驚いてしまって……」
「ああっ、そんなのいいよ慣れてるからっ」
「え、以前にも……」
「無いね初めてだ! でもいいんだっ、き、気にしないでいい」
「……はい、ありがとうございます」
ふぅ、何とかしのいだな。
「リベルノ様」
「なっ、なんだいリナーリ!?」
連続攻撃!? さっきまでは嵐の前の静けさだったのか……!
「……いえ、夕食の時にお話します」
「――ええっ!?」
フェイントだと? 更に夕食で何か言われるというプレッシャーを残し、同時に夕食の同席まで取り付けた……。
「なんて策士だ、到底太刀打ちできない」
そして、手に汗握る攻防戦を乗り越え町に到着した。 まあ、防戦のみだったが。
「――っ、すごい陽射し……確かに帽子は必要ですね。 リナーリ様、日焼けに気をつけませんと」
「はい」
「これが寒期になると凍えるほど寒いからね、季節の変わり目は体調管理が難しいよ」
お? 今のは上手く喋れたんじゃないか?
「あっ、領主様だ!」
「えっ」
幼い男の子の声がした。
「町に来るなんてめずらしいですねっ」
駆け寄って来た男の子は、溌剌とした眼差しを向けてくる。 収穫祭にもちらっとしか顔を出さないのに、よくボクを判ったな。
「領主様が来てからお父さん太ったんだ! お腹にパンチしても跳ね返るくらい!」
「……そう、お腹にパンチしちゃダメだぞ、じゃあ」
「おお! リベルノ様じゃないですか!」
くっ、父親登場か。 確かに割腹の良い身体をしてる。 おいカリナン、卵くらい奪って良さそうだぞ。
「ああ、ヘンリーさんの息子さんか」
「ええ、やんちゃに育ってますよ! これもリベルノ様のおかげだ」
これは……やっと二人に良い所を見せられる展開じゃないか!?
「いや、そんな事は……」
と、謙遜する領主を褒め称える領民。 ふふ、完璧だ。
「それにしても、ロムニカル家はまたこの前の戦で第一武功を上げたらしいですね」
……おい、違うだろ。
「長男のアルフレッド様は国一の剣士としてさすがのご活躍、更に今回は三男のロドリー様も目覚しい戦功を上げたとか!」
「そうなんだ、すごいね、もうやめて」
メイドに続いて領民まで……!
キミ達はあれなの? ボクの敵なのか?
「やはりロムニカル家はすごいのですね、リナーリ様」
「はい、そのようです」
はは、そのロムニカル家に次男は入ってない。 そんなの慣れてるけど、リナーリの前で言われるのは堪えるな。 はあ、町なんて来るんじゃなかった……。
「でも俺の腹を満たしてくれるのはリベルノ様だ、俺達領民の救世主も負けてないですぜ!」
「ヘンリーさん……」
そんな風に思ってくれていたのか、知らなかった。
「で、お連れのご令嬢らしき方とメイドさんは……」
「ああ、それは、その……」
ボクの妻、そう言うのはちょっと気恥しいし、まだちゃんと夫婦になれてないから、な、なんて言おうかな。
「さ、攫ってきたんですかい? いくらリベルノ様でもそりゃ……」
「――ボクの妻だ! 誰が人攫いだッ!」
「え……」
あ、言ってしまった。
「……お、ぉおおいみんなッ!! リベルノ様が――」
ヘンリーさんが大声を上げた時、もう一つの声がそれに被さり、町の注目を集めた。
「なんだこれは! 天下のロムニカル家の領地とは思えんなッ!!」
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