上 下
139 / 214
第5章 転換期

139【魔道具開発9 魔道具の販売】

しおりを挟む
「『銃』ですか。良い名ですね。ところで、アレンさん。その銃ですが、今後どうされるおつもりですか?」

 魔道具に銃と名付けた後、マークさんに聞かれた。

「どう、とは……どういう意味ですか?」
「アレンさん固有の武器として秘匿するのか、特許を取得して商品として販売されるのか、という意味です。売れば巨万の富が手に入ると思いますよ?」

 『銃』を売る。その発想はなかった。しかし……。

「売りません! こんな危険な魔道具、絶対に売りません」

 誰もが銃を手に入れられる社会。その結果どんな悲劇が生まれるのか。そんな事、考えたくもない。

「ええ。私もその方が良いと思います。銃は色々なパワーバランスを壊しかねない武器です。犯罪者が銃を使いだしたら今の治安部隊では対応出来ないでしょうからね」

 どんな道具も使う人次第……ではあるものの、危険な武器を開発した以上、それを広めないようにする責任はあるだろう。

「それでは、他の改良された魔道具はどうされますか?」
「他? あ! ……あまり考えていませんでした。ミッシェル様に相談してみます。多分、力になってくれると思うので」
「ミッシェル様……アナベーラ商会の会頭さんですね。なるほど、良い判断です」

 色々便利な商品を作れるとは思うが、価格設定や量産体制をどうすればいいのか、想像もつかない。フィリス工房では魔道具の生産は請け負っていないし、俺に『創作』の使い手の知り合いなんてい。色々と難しいだろう。

 その点、アナベーラ商会なら魔道具も取り扱っているし、問題なく量産できるだろう。従業員の派遣を依頼した手紙の返事が来次第、相談する事にした。

「さて、お二人とも、この後はどうされますか?」
「俺はもう少し、銃を改良しようと思います」
「私は魔導書の続きを読みます!」
「そうですか……あまり無理は良くないと思ったのですが、確かに夕食の時間まではまだ時間があります。それでは、無理しない範囲で頑張ってください」
「「はい!」」

 マークさんとユリと一緒に魔導書貸出店に戻った後、俺は1人で自分の実験室に入る。

(さとて、問題は『衝撃』と『照準』だな。これを何とかしないと)

 魔法の付与は、ユリが他の属性を修めてからやる予定だが、どんな魔法を付与するか、あらかじめ考えておいた方が良いだろう。そう思っていたのだが……。

(……ヤバい、何も思いつかない)

 『衝撃』は銃に『衝撃吸収』の『属性』を付与すれば対処できるだろう。だが、『照準』については、何をどうすればいいのか、見当もつかない。

(レーザーポイントで着弾点が分かるようにする? いや、遠距離狙撃で暗殺するとかならまだしも、近距離で戦っている時にレーザーポイントの光なんて見れられないし……。銃口の前に相手が来た時に、自動的に引き金が引かれるようにする? いや、それは誤射が怖すぎる。他には……思いつかない)

 結局、夕食の時間になり、マークさんが呼びに来るまで、いい案が思いつく事はなかった。



「『照準』、ですか?」

 夕食の席で、マークさんとユリに銃の改良案について聞いてみる。

「ええ。『照準』を合わせる、もしくは、『照準』がずれていても狙い通りに弾を命中させる方法を探しているんですが、なかなか見つからなくて……」
「なるほど……難しいですね。『放った矢を風で操り対象に命中させる』弓の魔道具ならありますが、銃の弾のスピードでは不可能でしょうし……うーん……――」
「――お兄ちゃんを操ったら?」
「……え?」
 
 ユリに言われた事が理解できずに聞きなおした。

「どういう事?」
「えっと……銃を撃つ時にお兄ちゃんの腕を操って狙い通りに場所に銃を向けるようにしたら? 銃をちゃんとまっすぐ持つ必要があるけど、それくらいは練習で何とかなるでしょ?」

 銃口を狙い通り定めるという事は考えたが、手に持った銃を動かす事が難しかったので、諦めたのだ。しかし自分を操って銃口を向けさせるだけなら出来るかもしれない。

「それ、いいかも……」
「ええ。『操作』の属性をユリさんが修めれば出来ると思います。もちろん、私は『操作』を修めていますが――」
「――私がやる!」
「との事なので、私が協力するのはやめておきましょう」
「分かりました。それじゃ、俺は先に他の魔道具の改良と店の準備を終わらせておきます。他にも色々協力して欲しい事あるから、ユリは全ての属性を修める事を優先して。銃の改良は、ユリが全ての属性を修めてからにしよう」

 『照準』と『衝撃吸収』の他にも追加したい特性がある。どうせなら、しっかり構成を練ってから付与を行いたい。

「分かった! 2ヶ月以内に全部修める!」
「うん! 待ってるよ」
「ふふふ。今でさえ強力な銃をさらに改良しますか。どうなるのか、2ヶ月後が楽しみですね」

 ユリがやる気に燃える横で、マークさんは楽しそうに笑っていた。



 翌日から、ユリは今まで以上に早起きして魔導書貸出店に向かうようになった。頑張りすぎないか心配だが、そこはマークさんがしっかり見張ってくれているので、信じて任せることにする。

 午前中にミッシェルさんとカートンさんから手紙の返事が届いた。この時間に届くという事は、2人共速達で手紙を出してくれたのだろう。中身を確認すると、2枚とも『ぜひとも派遣したい』と書かれていた。

 2人にお礼の手紙を書き、その日のうちに発送する。これで翌日には2人に手紙が届くだろう。ミッシェルさんへの手紙には、『新しい魔道具を開発したので、販売方法について相談したい』とも書いておいたので、魔道具の販売については、ミッシェルさんから返事が来てから考えればいい。そう考えて、その日は失敗作の改良作業に注力した。

 さらにその翌日。明日にはミッシェルさんから手紙の返事が届くだろうから、今日中に改良出来る物はしておこうと思っていた俺のもとに、ミッシェルさん本人がやって来た。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者に幼馴染で婚約者の彼女を寝取られたら、勇者のパーティーが仲間になった。~ただの村人だった青年は、魔術師、聖女、剣聖を仲間にして旅に出る~

霜月雹花
ファンタジー
田舎で住む少年ロイドには、幼馴染で婚約者のルネが居た。しかし、いつもの様に農作業をしていると、ルネから呼び出しを受けて付いて行くとルネの両親と勇者が居て、ルネは勇者と一緒になると告げられた。村人達もルネが勇者と一緒になれば村が有名になると思い上がり、ロイドを村から追い出した。。  ロイドはそんなルネや村人達の行動に心が折れ、村から近い湖で一人泣いていると、勇者の仲間である3人の女性がロイドの所へとやって来て、ロイドに向かって「一緒に旅に出ないか」と持ち掛けられた。  これは、勇者に幼馴染で婚約者を寝取られた少年が、勇者の仲間から誘われ、時に人助けをしたり、時に冒険をする。そんなお話である

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。

yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。 子供の頃、僕は奴隷として売られていた。 そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。 だから、僕は自分に誓ったんだ。 ギルドのメンバーのために、生きるんだって。 でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。 「クビ」 その言葉で、僕はギルドから追放された。 一人。 その日からギルドの崩壊が始まった。 僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。 だけど、もう遅いよ。 僕は僕なりの旅を始めたから。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

幼馴染み達が寝取られたが,別にどうでもいい。

みっちゃん
ファンタジー
私達は勇者様と結婚するわ! そう言われたのが1年後に再会した幼馴染みと義姉と義妹だった。 「.....そうか,じゃあ婚約破棄は俺から両親達にいってくるよ。」 そう言って俺は彼女達と別れた。 しかし彼女達は知らない自分達が魅了にかかっていることを、主人公がそれに気づいていることも,そして,最初っから主人公は自分達をあまり好いていないことも。

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~

名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

加工を極めし転生者、チート化した幼女たちとの自由気ままな冒険ライフ

犬社護
ファンタジー
交通事故で不慮の死を遂げてしまった僕-リョウトは、死後の世界で女神と出会い、異世界へ転生されることになった。事前に転生先の世界観について詳しく教えられ、その場でスキルやギフトを練習しても構わないと言われたので、僕は自分に与えられるギフトだけを極めるまで練習を重ねた。女神の目的は不明だけど、僕は全てを納得した上で、フランベル王国王都ベルンシュナイルに住む貴族の名門ヒライデン伯爵家の次男として転生すると、とある理由で魔法を一つも習得できないせいで、15年間軟禁生活を強いられ、15歳の誕生日に両親から追放処分を受けてしまう。ようやく自由を手に入れたけど、初日から幽霊に憑かれた幼女ルティナ、2日目には幽霊になってしまった幼女リノアと出会い、2人を仲間にしたことで、僕は様々な選択を迫られることになる。そしてその結果、子供たちが意図せず、どんどんチート化してしまう。 僕の夢は、自由気ままに世界中を冒険すること…なんだけど、いつの間にかチートな子供たちが主体となって、冒険が進んでいく。 僕の夢……どこいった?

処理中です...