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第三章 クラス丸ごと異世界転生!? 追放された野獣が進む、復讐の道は怒りのデスロード!

3-160.クトリア議会議長、レイフィアス・ケラー(71)「そうだ、彼らにも来て貰おう」

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「何をそんなに、いつまでもいじけてるんですか?」
「はい? 別にいじけてなんかいませんけど?」
 妖術師の塔での執務室内でのデュアンのツッコミに、僕は空惚けでそう答える。
 
「へぇ~、そうですかねぇ~?」
「うわぁう! なんだよもう、ニヤニヤしやがって、くそ~!」
 デュアンがからかい気味でそう言って来るのは、クトリア郊外居留地ぐるりご挨拶周りから市街地へと戻って、マヌサアルバ会へと行ったときの話だ。
 
 カーングンスの外交担当として市街地へとやってきたアーロフ一行を案内するというのもあったけれども、何よりもまずはアルバに例の“災厄の美妃”の持ち主と思われる刺客について報告せねばならなかった。
 そのため、帰ってきて早々使いを出して翌日訪問の意を伝え、翌朝には訪ねて行ったのだけれども……だ。
 
「会頭はナナイ様と共に南海諸島へと行ってしまわれました」
 
 モディーナ曰わく、だ。
 
 ハァ~!? である。
 母のナナイが南海諸島へ行くのは、ヴォルタス家との関係があるしまあ分かる。
 僕らとはボーマ城塞で別れ、ロジウス・ヴォルタスと共に船でそのまま向かったのも知っている。
 んが!
 アルバさん、関係無いじゃん!?
 なんでも母ナナイが南海諸島へ行ったという話を聞いた後、数人の護衛を連れてその後を追って行ったらしい。
 流れる水も渡れれば、他人の許可無く部屋に入ることもできるこの世界の吸血鬼であるアルバは、ボーマ城塞へと行き船を出して貰って船旅に。
 それからとんと、音沙汰なしだと言う。
 
 バカンスか!? バカンスなんですか!?
 昼間は弱体化はするしダメージもありはするものの、灰になってしまうほどではないこの世界の吸血鬼たるアルバさんは、やろうと思えば白い砂浜の海岸で日光浴もできれば、ビーチバレーだってビーチフラッグだってビーチサイドミュージカルだって出来ちゃう。
 南の島のバカンスを満喫することも、一応は可能なのだ。
 
 しかも怪しいのは例の“ダークエルフの血”問題だ。
 吸血鬼である彼女らにとって、血を吸うという行為は、血を媒介にして魔力を得るという行為だということを知ったのはつい先日のこと。しかもその上、僕らダークエルフの闇の魔力にあふれた血は、彼らにとっては超高級ワイン並みの至福の味だと言う。
 けれどもそういう吸血行為は、同時に麻薬のような依存症と中毒の原因にもなる。
 それらの吸血依存症になってしまったような吸血鬼こそが、巷説にのぼる「血に飢えた魔物」の狂える吸血鬼像だと言う。
  だから、アルバ達には「血を吸うのはもうやめましょう。その代わり時々ならば魔力循環マッサージなどを通じて、ある程度の魔力を提供するぶんにはやぶさかではないですよ」
 と言う話をして、一応の決着がついた。
 
 しかし!
 僕と違って母のナナイはその辺結構無頓着だ。鬼の居ぬ間になんとやら、ではなく、僕の目がないところで、「ちょっとだけ、血を吸わせてくださいお姉さま」みたいな? 的な? やつを?
 やらかしてんじゃ~ありませんで~しょうね~~~? えー、そうなんですか? そうなんですか、アルバさん!?
 
 ……との、疑惑は、拭い着れないッッッッ!!!
 
「いや~、流石にただの遊びで行ったワケじゃ無いでしょ~」
「黙らっしゃい!」
 へらへらと笑いおって!
 
 ……いや、まあね。分かってますよ、ええ。分かってます。
 半分は羨ましいからです、単に。
 南の島でバカンス。知ってか知らずかイヤンバカンス。グッドコーヴで海の幸いただいてちょっと羽を伸ばせるかなと思いきや、またもやトラブル&人探しクエスト発生でバタバタ。市街地に戻れば王国特使団との本格交渉待った無し。
 はぁ、のんびりしてぇ。
 のんびりしてぇでござる。
 
 いいな~、南の島。
 
 ……あ、いや、てか、“災厄の美妃”の持ち手情報は情報で、早くに伝えておきたいんだけどさ。
 
 ◇ ◆ ◇
 
 ボバーシオでの人探しクエスト自体はJBに担当してもらうことになった。
 これはまあ、一番には適材適所たこども、もう一つは他にそれを担える人材が居ない、てのもある。
 僕やイベンダーは王国特使団との会談があるし、エヴリンドにデュアンはその僕の護衛、サポート。
 アダンやダミオンら他の遺跡調査団面子は、JBに比べればこういう潜入任務には向いてない。
 マヌサアルバ会は隠密に向いているけれども、今回はプレイゼスのボス、ベニートの追跡も含まれている。
 それにマヌサアルバ会の誰かを入れるのは、三大ファミリー同士の関係性として問題が出る。
 一応、貴族街三大ファミリーはそれぞれ上院議会のメンバーと言う事になってはいるが、元々はお互い虎視眈々と相手の寝首を掻く機会を窺うような敵対関係者同士。
 じゃあ、マヌサアルバ会とプレイゼスからそれぞれ入れたらどうか? と言うと、そうなればリーダーのJBの心労が絶えない。さらにクランドロールまで絡んだりしたら尚更だ。
 ただ、彼らはそれぞれに隠密巧者が居るのだから、将来的には何かしら組ませて一つの諜報組織を編成するのは悪くないとは思う。
 まあ、先の話だね。
 
 最終的に編成されたメンバーは、JBをリーダーとして、カーングンス呪術騎兵のマーゴ、ボバーシオに詳しい猫獣人バルーティの狩人スナフスリー、そしてノルドバの警備兵で元王国兵のクリスピノ・ボーノ。
 うーんむ……かなりの混成部隊だなあ。
 
「なに、そう悪い面子じゃないぞ? JBは素早く、“シジュメルの翼”を使いこなし、瞬時の判断力も優れてる。
 マーゴはカーングンスの呪術騎兵として、騎射に呪術にと応用力も高い。
 ボーノは……まあ、精神面に身体能力とやや不安もあるが、弓術、剣術のみならず、歴戦の王国兵士としての知識と経験が強味だ。
 スナフスリーは言うまでもなく、地の利に詳しく、猫獣人バルーティならではの身体能力に戦闘技能、そして鋭敏な感覚がある」
 イベンダーはそう言うのだけど、いや、正直……。
 
「う~ん……能力面への不安はそんなに無いんだよ。気になるのは、さ……」
 文化背景の違い。
「カーングンス、元王国兵、猫獣人バルーティの狩人……共通点が無さすぎるよね……」
 育ってきた環境が違うから、好き嫌いは否めないワケで、価値観から生活習慣から違いすぎるがゆえの文化的衝突……ある得るよなあ。
 けれどもイベンダーは、僕のその危惧を聞いてもニヤリと笑い、
「だからこそのJBだ。恐らくこの世界に生きてる者の中でも、あいつほど皮膚感覚で多種多様な文化を知ってる者もそうはおらん」
 と。
 確かに、言われて見ればその通りだ。
 前世ではアメリカのスラム育ちだが、 白人と黒人の両親のミックスルーツを持つ彼は、白人コミュニティと黒人コミュニティの両者を知っている。さらにはそこで様々な事に挑戦してきたことからも、多くの文化的経験をも持ってもいる。
 生まれ変わったこの世界では、 南方人ラハイシュとして砂漠の村に生まれ、リカトリジオスの奴隷となり、クトリアでの孤児暮らし。そこから探索者となって、今では貴族街の三大ファミリーから各地の居留地にカーングンスまで、様々な勢力とも交流している。
 彼の持つそれらの体験は、まあ100年を越す年月の三割り近くを放浪の旅に費やして来たと言う母のナナイには及ばないだろうけど、この世界の人間の、さらには10代の若者としては破格と言えるだろう。
 改めて……そうだ、確かにその通りだ、と考える。
 確かにその通り。あの混成部隊のまとめ役に、彼以上の適任者は居ないのだ。
 
 ▽ ▲ ▽
 
 彼らの出立を見送って、さてと改めて王国特使団との交渉への準備に取りかかる……と、行く流れだけども、実際他にも諸々ある。
 
 出立を見送ったのは遺跡調査団本部の中庭。ここは彼ら遺跡調査団の訓練場としても、またはJBやジャンヌ等の居た孤児グループや、下働きに賄い方などで雇われてる人たちの家族、子供達の遊び場、憩いの場としても使われている。
 
 そこそこの人数が集まり見送った中には、ジャンヌ以外の孤児達も居る。
 その彼ら、彼女らが、こう、やや遠巻きにして注目してくる感じ……。
 や、なかなか久しぶりではある。
 
 言うまでもなくクトリア人はダークエルフを見慣れてない。ちまたに噂だった邪術士シャーイダール以外にクトリアにダークエルフが居たという話は無いし、それらも含めて畏怖の対象。
 その上で僕は、かの“ジャックの息子”により王権を授けられた王の名代と言う立場なので、さらに畏怖されてる。
 ここの所色んなことがあり、また、貴族街三大ファミリーや元シャーイダール探索者達に王の守護者ガーディアン・オブ・キングス、ボーマ城塞勢にカーングンスと、一筋縄ではいかない人達や、元々ダークエルフへの恐れがあまりない人達との交流が多く、ともすれば忘れがちながらも、この「やや遠巻きに様子を伺う」感こそが、クトリア人一般、いや、人間達一般のデフォルトなダークエルフへの反応なのだ。
 
「おう、お前ら、ちゃんと礼儀正しく挨拶しろってんだよ」
 そこでそう、やや高い声で孤児達へ言うのは、遺跡調査団見習いのクレト。
 ジャンヌの孤児グループでは年長者で、ジャンヌがクトリア市街地へ来た当初から連んで居るらしい。聞いたところによると、元々は地下街に住む別の孤児グループのリーダーだったが、王都解放後にクトリア郊外からやってきたジャンヌ達の集団に喧嘩をふっかけ、逆にコテンパンにのされて以来の仲間なのだとか。
 だもんで、本人はジャンヌに次ぐ副リーダーみたいなつもりだとかで、シャーイダールの探索者が新しく遺跡調査団として再編する際にも、ジャンヌが議員となり調査団の仕事があまり出来なくなる“代わり”に、俺がやってやるぜ……と言う具合で入って来たのだと言う話。
 実際、クレトの実力も、また孤児グループの中でのリーダーシップもなかなかのモノだとかで、将来の有望株ではあるらしいの、だ、が……。
 
「いいか、お前ら! コイツはよ、ギカイのギチョーだか何だかってーのやってっからよ? つまりはジャンヌのボスなんだよ。ジャンヌは俺たちのボス、そしてコイツはそのジャンヌのボスだから、俺たちの大ボスなんだ。わかったな!?」
 
 ……と、まず口が悪い。そして色々認識がおかしい。
 いや、まあ、 不細工ながらも議会制民主主義に似たような、出来損ないの政治システムをこれから構築しようとしているわけだけれども、そもそも彼ら孤児どころか多くのクトリア一般市民にとって、国の政治というもの自体理解の範疇外。
 議会制民主主義の出来損ない、てのはその通りで、地区ごとに分けたとはいえ結局はそこで力のある勢力のボスか、そのボスの指示を受けた誰かが議員になり、その議員が寄り集まって議会を作る。これは言うなれば、部族連合と大して変わらない。
 法治主義が徹底して行き届かない上、いわゆる国民国家としての体をなさない以上、結局は議会なんてのは各部族勢力の調整役としてしか機能しない。まあそれを言うなら、前世における民主主義を標榜する国家のうちどれだけの国が、そういう“部族連合”ではない民主主義体制を作れていたかといえば疑問ではあるけどもね。
 
 とは言え……いやいや、この孤児の子達から、「大ボス」として見られるというのも、ちょっと居心地悪い。
 
「ええと……クレト、それは違いま……」
「だからよ! ひょろひょろでへなちょこで、すッ……げぇ弱そうに見えたってよ、ボスのボスは俺たちにとっての大ボスなんだからよ? ゼッテーに失礼のないようにするんだかンな!?」
「分かった!」
「しつれいしない!」
 いや、もう、既に諸々失礼だし!?

「ええと……大ボス、は、違います。 立場上評議長ですが、それはどちらが上でどちらが下かという意味ではありません。あくまでまとめ役、役割です」
 なるべく分かりやすく説明しようとするが、
「だから……色んな奴らのボスを纏める大ボスだろ?」
 と、クレト。
 うぅ~む、難しい……!
 
「だが、その“大ボス”役は、また代わるぞ。もしかしたら将来は、ジャンヌが大ボス役をやるかもしれん」
 イベンダーが横合いからそう補足する。
 それを聞いたクレト、驚いて目を見開きながら硬直する。そして不自然な所作と表情で、
「や……やめてくれよオッサン、俺らは、ギチョー様に謀反なんざ……お、起こす気ねぇって……よ?」
 と。
 
 うむ、いかん、全く伝わってない!
 
「あんまアホなことばっか言ってんじゃねーよ、クレト!」
 少し離れたところでアデリア達と何やら話していたジャンヌがやって来て、クレトの後ろ頭を軽くはたく。
「いや、マジだってばよ。ジャンヌだってよ、別に、ギチョー様を裏切ったりなんてな、考えてねーもんな?」
「あー、そうではなくて、ですね。
 つまり、議長と言うのは役目でしかなくて……あ~……」
「当番だよ、当番。
 掃除当番、水汲み当番、料理当番、ゴミ捨て当番……。いろいろアタシらだって持ち回りでやってんだろ? それと同じで、誰かが議長っていう当番をやるのさ」
「そう、それ! ナイス説明!」
 ジャンヌの見事な説明で、クレトにもやや……なんとはなく……理解は出来た……ような気がする。
 
「あ、あとさ~。レイフ、今時間ある?」
 着いてきたダフネがそう聞いて来たので、
「え~……と、少し、なら?」
「よかった! 前に話してた、教育用絵本? あれの試作版が結構揃って来たからさ、ちょっと見てみてよ」
 おっと、そういえばそういえば、だ。
 “ミッチとマキシモの何でもそろう店”のミッチ氏の持つ活版印刷技術に触発され、クトリア市民の教養レベルの底上げのために簡単な教本を作ろう計画には、“妖術師の塔”に集まっている読み分け会の面々にも協力をお願いしている。
 その手始めが、計算や読み書きの懸賞付き絵本で、基礎的な計算や簡単な読み書き教本を物語形式にした絵本の最後に、それらを元にしたちょっとしたクイズがついている。
 クイズの方はある程度は難易度も高くしてあるが、それに正解すると賞金や賞品か貰える、というもの。
 もちろんそれだけで簡単に教育レベルが上がる事は無いだろうけど、「学びの習慣」を身につけてもらうための第一歩、というところだ。
 
「分かりました、確認しましょう。今、ありますか?」
「原稿は塔に保管してあるものの他は何人かが分散して持ってるから、連絡して妖術師の塔に持って来てもらえばけっこう揃うよ」
 とのこと。
 んでは早速戻って……と、そう考えてから、思い付く。
 そうだ、彼らにも来て貰おう、と。
 
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