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第一部 第七章 天使の翼
ep5
しおりを挟むスーヴィエラはミストに散々連れ回され、気が付けば夜になっていた。
ホテルに帰ってきたスーヴィエラは気が抜けてベッドに倒れこむなり眠ってしまった。
ミストは拗ねてしまったらしいが、スーヴィエラが動けないので諦めたように帰ったようだ。
ヴィクトルは二人きりで歩きたかったのに、と口を尖らせるが、シリウスは曖昧に笑って聞き流す。
「それより、ヴィクトル。明日はパレードだろう? 他の団員と打ち合わせしなくていいのか?」
「大丈夫ですが、…父上」
「ん?」
「父上はスーヴィエラさんのこと、好きなのですか?」
「可愛いとは思うよ。でも、性愛じゃない。お前たちと同じさ」
ヴィクトルは目を伏せた。
「スーヴィエラさんは少なくとも、父上の方が本当に…」
「どうだかね。でも、あの子には若くて一緒に居られる時間が長い男の方がいいよ」
「…もう少し父上が若かったら、彼女のこと本気で考えましたか?」
「どうかな? でも、十年前なんてスーヴィエラは十歳だよ?」
「そうじゃなくて…来世で同い年だったら、の話です」
「…よくわからないかな」
シリウスははぐらかして何も応えない。
ヴィクトルが拗ねると、シリウスはワシャワシャと彼の頭を撫でた。
「明日、パレードの最後に王宮前広場で私は警備に当たることになる。そこで、献上される物品に気を付けなさい」
「え?」
「スーヴィエラを頼んだよ」
「何ですか、急に」
「明日、彼女を守ってやれるのはお前だけだ。私は姉上の盾になることになるだろう。だから、ね」
「…っ」
ヴィクトルの視線が揺れ、今度は泣きそうな顔をした。
「…父上、父上はもう、公爵ではないのですから、無茶をなさらないでください。お願いします」
「元公爵だから云々というより、陛下の弟として守りたいんだよ。血の繋がりは否定できるものじゃないから」
そして、ニコリと笑った。
「お前だってクロニカが囚われたら全力で助けるだろう? それと同じ」
ヴィクトルはシリウスを見上げると、シリウスは部屋を出て行くところだった。
「さて、明日、楽しみにしているよ」
シリウスの言葉に、ヴィクトルは大きく頷いた。
「はい、父上…」
ヴィクトルは顔を両手で覆うと、深く息を吐き出した。
その様子を見ながら、シリウスはドアを閉めた。
☆
某所ーー
ルクファード家の当主グラーカが誇らしげに布で覆われたそれを見上げていた。
でっぷりと突き出した腹をゆさゆさと揺らしながら髭を弄り、ニヤリと笑う。
「ハグル、シグリジル」
二人の息子が「はい」と返事をした。
「借金のカタに取り上げたこれが役立つ日が来たぞ。ドブネズミに逃げられたせいで面倒なことになったが、これでパルも安泰だ」
女王に献上品を送った者はいいものを贈るほどに重役たちから目に掛けてもらえるようになる。
ルクファード家のような下級貴族が躍進するチャンスでもあった。
「天龍の剥製なんてコレクターに人気があっても、表立って競りにかけられるものじゃないですからね。あのスーヴィエラが龍化出来れば高く売れたのに、とんでもない餌食いですから、母親には役に立ってもらわなければ」
兄の言葉に、弟も応える。
「妹のヘレナのためにも金が必要ですからね」
天幕が落ち、露わになった天龍の剥製が堂々と佇んでいた。
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