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ゲルマたんの救出

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 ゲルマたんの居場所が分かった後のステアデルは素早かった。

 しかも、ゲルマたんはすでに彼らに密偵を送っていたらしい。

 その人はステアデルの旧友で、商人を装って、すでに彼らの屋敷にも潜入を済ませていた。

 ただその密偵、イシュトバーンはゲルマたんに出くわしたことはないらしい。

 しばらく前から急に警備の人数が増えたらしいので、何かあるとは思っていたらしい。

 でもまさかゲルマたんが誘拐されてるなんて思わないよね……。

 ゲルマの安否確認と居室の調査はイシュトバーンに一任された。

 侵入を助けるため騒ぎを起こすっつーことだったから、ついつい黒色火薬の製造方法教えちゃったけど(いや、実はこうみえてけっこう歴史好きなんだよ、俺は。まぁ大きな音がするくらいの破壊力の少ない奴だから)……。

 ……うん。

 メルファンドラの皆は、悪用しないことを信じてる。

 そんなこんなでイシュトバーンはゲルマたんの安否と居室の位置を確認して帰還した。

 そして俺は……祈るような気持ちで、ディオグルから15キロ離れた森の中に設置された陣屋にいた。

 その陣屋にいるのは、ゲルマの救出ために特別に編成された騎士団の精鋭部隊だ。

 本当は王都で待ってるべきなのかもしれない。

 だけど、いてもたってもいられなかった俺のことを、フェルメンデが後押ししてくれた。

 それに……ブレスナイトも。

 ブレスナイトはゲルマたんがいないことを、うすうす分かっていたみたいだ。

 フェルメンデが王都に残ってすべてを引き受けてくれることになり、俺は思い切って、ゲルマたんの近くに行くことを決めた。

 思い出してくれるかどうか不安ではあったし、子供たちを置いていくことに気が咎めていたけれど。

 そしたら、ブレスナイトがお昼寝もしないで俺のところにやってきた。

「母上……。

 心配ちんぱいちないで?

 僕も、がんまりましゅ……。

 僕が皆をちゃんとめんどー見ましゅ!!」

「ブレちゃん……」

 俺はぎゅっとブレスナイトを抱きしめた。

 いつからゲルマのこと、気づいてたんだろう。

 きっと、お兄ちゃんとして、頑張ってたんだなーって思うと、思わず涙がこぼれた。

「父上のこと、お願いしましゅね??」

「……わかった。

 弟と妹のこと、頼んだぞ!!」

「ひゃい!!」

 ブレスナイトはほっぺを真っ赤に染めて頷いた。

 俺にはもったいないくらいいい子だな……。

 ぽよぽよのほっぺにほおずりしながら、そんなことを考えた。
 
 俺もしっかりしなきゃ、そう思えた瞬間だった。

 そして、翌早朝に決行されたゲルマたん救出作戦は成功した。

 残念ながら屋敷にいたのは雑魚が多かったが、ゲルマたんは無事確保できた。

 現在その屋敷で家令を務めていた男をわざと逃がし、を起こした張本人ザイラス王子の行方を捜索している。
 
 俺はちょっぴりやつれたものの、無事なゲルマたんに安堵した。

 思わず駆け寄りたくなったけど、我慢した。

 ゲルマたんは、俺を見ても表情ひとつ変えなかった。

 分かっていたことだけど、結構つらい。

 仕方ないだろ?

 ゲルマたんには記憶がないんだから……。

 ともかく解毒薬だ。

 少しでも、思い出してもらわないと。

 すると、解毒薬っていうよりこっちが毒じゃね? ってくらいの毒々しい紫色の液体を、一緒に同行していたライフェルトがゲルマたんに勧めた。

 ゲルマたんもその色に流石にビビったのか、顔を引きつらせてなかなか口をつけない。

「ライフェルト……。

 私が毒味をします。

 ゲルマた……ゲルマディート様は、ご心配されている。

 何も分からないのだから、何もかも怪しく見えて、当然」

 俺はライフェルトの近くに寄って、その毒々しい液体に口をつけた。

 うん。

 予想を裏切らない味。

 げろまず。

 舌が痺れる。

 ゲルマたんの好きな料理をたくさん用意しててよかった。

 飲み終わったら、口直しにおいしいものをたくさん食べてもらおう。

「どうぞ……ゲルマディート様」

 俺はゲルマたんに解毒薬の入った容器を差し出した。

 ああ!

 ゲルマたんがこんなに近くにいるのに!!

 キスしたい!!

 抱きしめてほしい!!

 愛してるって……いつもみたいに囁いて……?

 ……おっと……。

 油断して、泣きそうになる。

 大丈夫、ゲルマたんは無事だったんだから。

 俺は目元を隠すように頭を下げる。

 手元が軽くなり、ゲルマたんが無事容器を受け取ってくれたので、俺はうつむいたまま後ずさった。

 それからゲルマたんは、目を閉じて解毒薬を煽った。

 しばらくして目を開いたゲルマたんは、おもむろに口を開いた。

「……ライフェルト!

 お前か!!」

「ゲルマディート様!!

 思い出されましたか!!」

「ああ。

 それに……ステアデル、リツ=ルド、リーリア、フィフ、イシュトバーン……。

 ああ……すまない、ほかの者は……」

 ゲルマたんの視線は、俺の顔には止まらなかった。

 分かっていたことだけど、俺が肩を落としたのが分かったんだろう。

「……ご案じなさいますな。

 まだ一度服用したのみ。

 また明日、試しましょう」

 ライフェルトはゲルマたんにそう言ってたけど、俺に気を使ってくれたのが分かった。

「……分かった」

「それでは、お疲れではございましょうが、陛下。

 陛下のためにショージ様がご用意されましたお食事がございます。

 そちらをお召し上がられるというは、いかがでございましょうか」

 ちょ……!

 ライフェルト、無理やり思い出そうとしなくてもいいから!!!

 あわててしまった俺だけど、その前にゲルマたんが口を開いた。

「ショージ……私の妃の、ショージか?

 それで……彼女はどこにいる?」

 思わず、固まってしまった。

 ゲルマたんがこのまま思い出せなかったとして、ゲルマは男の俺を、受け入れられるんだろうか?

 ライフェルトが慌てていた。

 俺が傷つくのを、恐れているんだろう。

 正直、ゲルマがどんな王妃を望んでいるのか、聞くのが怖い。

 俺は料理以外にあんま取柄もねーし。

 そもそも、ゲルマたん、いったい俺のどこを好きになったんだろ?

 なかなか答えられないライフェルトを、ゲルマたんは問い詰めている。

「ライフェルトっ!!

 何故答えない!!

 何か、話せない理由があるのか?」

 温厚なゲルマたんが珍しく怒っていた。

 俺は聞いてるのがつらくなって、ライフェルトに助け舟を出した。

「恐れながら、陛下に申し上げます。

 ショージ様は、女性ではございません」

 ゲルマたんは驚いて、目を見開いた。

「なっ……!

 ……本当か?」

「はい」

「非獣人の男性、でござます」

 ゲルマたんは低い声で唸りながら、考え込むように腕を組んだ。

「……男性? 非獣人? ……信じられない」

 俺は近くにいたから、ゲルマたんがそう呟くのが聞こえた。

 なんか……すっごく大きくて見えない槍が、俺の胸に突き刺さった。

 ぐさって、音たてて。

 すっごく悲しくて泣きたかったけど、なんでだか俺はにっこりと微笑んでいた。

「……落ち着きになられるまで、ショージ様にはお会いになられない方が、よろしいでしょう……」

 ゲルマたんは、ゆっくりと頷いた。

 ゲルマたんのその様子が、俺の目にくっきりと焼き付いていた。

 

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