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【side フィミール会長】
翌週、私達は新しく、『魔法空調機』を開発し、販売を開始する。気温が高めのこの国で、手軽に涼しい空間を作り出せる『魔法空調機』は爆発的に売れた。そして当然……。
「フィミール会長! ドッペル商会が、『魔法空調マシーン』を販売し始めました!」
「よし! 今回も完全にコピー?」
「はい! 完全にコピーされています」
「OK! それで、例の装置は?」
「テストでは問題ありませんでした。予定通り、実行できるかと。ですが……いいんですか? 本当にそんなことをして……」
「ここまできて何言ってるの。やるったらやるわよ。さ、もうひと踏ん張り! 頑張りましょう!」
「うぅ……分かりました」
仕込みは上々。後は、ドッペル商会とライル王子に気付かれず、来週を迎える事さえできれば、何とかなる。
私達は来週に向けて、色々と準備を進めるのだった。
【1週間後 side ドッペル会長】
フィミール商会が開発した『魔法空調機』を『魔法空調マシーン』として販売し始めて1週間。『魔法空調マシーン』は飛ぶように売れた。
というのも、最近は客達も、他商会で新商品が発売されても、ドップル商会から安く販売されるまで、新商品を買うのを控えていたからだ。今回も、一部の頭の固い客を除いて、多くの客がドッペル商会に『魔法空調マシーン』を買いに来た。
もちろん、出来る商人であるわしは、それを見越して、多くの『魔法空調マシーン』を製造させておいたので、在庫不足で販売中止となるようなことはなかった。そのため、販売から1週間で、多くの客に『魔法空調マシーン』を販売する事が出来た。
しかし……。
「ふざけんな!」
「お前らの商品だろ!! とっとと直せよ!」
「『魔法空調マシーン』のせいで、子供が熱中症になったんです! どう責任取ってくれるんですか!」
1週間後、ドップル商会に『魔法空調マシーン』を買った客達が、クレーマーとなって押し寄せて来た。どうやら、『魔法空調マシーン』に不具合が生じて、涼しい空間を作り出すはずが、周囲の温度を上げてしまい、さらには電源を切る事が出来なくなってしまったらしい。ただでさえ暑いのに、さらに温度を上げられて、怒り狂った人たちが、店に押しかけて来たのだ。
(くそっ! どうしてこんなことに!!)
わしは裏口から支店に入り、開発部に怒鳴りこむ。
「どうなっておるか!」
「か、会長!」
開発部の者がわしに気付いて振り返った。
「そ、それが……先週、購入したフィミール商会の『魔法空調機』と先ほど購入した『魔法空調機』で微妙に差異がありまして……」
「はぁ!?」
1週間で魔道具の仕様が変わるとは考えにくい。あるとすれば……。
「貴様……さては不良品を掴まされたな!!」
先週購入した『魔法空調機』に初期不良があったか、だ。
「そ、それは……その……で、ですが、複製する前に行ったテストでは問題なかったのです……1週間も経ってから不具合が発生するとは、考えにくいのですが」
「黙れ! 現に、今販売されている『魔法空調機』と差異があるのだろう? それが、貴様が不良品を掴まされたという動かぬ証拠ではないか! ええい、もうよい! とにかく、今販売されている『魔法空調機』を、急いで複製するのだ!」
「は、はい!」
わしの指示を聞いた開発部の者達は一斉に仕事にとりかかる。
(クッソ、とんだ赤字だ!)
この1週間で『魔法空調マシーン』は300台近く売れた。それはつまり、300台もの不良品が世に出回ってしまったという事だ。わしらはそれを、無償で交換する必要がある。
(ま、まあいい。『魔法空調マシーン』は1000台以上売れる見込みだ。ここで気付けて良かったと思うべきだろう)
そう思っていたのだが……。
【一週間後】
商会には、先週を超える数の人々が押し寄せてきていた。
「「「ふざけるなー!!」」」
「「「家族が体調を壊した! 責任を取れ!!」」」
(なぜだ! なぜこんな!)
わしは、先週同様、裏口から商会に入ろうとする。しかし……。
「おい。あいつ、ドッペル商会の会長じゃないか?」
「そうだ! ドッペル会長だ! おい、皆! 会長がいたぞ!」
「捕まえろ! 捕まえて責任を取らせるんだ!!」
「なっ!!??」
わしは、半ば暴徒と化した人々に捕まってしまった。
「き、貴様ら! わしにこんなことをして、どうなるか分かっているのか! わしは――」
『わしはライル王太子と懇意にしている。わしに暴力をふるえば、ライル王太子が黙っていない!』。そう続けるつもりだったのだが、わしの声は、人々の怒号でかき消された。
「うるせー!! こんな不良品売りつけやがって!」
「責任は取ってもらうからな!」
「「「そうだ! そうだ!」」」
怒りの感情に支配されている人々は、わしの声など、聞く耳を持たない。
「なっ! 貴様ら! ――ぐへっ!」
そうするうちに、わしは地面に押し倒され、踏みつけられた。
「や、やめ――ぐはっ!」
「ここに裏口があるぞ! 店の裏に入れる!」
「俺達からだまし取った金が保管されているはずだ! 取り返せ!」
「俺達の金だ! 皆! 行くぞ!!」
「「「おおぉぉおお!!!」」」
倒れているわしを踏みつけながら、人々は店の中に入って行く。
(い、痛い! 痛い痛い痛い! や、やめてくれ…………)
大勢の人々に踏みつけられながら、わしの意識は遠のいていった。
翌週、私達は新しく、『魔法空調機』を開発し、販売を開始する。気温が高めのこの国で、手軽に涼しい空間を作り出せる『魔法空調機』は爆発的に売れた。そして当然……。
「フィミール会長! ドッペル商会が、『魔法空調マシーン』を販売し始めました!」
「よし! 今回も完全にコピー?」
「はい! 完全にコピーされています」
「OK! それで、例の装置は?」
「テストでは問題ありませんでした。予定通り、実行できるかと。ですが……いいんですか? 本当にそんなことをして……」
「ここまできて何言ってるの。やるったらやるわよ。さ、もうひと踏ん張り! 頑張りましょう!」
「うぅ……分かりました」
仕込みは上々。後は、ドッペル商会とライル王子に気付かれず、来週を迎える事さえできれば、何とかなる。
私達は来週に向けて、色々と準備を進めるのだった。
【1週間後 side ドッペル会長】
フィミール商会が開発した『魔法空調機』を『魔法空調マシーン』として販売し始めて1週間。『魔法空調マシーン』は飛ぶように売れた。
というのも、最近は客達も、他商会で新商品が発売されても、ドップル商会から安く販売されるまで、新商品を買うのを控えていたからだ。今回も、一部の頭の固い客を除いて、多くの客がドッペル商会に『魔法空調マシーン』を買いに来た。
もちろん、出来る商人であるわしは、それを見越して、多くの『魔法空調マシーン』を製造させておいたので、在庫不足で販売中止となるようなことはなかった。そのため、販売から1週間で、多くの客に『魔法空調マシーン』を販売する事が出来た。
しかし……。
「ふざけんな!」
「お前らの商品だろ!! とっとと直せよ!」
「『魔法空調マシーン』のせいで、子供が熱中症になったんです! どう責任取ってくれるんですか!」
1週間後、ドップル商会に『魔法空調マシーン』を買った客達が、クレーマーとなって押し寄せて来た。どうやら、『魔法空調マシーン』に不具合が生じて、涼しい空間を作り出すはずが、周囲の温度を上げてしまい、さらには電源を切る事が出来なくなってしまったらしい。ただでさえ暑いのに、さらに温度を上げられて、怒り狂った人たちが、店に押しかけて来たのだ。
(くそっ! どうしてこんなことに!!)
わしは裏口から支店に入り、開発部に怒鳴りこむ。
「どうなっておるか!」
「か、会長!」
開発部の者がわしに気付いて振り返った。
「そ、それが……先週、購入したフィミール商会の『魔法空調機』と先ほど購入した『魔法空調機』で微妙に差異がありまして……」
「はぁ!?」
1週間で魔道具の仕様が変わるとは考えにくい。あるとすれば……。
「貴様……さては不良品を掴まされたな!!」
先週購入した『魔法空調機』に初期不良があったか、だ。
「そ、それは……その……で、ですが、複製する前に行ったテストでは問題なかったのです……1週間も経ってから不具合が発生するとは、考えにくいのですが」
「黙れ! 現に、今販売されている『魔法空調機』と差異があるのだろう? それが、貴様が不良品を掴まされたという動かぬ証拠ではないか! ええい、もうよい! とにかく、今販売されている『魔法空調機』を、急いで複製するのだ!」
「は、はい!」
わしの指示を聞いた開発部の者達は一斉に仕事にとりかかる。
(クッソ、とんだ赤字だ!)
この1週間で『魔法空調マシーン』は300台近く売れた。それはつまり、300台もの不良品が世に出回ってしまったという事だ。わしらはそれを、無償で交換する必要がある。
(ま、まあいい。『魔法空調マシーン』は1000台以上売れる見込みだ。ここで気付けて良かったと思うべきだろう)
そう思っていたのだが……。
【一週間後】
商会には、先週を超える数の人々が押し寄せてきていた。
「「「ふざけるなー!!」」」
「「「家族が体調を壊した! 責任を取れ!!」」」
(なぜだ! なぜこんな!)
わしは、先週同様、裏口から商会に入ろうとする。しかし……。
「おい。あいつ、ドッペル商会の会長じゃないか?」
「そうだ! ドッペル会長だ! おい、皆! 会長がいたぞ!」
「捕まえろ! 捕まえて責任を取らせるんだ!!」
「なっ!!??」
わしは、半ば暴徒と化した人々に捕まってしまった。
「き、貴様ら! わしにこんなことをして、どうなるか分かっているのか! わしは――」
『わしはライル王太子と懇意にしている。わしに暴力をふるえば、ライル王太子が黙っていない!』。そう続けるつもりだったのだが、わしの声は、人々の怒号でかき消された。
「うるせー!! こんな不良品売りつけやがって!」
「責任は取ってもらうからな!」
「「「そうだ! そうだ!」」」
怒りの感情に支配されている人々は、わしの声など、聞く耳を持たない。
「なっ! 貴様ら! ――ぐへっ!」
そうするうちに、わしは地面に押し倒され、踏みつけられた。
「や、やめ――ぐはっ!」
「ここに裏口があるぞ! 店の裏に入れる!」
「俺達からだまし取った金が保管されているはずだ! 取り返せ!」
「俺達の金だ! 皆! 行くぞ!!」
「「「おおぉぉおお!!!」」」
倒れているわしを踏みつけながら、人々は店の中に入って行く。
(い、痛い! 痛い痛い痛い! や、やめてくれ…………)
大勢の人々に踏みつけられながら、わしの意識は遠のいていった。
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