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二人の王子㉓
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父さんの澄んだ笛の音に合わせて、祖父ちゃんが小太鼓を叩く。
とてもきれいな音色が、春馬桜の林に染み入るように響く。
そして僕の夢の再現は、信じられないものをもたらした。
風に乗って、花びらがひとひら俺の目の前に舞い降りたのだ。
驚いて桜の木々を見上げると、葉も花もない状態だった桜の枝に、数輪の花が芽吹いていた。
しかもそれは、徐々に増えていって。
気付いた時には一面に、桜の花が咲いていたのだ。
父さんたちも目を見開いて驚いていたが、それでも演奏の手を止めなかった。
そんな中、カル王子は何も知らず、風に舞う花びらを追ってぴょんぴょんと無邪気に飛び上がっている。
「すげーきれー!!!!
ミノル、すげーな、この花!!!」
無邪気に笑うカル王子だが、それでもここ数週間で凄く無理をしているのは分かっていた。
朝目が覚めると頬に涙の跡が残っていていたりするくせに、それでも決して寂しいとか帰りたいとかひとっ言も言わないんだ、カルは。
だからさ、白神様……王子のことも頼むよ。
きっと家族や皆、消えたカルのこと心配してるはず。
それに……春馬兄ちゃん、この唄、届いてる?
桜、届けられるかな?
いつしか僕は祈るように、「その瞬間」を待っていた。
そして……父さんたちの演奏が徐々に激しさを増し熱を帯び始めた頃、眼も開けていられないような激しい風が、春馬桜の木々を激しく揺らしながら俺たちの間を突然吹き抜けた。
体ごと吹き飛ばされそうで、風から背を向け身体を小さくした俺たち家族がしばらくして恐る恐る目を開くと、満開に咲いた桜の花は、一瞬の間に一輪も残さず消えてなくなっていた。
はしゃいで跳ねまわっていたカル王子の姿もまた、同様に。
「う……ん?」
あれぇここどこ?
目覚めたばかりの僕はそこがどこか分からなくて、ちょっと混乱しながらもぞもぞと体を動かした。
見慣れない者たちに囲まれてたけど、一つだけ違ってた。
「っ……!!
ハルマ……気ぃ付いたか!!!」
「ほえ……?
はは……うえ……?
なんでぇいるのぉ?
……フェルちゃまと赤ちゃんはぁ?」
体がだるくて、うまく喋れなかったけど、母上は笑顔で僕のほっぺたにキスをした。
「いいこだな……いいこ……よく頑張ったぞ……」そんな風に何度も囁かれて、母上は僕はぎゅーっと抱きしめた。
「みんな無事だ。
みんな無事だから。
ゆっくり休んで早く元気になれよ~」
みんな無事なんだ……!!
フェルちゃまも、僕のツガイも……。
「よかったぁ……!!!」
僕はふんわかして、早く二人に会いたいなってそう思った。
だけど。
母上に頭や耳を優しく撫でられて胸の中がほかほかして安心して、そのまま眠ってしまった。
まさか、それまで3カ月も眠ってたなんて、ぜんぜん思わないで。
「ハルマ、寝ちゃった?」
俺の横に控えてたカルがひょっこり顔を出す。
「ああ、安心したんだろーな」
「……また目を覚ます?」
「あったりめぇだろ??」
とはいえ、俺も体温が低めで脈とかも少なかったハルマをはじめてみた時は心配でどうにかなりそうだったけど。
少しずつ顔色が良くなって、ここ何日か普通に寝てる感じに見えたからなぁ。
もうすぐ目覚めるんじゃないかと近くで張ってた甲斐があったよ。
「うん……」
カルもなー……ハルマと同様1週間くらい眠ってて、起きたらパニックになって泣きわめいたらしい。
俺といえば、この世界電話もメールもないから事件のことを聞いたのはメルファンドラで子供産んで3週間したころだった。
とにかく子供たちに会いたくて急いでファ・ムフールにやってきたって訳なんだけど。
それでもファ・ムフールに到着したのは1か月前。
それもこれも……「「「みゃうぅぅぅぅぅ」」」「……はい、はい」。
いくら獣人が丈夫とはいえ生後1月だったからな~。
「さっきご飯食べたバッカだろー!!
ほらほら。
行儀よくなぁ。
ローズ!!
シトリン!!」
俺は甘えてくる獣体の子供たちを抱きあげた。
だけどしましまの小さい体が俺の手から逃れて走り出した。
「カル、トールが逃げた!」
「任せて!!」
近頃ぐっと大人っぽくなったカルがその後を追った。
とてもきれいな音色が、春馬桜の林に染み入るように響く。
そして僕の夢の再現は、信じられないものをもたらした。
風に乗って、花びらがひとひら俺の目の前に舞い降りたのだ。
驚いて桜の木々を見上げると、葉も花もない状態だった桜の枝に、数輪の花が芽吹いていた。
しかもそれは、徐々に増えていって。
気付いた時には一面に、桜の花が咲いていたのだ。
父さんたちも目を見開いて驚いていたが、それでも演奏の手を止めなかった。
そんな中、カル王子は何も知らず、風に舞う花びらを追ってぴょんぴょんと無邪気に飛び上がっている。
「すげーきれー!!!!
ミノル、すげーな、この花!!!」
無邪気に笑うカル王子だが、それでもここ数週間で凄く無理をしているのは分かっていた。
朝目が覚めると頬に涙の跡が残っていていたりするくせに、それでも決して寂しいとか帰りたいとかひとっ言も言わないんだ、カルは。
だからさ、白神様……王子のことも頼むよ。
きっと家族や皆、消えたカルのこと心配してるはず。
それに……春馬兄ちゃん、この唄、届いてる?
桜、届けられるかな?
いつしか僕は祈るように、「その瞬間」を待っていた。
そして……父さんたちの演奏が徐々に激しさを増し熱を帯び始めた頃、眼も開けていられないような激しい風が、春馬桜の木々を激しく揺らしながら俺たちの間を突然吹き抜けた。
体ごと吹き飛ばされそうで、風から背を向け身体を小さくした俺たち家族がしばらくして恐る恐る目を開くと、満開に咲いた桜の花は、一瞬の間に一輪も残さず消えてなくなっていた。
はしゃいで跳ねまわっていたカル王子の姿もまた、同様に。
「う……ん?」
あれぇここどこ?
目覚めたばかりの僕はそこがどこか分からなくて、ちょっと混乱しながらもぞもぞと体を動かした。
見慣れない者たちに囲まれてたけど、一つだけ違ってた。
「っ……!!
ハルマ……気ぃ付いたか!!!」
「ほえ……?
はは……うえ……?
なんでぇいるのぉ?
……フェルちゃまと赤ちゃんはぁ?」
体がだるくて、うまく喋れなかったけど、母上は笑顔で僕のほっぺたにキスをした。
「いいこだな……いいこ……よく頑張ったぞ……」そんな風に何度も囁かれて、母上は僕はぎゅーっと抱きしめた。
「みんな無事だ。
みんな無事だから。
ゆっくり休んで早く元気になれよ~」
みんな無事なんだ……!!
フェルちゃまも、僕のツガイも……。
「よかったぁ……!!!」
僕はふんわかして、早く二人に会いたいなってそう思った。
だけど。
母上に頭や耳を優しく撫でられて胸の中がほかほかして安心して、そのまま眠ってしまった。
まさか、それまで3カ月も眠ってたなんて、ぜんぜん思わないで。
「ハルマ、寝ちゃった?」
俺の横に控えてたカルがひょっこり顔を出す。
「ああ、安心したんだろーな」
「……また目を覚ます?」
「あったりめぇだろ??」
とはいえ、俺も体温が低めで脈とかも少なかったハルマをはじめてみた時は心配でどうにかなりそうだったけど。
少しずつ顔色が良くなって、ここ何日か普通に寝てる感じに見えたからなぁ。
もうすぐ目覚めるんじゃないかと近くで張ってた甲斐があったよ。
「うん……」
カルもなー……ハルマと同様1週間くらい眠ってて、起きたらパニックになって泣きわめいたらしい。
俺といえば、この世界電話もメールもないから事件のことを聞いたのはメルファンドラで子供産んで3週間したころだった。
とにかく子供たちに会いたくて急いでファ・ムフールにやってきたって訳なんだけど。
それでもファ・ムフールに到着したのは1か月前。
それもこれも……「「「みゃうぅぅぅぅぅ」」」「……はい、はい」。
いくら獣人が丈夫とはいえ生後1月だったからな~。
「さっきご飯食べたバッカだろー!!
ほらほら。
行儀よくなぁ。
ローズ!!
シトリン!!」
俺は甘えてくる獣体の子供たちを抱きあげた。
だけどしましまの小さい体が俺の手から逃れて走り出した。
「カル、トールが逃げた!」
「任せて!!」
近頃ぐっと大人っぽくなったカルがその後を追った。
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