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第3章 躍進の始まり

70.【取り調べ4 つかの間の夢】

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 ミルキアーナ男爵と会話をした後、しばらくすると、息を切らせたザックさんが戻ってきた。

「はぁ、はぁ…………お待たせ、しました。…………はぁ……ふー、失礼しました。治安部隊に確認したところ、調書を取ったのはマーチアス=ノックスという男です。念のため、調書の原紙を確認しましたが、やはりナイフについての記載はありませんでした。そして、マーチアスは4日前、つまり調書を取った翌日から無断欠勤していて、行方が分からないようです」

 調書の内容に誤りがあり、調書を取った者が翌日から行方をくらませている。つまり……

「マーチアスはどこかの権力者と通じていて、その権力者にとって不都合となるナイフを持ち去った、という事でしょうか」
「だろうな。治安部隊に所属するためには厳しい身辺調査を受ける必要がある。そうしてまで入った治安部隊の立場を捨ててでも隠滅せねばならぬほど重要な証拠だったのだろう」
「アレン殿とミルキアーナ男爵のおっしゃる通りです。現在、事情を知った治安部隊が総出で行方を捜しておりますが、見つけるのは難しいでしょう」
 
 事は、治安部隊の信用問題に関わる。治安部隊も全力で捜査するだろうが、4日前に逃亡したと思われる相手を見つけることは難しいだろう。

「……治安部隊の部隊長殿がナタリー殿に謝罪を申しておりました。本日はマーチアスの捜索で忙しく、直接謝罪に伺うことができないが、改めて謝罪に伺わせて頂きたい……とのことです」
「そうですか……『訪問は不要です』と、言いたいのですが、そうもいかないのでしょうね」
「ええ。治安部隊にもメンツがありますから……」
「分かりました。その際は対応させて頂きます」
「よろしくお願いします。他に不足事項などありますでしょうか?」
「いえ、ありません」
「ありがとうございます。それでは、以上で事実確認を終了します。……最後に、アレン殿、身元引受人制度はご存じでしょうか?」
「あ、はい。平民となった元貴族を、枢密顧問官が指名した人が引き受ける制度だと伺いしました」
「その通りです。今回、アレン殿が希望すれば、アレン殿を身元引受人とすることができます。クリス子爵令嬢が引受人となるなることも可能ですが、周囲に余計な誤解を与える可能性があるため、あまりお勧めしません。いかがなさいますか?」
「その件ですが、ミルキアーナ男爵を身元引受人とすることは可能でしょうか?」
「ミルキアーナ男爵を……ですか?」
「はい。私達ではサーシスの身元を引き受けても適切な対応・・・・・ができません。ですが、娘を襲われている・・・・・・・・ミルキアーナ男爵でしたら、適切な対応・・・・・が可能だと思います」
「……なるほど。ミルキアーナ男爵はそれでよろしいでしょうか?」

 ザックさんがミルキアーナ男爵に問いかける。

「かまわない。元は私がアレン殿に依頼した話だ」
「そうだったんですね。皆さん合意の上でしたら、問題ありません。それでは、ミルキアーナ男爵を身元引受人として指名します。お手数ですが、取り調べ室にご同行頂けますか?」
「ああ」

 ザックさんとミルキアーナ男爵が控室を出て、取り調べ室に入って行く。俺達は、引き続き控室で取り調べ室の会話を聞くことにした。



 取り調べ室に入ったザックさんが声を張り上げる。

「アーノルド=サーシス。我々の調査により、シャル王女が抱かれた貴様に対する嫌疑は本物であると判明した。よって、称号剝奪法に則り、貴様の伯爵位を剝奪する!」
「ぐっ…………」

 覚悟ができていたのか、サーシスは項垂れるだけで、暴れたりすることはなかった。項垂れるサーシスにミルキアーナ男爵が声をかける。

「サーシス伯爵・・。この度は災難でしたね」
「……ミルキアーナ男爵? 貴殿がなぜがここに?」
「もちろん、貴殿の身元引受人となるためですよ」
「貴殿が? はっ! まさか、ミーナ嬢を襲った件の復讐か!? ち、違うぞ! あれは――!」
「ミーナ? ああ、そういえば貴殿の部下が暴走されたようですね。いえ、それとは別の理由です」

 ミルキアーナ男爵がミーナ様の事など、気にしていないという風を装って答えた。

「……なんだと?」
「実は、サーシス伯爵の領地ですが、私の方で色々対応しなけ・・・・・・・ればならない・・・・・・可能性があります。ですが、私では力不足でして……サーシス伯爵にフォロー・・・・して頂きたいのです」

 サーシスの目に邪な光が宿る。

「だが、我はもはや平民にだぞ? 大したフォローなど……」
「御心配なく。時期が来たらサーシス伯爵・・・・・・にふさわしい・・・・・・地位・・をお約束します。さすがに伯爵位は難しいと思いますが、それなりの地位を……ね」
「…………嘘ではないだろうな?」
「ええ、もちろん。身元引受の際の契約に記載しております」

 そう言ってミルキアーナ男爵は3枚の契約書を取り出し、サーシスに見せた。

「サーシス伯爵が平民となった際、私が身元引受人となる代わりに、サーシス伯爵には領の運営をフォローして頂くこと。時期が来たら、サーシス伯爵にふさわしい地位を与えることが明記されています。ご確認ください」
「…………なるほど。確かに偽りはなさそうだな」
「ええ。ご存じの通り、身元引受の際の契約には『魔法契約』が用いられます。契約内容を違えると、耐えがたい苦痛に見舞われるため、契約内容を違えることはありえません」
「ふむ。良かろう。この内容で合意するぞ」
「ありがとうございます。ザック殿もご確認をお願いします」
「……確認しました。この内容で問題ありません」
「ありがとうございます。それでは、署名をお願いします」

 そうして3人がそれぞれ契約書に署名を行っていく。



 ミルキアーナ男爵とサーシスの会話を聞いていた俺は不安に襲われた。

(契約内容を違えられないって……大丈夫なのか?)

 てっきり出まかせを言ってサーシスを騙すのかと思っていたら、契約内容を違えることができない魔法契約を結んでしまった。これでは、ミルキアーナ男爵は約束を違えることができない。

 俺が不安に思っていることを感じ取ったのか、クリスさんが説明してくれた。

「大丈夫ですよ。これは、ミルキアーナ男爵の罠です」
「罠……ですか?」
「ええ。一見、サーシスに有利に見える内容を提示し、サーシスの警戒を上手く解いて、魔法契約を結ばせようとしているのです」

 どうやら、クリスさんはミルキアーナ男爵の罠の内容を理解しているようだ。

「ミルキアーナ男爵はサーシス伯爵の身分を犯罪奴隷にして、今回被害にあった女児達、およびその家族のフォローをさせようとしているのだと思います。『サーシス伯爵にふさわしい地位』を与えて、『フォローして頂く』というのは、そういう意味でしょう」

 クリスさんに指摘されて気が付いた。確かにミルキアーナ男爵は『与える身分』や『フォローの内容』については明言していない。

「『私が色々対応しなければならない可能性がある』とか、『伯爵位は難しい』などと言って上手く意識を逸らしていますね。貴族の常套手段ですので、普段のサーシスならばもっと警戒したでしょうか、今のサーシスには効果的のようです」
「なるほど……」

 溺れる者は藁をもつかむ。サーシスは目の前に垂らされた蜘蛛の糸を疑わずに掴んでしまったのだ。その糸は、ミルキアーナ男爵が見せた夢だと知らずに……。
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