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7 命名 トントン・トトントーン
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「親子で冒険者登録ですか?」
受付に行くと、おねえさんにそう言われた。心外すぎる。
「親子に見えるか?」
「そうじゃなかったらすいません。でも素敵だなと思います」
「断じて違う。わけあって二人で旅をしている。冒険者の登録をさせていただきたい」
「なるほど。冒険者協会は10歳以上であればどなたでも登録が可能です。まずはこちらをお書きになって下さい」
登録証らしい。名前と出身地を書く欄があり、マナ・クォーツが埋め込まれている。
「これに名前と出身地を書けばいいのか?」
「あ、はい。書いて、一度魔力を通していただければうちのデータベースにも登録されます」
データベースってなんだ?
まあいいか。
しかし名前か……。
少し悩んで横を見ると、「これに人間の言葉で書けばよいのだな?」魔王はさっそく登録証にペンで名前を書き込んでいる。
「名前・ディアブロ、出身地・魔界……と」
俺は魔王の頭にげんこつを打ち込んだ。
「……なんぞ?」
魔王は表情一つ変えずに見上げて来る。
くそっ……ダメージが無いのか。感触は普通の頭部のようで、ちゃんと打った手ごたえもあるのだが。魔力をこめた攻撃でないと負傷さえ与えられない。
「そのまま書いてどうする阿呆」
やはり魔力のある精霊剣で殺さねばならんかと思いつつ、小声で魔王をいさめる。
「その名をそのまま使うのはさすがにまずかろう」
「はあ?」
「俺も偽名を名乗るから、お前も偽名を名乗れ」
「なにゆえに」
「魔王ディアブロの名は悪い意味で有名すぎる。俺の名も残っているのなら当然お前の名も残っていてしかるべきだ。妙な勘ぐりや迫害につながらないために、人前では人間の名前を使え」
「お? なんだ? 我がひどい目に遭わないように心配して言っておるのか?」
「一緒にいる俺も変な目で見られるかもしれんってことだ! 勘違いするな!」
言い合っていると、
「あの~」
受付のおねえさんは困ったような顔で俺たちを見た。
「すまん。少し時間をくれ」
「はあ」
俺は魔王の目線までかがみこみ、魔王に耳打ちする。
「受付のおねえさんに怪しまれている。どうにか偽名で通そう」
「面倒だな」
「お前の名だが……うるさい蚊、略してウルカ。どうだ?」
「ほう~、なるほど?」
魔王の眉がピクリと動いた。
「では我も貴様の名前を考えてやろう」
「ほう?」
「トントン・トトントーン。うむ、いい名だ。我ながら抜群のセンスである」
「ふざけてるのか? いや、俺もふざけているが」
「我は本気だぞ!」
「本気で考えてトントン・トトントーンなのか!? 少なくとも人間の名前じゃないぞ! どうなってるんだお前のネーミングセンス!」
「ウルカ……由来はともかく、よい響きではないか。我は気に入った。我はこれでいく」
まさかの採用。
さすが魔族の王、器がでかい。
「失礼ですがお名前が公にできない事情でも……?」
「いや、決してそんなことはない。えーとだな。あー……」
自分の名前を名乗るのにつっかえるやつなんていない。いたらこの上なく怪しまれる。
「トントンだ」
「はい?」
俺はとっさに、名乗った。言ってから心底後悔したが、もう何もかも遅い。覚悟を決めるしかない。
「トントン・トトントーン。それが俺の名だ」
「ト、トントン・トトントーンさん、ですね?」
「ああ。いや、祖国だと発音が少し違うのだが、マナクォーツに訳されてしまうとこういう発音になる」
「なるほど。出稼ぎの方でしたか。たしかに、なんだか古風なお召し物ですしね」
なんだか貧乏国出身だと思われてそうだ。放っておいてくれ。
名乗った通りに登録証に名前を書く。
「とても古い字体ですね」
「気にするな」
「出身地は――クインタイル?」
「ああ。ここよりずっとド田舎だよ」
俺の生まれた地である。山と畑しかない寂れた村だった。
魔王を倒した暁には、帰郷するのもいいかもしれないな。
「それは偶然ですね! ここもクインタイルというんですよ」
「ここが!?」
ここだった。
受付に行くと、おねえさんにそう言われた。心外すぎる。
「親子に見えるか?」
「そうじゃなかったらすいません。でも素敵だなと思います」
「断じて違う。わけあって二人で旅をしている。冒険者の登録をさせていただきたい」
「なるほど。冒険者協会は10歳以上であればどなたでも登録が可能です。まずはこちらをお書きになって下さい」
登録証らしい。名前と出身地を書く欄があり、マナ・クォーツが埋め込まれている。
「これに名前と出身地を書けばいいのか?」
「あ、はい。書いて、一度魔力を通していただければうちのデータベースにも登録されます」
データベースってなんだ?
まあいいか。
しかし名前か……。
少し悩んで横を見ると、「これに人間の言葉で書けばよいのだな?」魔王はさっそく登録証にペンで名前を書き込んでいる。
「名前・ディアブロ、出身地・魔界……と」
俺は魔王の頭にげんこつを打ち込んだ。
「……なんぞ?」
魔王は表情一つ変えずに見上げて来る。
くそっ……ダメージが無いのか。感触は普通の頭部のようで、ちゃんと打った手ごたえもあるのだが。魔力をこめた攻撃でないと負傷さえ与えられない。
「そのまま書いてどうする阿呆」
やはり魔力のある精霊剣で殺さねばならんかと思いつつ、小声で魔王をいさめる。
「その名をそのまま使うのはさすがにまずかろう」
「はあ?」
「俺も偽名を名乗るから、お前も偽名を名乗れ」
「なにゆえに」
「魔王ディアブロの名は悪い意味で有名すぎる。俺の名も残っているのなら当然お前の名も残っていてしかるべきだ。妙な勘ぐりや迫害につながらないために、人前では人間の名前を使え」
「お? なんだ? 我がひどい目に遭わないように心配して言っておるのか?」
「一緒にいる俺も変な目で見られるかもしれんってことだ! 勘違いするな!」
言い合っていると、
「あの~」
受付のおねえさんは困ったような顔で俺たちを見た。
「すまん。少し時間をくれ」
「はあ」
俺は魔王の目線までかがみこみ、魔王に耳打ちする。
「受付のおねえさんに怪しまれている。どうにか偽名で通そう」
「面倒だな」
「お前の名だが……うるさい蚊、略してウルカ。どうだ?」
「ほう~、なるほど?」
魔王の眉がピクリと動いた。
「では我も貴様の名前を考えてやろう」
「ほう?」
「トントン・トトントーン。うむ、いい名だ。我ながら抜群のセンスである」
「ふざけてるのか? いや、俺もふざけているが」
「我は本気だぞ!」
「本気で考えてトントン・トトントーンなのか!? 少なくとも人間の名前じゃないぞ! どうなってるんだお前のネーミングセンス!」
「ウルカ……由来はともかく、よい響きではないか。我は気に入った。我はこれでいく」
まさかの採用。
さすが魔族の王、器がでかい。
「失礼ですがお名前が公にできない事情でも……?」
「いや、決してそんなことはない。えーとだな。あー……」
自分の名前を名乗るのにつっかえるやつなんていない。いたらこの上なく怪しまれる。
「トントンだ」
「はい?」
俺はとっさに、名乗った。言ってから心底後悔したが、もう何もかも遅い。覚悟を決めるしかない。
「トントン・トトントーン。それが俺の名だ」
「ト、トントン・トトントーンさん、ですね?」
「ああ。いや、祖国だと発音が少し違うのだが、マナクォーツに訳されてしまうとこういう発音になる」
「なるほど。出稼ぎの方でしたか。たしかに、なんだか古風なお召し物ですしね」
なんだか貧乏国出身だと思われてそうだ。放っておいてくれ。
名乗った通りに登録証に名前を書く。
「とても古い字体ですね」
「気にするな」
「出身地は――クインタイル?」
「ああ。ここよりずっとド田舎だよ」
俺の生まれた地である。山と畑しかない寂れた村だった。
魔王を倒した暁には、帰郷するのもいいかもしれないな。
「それは偶然ですね! ここもクインタイルというんですよ」
「ここが!?」
ここだった。
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