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58 第一試合
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俺がぎりぎりを装って予選を勝ったのには理由がある。強者にマークされないよう実力をなるべく隠す目的と、もう一つ重要な理由があった。
この大トーナメント、万が一負けた時のために、旅の資金の確保も行う必要があった。
賭けはベット数に応じた変動制のものだと事前に説明があった。ゆえに人気がないと――つまり弱そうだと賭け金が集まらず、結果リターンの倍率が上がることになる。
これは試合ごとに決まる。大きく稼げるのは、情報の少ない、もしくは実力の偽れる序盤だろう。
今回の試合、最終オッズによる俺の倍率は三十倍。
事前に三十万バードルを賭けていたので、俺がこの試合に勝利すれば九百万バードルに増える。賭けの手数料で利益の10%を引かれるのは仕方がないとしても、かなりの額である。
実力を隠して進んだ甲斐があるというものだ。
しかもグレモンが剣を盗んだおかげでさらに勝てなさそうに見せることができた。
「……さて、どこからでもかかってくるがいい」
俺は食事用のナイフとフォークを構えた。
「ローズウェル! 勝って当然の試合だからな!」
「あいつ大会を舐め腐ってやがる! ぶっ殺しちまえ!」
「降参させんじゃねえぞ!」
ローズウェルことグレモンは、己の獲物であるグレイブを構えて笑った。
「最初に棄権しなかったことを後悔させてやるよ」
闘いの火蓋は、すでに落とされている。
グレモンは観客たちの声援に応えるようにすぐに踏み込み、第一撃を横に薙ぐ。
半歩退いてかわす。
グレイブという武器はでかく、それゆえに質量がある。すぐ近くを通り抜けた際の剣圧が俺の肌を叩いた。
「ちいっ!」
グレモンの二撃目の振り下ろし。さらにかわす。
フォークを逆手に持ち替え、避けざま踏み込み、グレモンの腕に刺した。
「ぐっ!?」
フォークが腕にめり込み、抜けば血がにじむ。
グレモンは一瞬苦悶の表情をするも、すぐに戻る。
流石に致命傷は与えられんか。
三撃目、ナイフで受け流す。受け流しつつ逆手に持ったフォークで今度は足の甲を刺す。
「うぎっ!?」
これは、殴った方が早いか?
「ぬんっ!」
俺は足に軽く刺さったままのフォークを踏みつけ、さらに深く貫く。
……貫通はしないが、これで足は止められた。
「ぐおおっ!?」
痛がっている間に二連撃、拳を繰り出す。
さらにもう一発。力の込めた突き。
たまらず転がるグレモン。
拍子に、俺から盗んだブロードソードが腰から落ちた。
尻餅をつきながら、グレモンは足に刺さったフォークを引き抜く。
その間に、俺は落ちたブロードソードを拾い上げて――
「落としたぞ」
あえてグレモンに渡した。
「ちゃんと持っていろ。大事な剣なのだろう?」
「…………!」
観客席から、歓声とブーイングが同時に湧いた。
ブーイングは当然、グレモンに賭けた観客たちだ。よほど大勢いるらしい。
俺が押しているのが気に食わないのだろう。
「てめえええええっ!」
挑発だと理解したらしい。やや距離を取ったグレモンが、持っているグレイブをがむしゃらに振るう。
俺は矢継ぎ早に来るそれを食事用のナイフで受け、いなし、弾く。
グレモンが攻勢に入ったことで、グレモンを応援する観客から歓声が上がる。
俺がその攻撃を全て見切っていることを、彼らは理解していない。
「くそっ! 当たらねえ! どうなってやがる!?」
受け流しつつ、しかし有効打は与えさせない。
そして相手にもダメージがある。
相手がより大ぶりにグレイブを振り下ろし、ナイフでそれを受けたとき――
ギンッ!
高い音とともにナイフの刃の部分が砕けた。
グレモン勝利目前と見るや、観客の盛り上がりは最高潮に達する。
「はっ! さすがに耐えられなくなったか! 万事休すだな!」
好機とばかりに飛び込むグレモン。
俺はその振り下ろしを狙い、一気に間合いを詰めた。
「もう安心だと思うか?」
振り下ろされるグレイブに合わせて、俺はそのナイフの柄の突起部でグレモンの武器を持つ方の手首を打った。
「ぐあっ!?」
――寸鉄という指の長さほどの棒状の暗器がある。それもちょうどナイフの柄だけしかないような形状で、攻撃や防御に使える。
「むしろナイフの刃が折れたことで、使いやすくなった」
そしてインファイトの距離なら、有利なのはこちらだ。
ナイフの柄でグレモンの体を連続して打つ。悶絶するグレモン。
足を引っ掛け、転ばせる。
そのままグレモンの額に向けて、ナイフの柄を振り下ろす。
「ま、参った!」
グレモンの敗北宣言。
頭蓋骨を割るために振り下ろされたナイフの柄は、眉間のすぐ手前で止まった。
「…………」
一瞬、会場が静まり返る。
それから、
「勝負ありッッッ! 勝者トントン!」
立会人の掛け声で、一気に歓声が広がった。
グレモンに賭けていた観客たちのため息も広がっている。
まずは一勝。
「さて、賭け金も三十倍になって戻ってくることだし、弁償しに行くか」
フォークは人を刺してしまったし、ナイフは壊してしまった。どちらも謝って金を払わなければ。
賭け金はすぐに返却されるのだろうか。それが心配である。
この大トーナメント、万が一負けた時のために、旅の資金の確保も行う必要があった。
賭けはベット数に応じた変動制のものだと事前に説明があった。ゆえに人気がないと――つまり弱そうだと賭け金が集まらず、結果リターンの倍率が上がることになる。
これは試合ごとに決まる。大きく稼げるのは、情報の少ない、もしくは実力の偽れる序盤だろう。
今回の試合、最終オッズによる俺の倍率は三十倍。
事前に三十万バードルを賭けていたので、俺がこの試合に勝利すれば九百万バードルに増える。賭けの手数料で利益の10%を引かれるのは仕方がないとしても、かなりの額である。
実力を隠して進んだ甲斐があるというものだ。
しかもグレモンが剣を盗んだおかげでさらに勝てなさそうに見せることができた。
「……さて、どこからでもかかってくるがいい」
俺は食事用のナイフとフォークを構えた。
「ローズウェル! 勝って当然の試合だからな!」
「あいつ大会を舐め腐ってやがる! ぶっ殺しちまえ!」
「降参させんじゃねえぞ!」
ローズウェルことグレモンは、己の獲物であるグレイブを構えて笑った。
「最初に棄権しなかったことを後悔させてやるよ」
闘いの火蓋は、すでに落とされている。
グレモンは観客たちの声援に応えるようにすぐに踏み込み、第一撃を横に薙ぐ。
半歩退いてかわす。
グレイブという武器はでかく、それゆえに質量がある。すぐ近くを通り抜けた際の剣圧が俺の肌を叩いた。
「ちいっ!」
グレモンの二撃目の振り下ろし。さらにかわす。
フォークを逆手に持ち替え、避けざま踏み込み、グレモンの腕に刺した。
「ぐっ!?」
フォークが腕にめり込み、抜けば血がにじむ。
グレモンは一瞬苦悶の表情をするも、すぐに戻る。
流石に致命傷は与えられんか。
三撃目、ナイフで受け流す。受け流しつつ逆手に持ったフォークで今度は足の甲を刺す。
「うぎっ!?」
これは、殴った方が早いか?
「ぬんっ!」
俺は足に軽く刺さったままのフォークを踏みつけ、さらに深く貫く。
……貫通はしないが、これで足は止められた。
「ぐおおっ!?」
痛がっている間に二連撃、拳を繰り出す。
さらにもう一発。力の込めた突き。
たまらず転がるグレモン。
拍子に、俺から盗んだブロードソードが腰から落ちた。
尻餅をつきながら、グレモンは足に刺さったフォークを引き抜く。
その間に、俺は落ちたブロードソードを拾い上げて――
「落としたぞ」
あえてグレモンに渡した。
「ちゃんと持っていろ。大事な剣なのだろう?」
「…………!」
観客席から、歓声とブーイングが同時に湧いた。
ブーイングは当然、グレモンに賭けた観客たちだ。よほど大勢いるらしい。
俺が押しているのが気に食わないのだろう。
「てめえええええっ!」
挑発だと理解したらしい。やや距離を取ったグレモンが、持っているグレイブをがむしゃらに振るう。
俺は矢継ぎ早に来るそれを食事用のナイフで受け、いなし、弾く。
グレモンが攻勢に入ったことで、グレモンを応援する観客から歓声が上がる。
俺がその攻撃を全て見切っていることを、彼らは理解していない。
「くそっ! 当たらねえ! どうなってやがる!?」
受け流しつつ、しかし有効打は与えさせない。
そして相手にもダメージがある。
相手がより大ぶりにグレイブを振り下ろし、ナイフでそれを受けたとき――
ギンッ!
高い音とともにナイフの刃の部分が砕けた。
グレモン勝利目前と見るや、観客の盛り上がりは最高潮に達する。
「はっ! さすがに耐えられなくなったか! 万事休すだな!」
好機とばかりに飛び込むグレモン。
俺はその振り下ろしを狙い、一気に間合いを詰めた。
「もう安心だと思うか?」
振り下ろされるグレイブに合わせて、俺はそのナイフの柄の突起部でグレモンの武器を持つ方の手首を打った。
「ぐあっ!?」
――寸鉄という指の長さほどの棒状の暗器がある。それもちょうどナイフの柄だけしかないような形状で、攻撃や防御に使える。
「むしろナイフの刃が折れたことで、使いやすくなった」
そしてインファイトの距離なら、有利なのはこちらだ。
ナイフの柄でグレモンの体を連続して打つ。悶絶するグレモン。
足を引っ掛け、転ばせる。
そのままグレモンの額に向けて、ナイフの柄を振り下ろす。
「ま、参った!」
グレモンの敗北宣言。
頭蓋骨を割るために振り下ろされたナイフの柄は、眉間のすぐ手前で止まった。
「…………」
一瞬、会場が静まり返る。
それから、
「勝負ありッッッ! 勝者トントン!」
立会人の掛け声で、一気に歓声が広がった。
グレモンに賭けていた観客たちのため息も広がっている。
まずは一勝。
「さて、賭け金も三十倍になって戻ってくることだし、弁償しに行くか」
フォークは人を刺してしまったし、ナイフは壊してしまった。どちらも謝って金を払わなければ。
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