さくらんぼ

〜episode36〜

八時二十分。
あと五分で朝のHRが始まる。
そんな時間になってもかずはまだ来ていなかった。
いや、それどころかかずは今日学校を休んだ。
担任の先生は、深見は今日休みと連絡があった、としか言わなかった。
どうしたのかな…。
朝電話した時は普通だったのに。
帰ったら連絡を入れてみよう。
そう思った私は学校が終わってすぐ家に帰り、メールした。
今は十六時半。
遅い時間ではないからすぐに返事が帰ってくるかな、と思いつつ私は携帯を持ってベッドで寝てしまっていた。

ムニムニ
目が覚めたのはほっぺたを引っ張られて痛みがあったから。
誰に…？
そっと目を開けると、そばに居たのは葵。
「…え？葵！？｣
びっくりして飛び起きる。
「何でここに葵がいるの！？｣
「現在時刻七時過ぎ。朝の話覚えてる？｣
ニコッとしながら言ってくる葵。
こーゆー時って大抵少し怒ってるんだよね。
「あ、夜ご飯！｣
「一時間も遅れてんだけど。ヒナママもう来てるよ｣
「え、嘘！？何でお母さん置いてってるのよ～｣
「ヒナがぐっすり寝てたからだろ。起こして来てって俺が頼まれたんだからな｣
「それは…ごめん｣
うん、もう苦笑いしかでない。
そういえば私まだ制服だ…。
「着替えるから出てって｣
「ん、外で待ってる｣

ガチャッ
バタン

廊下を歩く音が聞こえた。
てか…私寝顔見られたんだよね！？
どうしよう、ヨダレ垂れてなかったかな…。
変な顔してたらどうしよう…。
服を着替えながら一人でもんもんと考えてしまう。
「…何考えてんだろ。もう葵になんて思われようといいじゃんか。私はかずの彼女なんだから｣
自分に言い聞かせるようにして、そう呟いた後部屋を出てリビングに行き、葵と一緒に葵の家へ向かった。

電気を消して暗くなった私の部屋のベッドでは携帯がチカチカと光っていた。