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第14話
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リチャードとほんの少し言葉を交わしただけで、心臓が痛いくらいに鼓動を刻んでいる。
とても眠れそうにない……そんなことを考えて寝床に潜ったジェフリーだったが、予想以上に体が疲弊していたのか、気絶するように眠りについていた。
夕刻、空腹のあまり目が覚めた。
考えてみるとほぼ一日何も口にしていない。
のろのろと起き出し、夕食の準備が整った食堂へと脚を運んだ。
体はまだあちらこちらが痛んでいる。
怪我ではないため、ドリューにも治すことは無理だ。
食事をトレーに乗せテーブルに着くと、周りに恥ずかしいくらいに腹の音が鳴る。
だが周りを見ると人のことを構えないほど皆疲弊して、黙々と食事を口に運んでいた。
ジェフリーも、もそりもそりとパンを口に運ぶ。
ちゃんとしなきゃ、お腹の子供に悪い……ふとそんな考えが頭をよぎり、ジェフリーは驚いた様に自分の腹部に視線を落とした。
………いつしか、迷いが消えていた。
子供は、産む。
自分で育てる。
これからどうするのか、まだ何も決まってない。
だけど、その二つだけは、揺るがないものとしていつの間にか決意が固まっている。
……うん。
この子を守る……。
ジェフリーは何かが吹っ切れたように、顔を上げ、再び食事を再開した。
子供の分まで食べなきゃ!
その気持ちから、先ほどまでとは打って変わったように勢いよく料理を咀嚼し始めた。
そして……ジェフリーはその30分後、再びどさりと自分の寝台に横たわった。
調子に乗って食べ過ぎた!!
満腹で痛む腹部を抑えながら目を閉じると、思い浮かぶのはリチャードのことだ。
話って、何だろう?
まさか、話をする為に救援隊に加わったんだろうか?
もんもんとした気持ちで、ジェフリーは毛布を頭まで被った。
……そういえば、まだ戻ってない。
大丈夫、かな?
ジェフリーはほんの少し、毛布から顔を出して周りの様子を窺った。
幸い夕食時で、人が少なかった。
これなら、気付かれないか?
「ベリモル?」
ジェフリーは光の精霊を呼んだ。
ほんのりと淡い光を放ちながら、ベリモルは姿を現した。
言葉に出したことはないが、数ある精霊の中、ベリモルはとびぬけて美しい。
ひとならざる者の畏怖すら感じられるベリモルだが、とても内気で、無口な精霊だ。
「ベリモル、リチャードを………!!!
……えっ……と。
………騎士団に危険がないか、森を見て来てくれないか??
もし浄化が必要なら……、頼めるだろうか?」
ジェフリーの言葉にベリモルは姿を震わせ……そして不意に消えた。
……思わずリチャードのことを口にしてしまった!!
誰か一人の守護を頼もうとするんて。
自分が制御不可能になってしまった。
今までこんな気持ちになったことが無くてジェフリーは戸惑いを覚えた。
ため息を漏らし、ジェフリーは再び毛布に潜り込んだ。
再びうつらうつらし始めた時……。
「ジェフリー!!
大変だ!!」
ベリモルの声にはっと目を覚ましたジェフリーだが、ベリモルの様子に思わずうっと言葉を詰まらせた。
部屋全体が真昼の様に光り輝いている。
ベリモルの姿や声は分からないだろうが、いつしか部屋に戻った同僚たちの視線が、ジェフリーの寝台の上で眩しく光る球体に目を奪われていることは疑いようがない。
抗議の声を上げることも出来ずジェフリーが体を固めていると、ベリモルのひっ迫した声が耳を付いた。
「ジェフリー大変だ!!
魔物の大量発生が起きている!!
こんなに大規模なモノは……見たことが無い!!」
「え?」
ベリモルの言葉が理解できなかった。
魔物の大量発生……300年ほど前と、500年前に2度確認されている現象で……ともに人口が半数以下になるほどの猛烈な被害をもたらした。
魔物の大量発生が起きたなどと、そうそう簡単に信じられる話ではなかった。
しかし。
「穢れの浄化は済んだが、すでに発生している魔物には手の打ちようがない!
騎士団は戦闘状態に入っている………」
……リチャードは? と、聞けるはずもない。
だがベリモルはこう告げた。
「このままだと全滅する。
急げ!!」
ジェフリーは弾かれたように起き上がった。
「ドリュー!
ルドー!
キャスト!
力を貸して!!
皆を守って!!」
次々と精霊たちは姿を現し、頷くとベリモルと姿を消した。
途端に光がふっつりと消えた。
光に目に慣れていたせいで、薄暗いはずのその部屋が、真っ暗に見えた。
……急がなければ。
手早く靴を履くと、ざわざわと騒ぐ同僚たちを残してジェフリーはクレメンスの元へ向かった。
魔物の大量発生となると、とてもわずかな精霊たちだけでは、防ぎきれない。
せいぜいがリチャードのいる騎士団を守るのが精いっぱいといったところか。
騎士団、魔法宮、総力を掛けなければ、王都にまで魔物が達してしまうだろう。
「隊長にお目通りを!」
まだ仕事中だったクレメンスの執務室の前で、思いがけずジェフリーは警備に停められた。
「隊長は打ち合わせ中だ。
後にしろ!」
確かに今のジェフリーは一介の新人騎士、「ジェフ・アドル」に過ぎない。
しかし今はその時間も惜しい。
ジェフリーは「クレメンス隊長!!! 緊急のお話があります!! ジェフ・アドルです!!!」と扉の前で叫んだ。
衛士は驚いてジェフリーを止めようとしたが、ほどなく扉が開き、「入れ!」とクレメンスの声が響いた。
中に入ると、思わずぎょっとして歩みを止めた。
クレメンスと面談しているのは、魔法宮の浄化師二人だった。
名前は知らないが、間違いない。
「何用だ?」
クレメンスは席を立ってジェフリーの側に寄り、小さい声で話しかける。
「隊長! 魔物の大量発生が起きています。
今すぐ動かないと、大変なことに……!」
「魔物の大量発生?
本当か??」
さすがのクレメンスも、驚いて声を上げた。
「間違いありません。
すでに騎士団の救援隊と戦闘中です」
「救援隊と?
そうか! リチャードか?」
と、クレメンスは何かを悟ったように目を眇めた。
そして、浄化師の二人に振り向くと、「済まないが、緊急事態が起きた。打ち合わせは、また」というではないか。
ジェフリーは慌てた。
貴重な戦力を逃してなるものか。
「いえ、隊長!
その二人も一緒に!」
「浄化師を戦闘に?」
クレメンスは驚いてジェフリーを見る。
浄化師は通常、光の精霊だ。
しかし今ここにいる二人は、浄化のできるもう一つの精霊を伴っている。
「彼らは炎の浄化師です。
十分戦力になる!!」
ジェフリーの言葉に、浄化師の二人がぎょっとしてジェフリーを見た。
それが分かるということは、聖魔力の持ち主というだけではない。上位の魔力を持たなければならないのだ。
「あなたは一体……!」
驚きの声を上げる浄化師に、ジェフリーは意を決して指輪に触れた。
次の瞬間姿を現したジェフリー・レブルの姿に、浄化師二人のみならず、クレメンス・ウィレットもまた、驚きの声を上げたのだった。
とても眠れそうにない……そんなことを考えて寝床に潜ったジェフリーだったが、予想以上に体が疲弊していたのか、気絶するように眠りについていた。
夕刻、空腹のあまり目が覚めた。
考えてみるとほぼ一日何も口にしていない。
のろのろと起き出し、夕食の準備が整った食堂へと脚を運んだ。
体はまだあちらこちらが痛んでいる。
怪我ではないため、ドリューにも治すことは無理だ。
食事をトレーに乗せテーブルに着くと、周りに恥ずかしいくらいに腹の音が鳴る。
だが周りを見ると人のことを構えないほど皆疲弊して、黙々と食事を口に運んでいた。
ジェフリーも、もそりもそりとパンを口に運ぶ。
ちゃんとしなきゃ、お腹の子供に悪い……ふとそんな考えが頭をよぎり、ジェフリーは驚いた様に自分の腹部に視線を落とした。
………いつしか、迷いが消えていた。
子供は、産む。
自分で育てる。
これからどうするのか、まだ何も決まってない。
だけど、その二つだけは、揺るがないものとしていつの間にか決意が固まっている。
……うん。
この子を守る……。
ジェフリーは何かが吹っ切れたように、顔を上げ、再び食事を再開した。
子供の分まで食べなきゃ!
その気持ちから、先ほどまでとは打って変わったように勢いよく料理を咀嚼し始めた。
そして……ジェフリーはその30分後、再びどさりと自分の寝台に横たわった。
調子に乗って食べ過ぎた!!
満腹で痛む腹部を抑えながら目を閉じると、思い浮かぶのはリチャードのことだ。
話って、何だろう?
まさか、話をする為に救援隊に加わったんだろうか?
もんもんとした気持ちで、ジェフリーは毛布を頭まで被った。
……そういえば、まだ戻ってない。
大丈夫、かな?
ジェフリーはほんの少し、毛布から顔を出して周りの様子を窺った。
幸い夕食時で、人が少なかった。
これなら、気付かれないか?
「ベリモル?」
ジェフリーは光の精霊を呼んだ。
ほんのりと淡い光を放ちながら、ベリモルは姿を現した。
言葉に出したことはないが、数ある精霊の中、ベリモルはとびぬけて美しい。
ひとならざる者の畏怖すら感じられるベリモルだが、とても内気で、無口な精霊だ。
「ベリモル、リチャードを………!!!
……えっ……と。
………騎士団に危険がないか、森を見て来てくれないか??
もし浄化が必要なら……、頼めるだろうか?」
ジェフリーの言葉にベリモルは姿を震わせ……そして不意に消えた。
……思わずリチャードのことを口にしてしまった!!
誰か一人の守護を頼もうとするんて。
自分が制御不可能になってしまった。
今までこんな気持ちになったことが無くてジェフリーは戸惑いを覚えた。
ため息を漏らし、ジェフリーは再び毛布に潜り込んだ。
再びうつらうつらし始めた時……。
「ジェフリー!!
大変だ!!」
ベリモルの声にはっと目を覚ましたジェフリーだが、ベリモルの様子に思わずうっと言葉を詰まらせた。
部屋全体が真昼の様に光り輝いている。
ベリモルの姿や声は分からないだろうが、いつしか部屋に戻った同僚たちの視線が、ジェフリーの寝台の上で眩しく光る球体に目を奪われていることは疑いようがない。
抗議の声を上げることも出来ずジェフリーが体を固めていると、ベリモルのひっ迫した声が耳を付いた。
「ジェフリー大変だ!!
魔物の大量発生が起きている!!
こんなに大規模なモノは……見たことが無い!!」
「え?」
ベリモルの言葉が理解できなかった。
魔物の大量発生……300年ほど前と、500年前に2度確認されている現象で……ともに人口が半数以下になるほどの猛烈な被害をもたらした。
魔物の大量発生が起きたなどと、そうそう簡単に信じられる話ではなかった。
しかし。
「穢れの浄化は済んだが、すでに発生している魔物には手の打ちようがない!
騎士団は戦闘状態に入っている………」
……リチャードは? と、聞けるはずもない。
だがベリモルはこう告げた。
「このままだと全滅する。
急げ!!」
ジェフリーは弾かれたように起き上がった。
「ドリュー!
ルドー!
キャスト!
力を貸して!!
皆を守って!!」
次々と精霊たちは姿を現し、頷くとベリモルと姿を消した。
途端に光がふっつりと消えた。
光に目に慣れていたせいで、薄暗いはずのその部屋が、真っ暗に見えた。
……急がなければ。
手早く靴を履くと、ざわざわと騒ぐ同僚たちを残してジェフリーはクレメンスの元へ向かった。
魔物の大量発生となると、とてもわずかな精霊たちだけでは、防ぎきれない。
せいぜいがリチャードのいる騎士団を守るのが精いっぱいといったところか。
騎士団、魔法宮、総力を掛けなければ、王都にまで魔物が達してしまうだろう。
「隊長にお目通りを!」
まだ仕事中だったクレメンスの執務室の前で、思いがけずジェフリーは警備に停められた。
「隊長は打ち合わせ中だ。
後にしろ!」
確かに今のジェフリーは一介の新人騎士、「ジェフ・アドル」に過ぎない。
しかし今はその時間も惜しい。
ジェフリーは「クレメンス隊長!!! 緊急のお話があります!! ジェフ・アドルです!!!」と扉の前で叫んだ。
衛士は驚いてジェフリーを止めようとしたが、ほどなく扉が開き、「入れ!」とクレメンスの声が響いた。
中に入ると、思わずぎょっとして歩みを止めた。
クレメンスと面談しているのは、魔法宮の浄化師二人だった。
名前は知らないが、間違いない。
「何用だ?」
クレメンスは席を立ってジェフリーの側に寄り、小さい声で話しかける。
「隊長! 魔物の大量発生が起きています。
今すぐ動かないと、大変なことに……!」
「魔物の大量発生?
本当か??」
さすがのクレメンスも、驚いて声を上げた。
「間違いありません。
すでに騎士団の救援隊と戦闘中です」
「救援隊と?
そうか! リチャードか?」
と、クレメンスは何かを悟ったように目を眇めた。
そして、浄化師の二人に振り向くと、「済まないが、緊急事態が起きた。打ち合わせは、また」というではないか。
ジェフリーは慌てた。
貴重な戦力を逃してなるものか。
「いえ、隊長!
その二人も一緒に!」
「浄化師を戦闘に?」
クレメンスは驚いてジェフリーを見る。
浄化師は通常、光の精霊だ。
しかし今ここにいる二人は、浄化のできるもう一つの精霊を伴っている。
「彼らは炎の浄化師です。
十分戦力になる!!」
ジェフリーの言葉に、浄化師の二人がぎょっとしてジェフリーを見た。
それが分かるということは、聖魔力の持ち主というだけではない。上位の魔力を持たなければならないのだ。
「あなたは一体……!」
驚きの声を上げる浄化師に、ジェフリーは意を決して指輪に触れた。
次の瞬間姿を現したジェフリー・レブルの姿に、浄化師二人のみならず、クレメンス・ウィレットもまた、驚きの声を上げたのだった。
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