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9話 響さん、ホントにホントに勘弁してください!
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新学期が始まった。響さんは摂生しながらなんとか日々頑張っている。禁酒禁煙は辛そうだけど健康にはいいようで最近調子がいいらしい。
昼休みには毎日児童とドッジボールを楽しんでいる。
書類の提出が遅いのは相変わらずだ。
「もう、吉野先生が全然期限を守ってくれない!」
って更衣室で嘆いていたら、今井先生と中山先生に笑われた。二人は昨年一緒に縁結びの神社にお参りに行った仲間だ。
「そんな風に本気で怒るから、吉野先生が喜ぶのよ」
今井先生は壁際のベンチに座って足をぶらぶらさせている。……かわいい。
「私もそう思います。吉野先生はかなり前から原先生の事が好きでしたよね!」
「え?」
ちょっと、中山先生どういう事? そんなの初耳だ。
「見てたら分かりますよ~、きっと原先生はこういうタイプの人と上手くいくんだろうなって思ってましたもん」
かわいい見た目の中山先生はまるで占い師みたいだ。
「二人はきっといいコンビですよ」
そ、そんなことを言われたら照れる……。
「あ、ありがとう、中山先生」
中山先生は本当にいい子だ。
「お疲れ様ー」
養護の山下先生が更衣室に入ってきた。そういえば縁結びの神社まで車を出してくれたのは山下先生だ。
穏やかで大人な山下先生。三十八歳、アラフォーのシングルマザーだ。
「山下先生はご利益ありました?」
中山先生が無邪気に聞いた。……勇気がある。
「そうねー、どうかな? じゃ、お先に」
山下先生は荷物をロッカーから出すとさっそうと帰っていった。
そういえば、今日はいつもより服装が決まっている。
「山下先生! かっこいいー!」
山下先生の大人の色香にみんなして酔ってしまった……。
いつか、私もあんな大人になりたいな。
急いで帰宅して近所のスーパーに向かった。今夜は鍋にするつもりだ。まだ残暑が厳しい日もあるけど季節は確実に秋に向かっている。野菜中心の食事に鍋は打ってつけだ。野菜を選んで買い物かごに入れていたら響さんがやって来た。
「持つよ」
さっとかごを持ってくれる。学校の外で会う響さんはいつも以上にかっこいい。以前はしわくちゃだったシャツも私がアイロンをかけているからパリッとしてイケメン度がさらにアップしてしまった。時折すれ違う女の子が振り返って見ている時があって私はジレンマを感じる。恋人にはかっこよくいてもらいたいけど、私だけが彼の良さを知っていたいような……。
「お、から揚げ、うまそう」
響さんが総菜コーナーで立ち止まったので、手を引いて離れた。
「から揚げなんて早すぎます。ちゃんと治ったら食べられますからね、今は我慢してください」
しゅんとしてしまった響さんが愛らしくて困る。そのあと、響さんの家に帰るまでつないだ手をほどいてくれなくて私はかなり照れ臭かった。
「今度のお彼岸に、結衣の墓参りに行ってくる」
ダイニングテーブルで向かい合ってお鍋を囲んでいたら響さんが言った。響さんは凄い勢いで結衣さんを思い出にしていく。とても、強くなった。
「やっと結衣に会いに行く決心がついた。俺はもう大丈夫だって安心させてくるよ」
引っ越しの準備も着々と進めている。すでに線路のあちら側にいい部屋をみつけて速攻で契約してしまった。病院にも近いし私たちは今まで以上にご近所さんになる。
おまけにひと部屋は私の部屋にしてくれるそうだ……。いつでも泊まりに来ていいよって言ってくれたけど……そ、それはムリ。
いつだって一緒にいたいんだからそんなことをしたら帰れなくなっちゃう。
そういえば……。
「響さん、中山先生が随分前から響さんは私の事が好きだったんじゃないかって言うんですけど」
「ぶっ、う……ゴホッ!」
「ちょっと! 大丈夫ですか?」
響さんがむせてしまったから私は慌てて立ち上がって背中をさすってあげた。
「……中山先生はかわいい顔して恐ろしいな」
「本人が自覚していないことまで分かるなんて……うちの小学校で最強の先生は中山先生なのかもしれませんね」
「違いない」
私たちは顔を見合わせて笑った。
ずっとこの笑顔を見ていたい。
ん? あれ?
響さんが立ち上がって私を抱きしめた。
「急にどうしたんですか?」
「いや……しあわせだなーと思って、少しだけ……」
かがむようにして耳をあまがみしてくる。
「ん、ちょっ……響さん、鍋は……?」
「後で食べる……その前に」
やっぱり絶対に泊まらないようにしないと。
こうなるとなかなか離してくれないから……。
響さん、ホントにホントに勘弁してください!
昼休みには毎日児童とドッジボールを楽しんでいる。
書類の提出が遅いのは相変わらずだ。
「もう、吉野先生が全然期限を守ってくれない!」
って更衣室で嘆いていたら、今井先生と中山先生に笑われた。二人は昨年一緒に縁結びの神社にお参りに行った仲間だ。
「そんな風に本気で怒るから、吉野先生が喜ぶのよ」
今井先生は壁際のベンチに座って足をぶらぶらさせている。……かわいい。
「私もそう思います。吉野先生はかなり前から原先生の事が好きでしたよね!」
「え?」
ちょっと、中山先生どういう事? そんなの初耳だ。
「見てたら分かりますよ~、きっと原先生はこういうタイプの人と上手くいくんだろうなって思ってましたもん」
かわいい見た目の中山先生はまるで占い師みたいだ。
「二人はきっといいコンビですよ」
そ、そんなことを言われたら照れる……。
「あ、ありがとう、中山先生」
中山先生は本当にいい子だ。
「お疲れ様ー」
養護の山下先生が更衣室に入ってきた。そういえば縁結びの神社まで車を出してくれたのは山下先生だ。
穏やかで大人な山下先生。三十八歳、アラフォーのシングルマザーだ。
「山下先生はご利益ありました?」
中山先生が無邪気に聞いた。……勇気がある。
「そうねー、どうかな? じゃ、お先に」
山下先生は荷物をロッカーから出すとさっそうと帰っていった。
そういえば、今日はいつもより服装が決まっている。
「山下先生! かっこいいー!」
山下先生の大人の色香にみんなして酔ってしまった……。
いつか、私もあんな大人になりたいな。
急いで帰宅して近所のスーパーに向かった。今夜は鍋にするつもりだ。まだ残暑が厳しい日もあるけど季節は確実に秋に向かっている。野菜中心の食事に鍋は打ってつけだ。野菜を選んで買い物かごに入れていたら響さんがやって来た。
「持つよ」
さっとかごを持ってくれる。学校の外で会う響さんはいつも以上にかっこいい。以前はしわくちゃだったシャツも私がアイロンをかけているからパリッとしてイケメン度がさらにアップしてしまった。時折すれ違う女の子が振り返って見ている時があって私はジレンマを感じる。恋人にはかっこよくいてもらいたいけど、私だけが彼の良さを知っていたいような……。
「お、から揚げ、うまそう」
響さんが総菜コーナーで立ち止まったので、手を引いて離れた。
「から揚げなんて早すぎます。ちゃんと治ったら食べられますからね、今は我慢してください」
しゅんとしてしまった響さんが愛らしくて困る。そのあと、響さんの家に帰るまでつないだ手をほどいてくれなくて私はかなり照れ臭かった。
「今度のお彼岸に、結衣の墓参りに行ってくる」
ダイニングテーブルで向かい合ってお鍋を囲んでいたら響さんが言った。響さんは凄い勢いで結衣さんを思い出にしていく。とても、強くなった。
「やっと結衣に会いに行く決心がついた。俺はもう大丈夫だって安心させてくるよ」
引っ越しの準備も着々と進めている。すでに線路のあちら側にいい部屋をみつけて速攻で契約してしまった。病院にも近いし私たちは今まで以上にご近所さんになる。
おまけにひと部屋は私の部屋にしてくれるそうだ……。いつでも泊まりに来ていいよって言ってくれたけど……そ、それはムリ。
いつだって一緒にいたいんだからそんなことをしたら帰れなくなっちゃう。
そういえば……。
「響さん、中山先生が随分前から響さんは私の事が好きだったんじゃないかって言うんですけど」
「ぶっ、う……ゴホッ!」
「ちょっと! 大丈夫ですか?」
響さんがむせてしまったから私は慌てて立ち上がって背中をさすってあげた。
「……中山先生はかわいい顔して恐ろしいな」
「本人が自覚していないことまで分かるなんて……うちの小学校で最強の先生は中山先生なのかもしれませんね」
「違いない」
私たちは顔を見合わせて笑った。
ずっとこの笑顔を見ていたい。
ん? あれ?
響さんが立ち上がって私を抱きしめた。
「急にどうしたんですか?」
「いや……しあわせだなーと思って、少しだけ……」
かがむようにして耳をあまがみしてくる。
「ん、ちょっ……響さん、鍋は……?」
「後で食べる……その前に」
やっぱり絶対に泊まらないようにしないと。
こうなるとなかなか離してくれないから……。
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