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第三章 クラス丸ごと異世界転生!? 追放された野獣が進む、復讐の道は怒りのデスロード!

3-291.J.B.(146)Gorilla(ゴリラ)

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 事前に潜入していただろうシーリオ食屍鬼グール兵にボバーシオ国軍兵、獣人傭兵の争う西城門前の混乱、混戦。その状況を割るかの荒々しいだみ声。
 その声だけで、そいつが馬鹿でかい巨漢なのが分かるような響きだ。
 どこだ? 何者だ? 砂嵐の先を見通し、またその声を聞き逃さずに気配を探した先には、まさに予想通りの巨漢……いや……ゴリラによく似た野郎が居る。
 
 いやいや、とにかくその、黒革の鎧を着たゴリラらしき獣人が、混乱の中威風堂々歩いている。
 手に持つのは巨大なハンマー。まるで子供の作った不細工な粘土細工の金鎚をそのまま大きくしたみたいなデザインのそれは、どう考えても人が手に持って使う為に造られたとは思えない。
 だがその冗談みたいな巨大ハンマーをぶんと一振りすると、食屍鬼グールもボバーシオ防衛隊も、また荷車や籠やら樽に柱やら、それらあらゆる全てを吹き飛ばし道を開ける。
 
 何者か、と言う俺の疑問に答えはない。何せ誰彼構わずに吹っ飛ばすその様からは、ゴリラ野郎がどっちの陣営のもんなのかすら推測させてくれねぇ。
 だがそのゴリラ野郎が城門の内側へと向かい、再び振り上げた巨大ハンマーを門扉へと叩き付けた振動と音が、そいつの目的を知らしめる。
 
 食屍鬼グール達の動きが変わる。それまでの狂乱したような暴れ方から、そのゴリラ野郎を囲んで邪魔をさせないかのようなフォーメーション。
 
「テメ、やらせッかよッ!」
 叫びながら俺の横を突風のように走り抜けるのは、チーターに似た俊足の猫獣人バルーティ戦士のドゥーマ。手にした曲刀を振り抜いて斬りつけるも、あっさりと蹴り飛ばされ地面に転がる。
 ゴリラ野郎は上げた蹴り脚をそのまま前へと踏み込み、振りかぶった巨大ハンマーが城門の大きな扉へと叩きつけられる。
 とんでもねぇ破壊力で、バカでかい音とともにぐしゃりと門扉が歪んだ。
 こりゃ破城槌よりも凄まじい。あと数回……下手すりゃ2、3回ほどぶっ叩きゃあ破られかねねぇぜ。
 
 止めに行こうとも俺は酔っ払いの千鳥足程度にしか動けねぇ。そこらの食屍鬼グール達に体当たりするくらいの事なら簡単だが、あの馬鹿でかゴリラ野郎にそれが効くとも思えねぇ。
 こりゃどーにもならねぇが、だからってボケっと見てるワケにもいかねぇし、糞、どうすりゃ良いかと頭をフル回転。
 四苦八苦しながらも倒れされた柱に巻き付いてる厚めの天幕を回収。その片方を近くの獣人傭兵へと渡し、「手放すなよ!」と叫んでから入れ墨魔法の風の魔力を最大限に引き出してから駆ける。その分、渦巻きまとわりつく砂嵐にも魔力を奪われて行き、手にした天幕にもダメージがあるが、それ以上の速さで西小城門の扉の前まで。滑り込みスライディングするようにしてゴリラ野郎の足元をぐるりと周ると、城門の石壁を蹴りつけてターンし戻る。
 
「ぬおっ!?」
 
 再度の攻撃にと巨大ハンマーを振りかぶっている最中だったゴリラ野郎は、不安定な体勢で足を天幕に絡め取られる。
 ズガン、と巨大ハンマーが再び門扉を叩くが、今度はまるで芯を食ってねぇ。ただその掠るような打撃でも、木の表面がエグいくらい削られてやがる。
 
「糞、小うるさい糞蠅めっ!」
 
 糞、を二回も重ねる位には苛立って、足に絡まる天幕をなんとか外そうとしているが、図体の雰囲気通りに、その手の細かい動作は得意じゃなさそうだ。
 ここは畳み掛けて行きたいところだが、やはりまとわりつく砂嵐のせいで思うようにはいかない。
 そこへ、今度はまた別の援軍がやってくる。
 それも……2人、いや、3人だ。
 
 這うように低い姿勢で素早く踏み込んだかと思いきや曲刀を一閃。だがその刃先は頑丈な黒い手甲に弾かれる。
 その上、高い跳躍からの跳び蹴りが側頭部を打つ。衝撃に吹き飛ばされるかってな一撃。その上……空中で続けざまに回転しながら二撃、三撃と叩き付ける。
 
 上と下、間髪入れずの連撃。目にも留まらぬ……てな勢いでの猛攻に、足元の不自由なゴリラ野郎は素早く対応出来てない。
 
「……うん、多分、見たこと、あるね」
 
 斑模様のひょろっとした猫獣人バルーティ戦士、スナフスリー。
 
 着地し、体勢を整えるルチア。
 
「ふん、俺はお前など覚えておらんわ!」
 
 わめきがなるゴリラ野郎は、だが先ほどの連撃で有効なダメージを負ってるとも思えない。
 
 対峙する2人と1人。スナフスリーがかなりの凄腕なのは知っている。もちろんルチアもだ。
 だが明らかに体格だけとってもまるで大人と子供。2人が小さいんじゃなく、ゴリラ野郎がデカすぎるんだ。
 
「JB、まずはリラックスをしろ」
 
 その対峙する二者を遠巻きにする国軍兵たち。そして俺の背後でそう囁くのは、マヌサアルバ会の会頭、闇夜の女王である吸血鬼のアルバ。
 
 アルバは暗闇の中から粘着く粘液のような闇の塊……触手のようなものを呼び出して、俺の周りに蠢き巻き付いている砂嵐の魔物へとそれを伸ばす。
 闇の魔力対風の魔力。これこそ取り立てて相性の良し悪しもない組み合わせだが、どちらも本来実体のない魔力の塊。だがその無数の闇の触手は俺の周り……いや、俺にまとわりつく砂嵐の周りをぐるぐると取り囲む様に……または、閉じ込めるようにして幾重にも巻き付く。
 
「風の防護膜を最大に厚く、強く、大きく広げよ」
 
 アルバのその声に、何かしらの勝算を嗅ぎ取った俺は、
 
「マジか!? イケんだよな、それで!? 信用してるからなッ!」
 
 と叫び返してから指示通りに魔力を防護膜へと強く回す。
 これまではやんわりとした薄い空気の膜のようだったそれを、まずは厚みを徐々に増していく。
 それから、これまたさらに膜全体を大きく、強く、分厚く重ねる。
 ここまでやると、シジュメルの翼の空を飛ぶ機能に回る魔力はない。それどころか身体を素早く動かす為の魔力もない。ただただひたすら分厚い空気の膜を身体の周りにまとっているだけだ。
 しかもその空気の圧は、外側にだけじゃなく内側、つまり俺自身へも加わってくる。自分で自分の作った空気の圧力にへこまされそうだぜ。
 
 三重の圧力。
 俺自身が発している空気の圧。
 その外側を囲み、まとわりつく激しい風と砂、石粒の圧。
 そしてそのさらに外側、闇の触手だか天幕だか、そんなもんが毛糸玉みてぇにぐるぐる巻きにしてきている圧。
 その真ん中で俺は、ただそれらに押し潰されまいと踏ん張っている事しか出来ない。
 
 だがその踏ん張りにゃあ意味があった。次第に纏わりつく砂嵐が、その外側、渦巻く闇の触手に掴まれたようにして剥がされていく。それに抵抗しようとしてか、内側に居る俺への圧が減ってくる。
 待てよ、てことは……だ。
 俺はさらに“シジュメルの翼”で作られる空気の膜を分厚く大きく広げていく。
 
 内側からは俺の膜、外側からアルバの操る闇の触手。内から押され、外からは引っ張られ。こりゃ奴としてもたまらねえだろう。魔力による押し相撲だが、単純に言ってこっちゃ2人掛かりだ。
 その均衡が明確に破られ、ついにひとかたまりの砂嵐としての実体を保てなくなったかと思うと、散り散りに引き裂かれ分裂して弾け飛ぶ。
 
「うお、危ねッ……!」
 
 弾け飛ぶ砂嵐は、最後の反撃かそれともただの断末魔か、鋭く切り裂く刃となって四散。
 
 その一部が、未だ天幕に絡まり、またスナフスリーとルチアに囲まれていたゴリラ野郎を自由にした。
 
「えぇい、鬱陶しいわ!」
 
 巨大ハンマーをぶんと振り回す……かと思いきや、ハンマーを杖代わりに地面へとついて、それを軸にして身体を反転、バランスとしてはそう長くはないが、体格そのものが巨体なためリーチのある脚が数人の獣人傭兵達を蹴り飛ばす。
 スナフスリーとルチアはすんでのところでそれをかわすが、それも間一髪、危ういところだ。
 
「厄介よのう、あの猿獣人シマシーマめ……」
 そうアルバが言う通り、ありゃまさに一騎当千……は言い過ぎとしても、1人で軍勢相手に戦える強者だ。
 とは言え……。
 
 自由になったのは奴だけじゃない。
 分厚い膜にしていた“シジュメルの翼”の風の魔力を再びいつも通りに全身へと巡らせ、右足を前に出して地面を蹴る。
 そのままジェットの勢いで弾丸のような低空飛行から、ドワーフ合金製隼兜で奴の腹へと不意打ちの頭突き。倒れるか……と思いきや、地面へ突き立てた巨大ハンマーを支えにして堪える。
 
 俺は身体を捻ってから奴の身体と城門のアーチ壁を蹴りつけて反転し再び後ろからの蹴り。今度こそはと思うものの、やはりたいした手応えはない。
 
 ゴリラ野郎の左手が俺の足を掴もうとするが、身体をひねって転がるように離脱。ある程度のダメージは入った……と思いてえが、こんなのは不意をついた奇策奇襲。二度目はもう通用しねぇだろう。
 
「……蠅……ども……めっ……!」
 
 やや苦しげな声か。いや、どちらかと言えばただ怒りゲージが増して厄介度が上がっただけかもしんねぇ。
 
「ありゃ肉弾戦じゃどーにもなんねぇな。アルバ、良い手はねぇか?」
「あまり頼るな。アスバルに魔力を供給したばかりで、こちらもややガス欠気味だ」
 言いつつ、再び唱える呪文で闇の触手が影から伸びる。それがそのまま伸びて行くかと思いきや、散り散りに細かくなってゴリラ野郎に寄って集る。
 
「ぬぐあぁ……ッ! く……止めろッ……!」
 
 こちらもまた、黒く、小さく、それでいて鋭い牙までついている厄介者、コウモリの群れだ。
 今度はさっきの俺の状態をゴリラ野郎が再演してくれる。巨大ハンマーは離さず、それでも両手足をばたつかせのたうち回り辺りを破壊。
 
 巨体で怪力頑強だろうと、ぱっと見でも30だか40だかのコウモリに集られまとわりつかれちゃたまらねぇ。しかも小さいとは言え牙もある。噛みつき騒がれ引っかかれ、その厄介ぶりは見てるだけでも怖気が立つ。
 
 スナフスリー、ルチアに他の獣人傭兵達はそれを遠巻き警戒しつつ、まずはまたまだうろついている食屍鬼グール兵と戦う。
 下手に近付きゃ巻き込まれる。つまりアルバの次の手頼み。
 俺はそのアルバの横でいつでも動けるように待機。ゴリラ野郎以外の思わぬ伏兵がアルバを狙う、邪魔するかもしれねぇからな。
 
 今度はなかなか長めの呪文で、それは要するに「それなりにデカい魔法」の準備中だ。周りに警戒し、数人の食屍鬼グール兵を牽制しつついると……、
 
「喝ッ…………!!」
 
 と、鼓膜を破りそうな大音声。
 誰か、てのは言うまでもなくあのゴリラ野郎。
 
 目を見開いてそちらを見ると、ボトボトと地面に落ちてるのはアルバの召喚したコウモリ達。
 
 不気味なオーラを放つかにこちらを睨むゴリラ野郎は、その気合いと大声だけでコウモリの群れを叩き落としやがった。
 
「小賢しい真似ばかりしおって……ッ!」
 
 巨大ハンマーを振りかぶりながら、その図体からは想像出来ない瞬発力で一足飛びに突進してくる。
 こりゃマズい。アルバは呪文詠唱中の無防備状態。夜の吸血鬼だから見た目に反した不死性があるとは言え、あの図体のゴリラ野郎があの巨大ハンマーでぶん殴りゃ、タダでは済まないのは明らかだ。

 アルバの前に立ちはだかる。さっきやったように“シジュメルの翼”の防護膜をとにかく厚くする。だがさっきと違うのは、広げていくんじゃなくその逆、出来るだけ小さくコンパクトに、それでいて……そう、魚の流線型のように俺と背後のアルバを囲んで張り巡らせる。
 完全受け身特化の“シジュメルの翼”の防護膜。今までやった事ぁねえが、多分イケるはず……!
 
 振り抜かれる巨大ハンマー。
 かすればそれだけで骨ごと持っていかれそうな圧力。
 だがそれを俺は、左腕のドワーフ合金製の篭手で受け……そのまま後方へと流す……!
 
「……ンぐぁッ!?」
「ぬッ……!?」
 
 空手じゃとても出来やしねぇ。
 ドワーフ合金製の篭手の硬度。
 その上で、俺の身体の周りに高密度で張られた空気の防護膜。
 それらで、下から受けて滑らせるように奴の巨大ハンマーの力の方向を逸らして流す。
 
 俺の左上側から来たその巨大ハンマーの力は、わずかに見えただろう俺の動きを受けて、まるでダンスパートナーのようにするりと沿うと、右後方へ。
 
「ふはッ!」
 
 嘆息か、笑いか。そう大きく息を吐くゴリラ野郎は、受け流された力に振り回される事もなく、半歩踏み込んで俺の横。
 そして流された勢いのままに、今度は手を返して巨大ハンマーを半回転させると、柄の部分で俺の顔面をぶっ叩く。
 
「ンぐぁ……ッ!」
 
 今度こそ大当たりだ。鼻面を潰されたカエルみてぇな悲鳴……いや、嗚咽を漏らしふっ飛ばされる俺。
 
「ハッ、ハッ! なかなかやりおるッ!」
 
 半回転から一回転。ターンを決めて再び巨大ハンマーを構えて俺へと向き直るが、その時間でアルバは呪文の詠唱を終えていた。
 
 ずぶり、と沈み込むゴリラ野郎。
 
 足元は既に砂っぽい地面じゃねぇ。瘴気ただよう泥沼と化し、奴の膝元近くまでを既に飲み込んでいる。
 
 アルバ自身は呪文を唱え終わるとともに退避して離脱。スナフスリーにルチア、他の獣人傭兵達もまた距離をとっている。
 俺はと言えば、ぐらつく奥歯と抜けた左肩の痛みに悲鳴を上げないよう歯を食いしばって立ち上がり、半ば転がるようにさらに後ろへ。
 半径1パーカ(3メートル半)ほどの淀んだ沼地は、ゴリラ野郎を中心にしてそこからさらにじわじわと範囲を広げている。ぼやぼやしてると俺まで飲み込まれそうだ。
 
 ゴリラ野郎は自分の足がずぶずぶと沼へとはまっていくのを一睨み。そこへ数人の獣人傭兵達が投石を始めとする投擲武器で攻撃を仕掛ける。
 その大半を振り回す巨大ハンマーで弾き飛ばしつつ、ゴリラ野郎は一転してつまらなさそうに周りを見回し、
 
「時間切れだ」
 
 と吐き捨てる。
 そのまま、振り上げた巨大ハンマーを沼地の淵へと叩き付け打ち込むと、その勢いで両足を抜く。そしてまるで棒高跳びの要領で身体を持ち上げたかと思うと、そのままの勢いで大きく前方への伸び上がって半回転、まだ固い地面へと降り立った。
 
 嘘だろ、と思わず声が漏れる。ふざけた身体能力だぜ。あの巨躯、体重で、まるで体操選手みてえな軽業だ。
 
 だが驚きはそこで終わらねぇ。いや、ゴリラ野郎の軽業っぷりへの驚きは、すぐさま別の驚きで打ち消されちまう。
 
 どしん、との振動に、より大きな破壊音。
 分厚い跳ね橋にもなる木製の門扉が、今度こそあの巨大で筋骨隆々な犬獣人リカート食屍鬼グール兵2人のパワータッグに粉砕されたのが、誰の目にも明らかだったからだ。
 
 
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