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第一部 第一章 虚無の安寧
ep2
しおりを挟むリアラの言った通り、ヴィンセントはすでに仕事へと行ってしまった後だった。
リアラはすごく怒っていたが、スーヴィエラにはもう、どうでもいいことだった。
「今日もごはん、すごく美味しいです」
そう言ったが、三分の一しか口にしていなかった。
しかも、メイン料理には一口も口をつけていない。
「でも、リアラ。…その、かなり量が多いのだけど…残り、食べてもらってもいい?」
「! ごめんなさい、奥様! 奥様が少食なのを忘れていました!」
「あと、…本当に申し訳ないのですけど、栄養価が高すぎて…気持ちが…」
「あわわ!」
リアラがスーヴィエラをトイレに連れて行き、リアラだけが戻ってきた。
料理長が心配そうな顔をしていた。
「あれが普通の量なのだが、お口に合わなかっただろうか? 昨日も残されていたし…」
「違います。とても美味しいです。…ただ、奥様は宗教の関係上質素倹約に生きてきたものでして、今はその宗教と縁を切ったのですが、お食事の量は三分の一ほどでお願いします。それと、カロリーの高いものは極力控えてください。戻してしまいますので」
「…残りをお前さんが食べたのか?」
「はい。奥様が本当に申し訳なさそうにしていたもので」
「…そうか。…うーん、奥様が何を食べられるのか、まだわからないからな。とりあえず、低カロリー、低塩食でいくか。…食べられないものは?」
「ないです。食べられる限り食べるお方ですから」
「でも、胃が受け付けない、と」
料理長は悲しそうな顔をした。
「料理を制限するなんて、酷いカルト宗教もあったもんだな」
「ですね」
リアラは適当に流してさっさとスーヴィエラの元へ取って返した。
「食事は終わったの?」
「まだです。でも、奥様が心配だったものですから。あれは私の昼食にいたしますのでご安心を」
「残飯を押しつけるようでごめんね」
「あれは残飯ではありません。少し量の減ったご馳走、です」
リアラはキリッとそう言うと、スーヴィエラは力なく笑った。
「お洒落なものを食べ慣れていないから、どうしても、ね」
「いえ、奥様のせいではありませんゆえ。…でも、…スー様。空腹すぎて狩りに出るときは言ってくださいね?」
「…うん」
スーヴィエラは実家でまともに食事を与えられていなかった。本当に飢餓状態になったとき、こっそりと抜け出しては山奥で狩りをし、山をうろつく野生の魔物を狩っては喰っていた。
その肉ならばまだ、食べられるのだが、いかんせん、調理されてしまうと胃が受け付けない。
それは、精神状態の問題だろうが、スーヴィエラは人の状態でまず、食事をほとんど食べられない。
「一日二食で、量も減らしてもらいますからご安心を。そして、料理内容も大幅に見直して、摂取カロリーも減らします」
「ありがとう、リアラ」
スーヴィエラがニコリと笑うと、リアラは幸せそうに笑った。
「はぅあ~。スー様は天使です~♪」
ハートマークを浮かべるリアラはデレデレと笑いながらスキップして部屋を出て行った。
「狩り、もうそろそろ行こうかな…」
スーヴィエラはその背中にそう、ぼやいた。
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