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2024年5月

5月1日

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もうすぐこどもの日だからか、幼稚園で鯉のぼりがはためいていた。
長男は自宅にも欲しいようで、どこに売ってるのかと聞かれた。
飾るところはないので、どこに売ってるかは分からないと誤魔化したが不満そうにしていた。
子供の頃にアイツと近所の梶さんという老夫婦の家に鯉のぼりが上がっているのを見に行った。
俺たちの他にも近所の子がいたのを覚えている。
10歳くらいまでだと思ったが、勝手に敷地に入っていた。
成長するにつれて、人の家の敷地に勝手に入るのは良くないことだと気がついてからは足が遠のいたと思う。
大学に入学して最初の夏休みに、「梶さんの奥さんも亡くなったみたいよ。」と母に言われた。
梶さんって誰かと聞くと、「角の1つ前の大きな木があるお家。鯉のぼりを良く見に行ってたでしょ。」と困惑していた。
その時に初めて名前を知ったと思う。
俺とアイツにとっては【鯉のぼりの家】だった。
その老夫婦には男の子が2人いたが、俺たちが1人で出歩ける頃には両方とも家を出て離れて暮らしていたようだ。
息子たちは中学校に入る頃には鯉のぼりには興味が無くなっていたようで、飾るのを止めようかと話していたが、近くにあった保育園の子どもたちのために飾っていたらしい。
俺たちが預けられていたところとは別の保育園だったが、5月中は散歩コースになっていたと母が話していたのを覚えている。
その保育園が無くなってからも、小学生が見に来ていたので毎年飾っていたらしいので、ずっと【鯉のぼりの家】だったのだと思う。

今日はダンボールと紙類の回収業者が来ることになっていたので、家からいくつか持ってきた。
妻にバレないように、書斎に隠していたビールを6本セットで売るための紙のパッケージも持ってきた。
車から降ろしていると、佐々木君が出社してきた。
車の外に置いたダンボールを見て、障害のある小学生のためのものかと聞かれた。
恥ずかしかったが家のいらない紙類だと言うと、ビールのパッケージに気が付き、「めちゃ飲むんですねー」と笑われた。
先月は持ち出せなかったのて2ヶ月分だと反論したが、アイツの妻の事を考えてから、飲む量が増えた気がした。
ダンボールはサイズも合わないし、薄いから使えないだろうと言うと、回収業者の人に聞けばいいのではないかと提案された。
佐々木君の名案通りに業者の人に聞いたら、衛生的に難しいと断られてしまい残念だった。
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