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第4章 王都にて
110.【ロイヤルワラント授与1 控室】
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授与式の日、俺達はモーリス王子から頂いた招待状を手に、王宮を訪れた。
「ようやくこの日がやってきた」
「長かったですね」
「大変だったー」
「やっと……です」
皆がこの日を待ち望んでいたのは、『ロイヤルワラント』を授与されたリバーシやチェスを早く売りたいから……ではない。『ロイヤルワラント』を授与されれば、俺目当てで突撃してくる女性陣がいなくなるはずだからだ。
というのも、『ロイヤルワラント』は『王室御用達』の証。つまり、その存在を王家が望んでいる証だ。
そんなものが与えられた店に手を出せばどうなるかは、誰でも分かるだろう。
実際、ロイヤルワラントを与えられた店に危害を加えるような事例はほとんどない。ごく稀に何も考えていないバカが『ロイヤルワラント』を与えられた店に危害を加えたこともあったらしいが、その加害者は悲惨な末路をたどっている。
俺目当ての女性陣が、かなり過激なことをしてきたのも、今日を過ぎると、もう俺に手出し出来なくなるからというのもあるのだろう。最後のあがきとばかりに、王都までの道中に突撃してきた女性もいたくらいだ。
「ユリちゃん、バミューダ君も。警戒が甘くなっているわよ。王宮に入れば、まず大丈夫だとは思うけど、浮かれるのは今日を乗り越えてからにしましょう」
「「はい!(……です!)」」
母さんがユリとバミューダ君の気を引き締めた。
この半年、母さんにトレーニングされ続けたユリは以前のバミューダ君と遜色ない肉体能力を身に着けており、人の気配を察知することもできるようになっていた。今ではクリスの護衛として立派に活躍している。
ちなみに俺も同じトレーニングを行っていたのだが、肉体能力はほとんど変わっていない。根本的な才能が違ったようで、俺の護衛はバミューダ君にお願いしている。
「それじゃ、行こうか」
父さんが、招待状を王宮の門番に見せた。
「クランフォード商会会頭、ルーク=クランフォードです。招待を受けて参上致しました」
登城の理由まではここでは話さない。門の外は誰が聞き耳を立てているか分からないからだ。
「招待状を確認させて頂きます。……ご提示ありがとうございます。確かに正式な招待状ですね。ようこそ、王宮へ。中へご案内します」
門番の一人が王宮の中へ案内してくれる。王宮の中に入ると、門番が話しかけてきた。
「この度は『ロイヤルワラント』の授与、誠におめでとうございます。これから皆様を控室にご案内致します。今回の授与式では、貴方方ともう一組の方が『ロイヤルワラント』を授与されるそうです。授与式の後はパーティーも予定されておりますので、奮ってご参加下さい」
ちなみに、授与式はその名の通り、『ロイヤルワラント』を授与される式で、複数の貴族の前で王族から直接授与されるため、平民にとってはこの上ない貴重な体験となる。その後のパーティーは、貴族との交流の場で、貴族に商品を売り込みたい商人と、少しでも利権に関わりたい貴族との戦いの場でもある。
授与式は開発者の俺と特許権を持っている父さんが出席し、母さんとクリス、ユリ、バミューダ君はパーティーから合流する予定だ。
■
「こちらが控室です」
門番に案内された控室には、すでに一組の商人達が待機していた。おそらく、念願の授与なのだろう。彼らの中には、涙を流している者や緊張のあまり全く動けずにいる者がいた。
(そうだよな。普通、めっちゃ頑張って、苦労の末にこの場にくるんだよな。なんか……申し訳ないな)
モーリス王子に推薦されて、簡単に『ロイヤルワラント』を授与された事が申し訳なくなってくる。
「失礼、貴方方も『ロイヤルワラント』を授与される方ですかな?」
突然、彼らの中にいた初老の男性に話しかけられた。
「ああ、突然、すみません。わしの名はカートン=キュリアス。キュリアス商会会頭を務めております」
「これは、ご丁寧に。私はルーク=クランフォード。クランフォード商会会頭を務めております。お察しの通り、私達も『ロイヤルワラント』を授与される予定です」
「おお! やはりそうでしたか! いやぁ、お互いめでたい日ですなぁ。ここで会ったのも何かの縁。ぜひ仲良くしてくださいね」
「こちらこそ。若輩者ですが、よろしくお願いします」
「はっはっは! 『ロイヤルワラント』を授与される者が若輩者とは、愉快な事をおっしゃる。しかもクランフォード商会といえば、今大流行しているリバーシやチェスを販売している商会じゃないですか。謙遜も行き過ぎれば嫌味ですぞ」
「いえいえ。『王都一のケーキ屋』と言われるキュリアス商会に比べれば、我々はまだまだですよ」
父さんの言葉を聞いて思いだした。キュリアス商会は王都に着て初めてクリスとデートした時に最後に入ったケーキ屋さんの名前だ。あれからも王都に来るたびに利用させてもらっているが、『ロイヤルワラント』を授与される程のお店だったとは……。
思わずクリスを見る。クリスも俺を見ていた。
「おや、ご存じでしたか。まぁ、おかげさまで繁盛させて頂いています。ご子息にもひいきにして頂いてますしね」
「え!?」
「お得意さんの顔は忘れませんよ。特にお連れの方はいつも幸せそうにうちのケーキを食べて下さってますしね」
「――!!」
「はっはっは! 若いというのは良いですね。おっと、そろそろ時間かな?」
カートンさんが扉の方を向くと、丁度男性が扉を開けて入ってきて、俺達に宣言する。
「これより、授与式を行います。代表者の方はこちらへお集まりください」
(あれ、今、扉開く前にカートンさん、気付いてたような……)
カートンさんの方を向くと、にっこりと笑っていた。
(俺とクリスの事も覚えてたみたいだし……凄いな。これが本来の『ロイヤルワラント』を授与される人のあり方か……)
「では、行きましょうか」
「ええ」
自分との格の違いを見せつけられたが落ち込んでいる暇はない。
さぁ、いよいよ授与式だ。
「ようやくこの日がやってきた」
「長かったですね」
「大変だったー」
「やっと……です」
皆がこの日を待ち望んでいたのは、『ロイヤルワラント』を授与されたリバーシやチェスを早く売りたいから……ではない。『ロイヤルワラント』を授与されれば、俺目当てで突撃してくる女性陣がいなくなるはずだからだ。
というのも、『ロイヤルワラント』は『王室御用達』の証。つまり、その存在を王家が望んでいる証だ。
そんなものが与えられた店に手を出せばどうなるかは、誰でも分かるだろう。
実際、ロイヤルワラントを与えられた店に危害を加えるような事例はほとんどない。ごく稀に何も考えていないバカが『ロイヤルワラント』を与えられた店に危害を加えたこともあったらしいが、その加害者は悲惨な末路をたどっている。
俺目当ての女性陣が、かなり過激なことをしてきたのも、今日を過ぎると、もう俺に手出し出来なくなるからというのもあるのだろう。最後のあがきとばかりに、王都までの道中に突撃してきた女性もいたくらいだ。
「ユリちゃん、バミューダ君も。警戒が甘くなっているわよ。王宮に入れば、まず大丈夫だとは思うけど、浮かれるのは今日を乗り越えてからにしましょう」
「「はい!(……です!)」」
母さんがユリとバミューダ君の気を引き締めた。
この半年、母さんにトレーニングされ続けたユリは以前のバミューダ君と遜色ない肉体能力を身に着けており、人の気配を察知することもできるようになっていた。今ではクリスの護衛として立派に活躍している。
ちなみに俺も同じトレーニングを行っていたのだが、肉体能力はほとんど変わっていない。根本的な才能が違ったようで、俺の護衛はバミューダ君にお願いしている。
「それじゃ、行こうか」
父さんが、招待状を王宮の門番に見せた。
「クランフォード商会会頭、ルーク=クランフォードです。招待を受けて参上致しました」
登城の理由まではここでは話さない。門の外は誰が聞き耳を立てているか分からないからだ。
「招待状を確認させて頂きます。……ご提示ありがとうございます。確かに正式な招待状ですね。ようこそ、王宮へ。中へご案内します」
門番の一人が王宮の中へ案内してくれる。王宮の中に入ると、門番が話しかけてきた。
「この度は『ロイヤルワラント』の授与、誠におめでとうございます。これから皆様を控室にご案内致します。今回の授与式では、貴方方ともう一組の方が『ロイヤルワラント』を授与されるそうです。授与式の後はパーティーも予定されておりますので、奮ってご参加下さい」
ちなみに、授与式はその名の通り、『ロイヤルワラント』を授与される式で、複数の貴族の前で王族から直接授与されるため、平民にとってはこの上ない貴重な体験となる。その後のパーティーは、貴族との交流の場で、貴族に商品を売り込みたい商人と、少しでも利権に関わりたい貴族との戦いの場でもある。
授与式は開発者の俺と特許権を持っている父さんが出席し、母さんとクリス、ユリ、バミューダ君はパーティーから合流する予定だ。
■
「こちらが控室です」
門番に案内された控室には、すでに一組の商人達が待機していた。おそらく、念願の授与なのだろう。彼らの中には、涙を流している者や緊張のあまり全く動けずにいる者がいた。
(そうだよな。普通、めっちゃ頑張って、苦労の末にこの場にくるんだよな。なんか……申し訳ないな)
モーリス王子に推薦されて、簡単に『ロイヤルワラント』を授与された事が申し訳なくなってくる。
「失礼、貴方方も『ロイヤルワラント』を授与される方ですかな?」
突然、彼らの中にいた初老の男性に話しかけられた。
「ああ、突然、すみません。わしの名はカートン=キュリアス。キュリアス商会会頭を務めております」
「これは、ご丁寧に。私はルーク=クランフォード。クランフォード商会会頭を務めております。お察しの通り、私達も『ロイヤルワラント』を授与される予定です」
「おお! やはりそうでしたか! いやぁ、お互いめでたい日ですなぁ。ここで会ったのも何かの縁。ぜひ仲良くしてくださいね」
「こちらこそ。若輩者ですが、よろしくお願いします」
「はっはっは! 『ロイヤルワラント』を授与される者が若輩者とは、愉快な事をおっしゃる。しかもクランフォード商会といえば、今大流行しているリバーシやチェスを販売している商会じゃないですか。謙遜も行き過ぎれば嫌味ですぞ」
「いえいえ。『王都一のケーキ屋』と言われるキュリアス商会に比べれば、我々はまだまだですよ」
父さんの言葉を聞いて思いだした。キュリアス商会は王都に着て初めてクリスとデートした時に最後に入ったケーキ屋さんの名前だ。あれからも王都に来るたびに利用させてもらっているが、『ロイヤルワラント』を授与される程のお店だったとは……。
思わずクリスを見る。クリスも俺を見ていた。
「おや、ご存じでしたか。まぁ、おかげさまで繁盛させて頂いています。ご子息にもひいきにして頂いてますしね」
「え!?」
「お得意さんの顔は忘れませんよ。特にお連れの方はいつも幸せそうにうちのケーキを食べて下さってますしね」
「――!!」
「はっはっは! 若いというのは良いですね。おっと、そろそろ時間かな?」
カートンさんが扉の方を向くと、丁度男性が扉を開けて入ってきて、俺達に宣言する。
「これより、授与式を行います。代表者の方はこちらへお集まりください」
(あれ、今、扉開く前にカートンさん、気付いてたような……)
カートンさんの方を向くと、にっこりと笑っていた。
(俺とクリスの事も覚えてたみたいだし……凄いな。これが本来の『ロイヤルワラント』を授与される人のあり方か……)
「では、行きましょうか」
「ええ」
自分との格の違いを見せつけられたが落ち込んでいる暇はない。
さぁ、いよいよ授与式だ。
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