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第8章 結婚式

205【結婚式2 入場】

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 控室で俺は一人で待機していた。間もなく式が始まる時間なので、ユリやバミューダ君はすでに教会に入場しているし、クリスはこことは違う控室でお義父さんと一緒に待機している。

「もうすぐ、入場……か」

 俺のつぶやきに、当然だが返事は無い。冷たい沈黙に心が冷えてくる。

(緊張……してるのか? でもなんでだ? それこそ、王子達を断罪する時ですらこんなに緊張しなかったのに……。いや、当然か。俺の復讐より、クリスとの結婚の方が何倍も重要だもんな)

 クリスの顔を思い浮かべると、少しだけ心が温かくなった。

(はは。クリスに助けられてばっかだな……いや、クリスだけじゃないか。ユリにバミューダ君。他にも沢山の人に助けられてきたんだ。何より……父さんと母さんがいなければ、俺は絶対に今ここにいなかったもんな)

 父さんが手伝ってくれなければ、俺はリバースをここまで売ることは出来なかっただろう。母さんが鍛えてくれなければ、俺は今頃サーカイル王子の奴隷だっただろう。他にも多くの事で、助けてもらってきた。父さんと母さんが、そして皆がいたから、俺は今ここにいるのだ。

(ほんと、俺は人に恵まれたな……)

 皆の事を考えていたら、心の冷たさはどこかにいっていた。ここでようやく、その冷たさが、俺の寂しさから来ている事に気が付く。

(おいおい。どんだけ寂しがり屋なんだよ、俺は)

 もちろん、緊張で心が弱っていたというのもあるだろう。だが、ここまで寂しさを冷たく感じてしまったのは、やはり、父さんと母さんがいないからか、それとも、いくら復讐とはいえ、残酷な拷問を王子達に行った事に罪悪感があったからか。いや、その両方かもしれない。

(……ったく、しっかりしろ、俺。緊張してるから後ろ向きな事ばっか考えちゃうんだ。もうすぐ皆に会えるんだぞ。皆、俺とクリスを祝うために集まってくれたんだ。俺が笑ってなくてどうする)

 俺が皆の顔を思い出しながら、心を落ち着けていると、控室の扉がノックされた。

 コンコン

「失礼します。アレン様、式のお時間となりました。ご入場をお願い致します」

 案内役の方が声をかけてくれる。

「分かりました。すぐに行きます」

 まだ緊張はしているものの、もう冷たさは感じない。控室の鏡を見ると、少し硬いものの、ちゃんと笑みを浮かべられている。

(よし! 行こう!)

 俺は控室を後にし、皆が待つ教会に向かった。



「それではこれより、アレン=クランフォード様とクリス=ブリスタ様の結婚式を開始致します。最初に新郎の入場です。皆様、ご起立下さい」

 進行役の方のアナウンスと同時に、教会の扉が開かれる。100人以上の人間の眼が一斉に教会の扉を、そして、そこから入って来た俺を見た。

(焦るな……ゆっくり……ゆっくり……)

 プランナーさんから『入場の際は緊張で早歩きになりやすいから意図的にゆっくり歩いて下さい』と言われていたので、1歩ずつ、絨毯の感触を確かめながら歩いていく。

 左右に大勢の人が立っていて、皆がこちらを見ている。入口近くには俺達と関係の薄い貴族達を、そして前の方には俺達と関係の深い人を配置した都合上、入場してしばらくは、印象深い顔が無かった。なお、通常だと、貴族達を入口近くの席に案内したりすると、『私を誰だと思っている!』的な文句が飛び出しそうなものだが、今回はそのような文句は一切出なかったらしい。

(ま、そりゃそうだよな……)

何かにおびえたような様子の貴族達を尻目に、俺は通路を進んで行く。そして、通路の真ん中を過ぎたあたりから印象深い人達が増えてきた。

(あ、ケイミ―ちゃんだ! いい笑顔で笑うようになったな……ライリーちゃん達も来てくれたんだ。お、トムさん、めっちゃ緊張してるな……貴族達より前の席にしたの気にしてるのかな? 気にしなくていいのに……いや、普通は気にするか。アリスちゃんはさすがだ。マリーナさんとミケーラさんだ! 今日は酔ってない……よな?)

 懐かしい顔ぶれに、自然と頬が緩んでいく。

(ミルキアーナ男爵も来てくださったんだ! 忙しいから来れないかもしれない、って言ってたのに。あ、マグダンスさんとナタリーさんだ。ナタリーさん、お腹大きくなったなぁ。今8か月だっけ? 身重の身体で来てくれたんだ。嬉しいな)

 皆の顔を見ながら歩いていくうちに、緊張も寂しさも完全になくなった。1人1人の思い出を思い出しながら、楽しい気持ちで残り少しの通路を歩いていく。

(マナとおじさんとおばさん。ミッシェルさんにニーニャさん。それにマークさん。後は、新婦側の最前列にブリスタ子爵とそのご家族。そう言えば、お義姉さん達とはあんまり話せてないんだよなぁ。まぁ、それは良いとして……おぉ、本当に来てくださったんだ……)

 新郎側の最前列でこちらを向いている人達を見て、俺は表情を崩しそうになる。そこには、親族のユリとバミューダ君とおばあちゃん、招待したモーリス王太子とソルシャ様、そして、がいた。

 もちろん、国王陛下達を招待しなかったのは、来てほしくなかったからではない。常識的に考えて、一商人でしかない俺が国王陛下達を招待するなんて不敬に当たると考えていたためだ。そんな中、王妃様から『私が親代わりに出席してあげる!』と言われてせっかくなのでお願いしたのだが……。

(まさか、『私達』っていうのが、王妃様と国王陛下だったとはなぁ……)

 冷静に考えれば、親代わりというのだから、王妃様のパートナーは国王陛下になるのは分かったはずなのだが、その時の俺はそこまで頭が回らなかった。

 一応受付では、国王陛下が持っている伯爵位の貴族の名前を名乗ったらしく、トムさん達は最前列にいるのが、国王陛下達だとは気付いていない。だが、後ろにいる貴族達は、当然、国王陛下達が参列している事に気付いており、それゆえ席順などにも文句を言わないのだろう。

(まぁ、そういう意味では国王陛下達が来てくださって助かったのか……)

 そんなことが考えながら、俺は祭壇の前まで進み、入口の方へと振り返る。

(よし、ちゃんと歩けた。さて、次は気を付けないと。今は式の最中なんだ。絶対見惚れないようにしないとな)

 表情を崩さないように注意しながら、俺は気合を入れなおす。

「続きまして、新婦とお父様のご入場です」

 進行役の方のアナウンスと同時に、いつの間にか閉じていた教会の入口の扉が再び開いた。
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