上 下
36 / 43

図書館

しおりを挟む
肌寒い季節がやって参りました。私は先日、アルク様にプレゼントしていただいたショールを羽織廊下を歩いていると、後ろからセリーナさんに呼ばれた。

「レイラ様~。ごきげんよう。どちらへ向かわれるんですの~?」

「ごきげんよう、セリーナさん。これから学園書庫へ向かおうと思いまして。」

「調べものとかですか~?」

「ええ。この間、マリアさんからお勧めしていただいた本が気になりまして。書庫にあればお借りしようかと。」

「そうなんですね~。どんなお話なんですの?」

「搭に閉じ込められたお姫様と隣国の王子との甘く切ない恋愛ものだそうです。文章がとても綺麗で凄く惹き込まれたそうですよ。」

「まぁ~!私も気になりますわ~。学園書庫には本も豊富ですし新刊もすぐに並ぶので便利ですわよね~。私もご一緒してよろしいでしょうか?」

「もちろんですわ。一緒に参りましょう。」

それから私達はたわいのない話をしながら学園書庫へ向かいました。
学園書庫はとても広く、カフェも併設されていて人も多いが、静かに過ごすのがマナーなので紙を捲る音やヒソリと静かに話す声、机に置かれるカップの音、椅子の押し引きの音、誰かがコホンと咳き込む声...
ザワつく食堂では誰も気にとめないような音がここでは直ぐに拾われてしまうほどの静けさを保っていた。

私達は目的の本を探しに新刊コーナーや恋愛コーナーを探してみたが、目的の本は置いていなかった。

「はぁ。どこにも見当たりませんわ。」

「人気の本なんですのね~。」

小さな声で呟く私にセリーナさんも小さな声で応えた。

「そうみたいですわね。今日は諦めて出直しますわ。...あ、あそこにいらっしゃるのってレイド様ではなくて?」

「あら~!ここでお会い出来るなんて~!いつもは空き教室か王宮の執務室に行ってしまわれるのに。調べものかしら~。」

ぼんやりと彼を見つめるセリーナさんは寂しそうな#表情_かお_#をしていた。

「最近、前よりもっとお忙しいみたいなの~...学園終わりも休日も一緒に過ごせなくなってしまって...私、避けられているのかしら~って考えるようになって...」

「セリーナさん...」

「レイド様は将来、文官となり殿下の支えとなるお方。私のワガママで彼の邪魔をしたくはありませんの。だからこうやってレイド様を見つけられただけでも嬉しいんですの~。」

にっこりと無理やり微笑むセリーナさんを見て、私は切なくなりました。
そんな中、静寂を切り裂く甘ったるい声が書庫に響いた。

「あ!レイド様、みぃーつけたぁー!」

...この声はヒロインちゃん!?
しょ、書庫は静かにするのがマナーですよ!皆さんがヒロインちゃんをじろりと見てますよ!!

「はぁ。また君か。いい加減にしてくれないか。僕は君に構ってるほど暇じゃないんだ。」

「なんでよ!私はヒロインなんだから、私の事最優先にしなくちゃいけないのよ!」

「また訳の分からない事を...君は早くここから出ていくべきだ。君はここが書庫だとわからないのか?そんなに喚き散らして、僕だけじゃなく周りの人達にも迷惑だ。」

「もう!そんな固いこと言わないでよー!ね?カフェでおしゃべりしようよ!」

「ちょっと!離しなさい!!」

ヒロインちゃんがレイド様の右腕に自分の両腕を絡め、グッと距離を縮めました。

...は!これはレイド様ルートのイベントでは?
確かイベントは本を書庫に探しに来たヒロインちゃん。偶然居合わせたレイド様と話をしていた所、そこに鉢合わせたセリーナさんがヒロインちゃんを突き飛ばした衝撃で棚にぶつかり、棚が倒れてくる。それをレイド様が庇った故に発生する、レイド床ドンイベ!!
セリーナさんはヒロインちゃんを突き飛ばしてしまうのでしょうか...
そうすると床ドンイベントの相手はヒロインちゃん?
このイベントが発生してしまったら、レイド様はヒロインちゃんを庇い、セリーナさんを軽蔑してしまう。。そうしたらセリーナさんは...

私が暗くなりそうな気持ちで色々と考えている傍らでセリーナさんが動いていた。

「ごきげんよう~。レイド様、マカロン嬢。」

「セリーナ...」

「あら、セリーナ様。ごきげんよう。私、これからレイド様とお茶しますのよ。」

「レイド様...」

「ち、違う!セリーナ、誤解だ!おい、君!勝手なことを言うな!!」

「君じゃありませんわ!ローズですわ!」

「マカロン嬢。」

ヒロインちゃんの声に被さるようにセリーナさんは声を発し、ヒロインちゃんの前に立ちはだかった。

「その様に騒ぎ立ててはレイド様にもここを利用している方々にも迷惑ですわ。それに、レイド様は私の婚約者です。お引き取りいただけますか?」

セリーナさんはいつもはお色気たっぷりでのほほんとしているのに、今はのほほんがキリッとになっていて、お姉様って感じの雰囲気です。ギャップですね!ゴクリ!

「なによ!悪役の癖に!邪魔しないでよ!」

ヒロインちゃんがムキになりセリーナさんの肩を押した弾みで、セリーナは本棚にぶつかってしまった。

「キャァ!」

「セリーナ!」
「セリーナさん!」

セリーナさんがぶつかった拍子に本棚がぐらついた。
レイド様がヒロインちゃんを安全な方に突き飛ばし、セリーナさんを胸に抱き込んだ瞬間、ぐらついた本棚はドォォンと大きな音を立てて2人の上に倒れていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

この誓いを違えぬと

豆狸
恋愛
「先ほどの誓いを取り消します。女神様に嘘はつけませんもの。私は愛せません。女神様に誓って、この命ある限りジェイク様を愛することはありません」 ──私は、絶対にこの誓いを違えることはありません。 ※子どもに関するセンシティブな内容があります。 ※7/18大公の過去を追加しました。長くて暗くて救いがありませんが、よろしければお読みください。 なろう様でも公開中です。

別に要りませんけど?

ユウキ
恋愛
「お前を愛することは無い!」 そう言ったのは、今日結婚して私の夫となったネイサンだ。夫婦の寝室、これから初夜をという時に投げつけられた言葉に、私は素直に返事をした。 「……別に要りませんけど?」 ※Rに触れる様な部分は有りませんが、情事を指す言葉が出ますので念のため。 ※なろうでも掲載中

【完結】私ですか?ただの令嬢です。

凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!? バッドエンドだらけの悪役令嬢。 しかし、 「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」 そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。 運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語! ※完結済です。 ※作者がシステムに不慣れな時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///)

【完結】「ループ三回目の悪役令嬢は過去世の恨みを込めて王太子をぶん殴る!」

まほりろ
恋愛
※「小説家になろう」異世界転生転移(恋愛)ランキング日間2位!2022年7月1日 公爵令嬢ベルティーナ・ルンゲは過去三回の人生で三回とも冤罪をかけられ、王太子に殺されていた。 四度目の人生…… 「どうせ今回も冤罪をかけられて王太子に殺されるんでしょ?  今回の人生では王太子に何もされてないけど、王子様の顔を見てるだけで過去世で殺された事を思い出して腹が立つのよね!  殺される前に王太子の顔を一発ぶん殴ってやらないと気がすまないわ!」 何度もタイムリープを繰り返しやさぐれてしまったベルティーナは、目の前にいる十歳の王太子の横っ面を思いっきりぶん殴った。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※小説家になろうにも投稿しています。

攻略対象の王子様は放置されました

白生荼汰
恋愛
……前回と違う。 お茶会で公爵令嬢の不在に、前回と前世を思い出した王子様。 今回の公爵令嬢は、どうも婚約を避けたい様子だ。 小説家になろうにも投稿してます。

私はモブ嬢

愛莉
恋愛
レイン・ラグナードは思い出した。 この世界は前世で攻略したゲーム「煌めく世界であなたと」の世界だと! 私はなんと!モブだった!! 生徒Aという役もない存在。 可愛いヒロインでも麗しい悪役令嬢でもない。。 ヒロインと悪役令嬢は今日も元気に喧嘩をしておられます。 遠目でお二人を眺める私の隣には何故貴方がいらっしゃるの?第二王子。。 ちょ!私はモブなの!巻き込まないでぇ!!!!!

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

君の小さな手ー初恋相手に暴言を吐かれた件ー

須木 水夏
恋愛
初めて恋をした相手に、ブス!と罵られてプチッと切れたお話。 短編集に上げていたものを手直しして個別の短編として上げ直しました。 ※毎度ですが空想であり、架空のお話です。史実に全く関係ありません。 ヨーロッパの雰囲気出してますが、別物です。

処理中です...