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第5章 転換期
143【魔道具開発13 王子の企み】
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「サーカイル王子?」
(どういう事だ? 俺はモーリス王子に呼び出されたはず……)
「久しぶりだね、アレン=クランフォード。元気にしていたかい?」
「え、ええ。おかげさまで」
混乱する内心を何とかなだめ、王子に返事をする。
「それはなにより。それにしても、突然呼び出してしまってすまないねぇ。どうしても君と話したいことがあってさ」
そう言ってサーカイル王子は『防音』の魔道具を起動した。
「これでよし……さてと。ふふふ。残念ながらモーリスはここには来ないよ。あいつは君がここに来ている事すら知らないからねぇ」
そう言われて、ようやく俺は使者が提示した紋章が、モーリス王子の物ではなく、王族の物であった事を思い出した。
「私に何のお話でしょうか?」
騙されて連れてこられたとはいえ、相手は王子だ。無下にすることは出来ない。
「簡単な話さ。君、モーリスに肩入れしているだろ? それをやめて今すぐ僕の配下に入れ」
「……は?」
あまりの要求に思わす変な声が出てしまった。俺は気を取り直して答える。
「お言葉ですが、サーカイル王子。私はモーリス王子から『ロイヤルワラント』を授与された身。大恩あるモーリス王子を裏切るような真似は――」
「――あー、いい、いい。そういうのはいいから。伯爵位を用意した。もったいぶっても、それ以上を望めない事は分かるだろう?」
話が通じない。
「いえ、そういう事ではなく――」
「――ああ、カミール兄さんの事なら心配するな。私の配下になるのなら、君とその家族には手出しさせないことを約束しよう」
『ロイヤルワラント』を授与された日のパーティーでカミール王子が母さん達に言った事を気にしていると思ったようだ。
「そういう問題ではありません。私は――」
「――アレン=クランフォード。君は賢い男だ。ここでどう答えるべきかは……分かるだろう?」
サーカイル王子の眼が鋭く光った。『はいと言え、でなければ身の安全は保障しない』恐らく、そういう意味だろう。
(まだか!?)
そろそろ時間を稼ぐのも厳しい。俺は嘘をつかないよう、そして合意しないように注意しながら話を合わせる。
「具体的には何をお望みなのですか?」
「はぁ……全く、ようやく話を進められるよ。いいかい? 具体的には君が開発した商品の特許が欲しいのさ。安心したまえ。別に特許を奪おうというわけではない。ただ、君が開発した商品をアナベーラ商会に売るのをやめて、こちらが指定した商会に売って欲しい。どうだ? 簡単だろ?」
アナベーラ商会がモーリス王子を指示していることは、もはや皆が知っている。そのアナベーラ商会が、俺が開発した商品を使い、サーカイル王子派閥の貴族達と繋がっている事が気に入らないようだ。
「現在、アナベーラ商会は工房から直接製品を購入されています。私共が販売しているわけでは――」
「――ならば、特許保有者としてアナベーラ商会での製造・販売を禁止すればいい。多少の違約金を払う事になるだろうが、そんなものは私が何とかしてやる」
「ですが――」
「――くどい! 君はとっとと『はい』と言えばいいんだよ。分かったか?」
王族との約束事は口約束でも成立してしまう。ゆえに、合意ととれる発言をしないようにここまで来たのだが、そろそろ限界だ。
「いいかい? ちゃんと『はい』と返事をするんだ。それ以外の返答は許さないからね? アレン=クランフォード。君はモーリス王子の元を離れ、私の派閥に入るのだ」
「それは困るなぁ」
「――!」
気が付くと、サーカイル王子の後ろにモーリス王子が立っていた。
「も、モーリス!? なぜここに……」
「やぁ、サーカイル兄さん。それで? これはどういう事ですか?」
「いや……これは……そ、そんな事より、どうしてここに?」
(ようやく来てくれた……)
実は俺を呼び出したのがサーカイル王子だと分かった瞬間に『遠くにいる人に音声を届ける』魔道具を起動していたのだ。音声の届け先は、もちろんモーリス王子だ。
(モーリス王子にも魔道具を渡しておいて良かった……)
「そんな事? 僕の大事な支持者を脅して引き抜こうとする事が『そんな事』なんですか?」
「そ、それは……」
「……はぁ。期待していたんですけどね」
「――! ま、待ってくれ! モーリス、話を――」
「――アレン、兄がすまなかったね。以前君が言った通り、油断しちゃいけなかったみたいだ。この事は僕の方でしっかりとケリを付けるから安心してくれ」
「待って! 待ってくれ、モーリス! 私は――」
「――くどいよ、兄さん。兄さん達が信用できない事はよくわかりました。これ以上立場を悪くしたくなければ、とっとと出て行く事です」
「くっ……」
モーリス王子が本気だと分かったのか、サーカイル王子はすごすごと出て行く。モーリス王子と2人になってようやく肩の力を抜くことが出来た。
「ふぅ……いや、危なかったね。『携帯』からいきなり『サーカイル王子?』って聞こえた時は驚いたよ」
モーリス王子は『遠くにいる人に音声を届ける』魔道具を『携帯』と呼んでいる。
(個人的には『携帯』じゃなくて『トランシーバー』だと思うんだけどな)
「城内にいてくれて助かったよ。『取り決め』も役に立ったね」
モーリス王子に限らず、『遠くにいる人に音声を届ける』魔道具を渡している人には、あらかじめ『魔道具を起動した方から話しかける』という『取り決め』をしておいた。もしそれができない場合は、『緊急時のSOS信号』という事だ。
「それにしても、サーカイル兄さんがこんなことするとはな……」
「予兆はなかったの?」
「サーカイル兄さんにはなかった。カミール兄さんがやらかしそうな気配があったからそっちばかり警戒していたよ。申し訳ない」
「いや、俺も王族の紋章を見せられてのこのこついて来ちゃったからな。警戒心が足りなかったよ」
店に来た使者が見せた紋章は王族の紋章ではあるが、モーリス王子の紋章ではなかった。そもそもモーリス王子が俺に用があるなら、『遠くにいる人に音声を届ける』魔道具で会話すればいいのだ。わざわざ使者を寄越す必要はない。
「これからはサーカイル兄さんにも注意しないと……。色々大変になるな。アレンも気を付けてくれ」
「そうだね。俺も気を付けるよ」
正直、かなり疲れたので、早く帰って休みたかった。モーリス王子と別れの挨拶を済ませて、俺は王宮を後にする。
(どういう事だ? 俺はモーリス王子に呼び出されたはず……)
「久しぶりだね、アレン=クランフォード。元気にしていたかい?」
「え、ええ。おかげさまで」
混乱する内心を何とかなだめ、王子に返事をする。
「それはなにより。それにしても、突然呼び出してしまってすまないねぇ。どうしても君と話したいことがあってさ」
そう言ってサーカイル王子は『防音』の魔道具を起動した。
「これでよし……さてと。ふふふ。残念ながらモーリスはここには来ないよ。あいつは君がここに来ている事すら知らないからねぇ」
そう言われて、ようやく俺は使者が提示した紋章が、モーリス王子の物ではなく、王族の物であった事を思い出した。
「私に何のお話でしょうか?」
騙されて連れてこられたとはいえ、相手は王子だ。無下にすることは出来ない。
「簡単な話さ。君、モーリスに肩入れしているだろ? それをやめて今すぐ僕の配下に入れ」
「……は?」
あまりの要求に思わす変な声が出てしまった。俺は気を取り直して答える。
「お言葉ですが、サーカイル王子。私はモーリス王子から『ロイヤルワラント』を授与された身。大恩あるモーリス王子を裏切るような真似は――」
「――あー、いい、いい。そういうのはいいから。伯爵位を用意した。もったいぶっても、それ以上を望めない事は分かるだろう?」
話が通じない。
「いえ、そういう事ではなく――」
「――ああ、カミール兄さんの事なら心配するな。私の配下になるのなら、君とその家族には手出しさせないことを約束しよう」
『ロイヤルワラント』を授与された日のパーティーでカミール王子が母さん達に言った事を気にしていると思ったようだ。
「そういう問題ではありません。私は――」
「――アレン=クランフォード。君は賢い男だ。ここでどう答えるべきかは……分かるだろう?」
サーカイル王子の眼が鋭く光った。『はいと言え、でなければ身の安全は保障しない』恐らく、そういう意味だろう。
(まだか!?)
そろそろ時間を稼ぐのも厳しい。俺は嘘をつかないよう、そして合意しないように注意しながら話を合わせる。
「具体的には何をお望みなのですか?」
「はぁ……全く、ようやく話を進められるよ。いいかい? 具体的には君が開発した商品の特許が欲しいのさ。安心したまえ。別に特許を奪おうというわけではない。ただ、君が開発した商品をアナベーラ商会に売るのをやめて、こちらが指定した商会に売って欲しい。どうだ? 簡単だろ?」
アナベーラ商会がモーリス王子を指示していることは、もはや皆が知っている。そのアナベーラ商会が、俺が開発した商品を使い、サーカイル王子派閥の貴族達と繋がっている事が気に入らないようだ。
「現在、アナベーラ商会は工房から直接製品を購入されています。私共が販売しているわけでは――」
「――ならば、特許保有者としてアナベーラ商会での製造・販売を禁止すればいい。多少の違約金を払う事になるだろうが、そんなものは私が何とかしてやる」
「ですが――」
「――くどい! 君はとっとと『はい』と言えばいいんだよ。分かったか?」
王族との約束事は口約束でも成立してしまう。ゆえに、合意ととれる発言をしないようにここまで来たのだが、そろそろ限界だ。
「いいかい? ちゃんと『はい』と返事をするんだ。それ以外の返答は許さないからね? アレン=クランフォード。君はモーリス王子の元を離れ、私の派閥に入るのだ」
「それは困るなぁ」
「――!」
気が付くと、サーカイル王子の後ろにモーリス王子が立っていた。
「も、モーリス!? なぜここに……」
「やぁ、サーカイル兄さん。それで? これはどういう事ですか?」
「いや……これは……そ、そんな事より、どうしてここに?」
(ようやく来てくれた……)
実は俺を呼び出したのがサーカイル王子だと分かった瞬間に『遠くにいる人に音声を届ける』魔道具を起動していたのだ。音声の届け先は、もちろんモーリス王子だ。
(モーリス王子にも魔道具を渡しておいて良かった……)
「そんな事? 僕の大事な支持者を脅して引き抜こうとする事が『そんな事』なんですか?」
「そ、それは……」
「……はぁ。期待していたんですけどね」
「――! ま、待ってくれ! モーリス、話を――」
「――アレン、兄がすまなかったね。以前君が言った通り、油断しちゃいけなかったみたいだ。この事は僕の方でしっかりとケリを付けるから安心してくれ」
「待って! 待ってくれ、モーリス! 私は――」
「――くどいよ、兄さん。兄さん達が信用できない事はよくわかりました。これ以上立場を悪くしたくなければ、とっとと出て行く事です」
「くっ……」
モーリス王子が本気だと分かったのか、サーカイル王子はすごすごと出て行く。モーリス王子と2人になってようやく肩の力を抜くことが出来た。
「ふぅ……いや、危なかったね。『携帯』からいきなり『サーカイル王子?』って聞こえた時は驚いたよ」
モーリス王子は『遠くにいる人に音声を届ける』魔道具を『携帯』と呼んでいる。
(個人的には『携帯』じゃなくて『トランシーバー』だと思うんだけどな)
「城内にいてくれて助かったよ。『取り決め』も役に立ったね」
モーリス王子に限らず、『遠くにいる人に音声を届ける』魔道具を渡している人には、あらかじめ『魔道具を起動した方から話しかける』という『取り決め』をしておいた。もしそれができない場合は、『緊急時のSOS信号』という事だ。
「それにしても、サーカイル兄さんがこんなことするとはな……」
「予兆はなかったの?」
「サーカイル兄さんにはなかった。カミール兄さんがやらかしそうな気配があったからそっちばかり警戒していたよ。申し訳ない」
「いや、俺も王族の紋章を見せられてのこのこついて来ちゃったからな。警戒心が足りなかったよ」
店に来た使者が見せた紋章は王族の紋章ではあるが、モーリス王子の紋章ではなかった。そもそもモーリス王子が俺に用があるなら、『遠くにいる人に音声を届ける』魔道具で会話すればいいのだ。わざわざ使者を寄越す必要はない。
「これからはサーカイル兄さんにも注意しないと……。色々大変になるな。アレンも気を付けてくれ」
「そうだね。俺も気を付けるよ」
正直、かなり疲れたので、早く帰って休みたかった。モーリス王子と別れの挨拶を済ませて、俺は王宮を後にする。
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