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第三章 クラス丸ごと異世界転生!? 追放された野獣が進む、復讐の道は怒りのデスロード!

3-120.マジュヌーン(72)農場にて -見上げてごらん夜の星を

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 午前中にラアルオームで新しい天幕用に必要な資材を買い足し、昼の間にカリブル達が目星をつけた場所を午後からは簡単に整地。
 猛き岩山ジャバルサフィサ連中や元奴隷なんかも総出で場所を作るが、当然何よりも大活躍してたのは、生ける重機ことダーヴェの奴だ。
 アールマールから買い付けしていた木材なんかもけっこうたんまり蓄えてあるし、いつでも新しい畑や建物を作れるよう道具も揃えてある。
 それでまあ、夕方になるまでにはとりあえず、ある程度の地均しで平地を作り出しておけた。
 
「まったくお前らよ……俺たちが買った土地の中にゃ、もうちょっと住みやすい所なんかいくらでもあるんだぜ。なんでこんな岩ばっかりの所を選ぶんだよ?」
 くそめんどうくせえ整地作業にうんざりしてそう愚痴ると、
「ふん! 我らの部族名を忘れたか? 猛き岩山ジャバルサフィサ……。我が故郷は、岩に囲まれた場所だったのだ」
 
 ゴツゴツし切り立った岩山に囲まれ、中心にオアシスの湧き水がある。そこに天幕を建てて暮らしていたのだと言う。
 実際確かにちょっとした天然の要害みたいなところだったらしい。そしてカリブルとしてはそのミニチュア版みたいな感じのところをここに作りたい。そういうことだそうだ。
 
 猛き岩山ジャバルサフィサ犬獣人リカート達は、今晩からそこに簡易な天幕を立てて寝泊まりをすると言う。食事含めた生活の諸々も自分たちで何とかすると言うが、まあとりあえず数日分の食料や生活必需品を渡しておく。
 言うなりゃ俺たちの農場の端っこの区画に、新たな別の村ができたようなもんだな。
 
 ▽ ▲ ▽
 
 夜風に当たりながら、俺は一人屋根の上で寝転びながら、ひょうたん入りのバナナ酒をチビチビやりつつ月を眺める。
 スナフスリーじゃねーが、実際カシュ・ケン特製のこいつはなかなかクセになる。
 その近くを、こそこそバタバタと歩き回る音といくつかの匂い。本人たちは隠れてるつもりだろうが、生憎と猫獣人バルーティの耳と鼻は誤魔化せねえ。
 
「おい……、ほ、本当に……行くのかよ?」
「当たり前だろ? なんだか調子のいいこと言ってるが、結局あいつらだって獣人だ。どっかに紹介するとか言ってたが、どうせ奴隷として売り飛ばすに決まってる」
「けどよう……」
「川を下りゃ、クトリア人が作った町があるらしいじゃねえか。とにかくそこまで逃げりゃあ……あ、あとは、なんとかなんだろうよ」
 
 まったく、せわしねぇ奴らだな。
 つうか、獣人だから信用できねえっつっときながら、俺達が説明したバールシャムに関する情報はまるまる信じるってどういうこったよ?
 
 俺はひょいっと屋根から飛び降りると、ぽんぽんぽんと跳ねるような調子で軽く駆ける。
 いたずら心でもって先回りをすると、さもずっとそこにいたみてぇなツラをしてから「よお」と、そいつらに声をかけた。
 
「ひぃっ!?」
「で、でたァ!?」
 おいおい、こちとらお化けじゃねーんだからよ? ビビるにしてもその言い方ァねえだろうよ。まあ、このツラじゃあお化けだと思われても仕方がねえか。
 
「いくらバールシャムがクトリア人の作っても町だって、先立つモンがなきゃどーにもなんねーだろ? これをもってけ」
 そいつらの足元に投げて寄越すのは、革の財布と諸々を詰めたズタ袋。
 革財布の中には、少なくともバールシャムで5日は暮らせる程度の金。
 ズタ袋にはドライナッツにドライフルーツ、煎って乾燥させた豆に干し肉といった保存食に水入りの皮袋と、あとまあ火口と松明。つまりは簡易旅セットだ。
 
「朝にも説明したが、とりあえず仕事が欲しいなら河川交易組合にでも行ってみろ。葦舟作って魚取りしたってそれなりに食ってはいけるぜ。細けぇ細工物とかも出来るってんなら、パトラ・ザイジの雑貨店に仕事もらいに行ったって良い。ま、好きにしろや」
 
 南方人ラハイシュが2人にクトリア人が1人の3人組は、驚きと恐怖に固まったようになりながら、大口開けたままで俺と地面に落ちた袋との間に視線をいったりきたりさせている。
 
「いらねぇのか? 遠慮深いな」
「……あ、いや、そ、そう言うワケじゃ……」
「お前らかここで四、五日寝泊まりする分よりは安上がりだ」
 ま、こりゃ嘘だがな。
 
「だがな……」
 と、ここで一旦言葉を区切り、ギロリと3人を睨む。
 
「よからぬ考え起こして、山賊だの野盗だの、強盗追い剥ぎに身を落としゃあ“砂漠の咆哮”に依頼が来るかもしれねぇ。
 そんとき俺がその依頼を受けることになりゃあ……俺なら確実に仕留める。覚えときな」
 
 今度はさっきの驚きメインの恐怖じゃねえ。腹の底から心底怯える恐怖ですくみ上がる。
 あわあわと言葉にならねえような返答をしながら、そいつらはひったくるようにして皮財布とズダ袋を掴んで、慌てて走り去る。
 
「転けるなよ! ラアルオームまで、しばらく下り坂だからな!」
 
 もちろん返事はなく、ただただ走り去る音だけが耳に残る。……あ、転けたな。
 
 この辺のことは想定内だ。実際、完全に自由になれると思ってついて来たワケじゃねえだろうし、その頭で考えりゃ、カシュ・ケンが提示した今後のことなんてのはむしろ胡散臭くて仕方ねえわな。
 条件が良すぎたら逆に信用できねえ、てのもそりゃ道理。ただ、その気持ちは確かに分かるが、かと言って心を尽くして信頼を勝ち取ろう……なんて暇も余裕もねえし、そこまでやる義理もねぇ。
 何よりどうあれ、結局は選ぶのは奴ら自身だ。
 俺はその中で、奴らが最悪の結末を選ばないようにしてやるだけ。
 それこそ、バールシャムで偽グリロドに従ってた連中みてーな事にならねーようにな。
 
 遠くまで走る連中の足音が、ほとんど聞こえなくなるまでそこにいる。
 真っ暗な夜道だが、ここからラアルオーム間にはそう危険はないし、だいたい遅くとも二時間、一刻ていど歩けば着く。街の外にも安宿があり、サービスも客層のガラも悪いが、遅くまで開いている。
 そこから先は、あいつら次第。
 
 再び、静寂の中俺はまた屋根上に登って人心地着く。
 まあ、恐らくはもう逃げ出す奴は居ないだろう。残った南方人ラハイシュ達がその後どういう選択をするかは分からねえがな。
 
 ほんの少しだけ夜風を浴びて、あと一口バナナ酒を飲んだら、すでにマハの寝ている俺の部屋のベッドに戻る。そのつもりでいたところ……ちょっとした不意打ちを食らう。
 
 投げつけられたのはマディの実と言うサバンナの果物。だいたいここより南の蹄獣人ハヴァトゥたちの住む地域に多く自生してる。
 赤ん坊の拳くらいの大きさで薄い緑の皮と大きな種があり、味も形も前世で言うプラムによく似てる。
 それを片手で受け取って、そのまま一口。
 
「なんだ? お前も飲みにきたのか?」
 そう問う相手はマディの実を投げてきた一人の猫獣人バルーティ、ムーチャ。
 聞かれたムーチャは無言のまま、愛想笑いのひとつもせず、その小さくてずんぐりむっくりした体で、軽やかにひょいひょい屋根へと登ってくる。
 俺の横に立ちながら、ムーチャは夜空を見上げる。
 見上げながら、小さくぼそぼそとした声で何やら話す。いや、話すと言うか、こりゃあ……。
 
「───あれが、お前の星」
 指し示す先にはいくつもの星。
「どれだよ」 
 あんだけある星空から、あれ、なんぞと言われてもさっぱり分からん。
「───分からないなら、いい。
 とにかくお前の星は昔から変だ。勝利と成功の幸運と、暗い影がいつもつきまとう」
「へえ、そりゃあ厄介だな」
 内心の動きを悟られ無いよう、視線も合わせず、平易な声でそう返す。
 
「……二重の星と言う。
 昔から星読みの間で伝えられる奇妙な運命を持つ者のこと。その者は、一度死ぬ……んにゃ、死に瀕した時に星の力を得て甦る。
 蘇ってから後は、不思議な知識や特別な力に目覚め、様々な富や幸福を獲得する……」
 
 やはり、内心を隠したままそれを聞く。ムーチャの言う“二重の星”の者とやらは、まさに俺やカシュ・ケン、ダーヴェにアスバル……つまり、あの爺により死してからこの世界へと生まれ変わりをさせられた奴らそのものだ。
 
「……あるいは、破滅」
 
 続くムーチャの言葉は、さらに俺をドキリとさせる。
 
「“砂漠の咆哮”の試験受けた最初のときから、お前とアスバルの“二重の星”を見ていた。お前たちの持つ運命の力、それを上手く利用出来ないか考えてた。
 マハはお前を気に入ってた。だからマハの従者になり、お前たちに着いて行くことにした。
 そしたら……予想を超えて、大きな運命の渦が現れた」
 
 ムーチャの言う星詠みとやらの精度がどれほどか分からねえが、俺たちとラアルオームに向かって早々に、“二重の星”の持ち主がさらに二人現れ、しかもそれが俺の旧知だってんだ。俺がムーチャの立場なら、確かにそりゃあドラマチックに感じるだろうぜ。
 
「……その、何だ? 何でお前は、その……星詠みとか言うのが出来るんだ? それで、何が分かるんだ?」
 
 俺はそこで、今度はムーチャへと聞き返す。
 
「部族の秘伝。術師の部族だ。ワタシは部族の星詠みの巫女の血筋。沙流海の沙鬼に仕えた部族の末裔。もはや形骸化した伝統。
 伝統も伝説もほとんど意味は成さない。けど、星詠みの秘伝は本物」
 
 沙流海は残り火砂漠の危険地帯の中でも群を抜いたトップクラスで、廃都アンディルやドニーシャの廃神殿なんかとは違い探索の対象にすらならない。シンプルにただ、あまりにきめ細かい砂が海のように広がっていて、流砂に飲まれれば沈み込み死を待つのみとなる地域のことだ。
 しかもその流砂は、時期により変動し位置や範囲が変わるのだと言う。
 その沙流海の奥には沙鬼と呼ばれる不思議な力を持つ種族が居る……というのも伝説伝承の類で、ある種の信仰の対象にもなっている。
 ムーチャが妙に魔術、伝承の類に詳しいのも、なる程そう言われると納得出来る。
 
「星詠みで分かるのは、その者の持つ運命。それだけ。未来や過去が見えるワケじゃない。ただ、推測する。
 お前たち4人が、皆、“二重の星”を持ち、運命的な結びつきがあるのは、今空を見ても分かる」
  
 それが分かるってだけでもかなりのもんだとは思う。だが、ムーチャのさっきの言葉には、それ以上のことが含まれてる。
 
「影───。
 お前の“二重の星”にねっとり絡みつく影が現れたのは、最終試験の後だ。
 最初はほんの少し。小さな傷のような影だった。だがそれは、事あるごとに大きく膨らみ、力を増している。
 今回……廃都アンディルから、リカトリジオス軍との戦いを経て……その影はさらに大きくなった」
 
 この世界へと半ば強制的に生まれ変わりをさせられた俺たちの持つ“二重の星”……。その上でムーチャはさらに、俺の心臓に住み着き絡みつく“災厄の美妃”の影をも星詠みで見て取っている。
 
「───お前は、無愛想でムカつく、いやな奴だ。だが……悪い奴じゃない」
 相も変わらずムスッくれたような無愛想なツラで、ムーチャはそう言う。
「だから、気を付けろ。影に、飲まれるな。
 もし……お前の影がワタシやマハを巻き込みそうになったら、ワタシは逃げる」
 そう言うムーチャの顔は、やはりいつもと同じく不機嫌そうなへちゃむくれで、そしてやはりいつもと同じく言葉の真意も読めやしねえ。
   
「……うるせえ、お前が人に“無愛想”とか言えた柄かよ」
 俺は軽く笑いながらそう返す。
「ふん、ワタシのは“ミステリアス”。お前とは、違う」
 
 はっ! まったくよく言うぜ。
 とは言え確かに……その“ミステリアス”なプロフィールの一部を、今日は僅かに垣間見たってわけだ。
 
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