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第二章 迷宮都市の救世主たち ~ドキ!? 転生者だらけの迷宮都市では、奴隷ハーレムも最強チート無双も何でもアリの大運動会!? ~

2-89.J.B.(58)Smokin' Cheeba Cheeba.(プカプカ)

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「くぁーーー! マジか!?」
「糞ッ!! ぜってー次はアップが来る流れだったのによ!!」
「やべぇ、俺もう種銭無くなって来たわ……」
 
 あーあーあー、まあ見てらんねーわこりゃあよ。
 薄暗く煙ったい一室は、貴族街三大ファミリーの一つ、“気取り屋”パコの所属しているプレイゼスの賭場。
 やっているのは単純なサイコロ博打のアップダウン。
 サイコロを二個振って、親よりも大きい目を出せるかを競うもの。
 策略も駆け引きもありゃしない、完全に運だけのゲームだが、世の中そういう“運気”みたいなのを信じる奴は少なくないから、それなりに盛り上がる。
 
 俺? 俺は基本的にギャンブルはやらない。少なくとも運否天賦だけのヤツはな。
 ポーカーみたいな駆け引きや、チェスみたいな戦略の効くヤツならやりようはあるが、俺は自分が幸運に恵まれてるとは思っちゃ居ない。いや、もしかしたら悪運ならあるのかもしんねーけどよ。
 カモられて……いや、遊んでるのはシモンとその同輩先輩お仲間たち。
 そう、つまりヴァンノーニファミリーの『銀の輝き』従業員達の中の現地採用組の下っ端の連中だ。
 
 『銀の輝き』のヴァンノーニファミリーは、辺境四卿の一人“毒蛇”ヴェーナの領地に本店を構えている。
 各地に支店を出しているが、それぞれ第一夫人から第五夫人までの五組の子どもらに経営を任せ競わせて、業績が良い者に後々家督を譲る……と言う決まりらしい。
 そのため、腹違いの各兄弟姉妹達は血縁とは言え完全なライバル。『獲得せよ、さもなくば死ね』という家訓の元、水面下では熾烈な争いを繰り広げているという。
 グレタとジャンルカも当然、その腹違いの兄弟姉妹間での過酷な生存競争を続けている。
 奴らが手段を選ばず、時には残虐きわまりない卑劣な方法ででも儲けに執着するのはそのためだ。
 そしてその従業員達の中にも、ある意味運命共同体とも言える腹心達が居る。
 要するに、地元から連れてきた生え抜きと、シモン等現地採用の下っ端たちとではその立場扱い諸々、雲泥の差なのだそうな。
 
「足りないなら、もう少し都合するぞ?」
 酒のマグを軽く回しながら、壁際のソファから鷹揚にそう言うのは俺……ではなくハコブだ。
 今この貸し切り部屋には、俺、オッサン、ハコブ、そして例のガンボンという名のけったいなちびオークに、シモン含めた7人の“下っ端”従業員達が居る。サイコロ博打に興じているのはそのシモン達7人のみ。
 ハコブと俺は最初に呼び水として軽く賭けた後はソファで観戦モード。オッサンはその後も少し遊んでいたがすぐに飽きたようだ。ガンボンはハナから全くやってないで、隅っこでちみちみとつまみを食べている。まあガンボンも連れてきたのは、単にこいつをアジト周辺に残して行くのが不安だったからというだけなので、その辺勝手にしてて貰って構わない。てか余計なことしなきゃそれで良い。

「あーー……いや、流石にもうヤバい。これ以上借りたら返せなくなる」
「おいおい、何言ってんだよ!? これからだろう、負け分を取り返すのはよォ!?」
「そうよ! 次こそ……次こそ来るぜ! いや絶対に来る!」
 
 やるべきか、やめるべきか? To be or not to be? それが問題だ……が、いやいやちっとばかしは良心が痛むぜ。何せ奴らは絶対に勝てない。
 運が無いからか? いや、そうじゃない。
 イカサマだからだ。
 ネタは単純。特殊なサイコロを使い、ディーラーは高い目が出やすく、シモン達は小さい目が出やすくなっている。つまり確率が操作されているからだ。
 ディーラーはその二種類のサイコロを巧みに隠し使い分けている。
 勿論、たまには勝つ。それも確率だ。けどだいたい7対3くらいで負ける。
 そういう風にやるように、と、俺からパコに頼んである
 俺達とパコとでグルになってシモン達をハメているわけだ。そりゃ良心も痛む。
 
 けど、俺だって別に奴らが憎くてハメてる訳じゃ無い。
 重要なのはこっから先。まずは奴らに俺達への借金、という形で貸しを作る。
 それから酒やら何やらで、「楽しいお話」をし易くなってもらう。
 借金なんてのは後々適当にうまいこと処理するし、それで追い込むつもりなんか無い。欲しいのは情報。それだけだ。
 
 ■ □ ■
 
「あぁ~、くっそー! 全然ツイてねえぜ!」
 場所は変わって二階、さほど大きくはないショーステージのよく見える位置の仕切がある半個室、まあちょっとしたVIPルームで、マグを盛大にあおりつつそう愚痴る『銀の輝き』“下っ端”従業員たち。
「賭けってのはそういうもんだ。良いときもありゃ悪いときもある。
 だが、コイツは違う。酒はいつでも最良の友だ」
 イベンダーのオッサンがそう調子の良いことを言いつつ、自分のマグを掲げて一口。
「ああ、違ぇねえ!」
「特にこの蒸留ヤシ酒は最高だな!」
 勿論、俺達がプレイゼスへと卸したボーマ城塞の酒だ。
 
「今夜は好きなだけ飲んでくれ。全部俺の奢りだ!」
 両手を広げて大盤振る舞いのハコブ。
「おおー!」
「流石だぜ!」
 先程の負けなど忘れたかのように意気揚々だ。
「お、そこの煙草とってくれよ」
「はぁー、良いねえ。酒と煙草と良い音楽。たまんねーなァ、プレイゼスの店は」
「くそー。取り巻き連中の給料なら、しょっちゅうこういう所にも来れるんだろうなァ~」
「俺達ゃ良くても、半年に一回くれえだな」
 まー、奢りだってーのに存分に楽しんでやがる。
 ショーステージでは今は数人の楽士達による演奏。なかなかにムーディーな雰囲気だ。
 
「しっかしよォ~、お前ら本当に最近羽振りが良いよなァ~」
 そう言いながら赤ら顔をしたシモンが俺に寄りかかる。息もかなり酒臭い。
「はァ~、しくじったぜー。俺もあんとき、お前と一緒にシャーイダールの探索者に入れてもらってればなァ~」
 俺が探索者になる前、何度か日雇いで『銀の輝き』の仕事をしたときに、ほぼ同じくして入ってたのがシモンだ。
 その後俺は早々にヴァンノーニファミリーとは距離を置いたが、シモンはそのまま残り続けた。
「ヴァンノーニだって儲け自体は悪かねえだろ?」
「そーでもねえよ。
 ここ最近店は閉めっぱなしだしよ」
「そういやそうらしいな。何があった?」
 
 そうらしいな、なんてのも白々しいが、ここ何日もの間『銀の輝き』が店を閉めてて、下っ端達が暇をこいてだらだらと連んでだらけてばかり居るという話は『牛追い酒場』のマランダからも仕入れている。
 で、その辺の事を含めた裏事情を探りつつ、今後も情報源として利用する為に、わざわざ計画的に『牛追い酒場』で偶然を装い待ち伏せをし、適当に話を合わせて貴族街のプレイゼスの店まで繰り出してきた。
 貴族街三大ファミリーの店なんてのは、旧商業地区の連中が気楽に通えるような所じゃない。
 ましてヴァンノーニの手下とはいえ現地採用の下っ端組だ。ほとんどのヤツは来たこともないだろう。
 俺だってパコやクーロからフリーパスを貰うまで、自分の意志で貴族街にまで来たことは全く無かったしな。
 
 とにかくそのくらい俺達“旧商業地区の下っ端連中”には縁遠いいプレイゼスの店まで連れてきて調子を上げさせて、ギャンブルの負けを肩代わりし、酒に煙草にと奢ってやる。
 因みにここで言う煙草は、マリファナに似たダウナー系効果のある乾燥サボテンのものだ。例の「とても素直になる魔法薬」の原料の一つでもあるし、鎮痛作用もあるから痛み止めや怪我の回復薬にも使われる。刻んで吸う程度だとやや弛緩してリラックスするぐらい。バッドトリップもしないし身体に害もないお手軽な嗜好品だ。
 しかもそれらは全て俺達探索者のリーダー、ハコブのポケットマネー……と言うことになっている。厳密には違うが、表向きには。
 そりゃあ気持ちも口も軽くなる。
 
「さあなー。相変わらず俺達下っ端にゃ分かりゃしねえよ。ただここんとこずっと本店の方に行ってんだか何だかで、グレタもジャンルカも、取り巻き連中も殆ど居ねえ。取り巻きで店に残ってる奴も何かこそこそやってて、俺達は店を追い出されてんのよ」
 こりゃまた、全然裏事情も何も分からねーな。
「何も分からんって事ァねーだろ? まさかヤベぇ事になってんじゃねえだろうな?」
 実際、他の兄弟姉妹との争いで面倒な事になっているとしたら、そのとばっちりを受けるのは御免被りたいところだ。
 
「分かんねーもんは分かんねーんだからしゃーねーよ。なァ?」
「だなァ~。
 あー、でも言われたらすッげぇ嫌な予感してきた。
 本当にヤベぇことになってたらどーするよ?」
「なあおいJBよ。お前ら今、人を増やしてんだろ?
 だったら俺たちも雇ってもらえねーか?」
 
 まあ調子の良いことほざいてくれるが、そりゃ無理だ。こいつらには情報を探るための駒になってもらう必要があるし、それに正直こいつらの今の実力じゃあ探索者をやるにもちと心許ない。
 本店からの生え抜き、つまりこいつらの言うところの“取り巻き”連中は、見た感じけっこう強い。馬鹿だが巨漢怪力のジャンルカにも引けを取らない偉丈夫も少なくないし、加えて装備の質も違う。
 こいつら現地採用の“下っ端”は、正直チンピラに毛が生えた程度で、装備の質も1、2ランクは低い。
 お揃いの黒染めの革鎧も見た目は同じ様に見える物の、やはりよりランクの低い安物で、魔法効果は付呪されてはいるがたいしたものでもない。
 シモンにしても確かにこいつは気の良い奴だが、多分模擬試合をしたらダフネにも負けるかもしれねえ。
 シモンが弱いって話しじゃない。ああ見えてダフネだって、鬼教官ハコブの訓練を受けて居るからそこらのチンピラよりは技術がある。ま、単純な腕力体格じゃあ当然負けるけどな。
 
「おいおい、お前ら俺達をジャンルカに殺させるつもりか?
 いくらなんでもお前等を引き抜くような真似をしたら、そりゃ全面戦争になる。
 冗談でもそんな事を言うもんじゃないぞ」
 やや軽口めいた口調だが、ハコブが言うのもごもっとも。実力云々以前に、実はこっちの方が問題だ。
 前世のアメリカみたいに自由な転職が気軽に出来るワケじゃ無い。特にヴァンノーニに一度勤めたなら、内部の秘密もある程度は知ってしまってるという事だ。
 勿論グレタもその辺はきちっとしてて、再三シモン等の言うとおりに、信頼の出来る“取り巻き”連中以外にはなかなか内情は晒してない。けれどもその“下っ端”連中が余所へ流れるのを黙って見逃すとは思えない。最悪、話が拗れれば殺されることだってあり得る。
 
 酒とサボテン煙草で口も気持ちも軽くなってた連中も、流石に今のはヤバいと思い直し口ごもる。
 その空いた無言の間を、イベンダーのオッサンが別の話を振って繋いだ。
「そういや、以前卸したドワーフ合金の魔導武具なんだが、ありゃまだ店の在庫に残ってるのか?」
「え? さぁなあー。おい、在庫管理は誰だっけ?」
「俺は小物はやるけど大物は“取り巻き”しか扱わないしな」
「少なくとも店頭には置いて無かったと思うぞ」
「保管庫か本店送りじゃねーか?」
 内部の細かい決まりやらが分からないから、連中の言ってる事もいまいち分からん。
 
「ああ、本店かどこかの取引先かは知らねーけど、一度纏めて箱詰めして運び出してたな」
「盗まれたり奪われたりしたって事は?」
 いきなりまた、オッサンが妙なことを聞くが、
「は! そーりゃあり得ねーだろ! 山賊野盗の類だって、このヴァンノーニの紋章入り黒革鎧を見りゃ裸足で逃げ出さァな!」
「ああ、違ェねえ!」
 シモンを始め“下っ端”達はふやけた顔してゲラゲラ笑うが、まあそれは俺もそう思う。
 というより、オッサンが突然何を意図してそんなことを聞いたのかがよく分からない。
 
「ああー……でもよぅ」
 何かを思い出したように、一人がそう口にする。
「こないだ……ほら、あん時よ」
「え? 何だよ?」
「アレだよ、アレ」
「いやだからドレだよ?」
「ほら、四、五日前? いやもうちっと前か? 一度取り巻き連中の何人かが夜中に戻って来てさ。バタバタしてたじゃねーか」
「あー、アレか」
「何だそりゃ、知らねーぞ?」
「おめーいびきかいて寝てたからな」
 
 四、五日かもう少し前、となると、俺達はなんとか魔人ディモニウム討伐戦に片を付けた頃か。
 てか、まだ死闘が終わって全然間もねーじゃねえかよ。魔法薬使ったとは言えまだまだ全然体中ガタついてるし、歩くと足もまだ痛む。正直せめて二、三日くれえはのんびり休みてーわ。
 
「で、何だよ?」
 話がなかなか進まないから、そう呼び戻してやると、
「ああ、そのときな。けっこうな怪我をしてたんだよ、その取り巻き連中」
「怪我?」
「まあ、おっかねえから理由は聞かなかったけどよ。
 なんか、魔獣かなんかにやられたのか、噛み傷っぽいのや爪痕っぽいほもあれば、剣や矢傷っぽいのもあったし、まさか荷物奪われたりしたのか? とは、そん時は思ったなあ~」
「おいおい、マジかよ? もしそうだったらやべーじゃん?」
「まあやべーけどよ。その後特に何にも言ってきてねーし、大丈夫なんじゃねーの?」
「お前のんきだなーー!」
 
 さっきも言ったが、現地採用の“下っ端”連中と、本店からの生え抜きの側近たちとでは実力にはかなり開きがあると見て良い。
 その本店からの側近が、そんな怪我をするほどの事が起こっていたとなると……うーん、こりゃ雲行きが怪しいな。
 
 その後もかなりの酒を飲み、連中がへべれけになるまで話を聞くが、結局のところこれ以上のめぼしいネタはなかった。
 パコのお陰で普通に飲むよりは安くはなってるが、とは言え費やした金額に比べれば今回の収穫は少ない。
 
 
 かなり夜も更けた頃に、ほとんど居眠りこいている“下っ端”連中の面倒をパコに頼んで、俺達は先に地下への帰路につく。
「どう思う?」
 歩きつつ、ハコブの問いに俺は顎をさすりさすりし、
「んーーーー。どーも、ぼんやりしてんなァ~~。
 “側近”達が何者かに襲われた、ってのがただの憶測じゃなくて事実だとしたら、マジで奴らも厄介な事になってるかもしれねーしな。
 かと言って、デカいとは言えただの取引相手で、こっちに助けを求めてるわけでもねえから下手に首も突っ込めねえ。どーにもしようはねえか……」
 結局は「何も分からん」としか言ってない。
 
「ヴァンノーニの件は俺がもう少し探りを入れてみる。奴らとの付き合いは俺が一番長いし、下っ端どもに接触するのも俺の方が自然に出来るだろう。それと例のその───俺達を狙ってるらしい敵の件もな」
 ドワーベン・ガーディアンの元々の出所が古代ドワーフ文明研究家のドゥカムではないか……という所から先、全く影も見えない例の問題。
 全く、魔人ディモニウム討伐が済んでも、問題は次から次へとやってきやがる。
 
「JBとイベンダーは、アデリアとジャンヌの行方……。このガンボンの言うところの“次の迷宮”の場所の特定を、ダフネとも協力して進めてくれ」
 ボーマの地下にあった遺跡から持ってきた金属板。文字やら文様の刻まれたそれをダフネがなんとか解析しようと試みている。
 それにどんな謎があるかは分からないし、それがアデリアやジャンヌの行方探しにつながるとの確証もない。
 ただ、あのガンボンの情報、ドゥカムの推論、そして金属板の今の段階で分かってることを合わせれば、レイフというダークエルフの向かった先が見えてくるんじゃないか? と、一応そう言うことになっている。

「あー……、けど正直あの線、何だか望み薄な気もするぜ」
 そう愚痴の一つも言いたかなる。別に何の根拠もねーけどさ。

 
 貴族街の内門を抜けて、旧商業地区へ入ると殆ど灯りもない通りに行く。
 内城壁に近い辺りは『銀の輝き』や『牛追い酒場』に王の守護者ガーディアン・オブ・キングスの本部もある、旧商業地区の中じゃあ一等地の西地区。
 そこから抜けて進むと、『黎明の使徒』の本部や『ミッチとマキシモの何でも揃う店』、その他古くからの職人なんかも住む南地区。クルス家の連中や“腐れ頭”が居るのもこの辺だ。
 んでそこをぐるり抜けて行くと、旧商業地区の中で最も寂れて廃屋だらけの北地区。その北地区の地下に、俺達のアジトがある。
 
 その、地下アジトへの入り口付近で、例の珍妙なチビオークが、不意に「ふあ」と小さく声を上げる。
 何かと目を凝らすと、薄暗がりにぼんやり浮かぶ白い影が数体。まるでそう、亡霊の集団みたいに不気味でやがる。
 
「夜分遅く、申し訳ありません」
 そう慇懃な態度で右手を胸の辺りに添えて頭を軽く下げるのは、既にお馴染みになったマヌサアルバ会の正会員だ。
「何だ?」
 ハコブがそう用件を聞こうとすると、マヌサアルバ会の正会員は軽く身をかわすようにして俺の方へと向き直り、
「会頭より、招待状です。
 JB殿、イベンダー殿、そして……」
 そこで、ほんの少しの間の逡巡が浮かび即座に消えて、
「……ガンボン殿、お三方に」
 
 ……いや待て、なんでコイツが?
 
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