上 下
95 / 99

二人の王子㉓

しおりを挟む
 父さんの澄んだ笛の音に合わせて、祖父ちゃんが小太鼓を叩く。

 とてもきれいな音色が、春馬桜の林に染み入るように響く。

 そして僕の夢の再現は、信じられないものをもたらした。

 風に乗って、花びらがひとひら俺の目の前に舞い降りたのだ。

 驚いて桜の木々を見上げると、葉も花もない状態だった桜の枝に、数輪の花が芽吹いていた。

 しかもそれは、徐々に増えていって。

 気付いた時には一面に、桜の花が咲いていたのだ。

 父さんたちも目を見開いて驚いていたが、それでも演奏の手を止めなかった。

 そんな中、カル王子は何も知らず、風に舞う花びらを追ってぴょんぴょんと無邪気に飛び上がっている。

「すげーきれー!!!!
 ミノル、すげーな、この花!!!」

 無邪気に笑うカル王子だが、それでもここ数週間で凄く無理をしているのは分かっていた。

 朝目が覚めると頬に涙の跡が残っていていたりするくせに、それでも決して寂しいとか帰りたいとかひとっ言も言わないんだ、カルは。

 だからさ、白神様……王子のことも頼むよ。
 
 きっと家族や皆、消えたカルのこと心配してるはず。

 それに……春馬兄ちゃん、この唄、届いてる?

 桜、届けられるかな?

 いつしか僕は祈るように、「その瞬間」を待っていた。

 そして……父さんたちの演奏が徐々に激しさを増し熱を帯び始めた頃、眼も開けていられないような激しい風が、春馬桜の木々を激しく揺らしながら俺たちの間を突然吹き抜けた。

 体ごと吹き飛ばされそうで、風から背を向け身体を小さくした俺たち家族がしばらくして恐る恐る目を開くと、満開に咲いた桜の花は、一瞬の間に一輪も残さず消えてなくなっていた。

 はしゃいで跳ねまわっていたカル王子の姿もまた、同様に。





「う……ん?」

 あれぇここどこ?

 目覚めたばかりの僕はそこがどこか分からなくて、ちょっと混乱しながらもぞもぞと体を動かした。

 見慣れない者たちに囲まれてたけど、一つだけ違ってた。

「っ……!!
 ハルマ……気ぃ付いたか!!!」

「ほえ……?
 はは……うえ……?
 なんでぇいるのぉ?
 ……フェルちゃまと赤ちゃんはぁ?」

 体がだるくて、うまく喋れなかったけど、母上は笑顔で僕のほっぺたにキスをした。

 「いいこだな……いいこ……よく頑張ったぞ……」そんな風に何度も囁かれて、母上は僕はぎゅーっと抱きしめた。

「みんな無事だ。
 みんな無事だから。
 ゆっくり休んで早く元気になれよ~」

 みんな無事なんだ……!!

 フェルちゃまも、僕のツガイも……。
 
「よかったぁ……!!!」

 僕はふんわかして、早く二人に会いたいなってそう思った。

 だけど。

 母上に頭や耳を優しく撫でられて胸の中がほかほかして安心して、そのまま眠ってしまった。

 まさか、それまで3カ月も眠ってたなんて、ぜんぜん思わないで。




「ハルマ、寝ちゃった?」

 俺の横に控えてたカルがひょっこり顔を出す。

「ああ、安心したんだろーな」

「……また目を覚ます?」

「あったりめぇだろ??」

 とはいえ、俺も体温が低めで脈とかも少なかったハルマをはじめてみた時は心配でどうにかなりそうだったけど。

 少しずつ顔色が良くなって、ここ何日か普通に寝てる感じに見えたからなぁ。

 もうすぐ目覚めるんじゃないかと近くで張ってた甲斐があったよ。

「うん……」

 カルもなー……ハルマと同様1週間くらい眠ってて、起きたらパニックになって泣きわめいたらしい。

 俺といえば、この世界電話もメールもないから事件のことを聞いたのはメルファンドラで子供産んで3週間したころだった。

 とにかく子供たちに会いたくて急いでファ・ムフールにやってきたって訳なんだけど。

 それでもファ・ムフールに到着したのは1か月前。

 それもこれも……「「「みゃうぅぅぅぅぅ」」」「……はい、はい」。

 いくら獣人が丈夫とはいえ生後1月だったからな~。

「さっきご飯食べたバッカだろー!!
 ほらほら。
 行儀よくなぁ。
 ローズ!!
 シトリン!!」

 俺は甘えてくる獣体の子供たちを抱きあげた。

 だけどしましまの小さい体が俺の手から逃れて走り出した。

「カル、トールが逃げた!」 

「任せて!!」

 近頃ぐっと大人っぽくなったカルがその後を追った。



 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

膀胱を虐められる男の子の話

煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ 男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話 膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!

たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった! せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。 失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。 「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」 アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。 でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。 ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!? 完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ! ※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※ pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。 https://www.pixiv.net/artworks/105819552

キャンピングカーで往く異世界徒然紀行

タジリユウ
ファンタジー
《第4回次世代ファンタジーカップ 面白スキル賞》 【書籍化!】 コツコツとお金を貯めて念願のキャンピングカーを手に入れた主人公。 早速キャンピングカーで初めてのキャンプをしたのだが、次の日目が覚めるとそこは異世界であった。 そしていつの間にかキャンピングカーにはナビゲーション機能、自動修復機能、燃料補給機能など様々な機能を拡張できるようになっていた。 道中で出会ったもふもふの魔物やちょっと残念なエルフを仲間に加えて、キャンピングカーで異世界をのんびりと旅したいのだが… ※旧題)チートなキャンピングカーで旅する異世界徒然紀行〜もふもふと愉快な仲間を添えて〜 ※カクヨム様でも投稿をしております

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成) エロなし。騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? いいねありがとうございます!励みになります。

俺は成人してるんだが!?~長命種たちが赤子扱いしてくるが本当に勘弁してほしい~

アイミノ
BL
ブラック企業に務める社畜である鹿野は、ある日突然異世界転移してしまう。転移した先は森のなか、食べる物もなく空腹で途方に暮れているところをエルフの青年に助けられる。 これは長命種ばかりの異世界で、主人公が行く先々「まだ赤子じゃないか!」と言われるのがお決まりになる、少し変わった異世界物語です。 ※BLですがR指定のエッチなシーンはありません、ただ主人公が過剰なくらい可愛がられ、尚且つ主人公や他の登場人物にもカップリングが含まれるため、念の為R15としました。 初投稿ですので至らぬ点が多かったら申し訳ないです。 投稿頻度は亀並です。

処理中です...