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第三章

クエスト完了、華麗なる終幕

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「……お前は、何者なんだ……」


 知る人間の少ない筈の情報を並べるミシャに、タトナスは怪訝な目を向け眉を寄せる。 その傍らに仲良く転がる亜人コンビは、

「何者って……なあ、ノエル……」
「ああ……」



(( ―――何者ですか……? ))



 仲間にさえ理解されていないらしい。


「はっ! どうせこんなクエストに冒険者なんて集まらないと思ったんでしょうけど、残念だったわね」

 鼻を鳴らし、残念だと吐き捨てる残念な女。 
 彼女こそ―――

「私とこのブランはね、四年前、一度目の野望を挫いたパーティのメンバーなのよ」

「なっ……」

 嫌われた国、少ない報奨金。 人を集める要素の無いクエストは、隠した野望の臭いを嗅ぎつけたリベンジャーにより、またしても砕け散ったのだ。

「その時、大切な仲間を失っても……私達の心は死ななかった……」

 ブランの心は今日一度死んだが。
 身内の生物兵器により。


「覚えておきなさい、野心は――――純心には勝てないのよっ!!」


 救いの女神は、悪に正義の矢を打ち込んだ。
 ……ように見えなくもない。


「……なあ、ノエル」
「なんだよ」

「ああ言うってことはよ、ミシャには純し――」
「くまキチッ!」

 ヴァンの言葉をノエルが遮る。

「心って、形がねぇと思わねえか?」
「………」

「だからよ、アイツが言う心は、俺達が思うのと違うんだよ」

 優しく言い聞かせて、少年は笑った。

「……そうか」
「ああ」

 獰猛さを感じない狼と熊は、悟りを開いたガンジースマイルで微笑み合う。
 ふと見ると、その牙は尖ることなく……



 ――――まあるく、削られていたとさ。









 ――――fin――――





 ……は冗談として、事の顛末を理解したタトナスはがっくりと項垂れ、絶望を滲ませ話し出した。


「……ふふ、今となってはどうでも良いことか……どうせ、王の期待を裏切った私はもう終わりだ……」

「タトナス様……」

 絶望する国一番の魔導士にナーズが声を掛ける。
 そしてもう一人、

「なことねぇよ」

「っ……お前、は?」


 決戦時釣りしてた主人公です。


「終わった、と思ってからよ、その時までをどう生きるか……そうやって生きるのも悪かねぇんだぜ?」

 生き方なんていくらでもある。
 そう言って励ます余命最長三年を言い渡され、序盤で牙を失った元剣士、ノエルくん。

「だが私は、失敗の許されない任務を果たせなかった……必ず、消される……」

「なあ、タコス」

 最早文字数すら変えられたタトナスは、スパイシーな香りのしそうな料理となったが、今は特に気にしてないようだ。


「絶望ってよ――――超えられるんだぜ?」


 そうなんだ。


「……絶望を……超え、る?」


 よく分からないが、とにかくウチの主人公は落ち込んだ人間に感情移入するへきがあるのは確かだ。

「 “絶望が日常になる” とよ、何となくだけど、見えてくんだ」

「何が……だ?」

 ノエルは目を細め、にやりと口角を上げる。



「―――活路……だよ」



 なんと言う精神力か。
 ノエルは破壊神の元生活し、日々死と隣り合わせの上、三年以内に英雄にならなければ “死” 。 
 万が一それが成ったとしても破壊神と結婚=死。
 死と死に挟まれた彼に、一体どうして活路などと言うものが存在するのだろうか。


「……何やってんのアンタ達」

 二人のやり取りに呆れたミシャが会話を止める。 その背に、二本の大鎌が見えるのは気のせいだろうか。

「何でもねぇよ。 ただ、現実も悪かねぇって話だ」

「どうでもいいけど、マリオネットシードはこれで最後なんでしょうね」

 話を先に進めるミシャは、魔女の種、マリオネットシードが( どうでも良くねぇ! )―――そう、どうでも良くはない。 その生き方こそがこの物語の中心、と言っても過言ではないのだ。

「そうだ。 その最後の種を失ったのだ。 許される訳が無い、私も……この町も……」

「――なっ!? わ、我々もですかッ!?」

 町長のバーンズが声を荒らげる。 
 何の落ち度も無いサザンピークにとっては当然の反応だ。 だが、

「事情を知った以上、他国への情報漏洩、他の地域の国民への不信感を恐れて処分されるだろう」

「そ、そんな無茶苦茶なっ!」

 恐怖と理不尽に震える町民達。
 救われたばかりのサザンピークは、結局滅びの道を歩むしかないのか。

「み、ミシャさん、私達は一体どうすれば……!」

 藁にもすがるバーンズが救い手を欲しがるが、当方のヒロインは与えるより奪うのが専門の神様だ。

「ノエル、アンジェ。 クエストは終わったわ、帰りましょ」

 読者様推し推定ゼロのヒロインは、今日も残業を致しません。 救っておいて見捨てるのか、そうではありません。 本人も言っていましたが、そもそも救うつもりで来ていません。

 悪魔飽くまでも自分の復讐戦。 ただそれだけだとミシャが立ち去ろうとした時―――


「待てよ」


 立ち上がったのは銀髪の半狼。
 生意気な十七歳のソロ剣士だった少年は、数々の修羅場をくぐり抜け今……



 ――――絶望マニアと変貌していた。




「この町を―――俺の英雄伝説の始まりにするぜ」

「……どういうこと?」


 首を傾げるミシャ。 ノエルは先程制裁を受け、腫れ上がった顔を向け言い放った。



「この、デルドル王国を――――落とす」


「国を……落とす?」



 一介の冒険者が国を落とす、それもリーダーの本業は居酒屋のバイトリーダー。 
 大言壮語も甚だしいが、このパーティには居るのだ。 それを現実にする可能性を持つ人間……ではない女が。 

 そして、



「やれんだろ、お前と、そのマリオネットシードがありゃよ」

「――ば、バカなッ! マリオネットシードはもう……」


 失った筈の種にタトナスが思わず叫ぶが、実はあるのだ。 魔女の種は、今ミシャ魔女の手に戻っていた。


「ガキの頃に読んだ絵本を思い出したぜ。 その種の、本当の使い方」

「ノエル、まさか……」

「えほんー? アンジェにもよんでー!」


 ミシャの表情が変わる。
 アンジェはノエルにしがみつく。
 その台詞には、あの破壊神でさえそうさせる程の意味があるようだ。


「でも、それを扱いきれる人間なんていねぇだろ。 たとえば……」


 一体、ノエルは何を考えているのか。




「―――ミシャ魔女でもなきゃあよ」




 騒めくサザンピーク、だが自国を滅ぼすと言われた町民達も、話の大きさに現実感が湧いてこないようだ。


「英雄伝説の始まり、ね。 それはいいけど、まずどうするつもりなの?」


 どうやら、破壊神様には現実だったらしい。
 ノエルの答えは―――


「とりあえずアレだ」

「なに?」


「皆準備手伝えよッ! これから……」


 ノエルが呼び掛けるも、いくら理不尽な運命とはいえ、自国を滅ぼす手伝いをしろと言われれば戸惑わない筈がない。 大体が町民達にそんな手助けなど出来る訳が……



「―――カレーを作るッ!!」



 ……ああ、それな。


「アンジェイカきらいーっ!」
「好き嫌いすんなっ!」

「俺は鮭がいいな」
「今更熊っぽさ出すんじゃねぇっ!」


 国攻めの前にカレーパーティーを始めるようだが、果たしてこれからどうなることやら。

 ……あとブラン、ここでくい込んで来ないと先はないぞ。


「わっ、私貝類はダメだからねっ!!」


 と言ったミシャにノエルは、


( そうか、この世で唯一ミシャに対抗出来るものは―――貝なんだな )



 この時ノエルが、私は貝になりたい、と思った所で第三章が幕を閉じる。 


 第四章があれば、今度こそシリアス……とはもう言わないでおこう。 


 この物語は、生還ファンタジーというコメディーなのだから。







 お付き合い頂きありがとうございます! このお話はしばらくお休みしますので、また復活したら遊びに来てくださいねっ(^ ^)
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