おじさん無双

鶴井こう

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40 襲撃者が来客として扱われた理由

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「一つ、お伺いします」

改めて、東の領主は俺たちに質問した。

「もしや、あなたがたは、スノーフォール様の使いなのでは?」

「……なぜそう思った?」

「その女の子が、あまりにこの肖像画にそっくりなものですから」

たしかに、小さいだけでこいつはスノーフォールである。

「へへっ」

ちびフォールは得意げだった。

スノーフォールの使い、か。
そう思ってもらえるなら、都合がいいな。

「それにあなたがつけているその仮面は、氷の魔法で作られたものでしょう? 室内でもほとんど解けないというのは……スノーフォール様の所業と、どうしても考えてしまいます」

「……スノーフォールはそこまで崇拝されているのか?」

「ええ。町の中心にある精霊教会は、スノーフォール様と霊域グラシアルを崇めるためのものですから」

「スノーフォールの使いだとしたらどうする?」

「お聞きしたいのです。私たちのしていることは、正しいのかどうか。東と西にわかれることが、精霊のためになるのかどうか」

「ほう?」

ここで東西の問題が出てくるか。

「領主よ、そもそも東と西に分かれているのは――」

「お察しの通り、霊域と精霊の考え方の違い……宗派の違いのようなものです」

東の領主は神妙な顔で頷いた。

「西の領主とは兄弟でした。ただ、精霊スノーフォールと霊域グラシアルの解釈が違いました。私は霊域グラシアルを雪や冷気を通して皆を見守っているのだと捉え、西の領主は寒いのは生き残るための試練と捉えております」

「そ、それだけ? 本当に? ただ考え方の違いでケンカしたってだけ?」

ちびフォールは面食らったようだ。他に何か理由があるのかと思いきや、自分が把握している情報だけだったことに少し呆れているらしい。

「私はその考えを精霊教会の神父に教わりました。おそらく弟も、神父に教わったのでしょう。今は、その神父たちも対立し、東の教会と西の教会に分かれております。神父はまるで聞いてきたかのように講釈をしますが、しかし実際のところ、本当なのか? と疑問になったりします」

「待て。教会の神父の口車に乗せられて、お前たち兄弟が対立したように聞こえるぞ。その対立のせいで東西が分かれることになったのだろう?」

「おっしゃる通りです。今思えば、神父に焚き付けられたのかもしれません」

東の領主は頷く。

俺は、ちびフォールに向き直って問う。

「実際のところはどうなんだ? ちびフォールよ」

「…………」

ちびフォールはしばし沈黙した後、答えた。

「……霊域も私も、ただそこにあるだけだよ。理由なんてない。解釈なんて、人間が勝手に決めたものでしょ。それこそ、どう解釈しようがいいと思うけど、私からしたらそれで東西分かれて争うのは、くだらないの一言だよね。見守りたかったり試練を与えたかったりしたいなら、直接そうしてるよ。できるんだから」

「そりゃ、そうか」

意味は、勝手に人間が決めたもの。

では、それを最初に決めたのは? なぜそれを決めたのか?

「し、しかし、教会の神父はそれが答えかのように説いております。なぜそんな、事実と違うことを伝えているのでしょう?」

「そうだな。神父が勝手に説いている。そこに答えはありそうだ。領主よ、今から教会の神父を問い詰めに行くから、一緒に来てもらおうか」

解釈を決めるのは、それが決めたものにとって都合がいいからだ。

そして教会が東西の流通を取り仕切るのは、利を得られるからだ。

「お前ら兄弟が仲悪いのは知ったことではない。しかし、スノーフォール本人が意味ないと言っていることにこだわって、民たちを苦しめる理由などない。そうだな?」

「おっしゃる通りです。私も、西の領主と話し合いをする必要がありそうです。……行きましょう。まずは、精霊教会へ」

東の領主は、よどみなく頷いた。
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