さくらんぼ

もふ

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〜episode記憶⑩〜

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「ん、んん」
目が覚めるとベッドの上、鼻にツンとくるような薬品の匂い。
すぐにここが保健室っていうことが分かった。
「あれ、今何時だろ…」
「5時。お前よく寝てたよなぁ」
私の居るベッドの隣の椅子には葵が座っていた。
「え、何で?授業は??」
「受けたわ笑。しっかしよく寝てたよな。」
「うるさーい!」
すると保健室の先生がカーテンを開けてきて。
「あら、起きたのね!熱はかってなさい。先生その間に担任の先生に連絡して荷物持って来るから。」
はーい、とひとつ返事で答えると保健室の先生は出ていった。
「さて、熱でもはかりますかな」
「逆にあがってたら面白いよな笑笑」
「そんなわ…」
私が言いかけた所で、電話が鳴る音。
             プルルルル…
「あ、俺の携帯だわ。…岡本から?」
そう言って立ち上がると、ベッドを仕切るカーテンから出てしまった。
「もしもし、うん、俺」

「あー、今目覚ましたよ」

「えっと…今日の一緒に帰る約束、ごめんな?」

「また今度埋め合わせはするから」

「うん、絶対。」

「それじゃ」

と言った所でカーテンの中に戻って来た。
「一緒に帰る約束してたの?」
「あぁ」

            ピピッ
「あ、はかり終えたよ。微熱~」
「そっか、それなら今のうちに帰れるな。じゃ、さっさと立て。おぶってってやるから。」
「え?ゆきと帰る約束してたんでしょ?さっき下校時刻になったばかりだから、まだゆきいると思うよ?」
本当は葵がおぶって帰ってくれる事が嬉しい。
でも、葵の事を考えるとゆきの所に行くのが正しい。
矛盾してるなぁ…なんて思っていると。
「病人の幼馴染ほっといて彼女と帰るほど酷いやつではないのでね。大事な幼馴染が下校中一人にしたばっかりに症状が悪化しても困るし。」
素直に嬉しい。
『大事な』って言ってくれた所と私を優先してくれたことが。
でも悲しさもある。
『幼馴染』って所に。
結局私は幼馴染っていう近くて遠いポジションなんだなぁって。

「ほら、乗れよ」
葵がしゃがみこむ。
「うん」
ゆっくり、葵の上に乗る。
葵は立ち上がって
「さ、帰るか!」
と、元気に言い放つ。
保健室のドアを開けると、ちょうど先生がカバンを持って来て、
「あら、帰るのね。相馬くんが送ってくれるのなら問題ないわね。」
と言ってニッコリしながらカバンを渡してくる。
葵、絶対重いだろうなぁ…
私と、カバンを2個も持ってるんだから。
学校を出ておんぶされながらもゆっくりゆっくり歩く葵。
背中、温かいな…
葵の独特の匂い、懐かしい…
なんか。
すごく安心する。
きっと葵だからなんだろうな。

「葵」
「なに?」
「ばーか」
「は?」
「…ありがと///」
「ん、どういたしまして」

多分今顔真っ赤なんだろうけど。
葵には後ろの私の顔なんて見えないだろうって。
もし見られても夕日のせいにすればいいやって。

また私は揺られながら心地よい眠りについたのだった。
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