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第3章 躍進の始まり
64.【ニーニャさんとの関係】
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ミルキアーナ男爵と別れた俺達は、宿を出て寮に向かった。寮に着くとマーサさんが出迎えてくれる。
「店長さん、お帰りなさい。ミルキアーナ様もようこそいらっしゃいました。お部屋へ案内しますね」
「あ、マーサさん。ミーナ様だけでなく、リンダさんも寮に入れて欲しいんですけど――」
「ええ。そうなると思って、ミルキアーナ様の隣の部屋も準備できております。リンダ様もご案内しますね」
さすが、頼りになる管理者だ。マーサさんに案内してもらい、皆で荷物を運ぶ。その後、ミーナ様とリンダさんは荷解きを行い、バミューダ君にはお店に戻ってもらった。
「ミーナ様! また後でお話ししましょう! ……です!」
「ええ! 待ってますわ!」
バミューダ君もミーナ様も、お店に来た時と比べると、とても明るくなった。
(マグダンスさんとナタリーさんも仲良くしていたし、チェスの販売も順調。順風満帆だな!)
「いやー。ほんにミーナ様とバミューダ君が上手くいってよかったなぁ」
「そうですねぇ。マグダンスさんとナタリーさん、お兄義様とクリス様も順調みたいですし、皆さん、色々良い感じですねぇ」
ふいにすぐ後ろから声が聞こえてくる。恐る恐る振り返ると、ニーニャさんとマナが立っていた。
「ほんで? わてのことはいつ娶ってくれるんや?」
「そうだよ! 私も娶ってもらわないと、ユリピと家族になれないでしょ!」
一度はミーナ様を娶ることを覚悟した身だから頭から否定しづらい……いや、ちょっと待て。
「ニーニャさんはまだしもマナはおかしいだろ。お前、ユリと結婚するとか言ってなかったか?」
「何言ってるの? 女同士で結婚できるわけないじゃない。頭大丈夫?」
「――お前が言い出したことだろ!」
「にゃははは。……ところでお義兄様。私はおかしいけど、ニーニャさんはおかしくないんですね」
「え?」
「ニーニャさんはまだしも私はおかしいんですもんね?」
「…………あっ」
しまった。
「ふふふ。これで依頼は達成ですよね、ニーニャさん!」
「せやな! おおきに、マナはん。これ約束の魔道具や」
ニーニャさんがマナに魔道具を手渡す。
(あれは……カメラ? どう見てもカメラだよな?)
「やったー!! これでユリピの可愛い姿を永久に……うふふふ」
(なっ!)
「マナはん。ちゃんと本人の許可は取るんやで?」
「分かってまーす!」
そう言ってマナは走って行ってしまった。大丈夫だろうか。
「そんな心配せんでも大丈夫や。あれであの子は賢い子やで。盗撮みたいなことはせぇへんよ。アレンはんもわかっとるやろ?」
「まぁ……そうですね。少なくともユリに嫌われるようなことはしないでしょう」
「そういう事や。……そんなことよりアレンはん」
ニーニャさんが俺の顔を見て言う。
「ほんに、わてのこと考えてくれとるやねぇ?」
「それは……」
「あはは。かまへんかまへん。今は意識してくれるだけで十分や。よう考えて、ちゃんと答えだしてくれたらそれでええ」
ニーニャさんの事は嫌いではない。ミーナ様のように俺が結婚しなければ不幸になるのであれば、結婚することもやぶさかではない。だが、今の状況で俺と結婚することが、ニーニャさんの幸せにつながるとは、どうしても思えないのだ。
「ま、あんまり時間かけ過ぎとうて、嫁の貰い手がいのうなったら、アレンはんに責任取ってもらうけどな。その時はよろしゅう頼んます」
そう言って、ニーニャさんも行ってしまった。
「ニーニャ様、本気ですね」
立ち尽くす俺にクリスさんが話しかけてくる。
「クリスさん……休憩ですか?」
「ええ。マナ様と交代で休憩です。一緒に休憩室に行きませんか?」
「そうですね。ご一緒させて頂きます」
クリスさんと一緒に休憩室に行き、ソファーに腰かけた。
「アレンさんはモテモテですね」
「そんなことは……」
「それだけ甲斐性があると思われているんです。女はその辺、敏感ですよ。まぁアレンさんの魅力はそれだけではありませんけど……」
「うぅ……」
顔が赤くなるのを感じる。
「ニーニャ様はミーナ様と違い、アレンさんが結婚しなくても不幸にはならない。だったら俺なんかと結婚しない方が幸せになれるんじゃないか? とか、考えてます?」
「お、おっしゃる通りです……」
何も言い返せないくらい考えている事そのままだった。
「アレンさん。ニーニャ様の幸せはニーニャ様が決めるのです。アレンさんが決める事ではありません。ニーニャ様の幸せを理由に断るのは不誠実です」
クリスさんがピシャリと言う。
「アレンさんはご自分の気持ちを考えてください。そうでないと、ニーニャ様も納得されませんよ」
「自分の気持ち……」
「ご自分の気持ちを考えて出された答えであれば、ニーニャ様も……もちろんわたくしも納得できます」
クリスさんに言われて考えてみる。自分がなぜ、ニーニャさんとの婚約にしり込みしているのか。
(前世の倫理観? いや、ミーナ様を娶ると決めた時には覚悟も決めた。 ニーニャさんの人格? いや、ニーニャさんの事は愛してはいないけど好ましく思っている……)
そして1つの答えにたどり着く。
「私は……愛せない事が嫌なんです」
「愛……ですか?」
「ええ。ニーニャさんに限らず、クリスさん以外のどんな女性を妻にしも、私はその方を愛する自信がありません。でも、愛のない結婚はしたくありません……ミーナ様の時はやむを得ない事情がありました。でも、ニーニャさんはそうではありません。だからどうしても抵抗を感じてしまうんです。……商人失格ですね」
「……そうかもしれませんね」
クリスさんがはっきりと答えた。
「ですが、それがアレンさんのいい所です。少なくとも私はそんなアレンさんが好きですよ」
「クリスさん……」
クリスさんは俺の目を見てほほ笑んでくれる。
我ながら、商人失格の考え方だと思う。頭の中がお花畑と言われても仕方ないかもしれない。それでも、『たった一人でも、自分の価値観を肯定してくれる人がいる』事が、とても心強かった。
「今のお話をニーニャ様にお伝えしてみてはいかがでしょう? 今のお話なら、ニーニャさんも納得されると思いますよ」
「そうですね。今日の業務後にでも話してみます。アドバイス、ありがとうございました」
「いえいえ。これも正妻の役目ですから」
(頼りになる奥さんだ)
クリスさんに後押しされて、俺は、ニーニャさんと話す事を決意した。
その日の終業後、ニーニャさんに店長室に来てもらい、2人で話をした。俺の価値観、特に、結婚についての考えを聞いてもらう。
「なるほどな。愛せないから結婚できひんゆうわけやな」
「そうです。ニーニャさんの事は好ましく思っています。でも、俺が愛しているのはクリスさんだけなんです」
「――愛なぁ。正直よくわからん感情やったけどあんさんらや他の皆はん見てたら何となく分かった気がするわ」
ニーニャさんが自分の手を見ながら話し続ける。
「商売勘定抜きにただ相手の事を想う。そういう感情なんやろ? 確かに、愛し愛され結婚出来たら幸せなんやろな。商売勘定ばかりやってきとったわてにはまぶしく見えるで」
「そんなことは……」
「まぁええわ。ほんならわての婿探しは一旦保留にさせてもらいますわ。話はそれだけか?」
「ええ。お時間頂き、ありがとうございました」
「こちらこそ。ちゃんと答えてくれておおきに」
ニーニャさんはソファーから立ち上がり、扉の方に歩いていく。
扉の近くまで行ったニーニャさんが振り返って言った。
「アレンはん」
「なんでしょう?」
「……わてが愛っちゅうもんを知った時。……もし、その相手があんさんやったら、あんさんはわての気持ちを受け止めてくれるんか?」
「……受け止めると約束することはできません。ですが、必ず向き合うと約束します」
「あはは。なんやそれ。なんの意味もない約束やないの」
ニーニャさんは楽しそうに笑って言う。
「約束やからな?」
「ええ」
にっこりとほほ笑んだ後、ニーニャさんは店長室を後にした。
「店長さん、お帰りなさい。ミルキアーナ様もようこそいらっしゃいました。お部屋へ案内しますね」
「あ、マーサさん。ミーナ様だけでなく、リンダさんも寮に入れて欲しいんですけど――」
「ええ。そうなると思って、ミルキアーナ様の隣の部屋も準備できております。リンダ様もご案内しますね」
さすが、頼りになる管理者だ。マーサさんに案内してもらい、皆で荷物を運ぶ。その後、ミーナ様とリンダさんは荷解きを行い、バミューダ君にはお店に戻ってもらった。
「ミーナ様! また後でお話ししましょう! ……です!」
「ええ! 待ってますわ!」
バミューダ君もミーナ様も、お店に来た時と比べると、とても明るくなった。
(マグダンスさんとナタリーさんも仲良くしていたし、チェスの販売も順調。順風満帆だな!)
「いやー。ほんにミーナ様とバミューダ君が上手くいってよかったなぁ」
「そうですねぇ。マグダンスさんとナタリーさん、お兄義様とクリス様も順調みたいですし、皆さん、色々良い感じですねぇ」
ふいにすぐ後ろから声が聞こえてくる。恐る恐る振り返ると、ニーニャさんとマナが立っていた。
「ほんで? わてのことはいつ娶ってくれるんや?」
「そうだよ! 私も娶ってもらわないと、ユリピと家族になれないでしょ!」
一度はミーナ様を娶ることを覚悟した身だから頭から否定しづらい……いや、ちょっと待て。
「ニーニャさんはまだしもマナはおかしいだろ。お前、ユリと結婚するとか言ってなかったか?」
「何言ってるの? 女同士で結婚できるわけないじゃない。頭大丈夫?」
「――お前が言い出したことだろ!」
「にゃははは。……ところでお義兄様。私はおかしいけど、ニーニャさんはおかしくないんですね」
「え?」
「ニーニャさんはまだしも私はおかしいんですもんね?」
「…………あっ」
しまった。
「ふふふ。これで依頼は達成ですよね、ニーニャさん!」
「せやな! おおきに、マナはん。これ約束の魔道具や」
ニーニャさんがマナに魔道具を手渡す。
(あれは……カメラ? どう見てもカメラだよな?)
「やったー!! これでユリピの可愛い姿を永久に……うふふふ」
(なっ!)
「マナはん。ちゃんと本人の許可は取るんやで?」
「分かってまーす!」
そう言ってマナは走って行ってしまった。大丈夫だろうか。
「そんな心配せんでも大丈夫や。あれであの子は賢い子やで。盗撮みたいなことはせぇへんよ。アレンはんもわかっとるやろ?」
「まぁ……そうですね。少なくともユリに嫌われるようなことはしないでしょう」
「そういう事や。……そんなことよりアレンはん」
ニーニャさんが俺の顔を見て言う。
「ほんに、わてのこと考えてくれとるやねぇ?」
「それは……」
「あはは。かまへんかまへん。今は意識してくれるだけで十分や。よう考えて、ちゃんと答えだしてくれたらそれでええ」
ニーニャさんの事は嫌いではない。ミーナ様のように俺が結婚しなければ不幸になるのであれば、結婚することもやぶさかではない。だが、今の状況で俺と結婚することが、ニーニャさんの幸せにつながるとは、どうしても思えないのだ。
「ま、あんまり時間かけ過ぎとうて、嫁の貰い手がいのうなったら、アレンはんに責任取ってもらうけどな。その時はよろしゅう頼んます」
そう言って、ニーニャさんも行ってしまった。
「ニーニャ様、本気ですね」
立ち尽くす俺にクリスさんが話しかけてくる。
「クリスさん……休憩ですか?」
「ええ。マナ様と交代で休憩です。一緒に休憩室に行きませんか?」
「そうですね。ご一緒させて頂きます」
クリスさんと一緒に休憩室に行き、ソファーに腰かけた。
「アレンさんはモテモテですね」
「そんなことは……」
「それだけ甲斐性があると思われているんです。女はその辺、敏感ですよ。まぁアレンさんの魅力はそれだけではありませんけど……」
「うぅ……」
顔が赤くなるのを感じる。
「ニーニャ様はミーナ様と違い、アレンさんが結婚しなくても不幸にはならない。だったら俺なんかと結婚しない方が幸せになれるんじゃないか? とか、考えてます?」
「お、おっしゃる通りです……」
何も言い返せないくらい考えている事そのままだった。
「アレンさん。ニーニャ様の幸せはニーニャ様が決めるのです。アレンさんが決める事ではありません。ニーニャ様の幸せを理由に断るのは不誠実です」
クリスさんがピシャリと言う。
「アレンさんはご自分の気持ちを考えてください。そうでないと、ニーニャ様も納得されませんよ」
「自分の気持ち……」
「ご自分の気持ちを考えて出された答えであれば、ニーニャ様も……もちろんわたくしも納得できます」
クリスさんに言われて考えてみる。自分がなぜ、ニーニャさんとの婚約にしり込みしているのか。
(前世の倫理観? いや、ミーナ様を娶ると決めた時には覚悟も決めた。 ニーニャさんの人格? いや、ニーニャさんの事は愛してはいないけど好ましく思っている……)
そして1つの答えにたどり着く。
「私は……愛せない事が嫌なんです」
「愛……ですか?」
「ええ。ニーニャさんに限らず、クリスさん以外のどんな女性を妻にしも、私はその方を愛する自信がありません。でも、愛のない結婚はしたくありません……ミーナ様の時はやむを得ない事情がありました。でも、ニーニャさんはそうではありません。だからどうしても抵抗を感じてしまうんです。……商人失格ですね」
「……そうかもしれませんね」
クリスさんがはっきりと答えた。
「ですが、それがアレンさんのいい所です。少なくとも私はそんなアレンさんが好きですよ」
「クリスさん……」
クリスさんは俺の目を見てほほ笑んでくれる。
我ながら、商人失格の考え方だと思う。頭の中がお花畑と言われても仕方ないかもしれない。それでも、『たった一人でも、自分の価値観を肯定してくれる人がいる』事が、とても心強かった。
「今のお話をニーニャ様にお伝えしてみてはいかがでしょう? 今のお話なら、ニーニャさんも納得されると思いますよ」
「そうですね。今日の業務後にでも話してみます。アドバイス、ありがとうございました」
「いえいえ。これも正妻の役目ですから」
(頼りになる奥さんだ)
クリスさんに後押しされて、俺は、ニーニャさんと話す事を決意した。
その日の終業後、ニーニャさんに店長室に来てもらい、2人で話をした。俺の価値観、特に、結婚についての考えを聞いてもらう。
「なるほどな。愛せないから結婚できひんゆうわけやな」
「そうです。ニーニャさんの事は好ましく思っています。でも、俺が愛しているのはクリスさんだけなんです」
「――愛なぁ。正直よくわからん感情やったけどあんさんらや他の皆はん見てたら何となく分かった気がするわ」
ニーニャさんが自分の手を見ながら話し続ける。
「商売勘定抜きにただ相手の事を想う。そういう感情なんやろ? 確かに、愛し愛され結婚出来たら幸せなんやろな。商売勘定ばかりやってきとったわてにはまぶしく見えるで」
「そんなことは……」
「まぁええわ。ほんならわての婿探しは一旦保留にさせてもらいますわ。話はそれだけか?」
「ええ。お時間頂き、ありがとうございました」
「こちらこそ。ちゃんと答えてくれておおきに」
ニーニャさんはソファーから立ち上がり、扉の方に歩いていく。
扉の近くまで行ったニーニャさんが振り返って言った。
「アレンはん」
「なんでしょう?」
「……わてが愛っちゅうもんを知った時。……もし、その相手があんさんやったら、あんさんはわての気持ちを受け止めてくれるんか?」
「……受け止めると約束することはできません。ですが、必ず向き合うと約束します」
「あはは。なんやそれ。なんの意味もない約束やないの」
ニーニャさんは楽しそうに笑って言う。
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