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第二章 迷宮都市の救世主たち ~ドキ!? 転生者だらけの迷宮都市では、奴隷ハーレムも最強チート無双も何でもアリの大運動会!? ~

2-63.J.B.(38)Smooth Criminal(密やかな犯行)

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 西側の少し離れたところにある切り立った崖のある丘。
 その丘の上から見下ろすモロシタテムの町は、まるで生きてるものは何も居ないかにひっそりとして静まり返って居た。
 町からの使いがラクダで必死に走らせクトリアへ知らせを出したのが夕方少し前。
 その使いの話じゃあ、町を襲撃してきた魔人ディモニウムを含む山賊連中は鉄製の不細工な装備で武装し、遠隔からの弓や投石で先制攻撃をしてから、町へと雪崩れ込み番兵私兵等を中心に攻撃していったという。
 
 ここで重要な証言の一つは、この時点で既に町の警備隊長他数名が殺されていたらしいということだ。
 どういうことか? 襲撃前に忍び込み、密かに暗殺をされていたのではないか、とのことらしい。
 クトリア周辺の不毛の荒野ウエイストランドにある町だ。それなりに自衛できる戦力もあるし警備兵も置いていた。ただの勢いと力押しで落とせるもんじゃない。
 襲撃自体は勢い任せの苛烈なものだったが、この魔人ディモニウムの集団はただのイカレた山賊連中ではなく、攻めるには攻めるなりの策がある。
 なかなかに厄介な連中だ。
 
「二つの建物に……人の気配が集中してるわね。
 それと何かを運び出して荷車に乗せている最中の者達が何カ所かにバラけてる」
 俺のやや後ろに立つマヌサアルバ会会頭のアルバがどういう術でか町中の人の集まり、動きを探っている。
 俺の方も“シジュメルの翼”で空気の動きから人の動きを探り出そうとしているのだが、これだと密閉された建物内を探るのはイマイチだ。
 たいていの建物にも隙間はあるもんだが、遠くからじゃあその程度では正確には探れない。
 
 探った感じでは、一方はこの街唯一の酒場兼宿屋で、もう一方は街の北寄りにあるやや大きめの邸宅。恐らくはクルス家のものだろう。
 家々は典型的なクトリア様式、日干しレンガ作りの平屋が多く、邸宅もそうだ。広めの敷地にぐるりと真ん中に広い中庭をしつらえた四角い間取り。
 その中庭に集められている者達の様子は、俺の“シジュメルの翼”でもある程度の様子が分かる。
 体格、息遣い。恐らく男。特に成人した者達が7~80人程か。それぞれ縄で縛られ座らされているようだ。
 周りを囲んでる方は3~40人の武装した連中。捕虜達のおよそ半分くらいだが、そいつらが見張りということか。緊張感はあまり無く、時折男どもを蹴り飛ばしたり罵声を浴びせたりもしてる。
 
 つまりもう一方の酒場の方に集められているのが、女子供……。
「人質、か……」
 男たちが反抗しない様にするための人質として、女子供を別の場所に集めている。
 しかし目的は何だ?
 ただの略奪暴行が目的なら、男たちを生かしておく必要がない。
 
「女子供を人質にしているなら、一番の目的はむしろ男たちでしょうね。死体の数からしても、殺された者より生きて捕らえられてる人数の方が多いから、ハナから攫う為に襲撃してきた……つまりは奴隷狩り。そう言うことでしょう。
 ……にしても、隊商や旅人を襲うんじゃなくて、これだけの規模の町を根こそぎだなんてね……」
 そう続けるアルバに、俺は
「なあ、アンタはその、魔力の流れだとか属性だとかを感じるとるようなことは出来るのか?」
「当然」
「じゃ、ここでの戦いで火属性の魔力はどれだけ使われたかッてのも?」
 
 “炎の料理人”フレイマ・クークは火属性の魔力を植え付けられた魔人ディモニウムだ。
 火の魔力を操る……というより、火の魔力“しか”操れない。
 
「……その痕跡は無い、わね。少なくとも襲撃者側に強力な火属性の魔力を使える魔人ディモニウムは居ない……か、居ても使われなかった」
 
 だとすれば、この襲撃者達に“炎の料理人”フレイマ・クークが含まれてる可能性は少ない。
 これが、全く別の勢力の魔人ディモニウムで、クーク達とは無関係だというなら、ある意味話は簡単……ではあるんだ、が。
 どーも……しっくりこねえな。ヤバい気配がプンプン匂ってくる。
 
「連中の一番の目的はこの町の人間をさらうこと。
 別々の場所に男たちと女子供を分けて閉じこめ、反抗させないための人質にしていること。
 未だにここに残ってるのは、町の備蓄や財貨を運び出している為だということ。
 今ここから分かるのはそれくらいね」
 
 それくらいね、なんてしれっと言うが、離れた丘から魔力の痕跡やら人の動きの気配やらを探るだけでそこまでの情報が読み取れる、なンてのはただ者じゃあねえ。
 貴族街三大ファミリーの中じゃ情報策謀はプレイゼスのお家芸とされてきてたが、こいつらとんでもねえ伏兵だわ。
 ただとは言え、だ。これ以上を知るには───、
 
「忍び込むしかありませんな」
「おわ!?」
 背後から別の声。
 
「遅かったわね」
「申し訳ありません。やや支度に手間取りまして」
 振り向いてみると、月の光に浮かび上がる数人の影。
 一様に黒装束に身を包み、顔の上半分を覆う黒い仮面。その意匠は明らかにマヌサアルバ会のものだ。
 違うのは唯一色。普段は白一色なのが、今は真逆の黒一色。まさに闇の中に溶け込んだニンジャみてえだ。
 
 この速度で後を追い駆けつけたと言うことは、会頭のアルバ同様何等かの魔術で空を飛ぶなりしてここまで来たのだろう。
 軽く数えて合計10人。正会員と準会員が2人ずつペアになって居るのは、魔法が使えないという準会員を、空を飛ぶ術を持つ正会員が抱えるか背負うかして連れてきたのか。
 とは言え、アルバと俺の2人が、10人増えて12人になったところで、魔人ディモニウムを含む、100人かそこらはいるだろう山賊連中をどうにか出来るとは思えない。
 女子供老人を含めても300人は居ただろう町の連中を半分以下の人数で制圧し、生き残った人数や放置されたままの死体の様子からみてもその三分の一くらいは殺している。
 凶暴凶悪ではあるが、けっこう計画的で抜け目もない。
 その戦力差のみならず、人質も居る。うかつな真似もそうそう出来ねぇ。
 
 
「なあ、おい。アンタらがすげえ魔術の使い手だってのはよく分かったけどよ。
 今のコレ、この人数で覆せるような状況じゃあねえぜ」
 そう言うとアルバと正会員たちは額を寄せてヒソヒソ話。
 それから俺を取り囲むようにしてこう言った。
「───秘密厳守。
 それが出来るなら、手はあります」
「今夜は───私達に味方しているわ」

 黒の月───。
 中天に昇り、夜空の一角をまるでそこだけ塗りつぶしたように黒くしているそれは、闇属性魔法の効力を倍増させる魔の月であると言われている。
 
 ◆ ◇ ◆
 
 慎重に静かに、グライダーの滑空のようにふんわりと屋根の上へと降り立つ、俺と4人のマヌサアルバ会の会員達。
 2人は魔術を使う正会員で、後の2人は剣術や棒術を使うと言われている準会員。
 恐らくマヌサアルバ会ではこういうときには正会員と準会員とで必ずチームを組むという決まりがあるのだろう。
 基本的には術式を直接その身体に埋め込まれてしまった魔人ディモニウムと異なり、普通の魔術師は魔術の行使の際には呪文の詠唱等の手順が必要で、発動まで時間がかかる。つまり準会員は正会員が術を発動させるまでの守りを担当する存在なのだろう。
 ウチで言うなら、強めの魔術を使うときのハコブと盾役のアダンみたいなもんか。
 
 俺を含めた5人は、屋根の上に伏せて中庭の様子を窺う。
 全体としては3アクト(90メートル)四方くらいの広さがある中庭の中央。そこには人工の池があり、それらを囲むようにして多数の男たちが紐で繋がれ座らさせられている。
 彼等は一様に疲労、屈辱、痛み等にまみれた顔をし、かなりの怪我を負った者達も含まれている。
 
 見張りの連中は完全に気が抜けていた。まったくやる気も警戒心もない。
 まあそれはそれで仕方ない。状況的には完全に圧倒して居て、仮に今更数人が刃向かおうとしてきても脅威にはならない。ましてや外部からの援軍、攻撃など、警戒しろという方が無理がある。
 
 その内の数人、一角でヤシの木にもたれ掛かりぶつくさ言ってる連中へと耳を向ける。勿論、“シジュメルの翼”の集音効果を使って、だ。
 見張りどもはネフィルという名を口にし、不満を垂れている。
 内容からは、どうやらネフィルという男が連中のボスで、かなりヤバい魔人ディモニウムらしい。
 
「“鉄塊の”ネフィルでしょうな」
 正会員の一人が言う。
「クトリア周辺の不毛の荒野ウエイストランドに巣くう魔人ディモニウムには、まずは三悪と呼ばれる者共が居ます。
 “炎の料理人”フランマ・クーク。“猛獣”ヴィオレト。そして“鉄塊の”ネフィル」
「へえ、詳しいな」
「連中は愚かにも我々三大ファミリーの地位を狙っておりますからな」
 愚かにも、というところをやや強調して言うが、確かにそれは同感。
 クトリア城壁内、特に貴族街ででけえ面してこうと思ったら、ただの“力自慢”じゃあやってけねえ。もちろんそれは“魔力”も含む、だ。
 俺自身、つい先日関わり合いを持った事もあって骨身に染みて分かってる。
 陰謀策謀密約駆け引き。奴ら魔人ディモニウムにどんな魔力、どんな破壊的な力があったとしても、そんだけじゃ何もなりゃあしねえ。
 
「で、その思い上がった愚か者に、どんな魔力があるかは分かるんかい?」
「ええ。“鉄塊の”ネフィルは、土属性の魔力を持ち、手にした物を鉄に変えます」
 ……んー、何か微妙だな。
「厳密には、おおよそ鉄に相当する硬度の金属に変えている、ということのようですがな。ま、鉄です」
「その魔力、どんくれえの脅威だ?」
「三悪の中では最弱の能力ですな」
 あらま、そうかい。
 
 とは言え真っ当に考えてみれば、そう舐める事の出来るもんでもねえ。
 例えばその辺の小石、木の棒を、手にしただけで鉄の弾や鉄の棒に変えられるわけだ。
 となりゃ、手下に簡単に大量の武器を与えられる。
 刃物を作るのはまた違うとしても、石を割ってナイフにしたり、石斧を作ったりしてからそれを鉄にするというだけでも、ただの石のナイフや石斧よりも格段に恐ろしい武器になる。
 転送門から物資を持ってこれる王国駐屯軍や、自前の船で交易が出来るボーマ城塞のヴォルタス家、地下遺跡から古代ドワーフの遺物を発掘改修している俺達シャーイダールの探索者なんかを除けば、今のこのクトリアで武器防具を揃えるというのは結構難儀だ。
 一般的なチンピラ、山賊でナイフや金属製の武器防具を持ってるやつは大したもんで、殆どはただの木の棒やら石やらで武装してる。ましてやきちんと手入れしている奴らなんかはさらに希だ。
 その中で材質だけとは言え、鉄製品を簡単に揃えられるというのは山賊としてはかなりの強味。
 となると“鉄塊”のネフィルという奴は、単純に戦闘における魔法という点では他の魔人ディモニウムには劣るにしても、山賊の頭としてはなかなか侮れない。
 
 そうこうしている内に、隣で俺同様に屋根に伏せていたマヌサアルバ会正会員の一人が、何やら小声で話している。
 誰とか? と言えば、恐らく離れた位置にいるアルバから伝心の魔法で指示を受けているのだろう。
 別に対応するのに声を出す必要は無いはずだが、何か上司からの電話を受けてるビジネスマンみたいな反応だな。
 
「JB殿」
「……ああ」
「始まったようですぞ」
 
 風が、伝えてくる。蠢きざわめくその気配を。
 かつて人であり、また既に人でなくなったもの達の気配を───。
 
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