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新しい命

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 私はまだ、発情期の相手と体の関係を持ったことが無かった。

 なぜなら私は、王族だからだ。

 発情期に交合することは、子供が出来るということを意味する。

 伴侶とした相手でなければ、そんなことはできなかった。

 もちろん、発情期の激しさは噂には聞いていた。

 しかし、思っていたのとは、全く違っていたと、言うほかない。

 私は3日目の朝、ぼんやりとはしていたものの、ふと我に返った。

 はっきり言うが、この間の記憶はない。

 しかし、直前まで、交合中だったことは分かる。

 ショージの体の中に、精を放って力を失った私のオスが、まだ挿入されていたからだ。

 私は自分のオスを引き抜きぬいた。

 ショージの体には、私の甘噛みの跡がいくつも残っていた。

 赤いうっ血痕も体のいたるところに散っている。

 ショージは眠りの中にいた。

 体を洗ってやりたい……そう思って、ショージを抱き上げようとしたが、私自身がフラフラになっていた。

 人化する力もなくなったのは、これが初めてのことだ。

 私は召使の持ってきた食べ物を手早く腹の中に納める。

 眠気を感じたので、私はそのまま体を休めることにした。

 4時間ほど眠っていたらしい。

 私が起きた時には、ショージが目覚めていた。

 しかしショージは起き上がることが出来なかったらしく、伏せたまま、少しずつ食事をとっていた。

 私は人化してショージの上半身を後ろから抱き抱えるように、私の体に添わせ、食べやすいように姿勢を保った。

「……体の、あちこちが痛い……」

 ショージの切実なため息が漏れた。

「うあ……ショージ……。

 その、済まない。

 噛んでしまったようだ。

 む、夢中だったから」

「へーき。

 ちょっと休めば。

 でも……体、洗いたいかな?

 べとべとしてる」

「……食べたら、洗ってやる」

「……頼むわ………歩けそうにねーし」

「分かった」

 ショージは先ほど目覚めた時の私のように、まだ少しぼんやりしていた。

 体を洗ったら、まだ少し休ませた方がいいかもしれないと、私は思った。

 食事がすみ、私はショージの体をシーツごと抱きかかえた。

 私がたちあがると、控えていた召使たちがわらわらとベットへと向かって行く。

 入浴後はまっさらなベットへ戻っているだろう。

 ショージの体は、少し軽くなったような気がする。

 獣人と違って、非獣人の体力は弱い。

 私との交合で、ショージの体に負担をかけてしまった。

 私はショージと抱き合うように湯の中に体を沈めた。

 ゆっくりとショージの体を拭っていると、ショージはすこしうつらうつらとし始めた。

 私はショージが目覚めないよう注意を払いながら、ショージの体を洗った。

 洗いながら、ふと手を止めた。

 ……交合中、何があったかは分からない。

 分からないが、さすがにお尻に噛み跡が残っていたのには、絶句した。

 さすがにこれは、やり過ぎだ……。 

 うう。

 ショージ、済まない。

 よほど疲れていたのか、結局ショージはそのまま翌朝まで眠っていた。

 その頃になると、ショージの発情期も終わりかけ、私たちはお互いの温もりを確かめ合うように、落ち着いた交合をすることが出来た。

 要するに、私はようやくにして、非獣人の交合をやり遂げたのだ。

「よくがんばったねぇ。

 ゲルマたん」

 ショージは優しく私に微笑み、そして、あとは二人で抱き合ってぐっすりと眠った。

 そうして私たちの濃密な発情期は、終わった。 

「ショージ!!」

「なーに?

 ゲルマたん」

「無理をするな」

「……無理はしてないよ?」

「しかし!」

「もう、ゲルマたん!

 したくないの?」

「そ……それは、モチロン!!!」

「じゃあ、いーじゃん!!!!」

 そう、私はショージの体を心配して、休むつもりでいたのだ。

 しかし、ショージは相変わらずで。

 発情期のあと3日も寝込んだのに、ベットから起き上がれるようになったと思うと、ショージは私の獣毛をブラッシングすると言い出したのだ。  

「へへ……ひさびさの、もふもふ!!

 癒される……」

 そう言って、ショージは私の獣毛をブラッシングしていった。

 ショージが顔の毛を優しくブラッシングしていた時だ。

「ねえ、ゲルマたん」

「んー?」

「子供産まれたらサー」

「ああ」

「一人はハルマって、名前にしたい」

「……そうか」

「もう会えないけど、弟の名前なんだ」

「……分かった」

 それはとても優しい時間で、私は心が満たされているのを感じていた。

 



 それから1か月後、ショージが体調を崩した。

 私は典医の診察を、祈るように待った。

「おめでとうございます。

 おめでたですよ」

 おめでた……ショージが、おめでた。

「あああああ!!!!!

 ショージ!!!!

 こ、こどもっ!!!
 
 よくやった!!

 ショージ!!!」

 ショージには言えなかったが、発情期のあとあまりに体力を奪われていたから、もしかして妊娠していないかも、と、少し不安に感じていたのだ。

 しかし無事妊娠の報を聞き、私は喜びと同時にほっと胸をなでおろしていた。

 ショージを抱きしめ、キスをすると、ショージはその大きな瞳から、ボロボロと涙を零しはじめた。

「ショ……ショージ!!!

 ど、どうしたんだ!!

 泣くなんて……」

 私はショージのそんな顔を見たことが無かった。

 本当は妊娠したくなかったのではないかと、不安になる。

 すると、ショージは私の胸に縋りついた。

「子供……。

 ………俺と、ゲルマたんの。

 うれし……」

 …………かかかかかか!!!!!!

 かわいい!!

 かわいい!!

 かわいい!!

 ショージ!!

 可愛すぎる!!

 どうして私の妻はこんなに可愛いんだ!!!

 私はショージの涙にぬれた頬や瞼に、何度もキスを繰り返した。

 ショージは私に体を預け、嬉しそうに微笑んだ。

「ゲルマたん、嬉しい?」

「当たり前だ!

 こんなに幸せな気持ちなったことはない。

 夢のようだ。ショージ」

「俺も、すごく、うれしー!!」

 待ち遠しそうに、ショージは自分のお腹を撫でた。

 その様子をほほえましく見ていると、典医が気まずそうに咳払いをした。

 下がってよいと伝えると、典医は「仲が良くて、羨ましゅうございます」と呟いていた。
  
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