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41話 計算
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フォレストは二階に事務所があるから外階段をのぼらないといけないんだけど、慣れない松葉づえでは到底ムリだ。
チカさんの見つめる前で冬馬先生に抱えられるようにして階段をのぼった。
……もうっ、めちゃくちゃ恥ずかしいっ!
でも、チカさんは何も言わずに私の荷物を運んでくれた。
今日は、最後の出勤日だからお世話になったお礼にとお菓子の入った紙袋なんかもあって荷物が多いのだ。
ホント、冬馬先生に送って貰えて助かった。
「へえ、ここが千尋さんの職場ですか……雰囲気の良い素敵な事務所ですね」
冬馬先生はフォレストの事務所をぐるっと見回して微笑んだ。
「そうでしょう! 内装がすっごくおしゃれなの……」
冬馬先生の言葉に改めて思う。
私、この一年半、なんて素敵な職場で働かせてもらっていたんだろう。
最近また事務所の窓辺に観葉植物が増えた。
ソファセットがある応接スペースは緑あふれる癒しの空間。
まさに小さな『森』だ。
ああ、あのソファでお弁当を食べるのも今日が最後なんだな……。
淋しいな。
や、やだ、私ったらまだ最終日の仕事を始めてもいないのに、涙ぐんでしまう。
冬馬先生はそんな私の様子に気づかないふりをしてくれて、
「千尋さんが働いているのは『足場屋の事務所』って聞いていたから、もっとむさくるしい男所帯を想像していました」
とくすっと笑った。
チカさんは私達を追い越すとつかつかと部屋の奥に向かい、私のデスクに荷物を置いて振り返った。
「千尋ちゃん、とりあえずそっちに座ってて。僕、コーヒー淹れてくるから」
「う、うん、ありがとう」
冬馬先生の手を借りてソファに座る。
先生はさも当然といった様子で私のすぐ隣に腰かけた。
チカさんはしばらくしてトレイにカップを三つ乗せて戻ってきた。
コーヒーのいい香りが漂ってくる。
「インスタントですみませんね」
「いえ、いただきます」
冬馬先生は長い指で優雅に持ち手をつまむと美しい所作でカップに口を付けた。
チカさんは何が気に入らないのかコーヒーをグイッと一気に飲み干した。
「確かにこの事務所は足場屋にしてはオシャレな方だとは思いますが……ここで働いている人間はあなたの想像通り、むさくるしい男ばかりですよ。まあ、弁護士先生にはまったく縁のない世界でしょうが」
そう言って先生をキッと睨みつけた。
「とんでもない、子供の頃からなじみのある、良ーく知った世界ですよ……建設業界は」
チカさんの棘のある言葉も意に介さず、冬馬先生はただにっこりとほほ笑みを浮かべて優雅にコーヒーを飲んでいる。
「それって、どういう……?」
チカさんは先生の返事の続きを待っているようだったけど、先生はそれ以上は言わなかった。
沈黙が気まずい。
先生は空になったカップをトレイに戻すと私の手にそっと自分の手を重ねてきた。
ちょっ、ちょっと先生! チカさんが目の前にいるのにっ……!
「それでは千尋さん、名残惜しいですが事務所で打ち合わせの予定が入っていますので、私は戻ります。夕方にはお迎えに上がりますから、それまでしっかりお仕事されてくださいね」
「ハ、ハイ……」
先生はすっと立ち上がり私の頭を『いい子いい子』というように優しくポンポンと叩いたのち、チカさんに向き直ってコーヒーのお礼を述べ、事務所を去っていった。
「な、なんなんだ、あの少女漫画から抜け出してきた様なキザなオトコは……」
先生のスポーツカーのエンジン音が低く響いた頃、チカさんがボソッと呟いた。
そ、そうだよね、ホント。冬馬先生ってリアル少女漫画の住人だよね……。
「なんか、僕、圧倒されっぱなしだったんだけど……」
「え? そうなの?」
「うん、僕かなりキョドってなかった?」
「キョド……挙動不審ではなかったけど……」
結構、先生の事睨んでたよ。
とは、言わずにおこう。
見慣れた私でさえ見惚れちゃう美形なんだもの。
チカさんの行動が少しくらいおかしくなっても不思議じゃないよね?
「なぜだか対抗心がムクムクと湧いてきちゃってさ……あれ、どうしてだったんだろう? しかしさ、千尋ちゃん、あの冬馬先生って人、かなり計算高そうだけど大丈夫なの?」
け、計算高いって?
「どーゆーこと?」
私の問いにチカさんは少し言いよどんだ。
「さっき、えーっと、下で二人が車にいる時にさ……ほら、僕が出勤して来たでしょ?」
「そ、そそそ、それは私と先生がつ、つまり、その……」
キ、キスしてた時の話でしょーか?
「そう、あの時! 彼、僕に気が付いてから千尋ちゃんに……キスしたからね」
「え?」
「つまり僕にわざと見せつけたって事」
え? わざとってまさか……そんな恥ずかしい事、いくらなんでもしないでしょ? って言いたいけど。
いやいや、そーゆー人なんだよ!
お父さんの前でもやったもの、あの人。
そう! 前科持ちなんだよ!
「チカさん、先生はそーゆー人なんだよ……そもそも、弁護士なんだもん。計算高いに決まってる……」
はぁっ。
私は大きなため息をついた。
「まあ、でも千尋ちゃんはそういう先生が好きなんでしょ? 見てたら分かるよ。それにあの人が以前言っていた『初恋の人』だって事もね……僕、すぐに分かったよ」
え? 私、冬馬先生が初恋の相手だって事はチカさんに話してないよね?
んんんっ!?
チカさんといい萌ちゃんといい、どうして先生が私の初恋の人だって分かっちゃうの!?
「な、なんで!? ねえ、チカさんっ! なんで分かったの!?」
私はソファから身を乗り出した。
私のあまりの剣幕にチカさんは少し驚いているようだ。
だって、不思議でならないんだもん。
「な、なんでってそんなの簡単な話だけど……千尋ちゃんそんなに不思議そうな顔をして。もしかして自分では気づいてないの?」
「何に? ねえ、チカさん、私、何に気が付いてないの?」
昨日、萌ちゃんも教えてくれなかった。
「何ってそりゃぁ……」
「ねぇ、何? 昨日友達にも同じようなことを言われたんだけど理由は教えてくれなかったの。秘密だって言って……」
「ヒミツ……? うん、じゃあ、僕も秘密……秘密だよ」
「ってチカさん。そんなぁ……」
ま、また秘密にされてしまった……。
いったい何なのだ!
どうしてこんなにも私の初恋が周囲にダダもれなんだ!
……うーん、分からない。
「正直さ、実家に帰ったとたん婚約したって聞いて心配してたけど、その相手が千尋ちゃんがずっと想ってた『初恋の人』だって言うんなら素直に祝福しないといけないよね……おめでとう、千尋ちゃん。僕はね、ホント安心したよ」
チカさん……。
私の事、ずっと心配してくれてたんだよね。
「ありがとう……ありがとう、チカさん」
「うん。あ、それにしても、さっきの『建設業界には子供の頃からなじみがある』っていう言葉、あれ、どういう意味なの……?」
ああ、あれはね。
「冬馬先生の実家って建設業を営んでいるの。フルネームは四宮冬馬だってさっき紹介したでしょ? つまり先生は四宮工建の社長の息子なんだよ」
「は、はぁあ!? し、四宮工建の社長の、息子ぉぉおお!?」
「うん、しかも長男」
だけど、先生は離婚した前妻との息子っていう微妙な立場に苦しんできた。
お父さんが再婚したことで後妻さんの連れ子で同い年の弟が出来、更には翌年、父親と後妻さんとの間に弟も産まれた……。
つまり、四宮家の三兄弟は全員が異なる組み合わせの父母から生まれたって事だ。
「あんなイケメンでしかも社長の息子だなんて、どんだけ嫌味なオトコなんだ……でも、長男ならどうして弁護士に……? 四宮工建の後は継がないつもりなの?」
「うん、まあ、先生にもいろいろ複雑な事情があるんだよ。でもさ、よく考えたらチカさんだってフォレストの社長の息子じゃん! そういう意味では先生と一緒だよ」
「ぜ、全然違うよ、あっちは県内最大手の建設会社だよ! 僕んちはしがない孫請けの足場屋でしょ? 四宮工建の下請けのシノコウの更に下請けなんだから」
「しがない孫請け会社で悪かったな」
チカさんとの話に夢中になっていたら、いつの間にか社長夫妻が事務所の入り口に立っていた。
「うわ、親父っ……!」
チカさんの顔が引きつる。
森社長は普段は温厚だけど怒るとすごく怖いんだ。
「これでも従業員はしっかり食わしてるつもりだぞ。おい、宗親、お前は早く現場に行けよ。気合い入れてキリキリ働いて来い!」
「は、はいぃぃい!」
チカさんは裏返った声で返事をしながら立ち上がった。
奥さんはそんな二人の様子をニコニコと見ている。
私はなんとか立ち上がり二人に朝の挨拶をした。
「おはよう、小田桐さんは今日が最後の出勤だね。今日も一日よろしく頼むよ。ところで……その足はどうしたの?」
「あの、昨日道で転んでしまいまして……」
社長にそう答えていたら一度出口に向かいかけたチカさんが戻ってきた。
「えええっ? そうだったの!? 何やってんだよ千尋ちゃん!」
なかなか現場に行かないチカさんについに社長がキレた。
「お前は、早く、仕事に行けぇぇぇっ!」
「は、はいぃぃぃ! 行ってきますっ! じゃあ、千尋ちゃんまた夕方!」
「うん、行ってらっしゃい」
チカさんは外階段をどたどたと降りて行った。
「はぁぁ、慌ただしいヤツだ……」
森社長は苦笑しながら呟いた。
「ホントねぇ、あの子はいくつになっても落ち着かないわねぇ……さあ、私達も、お仕事はじめましょうか」
奥さんの言葉を合図に私たちは仕事に取り掛かることにした。
チカさんの見つめる前で冬馬先生に抱えられるようにして階段をのぼった。
……もうっ、めちゃくちゃ恥ずかしいっ!
でも、チカさんは何も言わずに私の荷物を運んでくれた。
今日は、最後の出勤日だからお世話になったお礼にとお菓子の入った紙袋なんかもあって荷物が多いのだ。
ホント、冬馬先生に送って貰えて助かった。
「へえ、ここが千尋さんの職場ですか……雰囲気の良い素敵な事務所ですね」
冬馬先生はフォレストの事務所をぐるっと見回して微笑んだ。
「そうでしょう! 内装がすっごくおしゃれなの……」
冬馬先生の言葉に改めて思う。
私、この一年半、なんて素敵な職場で働かせてもらっていたんだろう。
最近また事務所の窓辺に観葉植物が増えた。
ソファセットがある応接スペースは緑あふれる癒しの空間。
まさに小さな『森』だ。
ああ、あのソファでお弁当を食べるのも今日が最後なんだな……。
淋しいな。
や、やだ、私ったらまだ最終日の仕事を始めてもいないのに、涙ぐんでしまう。
冬馬先生はそんな私の様子に気づかないふりをしてくれて、
「千尋さんが働いているのは『足場屋の事務所』って聞いていたから、もっとむさくるしい男所帯を想像していました」
とくすっと笑った。
チカさんは私達を追い越すとつかつかと部屋の奥に向かい、私のデスクに荷物を置いて振り返った。
「千尋ちゃん、とりあえずそっちに座ってて。僕、コーヒー淹れてくるから」
「う、うん、ありがとう」
冬馬先生の手を借りてソファに座る。
先生はさも当然といった様子で私のすぐ隣に腰かけた。
チカさんはしばらくしてトレイにカップを三つ乗せて戻ってきた。
コーヒーのいい香りが漂ってくる。
「インスタントですみませんね」
「いえ、いただきます」
冬馬先生は長い指で優雅に持ち手をつまむと美しい所作でカップに口を付けた。
チカさんは何が気に入らないのかコーヒーをグイッと一気に飲み干した。
「確かにこの事務所は足場屋にしてはオシャレな方だとは思いますが……ここで働いている人間はあなたの想像通り、むさくるしい男ばかりですよ。まあ、弁護士先生にはまったく縁のない世界でしょうが」
そう言って先生をキッと睨みつけた。
「とんでもない、子供の頃からなじみのある、良ーく知った世界ですよ……建設業界は」
チカさんの棘のある言葉も意に介さず、冬馬先生はただにっこりとほほ笑みを浮かべて優雅にコーヒーを飲んでいる。
「それって、どういう……?」
チカさんは先生の返事の続きを待っているようだったけど、先生はそれ以上は言わなかった。
沈黙が気まずい。
先生は空になったカップをトレイに戻すと私の手にそっと自分の手を重ねてきた。
ちょっ、ちょっと先生! チカさんが目の前にいるのにっ……!
「それでは千尋さん、名残惜しいですが事務所で打ち合わせの予定が入っていますので、私は戻ります。夕方にはお迎えに上がりますから、それまでしっかりお仕事されてくださいね」
「ハ、ハイ……」
先生はすっと立ち上がり私の頭を『いい子いい子』というように優しくポンポンと叩いたのち、チカさんに向き直ってコーヒーのお礼を述べ、事務所を去っていった。
「な、なんなんだ、あの少女漫画から抜け出してきた様なキザなオトコは……」
先生のスポーツカーのエンジン音が低く響いた頃、チカさんがボソッと呟いた。
そ、そうだよね、ホント。冬馬先生ってリアル少女漫画の住人だよね……。
「なんか、僕、圧倒されっぱなしだったんだけど……」
「え? そうなの?」
「うん、僕かなりキョドってなかった?」
「キョド……挙動不審ではなかったけど……」
結構、先生の事睨んでたよ。
とは、言わずにおこう。
見慣れた私でさえ見惚れちゃう美形なんだもの。
チカさんの行動が少しくらいおかしくなっても不思議じゃないよね?
「なぜだか対抗心がムクムクと湧いてきちゃってさ……あれ、どうしてだったんだろう? しかしさ、千尋ちゃん、あの冬馬先生って人、かなり計算高そうだけど大丈夫なの?」
け、計算高いって?
「どーゆーこと?」
私の問いにチカさんは少し言いよどんだ。
「さっき、えーっと、下で二人が車にいる時にさ……ほら、僕が出勤して来たでしょ?」
「そ、そそそ、それは私と先生がつ、つまり、その……」
キ、キスしてた時の話でしょーか?
「そう、あの時! 彼、僕に気が付いてから千尋ちゃんに……キスしたからね」
「え?」
「つまり僕にわざと見せつけたって事」
え? わざとってまさか……そんな恥ずかしい事、いくらなんでもしないでしょ? って言いたいけど。
いやいや、そーゆー人なんだよ!
お父さんの前でもやったもの、あの人。
そう! 前科持ちなんだよ!
「チカさん、先生はそーゆー人なんだよ……そもそも、弁護士なんだもん。計算高いに決まってる……」
はぁっ。
私は大きなため息をついた。
「まあ、でも千尋ちゃんはそういう先生が好きなんでしょ? 見てたら分かるよ。それにあの人が以前言っていた『初恋の人』だって事もね……僕、すぐに分かったよ」
え? 私、冬馬先生が初恋の相手だって事はチカさんに話してないよね?
んんんっ!?
チカさんといい萌ちゃんといい、どうして先生が私の初恋の人だって分かっちゃうの!?
「な、なんで!? ねえ、チカさんっ! なんで分かったの!?」
私はソファから身を乗り出した。
私のあまりの剣幕にチカさんは少し驚いているようだ。
だって、不思議でならないんだもん。
「な、なんでってそんなの簡単な話だけど……千尋ちゃんそんなに不思議そうな顔をして。もしかして自分では気づいてないの?」
「何に? ねえ、チカさん、私、何に気が付いてないの?」
昨日、萌ちゃんも教えてくれなかった。
「何ってそりゃぁ……」
「ねぇ、何? 昨日友達にも同じようなことを言われたんだけど理由は教えてくれなかったの。秘密だって言って……」
「ヒミツ……? うん、じゃあ、僕も秘密……秘密だよ」
「ってチカさん。そんなぁ……」
ま、また秘密にされてしまった……。
いったい何なのだ!
どうしてこんなにも私の初恋が周囲にダダもれなんだ!
……うーん、分からない。
「正直さ、実家に帰ったとたん婚約したって聞いて心配してたけど、その相手が千尋ちゃんがずっと想ってた『初恋の人』だって言うんなら素直に祝福しないといけないよね……おめでとう、千尋ちゃん。僕はね、ホント安心したよ」
チカさん……。
私の事、ずっと心配してくれてたんだよね。
「ありがとう……ありがとう、チカさん」
「うん。あ、それにしても、さっきの『建設業界には子供の頃からなじみがある』っていう言葉、あれ、どういう意味なの……?」
ああ、あれはね。
「冬馬先生の実家って建設業を営んでいるの。フルネームは四宮冬馬だってさっき紹介したでしょ? つまり先生は四宮工建の社長の息子なんだよ」
「は、はぁあ!? し、四宮工建の社長の、息子ぉぉおお!?」
「うん、しかも長男」
だけど、先生は離婚した前妻との息子っていう微妙な立場に苦しんできた。
お父さんが再婚したことで後妻さんの連れ子で同い年の弟が出来、更には翌年、父親と後妻さんとの間に弟も産まれた……。
つまり、四宮家の三兄弟は全員が異なる組み合わせの父母から生まれたって事だ。
「あんなイケメンでしかも社長の息子だなんて、どんだけ嫌味なオトコなんだ……でも、長男ならどうして弁護士に……? 四宮工建の後は継がないつもりなの?」
「うん、まあ、先生にもいろいろ複雑な事情があるんだよ。でもさ、よく考えたらチカさんだってフォレストの社長の息子じゃん! そういう意味では先生と一緒だよ」
「ぜ、全然違うよ、あっちは県内最大手の建設会社だよ! 僕んちはしがない孫請けの足場屋でしょ? 四宮工建の下請けのシノコウの更に下請けなんだから」
「しがない孫請け会社で悪かったな」
チカさんとの話に夢中になっていたら、いつの間にか社長夫妻が事務所の入り口に立っていた。
「うわ、親父っ……!」
チカさんの顔が引きつる。
森社長は普段は温厚だけど怒るとすごく怖いんだ。
「これでも従業員はしっかり食わしてるつもりだぞ。おい、宗親、お前は早く現場に行けよ。気合い入れてキリキリ働いて来い!」
「は、はいぃぃい!」
チカさんは裏返った声で返事をしながら立ち上がった。
奥さんはそんな二人の様子をニコニコと見ている。
私はなんとか立ち上がり二人に朝の挨拶をした。
「おはよう、小田桐さんは今日が最後の出勤だね。今日も一日よろしく頼むよ。ところで……その足はどうしたの?」
「あの、昨日道で転んでしまいまして……」
社長にそう答えていたら一度出口に向かいかけたチカさんが戻ってきた。
「えええっ? そうだったの!? 何やってんだよ千尋ちゃん!」
なかなか現場に行かないチカさんについに社長がキレた。
「お前は、早く、仕事に行けぇぇぇっ!」
「は、はいぃぃぃ! 行ってきますっ! じゃあ、千尋ちゃんまた夕方!」
「うん、行ってらっしゃい」
チカさんは外階段をどたどたと降りて行った。
「はぁぁ、慌ただしいヤツだ……」
森社長は苦笑しながら呟いた。
「ホントねぇ、あの子はいくつになっても落ち着かないわねぇ……さあ、私達も、お仕事はじめましょうか」
奥さんの言葉を合図に私たちは仕事に取り掛かることにした。
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