上 下
98 / 99

二人の王子㉖

しおりを挟む
  俺はまた、あの日と同じに満開の春馬桜の真っただ中にいた。

 カルが傍らで嬉しそうにぴょんぴょん跳ねていた。

「ミノル!!
 ミノル!!
 会いたかった!!!」

「カル!!!」

 俺も嬉しくなって、飛び跳ねているカルに手を伸ばすと、カルはピョンと体を躍らせながら勢いよく俺に抱きついてきた。 

「ふはっ!
 カル!!
 変わんねーな!!」

 俺はぐりぐりとカルの頭(とネコミミ)をワシワシと指で荒々しく掻き乱しながら、柔らかく温かいカルの毛並みの感触を十分に堪能する。

 ふわぁぁぁぁ。

 癒されるぅぅぅぅ。

 そんな風にただ二人して穏やかな日差しの中、二人だけの時間を過ごす。

 そしてふと、我に返った。

 あれ?

 この夢って、いつもの夢と違う……。

 いつもなら、爺ちゃんや父さんたちも一緒であの日の再現みたいな夢なのに、これって一体……? 

 不思議に思っていると、カルが急に「あっ!!」っと大きな声を出して、山の向こうの桜の中を指さした。   

 指の先の方角に視線を送ると、獣人の5歳くらいの幼児を抱っこした綺麗な男の人が、山の斜面一面に満開に咲いた春馬桜の中を、ゆっくりと歩いてやってくるのが見える。

 凄く、凄く綺麗で、どこか色気のある人だった。

 いったい誰なんだろう。

 でも、あれれ?

 なんだかどこかで見たことあるような??

 だけどこの人って、獣人じゃないみたい……だ。

 抱っこされてる子にはケモミミが揺れていて、獣人なのは間違いないのに。

 いったいどうなってるんだ?

 夢って自分の願望を現すっていうけど、もしかして俺ってこういう人が実は好みだった、とか……?

 う~ん、……謎だ。

 なんてその人を凝視していると、カルは俺から離れてその男の人に駆け寄っていった。

「っ、おい!
 カル!!!」

 呼び止めようとした俺の耳に飛び込んできたのは、「ハハウエ~!!!」って叫んでるカルの声で。

 え? カルのお母さん?

「おー!!
 カルコフィア、何だよ。
 こんなとこいたのか?
 心配したじゃねーか!!」

 ……おわぁぁぁぁ!!!!

 こいつらの親も男性だったなんて!

 マジか!!!

 聞いてねぇぞ!!!

 ……イヤ、聞いたか……?

 まぁ、どっちでもいいけど。

 それにしても優し気な美人さんなのに、見た目を裏切る話し方だよなぁ。

「あのね!
 ハハウエ!!!
 俺、ツガイ見つけたんだぞ!!
 ミノルっていうんだ!!」
 
 そう言って、俺を指さすカル。

「いやっ、俺っ、その……!!!」

 急にカルに番とか言われて、夢の中だってことも忘れて俺は動揺していた。
 
「そうか、そうか、良かったなぁ!!」

「あの、いえ、その……」

 俺がもごもごと言葉にならない言い訳と格闘していると、ハハウエ様が俺に手を差し出してニカッて笑うから、俺までつられて笑顔になる。 

「ミノルくん。
 カルのこと、よろしくなー!!」

「ほえぇ?!
 え? でも俺、あの!?
 俺、男で……。
 カルは、まだ子供だし」

 子供のころの気持ちなんてすぐに変わるものだから、早く誤解を解かないと……って、俺はものすごく焦りながら必死に言い募る。

 もちろんそれでいて、これって夢なのになんで焦ってるんだと自分につっこみを入れてはいたけど。

「……ぁあ?
 まだ若いっちゃ若いが、カルは成人してるぜ?
 まぁ、ちょっとばかし年上かもしんねーが、そこは気にすんな」

 思いがけない返答に、俺は、「は?」と間抜けな声を出した。
 
 成人?

 カルが?

 七歳なのに? 

「あ、わりー。
 ゲルマたんに呼ばれてるから、もう行かねーと?」

「え?!」

 誰だそれとか、どこに行くのかとか問う前に、「でも、ほんと桜なんてもう見れねーと思ってたわ。ありがとなー」と、その人は微笑んだ。

 すると、いつかのようにまた風が通り過ぎて………。






 ……眠い。

 昨晩は授賞式行って疲れたけど、早めに寝たのになぁ。

 眠くて仕方ないよ。

 すでに朝だか昼だかになっていて部屋の中が明るくなっていたけど、目を開けたくなくて俺は光に背を向けた。

 それにしても昨晩は変な夢見たなぁ。

 カルの母上とかいう男性! 出てくるし(奇麗だったけど)。

 もしかしてだけど、俺、また異世界に行きたいってどこかで思ってるのかなぁ。

 そりゃ不安だったり、怖かったり、大変だったりしたんだけど、決してあの貴重な時間を嫌だとか思わなかったんだよな。

 春馬兄ちゃんに会えたってこともそうだけど、あの世界の獣人たちのこと、俺は大好きだった。

 もし会えるなら、またみんなに会いたいってそう思ってる。

 だけどあの世界に行くときは、次は死んだときなんじゃないかとそう思ってる。

 以前行った時はたぶん、春馬桜を届ける使命的な何かがあって、イレギュラー的なやつだったんじゃないかなぁ。

 それは祖父ちゃんや父さんも同じ意見で、俺たちはたまにあの時のことを話すときはいつも、死んでしまったらあの世界メルファンドラでまた会おうだなんて最後に締めくくる。
 
 その時は俺、爺ちゃんになってるんだろうな。

 コーネリウスさんたちは無理でも、春馬兄ちゃんやカル、ピットやブアゾンには会えるといいなぁ。

「……ノル!」

 ああでも、カルや春馬兄ちゃんには会えないかもしれない。

 だって二人は腐っても王族……。

「ミノル!!!」

「……うるせぇ、もう少し眠らせ…(あれ俺今誰としゃべってる?)…ろ!」

 微睡まどろみながらふと我に返った俺は、閉じていた瞳をゆっくりと開けた。 
  
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ここ掘れわんわんから始まる異世界生活―陸上戦艦なにそれ?―

北京犬(英)
ファンタジー
第一章改稿版に差し替中。 暫く繋がりがおかしくなりますが、ご容赦ください。(2020.10.31) 第四章完結。第五章に入りました。 追加タグ:愛犬がチート、モフモフ、農業、奴隷、少しコメディ寄り、時々シリアス、ほのぼの  愛犬のチワワと共に異世界転生した佐々木蔵人(ささき くらんど)が、愛犬プチのユニークスキル”ここ掘れわんわん”に助けられて異世界でスローライフを満喫しようとします。 しかし転生して降り立った場所は魔物が蔓延る秘境の森。 蔵人の基本レベルは1で、持っているスキルも初期スキルのLv.1のみ。 ある日、プチの”ここ掘れわんわん”によりチート能力を得てしまいます。 しかし蔵人は自身のイメージ力の問題でチート能力を使いこなせません。 思い付きで農場をチート改造して生活に困らなくなり、奴隷を買い、なぜか全員が嫁になってハーレム生活を開始。 そして塒(ねぐら)として確保した遺跡が……。大きな陰謀に巻き込まれてしまいます。 前途多難な異世界生活を愛犬や嫁達と共に生き延びて、望みのスローライフを送れるのだろうかという物語です。 基本、生産チートでほのぼの生活が主体――のはずだったのですが、陸上戦艦の艦隊戦や戦争描写が増えています。 小説家になろう、カクヨムでも公開しています。改稿版はカクヨム最新。

後妻を迎えた家の侯爵令嬢【完結済】

弓立歩
恋愛
 私はイリス=レイバン、侯爵令嬢で現在22歳よ。お父様と亡くなったお母様との間にはお兄様と私、二人の子供がいる。そんな生活の中、一か月前にお父様の再婚話を聞かされた。  もう私もいい年だし、婚約者も決まっている身。それぐらいならと思って、お兄様と二人で了承したのだけれど……。  やってきたのは、ケイト=エルマン子爵令嬢。御年16歳! 昔からプレイボーイと言われたお父様でも、流石にこれは…。 『家出した伯爵令嬢』で序盤と終盤に登場する令嬢を描いた外伝的作品です。本編には出ない人物で一部設定を使い回した話ですが、独立したお話です。 完結済み!

断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる

葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。 アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。 アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。 市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。

種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ
ファンタジー
僅か5歳の若さで「用済み」という理不尽な理由で殺された子供の「霧崎 雛」次に目覚めるとそこは自分の知る世界とは異なる「世界」であり、おおきく戸惑う。まるでRPGを想像させる様々な種族が入り乱れた世界観であり、同時に種族間の対立が非常に激しかった。 人間(ヒューマン)、森人族(エルフ)、獸人族(ビースト)、巨人族(ジャイアント)、人魚族(マーメイド)、そしてかつては世界征服を成し遂げた魔族(デーモン)。 これは現実世界の記憶が持つ「雛」がハーフエルフの「レノ」として生きて行き、様々な種族との交流を深めていく物語である。

夫に惚れた友人がよく遊びに来るんだが、夫に「不倫するつもりはない」と言われて来なくなった。

ほったげな
恋愛
夫のカジミールはイケメンでモテる。友人のドーリスがカジミールに惚れてしまったようで、よくうちに遊びに来て「食事に行きませんか?」と夫を誘う。しかし、夫に「迷惑だ」「不倫するつもりはない」と言われてから来なくなった。

転移先は薬師が少ない世界でした

饕餮
ファンタジー
★この作品は書籍化及びコミカライズしています。 神様のせいでこの世界に落ちてきてしまった私は、いろいろと話し合ったりしてこの世界に馴染むような格好と知識を授かり、危ないからと神様が目的地の手前まで送ってくれた。 職業は【薬師】。私がハーブなどの知識が多少あったことと、その世界と地球の名前が一緒だったこと、もともと数が少ないことから、職業は【薬師】にしてくれたらしい。 神様にもらったものを握り締め、ドキドキしながらも国境を無事に越え、街でひと悶着あったから買い物だけしてその街を出た。 街道を歩いている途中で、魔神族が治める国の王都に帰るという魔神族の騎士と出会い、それが縁で、王都に住むようになる。 薬を作ったり、ダンジョンに潜ったり、トラブルに巻き込まれたり、冒険者と仲良くなったりしながら、秘密があってそれを話せないヒロインと、ヒロインに一目惚れした騎士の恋愛話がたまーに入る、転移(転生)したヒロインのお話。

私の作った料理を食べているのに、浮気するなんてずいぶん度胸がおありなのね。さあ、何が入っているでしょう?

kieiku
恋愛
「毎日の苦しい訓練の中に、癒やしを求めてしまうのは騎士のさがなのだ。君も騎士の妻なら、わかってくれ」わかりませんわ? 「浮気なんて、とても度胸がおありなのね、旦那様。私が食事に何か入れてもおかしくないって、思いませんでしたの?」 まあ、もうかなり食べてらっしゃいますけど。 旦那様ったら、苦しそうねえ? 命乞いなんて。ふふっ。

あなたたちのことなんて知らない

gacchi
恋愛
母親と旅をしていたニナは精霊の愛し子だということが知られ、精霊教会に捕まってしまった。母親を人質にされ、この国にとどまることを国王に強要される。仕方なく侯爵家の養女ニネットとなったが、精霊の愛し子だとは知らない義母と義妹、そして婚約者の第三王子カミーユには愛人の子だと思われて嫌われていた。だが、ニネットに虐げられたと嘘をついた義妹のおかげで婚約は解消される。それでも精霊の愛し子を利用したい国王はニネットに新しい婚約者候補を用意した。そこで出会ったのは、ニネットの本当の姿が見える公爵令息ルシアンだった。

処理中です...