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第三章

誕生、世界初の◯◯剣士

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「くそっ、どうしたら…………―――どうしたらいいんだ……っ!」

 暗い洞穴の中、身を横たえながら顔を歪めるノエル。
 包むように抱きしめているのは、意識を失い、青白い顔をしたアンジェだった。

 外は吹雪、恐らく何らかのアクシデントによって逃げ込んだのだろうが、はっきり言って……


 ――――


 という気持ちになるのは私だけだろうか。
 あの一方的な戦友、アールと戦った時も同じような状況だった。 ほとほと雪山に嫌われた男でアール。

ミシャあのヤロウが無茶しやがるからだ……っ!」

 そしてどうやら今回も、原因はミシャアレらしい。 そうだとは思っていたが。





 ◇◆◇





「ぐぅっ……!  や、やっぱ三体はキツいってぇ!!」

 強風を堪えるノエルが泣き言を言うと、

「こーんなのにひぃひぃ言ってて英雄になれると思ってんのっ!?」

「くっ……」

 そもそも思ってねぇよ、という言葉を呑み込んだノエルが戦っているのは、初めてミシャと挑んだクエストのターゲットだったあのアイスドラゴン×3。

「ノエル、あぶないっ!」

 アイスドラゴンには付き物のアイスボムが真っ赤に膨張して爆発する寸前、アンジェが風を巻き起こしてそれを吹き飛ばす。

「ええい面倒だわっ! この爆炎の魔導士と呼ばれたミシャ様がまとめてドラゴンの姿焼きにしてやるッ!!」

「これ以上異名を増やすなっ! そろそろ覚えきれねぇ!!」

 全くその通り、正直把握出来ずに埋もれていく名があってもそれは必然であり、完全に仕方の無い事なのだ(あはは)。


「おいしく頂きなさいっ! アツアツのソフトクリームをねっ! 炎のウルカヌス=竜巻トゥルボーッ!! ×3」

 上位魔法である炎の竜巻を三つ同時に繰り出すミシャ規格外

「おまっ……! こんなトコでんな派手なの使ったら……」

 竜巻はアイスドラゴンと周りのアイスボムまでをも絡め取り、宣言通りのメニューを断末魔のソースを添えて完成させる。


「――ふっ……何かしら、この年々勝手に高まる魔力。 努力では届かない、選ばれし天才のそれは。 でも、虚しい……何でも出来てしまう自分が………これもまた天才の苦悩か……」

 人生の伴侶には選ばれない選ばれし者が自分に酔っていると、

「く、来る……!」

 青ざめた顔のノエルが、緊急を感じさせる声を上げる。

「――は?」

 やがて聴こえて来たのは、迫り来る自然の雄叫びか。


「な―――雪崩だバカやろうッ!!」

「えええっ!?」


 そう、ここは以前アイスドラゴンと戦った平原ではなく、雪山なのだ。

 ミシャの放った強力な魔法により、自然の猛威がパーティに襲い掛かる。

「責任持って何とかしろっ! 爆炎の迷惑魔導士ッ!!」

「い、言ったわねワン―――わあああぁっ……!」

 先頭にいた雪原の悪魔が飲み込まれる。

 そして―――

「アンジェッ!  お前は逃げ――」

 何とかアンジェだけでも逃がそうと叫ぶノエルが見たのは、

「い、いいから逃げろって……!!」

 自分の前に立って風を巻き起こし、雪崩からノエルを守ろうと奮闘する小さな妖精の姿だった。

「くそっ! じゃあ一緒に逃げるぞッ!!」

 両手を雪崩に向けたままのアンジェを抱きかかえて走る。

「ぐっぞぉぉおおっ!! そりゃいつかこーなると思ってたけどよぉ!!」

 二人の連携により多少は衝撃からのがれたのかも知れないが、激走虚しく銀髪とエメラルドグリーンが白に追いつかれ―――


「もうダメだ! お前は飛んで逃げろっ!」

「やだっ!」

「アホかっ! ゆーこと聞かねぇと―――ぶぁッ………」


 ―――白い波に呑み込まれてしまった。





 ◇◆◇





 そして、何とか雪の中から這い出たノエルは、気を失っているアンジェを担いで洞穴に逃げ込み今に至る……という訳だ。


( アンジェの体温が戻らねぇ……俺の体温だけじゃ足りねぇのか……! )

 ハーフとはいえ、狼人族のノエルは寒さに強い。 だが、その身体で抱き包んでもまだ充分ではないようだ。

 だと言うのに―――


「っ……マジかよ……今は勘弁してくれ……」

 狼の耳が何かを捉えた。
 これもまた、前回と同じ展開となってしまうのか。

「アイスドラゴンと遭難、んで―――モンスターと遭遇はセットなのかよ……っ!」

 琥珀色の目は暗闇の中で役に立つ。

 二人に迫る危機は、ノエルよりふた回りは大きいベージュ色の巨体。 太くカールした二本の角と、その鋭い牙と爪からブラッディナイフと呼ばれる熊のモンスターだ。


「アンジェ……すぐに仕留めっから、ちょっと待ってろよ」

 気を失っているアンジェをそっとひと撫でして、 “剣士ノエル” は立ち上がった。

 そして背負った大剣を抜き、大事な仲間を守る為悠然と剣を構え―――


「お、おろっ……?」


 ―――られずによろける。


「こ、この剣、こんな重かったか?」


 ―――もう、悲しくて言葉も出ない。


 そう感じる程に、お前は “剣士” していなかったのか……。


「ぐおっ!」

 そんな事はお構い無しに鋭い爪が襲い掛かる。
 何とか大剣を盾にしてそれを凌いだノエル。 果たして―――犬は熊に勝てるのか!?

「はっ! おせぇよ熊! んなスローな攻撃俺には当たんねぇぞっ!」


 これは………


 日頃飼い主ミシャ攻撃を受けていた飼い犬ノエルは、防ぐ事に関しては急成長しているようだ。

 だが――

「ぐっ……で、でも、剣が重ぇ!」

 いかんせん剣士としては機能していない。

 最近では、『これ持って無かったら避けきれんじゃね?』などという考えが頭を過る程身軽な発想を持っている。

 彼には今回で、是非反省して貰いたいものだ。

 それでも襲いくる爪と牙を防ぎ、生意気にも攻撃とかしてブラッディナイフに少しずつダメージを与えている。


「はぁ、はぁ……こ、こんなことならもっと……」


 そうだ、もっと戦って日頃から鍛錬を―――




「もっと軽い武器に変えりゃよかった……っ!」




 ………あーー、行ったかー………。


 その後死闘は十分程続き、恐らく皆様応援していないだろうが、ノエルブラッディナイフを倒した。


「ど、どんなもんだ……! 俺だってまだまだやれるぜ!」


 ―――その台詞、既に引退してるぞ。


「アンジェっ!」

 すぐさま未だ目醒めないアンジェに駆け寄り抱き包む。

「ま、まずい……このままじゃ……」

 戦いの間小さな身体は更に冷たくなり、最早一刻の猶予も無い状態だ。

「なんでだよ……お前一人なら逃げられただろ……?」

 確かに、妖精化して飛んでしまえばアンジェは難を逃れられた。 だがそうしていれば、ノエルが助かったかというと疑問なのだ。

「これじゃ俺――――足手まといみたいじゃねぇかっ……!!」



 ―――えっ?  い、今……?



 そういう部分だけはまともだと思っていたノエルは、少々勘違い女誰かに感染してしまったらしい。


「……死なせねぇ……お前は絶対に……!」


 そういえば、もう一人仲間がいたような……。


「俺に魔法が使えりゃ、火ぐらい出せたのに……」

 何もしてやれない自分に歯噛みする。

 亜人は人間より優れた身体能力を持つ反面、魔法が使えた事例は無い。 つまり、当然ノエルは魔法が全く使えないのだ。

「――まてよ?  俺はハーフ………半分は人間なんだ……魔法は無理でも、武器に属性を持たせるぐらいは……!」

 確かに魔導士でなくとも武器に属性を持たせる冒険者は多くいる。 だが、それはあくまで人間だ。 

 ノエルは半分人間。  そして、最近の彼は冒険者として技を磨く、という姿勢がお世辞にも良いとは言えない。


「頼むかぁちゃん……! 俺に、力を貸してくれっ!」

 それでもこの切迫した事態を何とかしようと、人間方である母の血に頼る。
 そしてアンジェを抱き包んだまま、祈るように背中の大剣を抜いた。

 すっと目を閉じ―――


( やり方なんて知らねぇ、感じろノエル……イメージするんだ……剣に宿る炎を…… )


 やめろノエル、それではまるで秘めた力を呼び醒す主人公のようだ。

 お前は主人公ではなく……


 ―――忠犬ハ◯公なのだから。  いや、忠犬ではないか………。




 ◆




 そして、吹雪も大分弱くなってきた一時間後―――



「あっ、いたっ!」

 二人を心配して探し歩いていた、全く心配されていない女が二人を見つける。


「………てかアンタ、何やってんの?」


 蔑むように見下ろし、目を細めたその先には―――


「おお、無事だったか。 いや、アンジェが凍えて死にそうでよ」

 そのアンジェを抱きしめ、何故かノエルは鞘に納めた大剣を小さな背中に当てている。

「ミシャ、俺は―――魔法剣士になったぜ」

「――は?」

 突然訳の分からない事を言われ呆気に取られていると、


「……んぅ……」

「――っ! アンジェ、大丈夫かっ!?」


 まだ微かにだが、ぼんやりと目を開いた妖精は囁く。


「……あったかい」

「すげぇだろ、ハーフでもやりゃ出来るな」


 その様子を見ていたミシャは、微かに感じた魔力の発源元を見つける。

「まさか……」

 二人に近寄って屈むと大剣に手を当て、怪訝な表情でノエルに視線をやり、

「アンタ、これ……」

「ふっ……驚くのも無理はねぇ……そう、俺が狼人族、いや――――亜人初の魔法剣士、ノエル様だっ!」


 歴史的快挙、自分は亜人界のパイオニアだとドヤ顔で宣言する。


「……天才ね……」

「なははっ! ん、んな褒めんなよっ、照れるじゃねぇか!」

「ぽかぽか~……」

 呟くミシャ、ご機嫌のノエル、温もりに甘えるアンジェ。

 やがて立ち上がったミシャは、珍しく自分以外を、それもあの飼い犬ノエルを天才と認めた理由を突き付けた。


「ノエル……アンタやっぱ―――― “暖房器具” だわ……」


「――へ?」


 思えば第一回洞穴避難の時、“半狼型湯たんぽノエルくん” として活躍した事があったが……


「武器に火属性持たせて “暖をとる” 程度の熱さに保つなんて、まぁ無理……天才だわ」

「………」

「ていうか、それが “限界” なんでしょ?  恥ずかしいから周りに言わないでね、『湯たんぽ』」


 ―――新商品! “半狼型湯たんぽノエルくん2” !  今回は何と二段挟み、あなたの冒険をホッコリとサポートします!!( 大剣部分は鞘に納めないと低温火傷の恐れがありますのでご注意下さい )


 頑張れノエル、お前は立派な冒険者……のサポート器具だ。


 そして、寒冷地での必需品英雄なのだから………。


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