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第2章 商会の設立

46.【後始末2 バミューダ君大活躍】

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 クリス様と2人でお店の売り場へ向かう。会話はなかったが、どこか幸せな空気を感じていた。しかし、売り場について目に入ってきた衝撃的な光景に、思わず絶句する。

「なっ!」
「嘘……」

 俺もクリス様も言葉に詰まってしまう。

「あ、店長様! これどこに置けばいい? ……です?」

 売り場ではバミューダ君が扉だったものを2つ、片手で軽々と持ち上げていた。

 よく見ると、親指と人差し指、それに小指と薬指で扉を1つずつ持っている。その隣ではマグダンスさんが何とも言えない顔をしていた。

「あ、えっと……外に置いてください」
「はい! ……です!」

 バミューダ君はまるで何も持っていないかのように軽やかな足取りで外に出て行く。

(いやいやいや! あれ、そこそこ重いはずだぞ!? 2人でなら1つずつ運べると思ったからお願いしたのに……)

「……私とマグダンスさんでここを掃除しましょう。クリスさんは外の販売所を手伝ってきてください」
「「分かりました」」
「店長様! 僕は何をすればいい? ……です?」

 いつの間にかバミューダ君が扉を置いて戻ってきていた。

「バミューダ君もここを掃除してください。あ、いや、先に壊れてしまった棚を外に出して頂けますか?」
「はい! ……です!」

 バミューダ君は元気よく返事をすると、扉がぶつかって壊れた棚を片手・・で持ち上げた。

「!?」
「店長様! こっちの棚も外に出す? ……です?」
「あ、そう……ですね。お願いします」
「はい! ……です!」
 
 もう1つの棚も片手で軽々と持ち上げる。実はあの棚は軽いのではないかと誤解しそうになるが、バミューダ君が歩くたびに聞こえるギシギシという音がそれを否定する。

 余りの光景に声が出ないでいると、マグダンスさんが話しかけてくる。

「凄いですよね、彼。昨日もほとんど休まず働いていたのに疲れた様子が見えないんですよ。彼が肉体労働を担当してくれるから、我々が他の仕事を担当できます。お店の運用に余裕があるのは、彼のおかげと言っても過言ではありません」
「そう……なんですね。それはボーナスを考えなければなりませんね」
「あはは。全くです」
 
 その後、3人がかりで売り場の掃除を行い、昼過ぎには店内の掃除が完了した。

「1日がかりになると思ったのに……」
「私もです」
「??」

 バミューダ君が尋常じゃない速さで瓦礫や破片を片付けてくれたおかげで、予定より早く片付けることができたのだ。

 本人はよくわかっていないのか、きょとんとした顔をしている。

「バミューダ君が凄すぎる……」
「昨日もすごかったんですが……今日はそれ以上ですね」
「全力で動いても店長様怒らないから頑張った! ……です!」
「……あれで全力じゃなかったんですね」
「これだけ動けるならどこも雇いたいだろうに……ってか、今までは怒られてたの?」
「『小さいくせに生意気だ』って怒られた……です」

 年下で自分より小さいバミューダ君が、自分より働けることが許せないということだろうか。

(くだらない……)

「……バミューダ君を雇って本当に良かったです」
「ですね。これだけの人材を埋もらせておくのはもったいないです。これからも頑張ってもらいましょう」
「はい! 頑張る! ……です!」

 その後、扉の修理を依頼するために役所に向かう。店舗は町から借りているので、自分たちで勝手に修理するわけにはいかないのだ。

 役所についたので、受付にいる女性に声をかける。

「すみません。クランフォード商会の物ですが――」
「あ、お待ちしておりました。店舗の修理の件ですね。アナベーラ会頭から伺ってます」

 そう言って手早く処理を済ませてくれる。

「それでは明日の9時に作業者を派遣させて頂きます」
「よろしくお願いします!」

 ミッシェルさんが根回しをしていてくれたおかげで、とてもスムーズに話が進んだ。これで明日からは通常通りの運用が行えるだろう。俺は役所を後にする。

 お店に戻ると、店外に設置した販売所で問題なく販売が行われていた。店内に入るとマグダンスさんが声をかけてくれる。

「あ、店長! おかえりなさい」
「ただいま。どう? 販売所の様子は?」
「順調ですよ。倉庫から遠いので品出しで苦労するかと思ったんですがバミューダ君が全部運んでくれたので、問題ありません。」

 店内を見ると、ちょうど倉庫からバミューダ君が出てきたところだ。

 その両手にはそれぞれ天井に届きそうなほどリバーシが山積みされている。

「あ、店長様! おかえりなさい! ……です!」
「た、ただいま……バミューダ君、よくそんなに持てるね……」
「これくらい余裕! ……です!」

 確かにバミューダ君が運んでいる様子は不思議と安定感があり、落としそうにない。

「そっか……凄いね! でも無理しないでね」
「はい! ……です!」

 そう言って、危なげなくリバーシを運んで行った。

「何とか今日はこのまま頑張ってください。明日の9時に修理の方が来てくれるので、明日からは元通り運用できると思います」
「承知しました。バミューダ君のおかげで大丈夫そうです。ちなみに店長、お昼は?」
「? まだですけど……」
「これからクリス様にお昼休憩を取って頂く予定です。外で接客されてますので、ご一緒に行かれてはいかがですか?」

 さすが、マグダンスさん。優秀な男である。

(うぉぉおおー! その気遣い、嬉しいけど恥ずかしい!!)

 顔を赤くしてしまった俺をマグダンスさんは笑顔で見送ってくれる。

 外の販売所に向かうと、そこではマグダンスさんの言う通り、クリスさんが接客をしていた。タイミングを見計らって声をかける。

「クリスさん、お昼休憩に入るようにってマグダンスさんが言ってました」
「――承知しました。ご伝言ありがとうございます」
「それで……よかったら一緒に休憩に行きませんか?」
「あ……はい! 喜んで!」

 スマートな誘い方ではなかったが、なんとか誘うことができた。ユリとマナがニヤニヤした顔でこちらを見ているが、見なかったことにする。

「それでは行きましょう。どこか行きたいところはありますか?」
「そうですね……もしよろしければ向かいのパン屋さんに行ってみたいです」
「ベーカリー・バーバルですか?」
「ええ。気になっていたのですが、まだ行ったことが無くて」
「そうだったんですね。では行きましょう! どのパンも美味しいですよ」
「はい!」

 そう言って2人でベーカリー・バーバルに向かった。



 ベーカリー・バーバルに入ると、アリスちゃんが今日も元気に動き回っていた。

「いらっしゃいませー! あ、アレンさん!」

 俺の姿を見つけたアリスちゃんがこちらへやってくる。

「大丈夫でしたか!? 扉が壊されたって聞きましたけど……」
「心配してくれてありがとう。もう解決したから大丈夫だよ。明日には扉も直るから心配しないで」
「そうなんですね! 良かったです! 様子を見に行きたかったんですけど手が離せなくて……あ、今日はお連れの方がいらっしゃるんですね!」

 アリスちゃんが俺の後ろにいたクリスさんに気付いた。

「初めまして。クリス=プリスタと申します」
「ご丁寧にありがとうございます! アリス=バーバルです!」

 挨拶をしながらアリスちゃんは何かに気付いたようでニヤニヤした顔を浮かべる。

「アレンさんも隅に置けませんね」
「え……いや、その……」
「でもダメですよ! デートならもっとちゃんとしたところに行かないと!」

(ここ、君のお店だよ!?)

 トムさんが聞いたら怒りそうなことをアリスちゃんが言った。

「い、いや、デートじゃなくて仕事中の昼休みだよ」
「そうなんですか? それにしてはお二人の空気が甘いような……」
「「え!?」」
 
 全く自覚がなかった。

「そんな空気出してた?」
「ええ。まるで付き合いたてのカップルの最初のデートのような雰囲気でした」

(鋭い!)

 俺もクリスさんも真っ赤になってしまう。

「な、なんでわかったの?」
「ふっふっふっ! 乙女のカンを舐めてもらっては困ります! まぁお二人は分かりやすかったですけどね」

 そんなにわかりやすかっただろうか。浮かれているつもりはなかったのだが……

「お二人とも幸せそうな顔をしていましたから。何にしても良かったですね! 末永くお幸せにです」
「あ、ありがとう」
「ありがとうございます……」

 俺に続いてクリスさんも顔を真っ赤にしてお礼を言った。

「さてさてアレンさん、そろそろ店内の独身男性が血の涙を流しかねないので、その話はまた今度聞かせてください。カレーパン、焼き立てですよ! 後、こっちの一口サンドイッチの詰め合わせもお勧めです! 何種類かありますのでクリスさんと半分こしてもいいと思います!」

 そう言われて店内を見渡すと、嫉妬の視線を向けてくる男性客がいることに気付いた。

「じゃ、じゃあ、カレーパンと卵のサンドイッチを頂こうかな。クリスさんはどうしますか?」
「あ、えっと……それでは野菜のサンドイッチとメロンパンをください」
「はーい! ありがとうございます!」

 アリスちゃんが勧めてくれたパンを買って俺達はベーカリー・バーバルを後にした。

(デートか……デート。行ってみたいな)

「あの……クリスさん。今度、2人で出かけませんか?」
「――! はい! 行きたいです!」

(よっしゃ! どこに行こうかな……分からない……後でみんなに聞いてみよう)

 幸せな未来を想像しながら、お店に戻る。
 
 なお、2人で半分ずつ交換して食べたサンドイッチは、今まで食べたパンの中で一番美味しかった。
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