75 / 78
75 魔王、決勝戦へ
しおりを挟む
「なんだか騒がしいな……」
参加者の手当てをする医務室で選手ブランクこと部下のフェネンと一緒にケーキを食べていた魔王は、医務室の外から聞こえてくる悲鳴に眉をひそめた。
「大変だ! 闘技場内で盗賊たちが暴れていて……動けるものはすぐに逃げるんだ!」
ドアを開けて、大会スタッフの男が叫んだ。
「盗賊ですか……」
つぶやいて、起き上がろうとするフェネンを魔王が止める。
「盗賊くらい出るであろう。それをさせないために警備がいるのではないか? そもそもお前戦える体ではなかろう」
警備は何をしている? 警備がかなわぬほどの数なのだろうか?
「やべえぜウルカ様、姉御! 盗賊たちがあちこちで略奪の限りを尽くしてる! 大会はめちゃくちゃだ! 今すぐ逃げましょうぜ!」
ファンコイル商会の構成員たちが医務室に入ってきて、魔王とフェネンに伝える。
「思うに、賊の数が多く対応しきれないのに加え、警備の一部を買収しているのではないでしょうか?」
フェネンの言葉に、魔王は納得してうなずく。
「なるほど。トントンがトーナメントでやられた手だな。たしかにそれはあり得る」
盗賊らしき無法者たちが医務室にやってくる。
「女だ! 女がいるぞ!」
「あの決勝を戦ってたブランクじゃねえか!?」
「さらえるのは負傷してる今しかねえなぁ!」
興奮した声が耳に入って、魔王は残りのケーキをすべて平らげて立ち上がった。
「お前が負けてから試合を見る気が失せたので、さっさと帰りたかったところだが」
魔王は、やってきた盗賊たちを《魔弾》で消し炭にする。
「そうもいかなくなった」
まあ、賞品が賞品である。なにかあるのではとは思っていたが、こうもめちゃくちゃになるとは。
そう魔王は考えて――口元を吊り上げた。
好都合だ。実に。
「ファンコイル商会のものどもはフェネンを連れて脱出しろ!」
魔王はファンコイル商会の構成員たちに指示を飛ばす。
「へい!」
代表の眼鏡の男は頷いた。
「しかしウルカ様はどうするんです!?」
「ここに残る」
「残るのですか!?」
「何、少々鬱憤を晴らさせてもらうのよ」
面食らう眼鏡の男。
「ええ? それはどういう……こ、この騒動の中で何かやるんですかい?」
「どうせ今暴れている盗賊など、大会の賞品と金目のものが目当てであろう?」
「はあ、そりゃあ、そうだと思いますが」
「であれば我がとばっちりで奪ってしまっても構わんよな?」
眼鏡の男は、恐縮しながら首を横に振った。
「い、いや、しかしあの《竜殺し》や《剣帝》も応戦しているのを見ましたぜ。危険すぎるんじゃ……」
「むしろ望むところ。そうでなくては困る。ーー剣を借りるぞフェネン!」
魔王は傍らに置いてあった二振りの剣の一つを、
「はっ! どうぞ存分にお使いください!」
フェネンから借り受ける。
といっても、見た目幼い少女の手には大きすぎる獲物だ。魔王は剣を背中へ背負い直し、鞘にベルトを通して胸のあたりに留めてもらう。
「我にはいささか大きいが、まあ飾りだ。なにせ大会じゃ剣を携えてなければならんらしいからな」
魔王の言葉に、眼鏡の男はあっけにとられる。
「ウルカ様、まさかとは思いますが……」
「うむ。ここからが本当の決勝戦よ。強いものがすべて手に入れる。いささか混沌としただけで、本大会の主旨と何も違いはしない。そうであろう?」
波乱のガラデア大トーナメント――
「であれば、優勝は我がいただこうではないか」
――魔王、満を持して参戦す。
参加者の手当てをする医務室で選手ブランクこと部下のフェネンと一緒にケーキを食べていた魔王は、医務室の外から聞こえてくる悲鳴に眉をひそめた。
「大変だ! 闘技場内で盗賊たちが暴れていて……動けるものはすぐに逃げるんだ!」
ドアを開けて、大会スタッフの男が叫んだ。
「盗賊ですか……」
つぶやいて、起き上がろうとするフェネンを魔王が止める。
「盗賊くらい出るであろう。それをさせないために警備がいるのではないか? そもそもお前戦える体ではなかろう」
警備は何をしている? 警備がかなわぬほどの数なのだろうか?
「やべえぜウルカ様、姉御! 盗賊たちがあちこちで略奪の限りを尽くしてる! 大会はめちゃくちゃだ! 今すぐ逃げましょうぜ!」
ファンコイル商会の構成員たちが医務室に入ってきて、魔王とフェネンに伝える。
「思うに、賊の数が多く対応しきれないのに加え、警備の一部を買収しているのではないでしょうか?」
フェネンの言葉に、魔王は納得してうなずく。
「なるほど。トントンがトーナメントでやられた手だな。たしかにそれはあり得る」
盗賊らしき無法者たちが医務室にやってくる。
「女だ! 女がいるぞ!」
「あの決勝を戦ってたブランクじゃねえか!?」
「さらえるのは負傷してる今しかねえなぁ!」
興奮した声が耳に入って、魔王は残りのケーキをすべて平らげて立ち上がった。
「お前が負けてから試合を見る気が失せたので、さっさと帰りたかったところだが」
魔王は、やってきた盗賊たちを《魔弾》で消し炭にする。
「そうもいかなくなった」
まあ、賞品が賞品である。なにかあるのではとは思っていたが、こうもめちゃくちゃになるとは。
そう魔王は考えて――口元を吊り上げた。
好都合だ。実に。
「ファンコイル商会のものどもはフェネンを連れて脱出しろ!」
魔王はファンコイル商会の構成員たちに指示を飛ばす。
「へい!」
代表の眼鏡の男は頷いた。
「しかしウルカ様はどうするんです!?」
「ここに残る」
「残るのですか!?」
「何、少々鬱憤を晴らさせてもらうのよ」
面食らう眼鏡の男。
「ええ? それはどういう……こ、この騒動の中で何かやるんですかい?」
「どうせ今暴れている盗賊など、大会の賞品と金目のものが目当てであろう?」
「はあ、そりゃあ、そうだと思いますが」
「であれば我がとばっちりで奪ってしまっても構わんよな?」
眼鏡の男は、恐縮しながら首を横に振った。
「い、いや、しかしあの《竜殺し》や《剣帝》も応戦しているのを見ましたぜ。危険すぎるんじゃ……」
「むしろ望むところ。そうでなくては困る。ーー剣を借りるぞフェネン!」
魔王は傍らに置いてあった二振りの剣の一つを、
「はっ! どうぞ存分にお使いください!」
フェネンから借り受ける。
といっても、見た目幼い少女の手には大きすぎる獲物だ。魔王は剣を背中へ背負い直し、鞘にベルトを通して胸のあたりに留めてもらう。
「我にはいささか大きいが、まあ飾りだ。なにせ大会じゃ剣を携えてなければならんらしいからな」
魔王の言葉に、眼鏡の男はあっけにとられる。
「ウルカ様、まさかとは思いますが……」
「うむ。ここからが本当の決勝戦よ。強いものがすべて手に入れる。いささか混沌としただけで、本大会の主旨と何も違いはしない。そうであろう?」
波乱のガラデア大トーナメント――
「であれば、優勝は我がいただこうではないか」
――魔王、満を持して参戦す。
0
お気に入りに追加
156
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~
こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。
それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。
かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。
果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!?
※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。
退屈な人生を歩んでいたおっさんが異世界に飛ばされるも無自覚チートで無双しながらネットショッピングしたり奴隷を買ったりする話
菊池 快晴
ファンタジー
無難に生きて、真面目に勉強して、最悪なブラック企業に就職した男、君内志賀(45歳)。
そんな人生を歩んできたおっさんだったが、異世界に転生してチートを授かる。
超成熟、四大魔法、召喚術、剣術、魔力、どれをとっても異世界最高峰。
極めつけは異世界にいながら元の世界の『ネットショッピング』まで。
生真面目で不器用、そんなおっさんが、奴隷幼女を即購入!?
これは、無自覚チートで無双する真面目なおっさんが、元の世界のネットショッピングを楽しみつつ、奴隷少女と異世界をマイペースに旅するほんわか物語です。
転生したら倉庫キャラ♀でした。
ともQ
ファンタジー
最高に楽しいオフ会をしよう。
ゲーム内いつものギルドメンバーとの会話中、そんな僕の一言からオフ会の開催が決定された。
どうしても気になってしまうのは中の人、出会う相手は男性?女性? ドキドキしながら迎えたオフ会の当日、そのささやかな夢は未曾有の大天災、隕石の落下により地球が消滅したため無念にも中止となる。
死んで目を覚ますと、僕はMMORPG "オンリー・テイル" の世界に転生していた。
「なんでメインキャラじゃなくて倉庫キャラなの?!」
鍛え上げたキャラクターとは《性別すらも正反対》完全な初期状態からのスタート。
加えて、オンリー・テイルでは不人気と名高い《ユニーク職》、パーティーには完全不向き最凶最悪ジョブ《触術師》であった。
ギルドメンバーも転生していることを祈り、倉庫に貯めまくったレアアイテムとお金、最強ゲーム知識をフルバーストしこの世界を旅することを決意する。
道中、同じプレイヤーの猫耳魔法少女を仲間に入れて冒険ライフ、その旅路はのちに《英雄の軌跡》と称される。
今、オフ会のリベンジを果たすため "オンリー・テイル" の攻略が始まった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる