上 下
152 / 214
第5章 転換期

152【悪夢3 守る力】

しおりを挟む
「隊長?」

 侵入者達が頭の前半分を失った隊長に話しかけるが、当然返事はない。そして頭の前半分を失った隊長の身体はゆっくりと崩れ落ちた。

「な、なにが……」

 突然の事に、侵入者達は茫然と立ち尽くしている。

「――! 戻った! 戻ったよ!」

 隊長が死んだことで、ダンビュライトの効果が完全に切れたようだ。ユリの『回復』魔法の力強さが増した。

「……はい! 終わったよ!」
「ふぅ……ありがとう、ユリ。おかげで助かったよ。」
「ううん。本当は怪我する前に助けなきゃいけなかったのに……ごめんなさい」
「謝らないで。ユリは何も悪くない。悪いのは――」

 ドバン!

「――こいつらだ」

 隊長の死体がつけているダンビュライトに手を伸ばそうとしていた侵入者の頭が吹き飛んだ。

「それが、魔法を封じてたんだろ? もう使わせないよ」
「ひぃ! ひゃー!」
「な……なんだよそれ! なんなんだよ!」
「逃げろ! 逃げるんだ!」
 
 侵入者達が慌てて玄関から逃げ出そうとする。

「逃がすわけないだろ?」

 ドバン!

 まず、玄関に近かった侵入者の頭を吹き飛ばした。残りの侵入者は後2人だ。

「聞きたいことがたくさんあるんだ。勝手に帰ってもらっちゃ困るな」
「ひぃー!」
「この……化け物め!」

 俺から逃げられないと悟ったのか、侵入者達は玄関から逃げるのをやめて俺の方を向いて叫ぶ。

「た、助けてくれ! 知ってることは何でも話す! だから命だけは! 頼む!」
「あ! おい! お前! 裏切る気か!」
「うるせぇ! 俺は助かりたいんだ!」
「馬鹿野郎! お前が裏切ったら、俺達まで――」 
「――黙れ!」
「「――!」」

 聞き苦しかったので、俺は侵入者クズ達を、一喝した。

「俺の質問にだけ答えろ? いいな?」
「はい! 何でも聞いて――」
「――誰が貴様の言うことなど聞くか!」
「……はぁ」
 
 雑音がうるさかったので、反抗した侵入者の左腕を吹き飛ばす。

 ドバン!

「――ぐぁぁああ!!」
「5秒以内に黙らなければ、右腕を吹き飛ばすぞ」
「がぁ! ……ぐぅ……ぅぅ……」

 反抗的な侵入者は何とか痛みをこらえて、声を押し殺した。これで話が出来そうだ。

「おい、お前」
「ひぃ! は、はい!」

 俺は心が折れている侵入者に話しかける。

「俺の質問に正直に答えるんだ。いいな?」
「わ、分かりました……」
「お前達は何者だ? 何の目的でここに来た?」
「そ、その……俺達は王宮に勤めている近衛兵です。ここに来たのは命令で……子供を2人さらってくる予定でした」
「……俺とユリの事か?」
「あ、いや! その……お、恐らく……」
「恐らく?」
「ひぃ! す、すみません! 正式な命令は隊長しか知らないんです! 俺は下っ端で……隊長の命令に従っていただけなんです! だからどうか! どうか慈悲を! お願――」

 ドバン!

 途中から命乞いに変わったので、侵入者の左腕を吹き飛ばす。

「ぎゃぁぁぁあああ!!!」
「質問にだけ答えろって言っただろ? お前も5秒以内に黙らなければ、右腕を吹き飛ばすからな」

 はっきりとそう言ったはずなのだが、左腕を吹き飛ばされたショックで聞いていないようだ。

「う、腕! 俺、腕! 痛い痛い痛い! ぐあぁぁああ! お、俺の腕がぁぁああ!!」
「……3……2……1……0」

 ドバン!

「ぎゃぁぁぁあああ!!! 腕! 腕が! 腕が無い! ああぁぁあああー!!」
「……はぁ。もういいか」

 痛みに耐えかねて転げまわる侵入者の頭に照準を合わせて引き金を引く。

 ドバン!

 これで侵入者は後一人だ。俺は最後の侵入者に話しかける

「さて、お前らは近衛兵って事は間違いないとしてだ……王宮の近衛兵に指示できる人間って限られてるよな? 誰の指示でこんなことをしたんだ?」
「……答える気はない。殺せ」

 ドバン!
 
 俺は侵入者の右足を吹き飛ばした。

「ぎぃ! ぐぅ……!」
「もう一度聞く。誰の指示でこんなことをしたんだ?」
「ぐ……うぅ……。っは! はは。あっははは!」
「何がおかしい?」
「さっきそいつが言っただろ! 正式な命令は隊長しか知らん。誰からの指示かなんて俺は知らないさ。だから俺にこんなことをしても無駄さ。馬鹿めが。あっはははは!」
「……そうか」

 ドバン!

 俺は最後の侵入者の頭を吹き飛ばして、耳障りな笑い声を止めた。



「お疲れ様……大丈夫?」

 ユリが優しく話しかけてくれる。

「大丈夫だよ。お腹はユリが治してくれたしその後は何にもされてないから。見てたでしょ?」
「そうじゃなくて……人、いっぱい殺したでしょ?」
「ああ……うん。そうだね」
「大丈夫? ちゃんと自分を保ててる?」
「……大丈夫だよ。ちゃんと『人を殺したくない』って気持ちは残ってるから」

 大きな力を手に入れたからと言って、それに酔うよう事はない。人の命は、何より尊い物なのだから。

「それでも『やらなきゃいけない時にはやる』だけさ」
「お兄ちゃん……うん。そうだね」

 ようやく、ユリや母さんの言っていた事をちゃんと理解できた気がする。

「それにしても危なかったね。まさか魔法が無効化されるとは……」
「うん。私、『強化』が無いとあんなに弱いんだね。知らなかった……」
「でも、ユリのおかげで助かったよ。よく、魔法を使えたね。どうやったの?」

 拘束されたユリは体調を振りほどく時、間違いなく『強化』の魔法を使っていた。だが、ダンビュライトの効果は、母さんでも打ち破れないほど強力だったはずだ。

「えっとね。多分これのおかげだよ!」

 そう言って、ユリは首から下げている小袋を指差す。

「ダンビュライトのせいで魔力を感じなくなっちゃったんだけど、『お兄ちゃんを助けなきゃ!』って思ったらこれが暖かくなって。そしたら少しだけ魔力を感じたんだ」

(それ……黒曜石か?)

 マークさんが言っていた。『未加工のパワーストーンは所有者を選ぶ代わりに、認められれば、加工された物とは比べ物にならない効力を発揮する』と。

 どうやらユリの願いに黒曜石が応えてくれたようだ。

「そっか。それで、ユリの近くにいた俺も魔法が使えるようになったのか……」
「多分ね。だから、私達が助かったのはをくれたお兄ちゃんのおかげだよ。ありがとね!」

(いや、ユリが黒曜石に認められてたから助かったんだけどな……ま、こんなユリだから黒曜石に認められてるのかな)

「ふふ、それじゃお互い、お互いを守ったって事で」
「え? あ! そうだね! あはは」

 俺達が母さんにトレーニングをしてもらおうと決心した日、ユリは俺を守ると言い、俺はユリを守るために強くなると言った。お互い、お互いを失うのが怖かったのだ。

 その後、母さんのトレーニングによって、ユリはどんどん強くなったが、俺は力を手に入れられず、ずっと守られていた。だが、ようやく俺もユリを守る力を手に入れられたようだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者に幼馴染で婚約者の彼女を寝取られたら、勇者のパーティーが仲間になった。~ただの村人だった青年は、魔術師、聖女、剣聖を仲間にして旅に出る~

霜月雹花
ファンタジー
田舎で住む少年ロイドには、幼馴染で婚約者のルネが居た。しかし、いつもの様に農作業をしていると、ルネから呼び出しを受けて付いて行くとルネの両親と勇者が居て、ルネは勇者と一緒になると告げられた。村人達もルネが勇者と一緒になれば村が有名になると思い上がり、ロイドを村から追い出した。。  ロイドはそんなルネや村人達の行動に心が折れ、村から近い湖で一人泣いていると、勇者の仲間である3人の女性がロイドの所へとやって来て、ロイドに向かって「一緒に旅に出ないか」と持ち掛けられた。  これは、勇者に幼馴染で婚約者を寝取られた少年が、勇者の仲間から誘われ、時に人助けをしたり、時に冒険をする。そんなお話である

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。

yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。 子供の頃、僕は奴隷として売られていた。 そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。 だから、僕は自分に誓ったんだ。 ギルドのメンバーのために、生きるんだって。 でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。 「クビ」 その言葉で、僕はギルドから追放された。 一人。 その日からギルドの崩壊が始まった。 僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。 だけど、もう遅いよ。 僕は僕なりの旅を始めたから。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

幼馴染み達が寝取られたが,別にどうでもいい。

みっちゃん
ファンタジー
私達は勇者様と結婚するわ! そう言われたのが1年後に再会した幼馴染みと義姉と義妹だった。 「.....そうか,じゃあ婚約破棄は俺から両親達にいってくるよ。」 そう言って俺は彼女達と別れた。 しかし彼女達は知らない自分達が魅了にかかっていることを、主人公がそれに気づいていることも,そして,最初っから主人公は自分達をあまり好いていないことも。

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~

名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

加工を極めし転生者、チート化した幼女たちとの自由気ままな冒険ライフ

犬社護
ファンタジー
交通事故で不慮の死を遂げてしまった僕-リョウトは、死後の世界で女神と出会い、異世界へ転生されることになった。事前に転生先の世界観について詳しく教えられ、その場でスキルやギフトを練習しても構わないと言われたので、僕は自分に与えられるギフトだけを極めるまで練習を重ねた。女神の目的は不明だけど、僕は全てを納得した上で、フランベル王国王都ベルンシュナイルに住む貴族の名門ヒライデン伯爵家の次男として転生すると、とある理由で魔法を一つも習得できないせいで、15年間軟禁生活を強いられ、15歳の誕生日に両親から追放処分を受けてしまう。ようやく自由を手に入れたけど、初日から幽霊に憑かれた幼女ルティナ、2日目には幽霊になってしまった幼女リノアと出会い、2人を仲間にしたことで、僕は様々な選択を迫られることになる。そしてその結果、子供たちが意図せず、どんどんチート化してしまう。 僕の夢は、自由気ままに世界中を冒険すること…なんだけど、いつの間にかチートな子供たちが主体となって、冒険が進んでいく。 僕の夢……どこいった?

処理中です...