夫の親友〜西本匡臣の日記〜

2024年7月

7月5日

隣の市からの依頼で仕事に行ってきた。
知り合いが仕事が丁寧だと紹介してくれたらしく、名指しでの依頼だった。
日曜日の夜からいきなり仏間との間の障子が開きにくくなったとのことだった。
この家の嫁だという、50歳くらいの女性が出迎えてくれた。
俺が仕事を休んでいたので東が代わりに行こうかと聞いたが俺が良いとのことで、長い間待たせてしまったようだが、嬉しく思う。
仏壇にぶつからないように位置確認のため仏間から入ると、仏壇の横に箱菓子がいくつか上がっていた。
話を聞くと、日曜日に法事をしたらしく人が来ていたとのことだった。
子供もいたようなので、ぶつかって下の車が曲がってしまったのかもしれないと説明し、外すと赤いパーツが付いた銀色の何かが落ちた。
障子を立てかけ、拾うとイチゴ飾りが付いたヘアピンだった。
女の子用のヘアピンだと見せ、戸車を確認したが問題なかったので軽くホコリをはらい戻すと、スーと音を立てて滑らかに動いた。
挟まっていただけだと説明すると、苦笑いしながら脱力して膝をついた。
遺影の写真をチラッと見て、法事の後だったので誰かが不満を感じてこうなったのだろうかと良くない方にばかり考えていたそうだ。
生きてる人間のせいでよかったとホッとしていた。
特に修理などは必要なかったので、修理代は無く出張料だけ請求した。
それだけでは申し訳ないと言っていたが、随分待たせたようなので気にしないでというと、箱菓子の中からプリンと焼きメレンゲと書かれたお菓子を２づつ持たせてくれた。
会社にいる早瀬さんと片岡さんに渡すと、高いプリンだと喜んでいた。

早めに仕事が終わったので、このまま工房に顔を出そうかと思い手帳を確認すると『菜々美に電話』とのメモがあった。
すっかり忘れていたので、昼に電話するのを忘れないように手に電話と書いて工房に顔を出した。
工房はアイツとの事情を知っている人が多いので、大変だったなとねぎらってくれた。
先月の壊れたガラスのドアがあったので、まだ捨てないのかと聞くと、持ち主からの音沙汰が無いそうだ。
２周間も経ったので、工務店に連絡するとドアを壊した息子さんが熱中症で入院になったので、こちらから連絡すると言われてそれからなにもないとのことだった。
確認の連絡をしてもらうように頼んだ。

１時前に菜々美に連絡すると、「今は無理」のひと言だけで切れてしまった。
また長男と風呂に入ってる時に電話があったが、面倒くさかったのでまた明日連絡しよう。