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34話

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マリアンヌとクリストファーが相思相愛の仲になって、3ヶ月が経過した。

両親が勝手に決めた婚約者同士だとマリアンヌは幼い頃から思っていたが、実際は、「対なる君の呪い」が関与しての婚約であった事をクリストファーの告白によって知った。

クリストファーが「レガーリス家の呪い」である対なる君の呪いの保持者である事。
そしてマリアンヌがクリストファーの対なる君である事。

クリストファーから拡散される薔薇の芳香。
時折、紺碧の瞳が鈍い輝きを放つ紫色の瞳に変化する現象。
婚約者として紹介された時から、どうしてクリストファーがマリアンヌに無言で押し通してきたか。
会話として成り立たない、マリアンヌが一方的に話すだけの不毛な関係。
これが愛のない婚約を成立させた自分達の関係だとマリアンヌは諦観していたが、実際はクリストファーから幼い頃から愛されていて。

クリストファーから愛を告げられた時、マリアンヌの心は喜びに満ち溢れ自然と涙を零していた。

(クリストファーに愛されている。
私は、クリストファーに愛されていたんだ……)

対なる君の呪いが絡んでの愛は不純だとクリストファーは幼い頃から思い、マリアンヌに無言を押し通していた。
会う度にマリアンヌに対する想いが溢れていたが呪いがクリストファーに絡みつき、愛を伝える事が出来ない。
対なる君の呪いがクリストファーを苦しめ、純粋な愛に影をおとす。

すれ違う二人の想い。
互いを想いながらも愛を伝える事が出来なかったマリアンヌとクリストファー。

紆余曲折を経てやっと2人の絡み合った想いは一つに結ばれ、マリアンヌとクリストファーは真実の愛を誓い……。

今、マリアンヌとクリストファーは人生最大の幸せを噛み締めていた……。

***

(うふふ、今日は私が勝ちね)

カーテンから薄らと光が差し込む。
夜明け前の静けさに包まれた寝室に仄かに薫る薔薇の芳香。
クリストファーの紫の薔薇が咲き綻び瑞々しい芳香を漂わせている。

(最近、クリストファーの方が早起きで寝顔をずっと眺められていたんだもの。
本当に心臓に悪いわ)

毎回、寝起きの顔を見られる乙女心を察してほしい。
美の化身であるクリストファーが自分の寝顔を眺めている。
目覚めた時、間近でクリストファーの顔を見るマリアンヌの心は複雑である。

(ああ、クリストファーの美貌が呪いが関与しているから規格外なのかしら。
ううん、違う。
美男美女の両親から産まれたのだから当たり前の事だわ。
そ、そうよ!
確実にご両親の血を受け継いでいるからクリストファーは麗しいのよ、私と違って!
同じ美男美女の両親を持つ私とは雲泥の差だわ。
どうして私には受け継がれなかったのよ!
ああ、クリストファーの美貌が恨めしい……)

今更、嘆いても仕方がないとマリアンヌは思うのだが、愛する人が完璧な美を誇っていると、これはこれで中々、切実な問題だと思っている。
顔面格差とはいい例えだと、毎回、鏡に映された顔を見ながらマリアンヌは嘆息を漏らしていた。

(で、でも、クリストファーは私の事を可愛い、綺麗だと褒めてくれるわ。
お世辞だと思っているけど、でも、愛する人に言われると気恥ずかしいと言うか、う、嬉しいと言うか……)

段々と頬が熱くなっていく。
夜中までクリストファーに愛された。
身体の隅々までクリストファーの唇が触れて、刻印が刻まれて。
愛の証だと耳元で囁かれながら、声が枯れるまで鳴かされて。

「マリアンヌ、愛している……」

欲情に濡れた目で愛マリアンヌに愛を告げるクリストファーの壮絶な色気にマリアンヌの心は乱され、クリストファーの愛に溺れ、与えられる愛撫に端なく喘いで翻弄されて。

まだ、婚姻は結んでいない。

来年、クリストファーが成人したら、マリアンヌはクリストファーの妻になる。

婚姻を結ぶ迄は純潔を守らないといけないのでギリギリの線までは貞節を守っているが、既にクリストファーが触れていない場所は無い程、マリアンヌはクリストファーに愛されている。

週末、新居になる屋敷で2人は愛を交わしている。

対なる君の呪いが暴走する事を恐れたクリストファーの母親であるリアナが渋々、2人が新居で過ごす事を許した。
クリストファーの父親であるライアンは妻であるリアナの心情を尊重し同意したがマリアンヌの父親であるロベルトは不機嫌極まり無い。
己がクリストファーと同じく対なる君の呪いの保持者であるが故に、クリストファーの気持ちに理解を示しているが、娘が婚姻前に汚される事に対して腹の中が煮え繰り返っている。
マリアンヌの外泊にこめかみに青筋を立てながら微笑むロベルトの目は冷ややかで、告げる言葉には棘が含まれており、クリストファーの背中には、毎回、冷たい汗がダラダラと流れ落ちる。

ゆったりと微笑みながらロベルトがクリストファーの耳元でそっと囁く。

マリアンヌを未婚の母親にしたら、どうなるか知っているよね、と。

流石にクリストファーもロベルトの言葉に身の危険を感じ、顔を引き攣らせ頷く事しか出来ない。
だが、愛するマリアンヌを目の前にして何時迄、理性を保たせる事が出来るかと言えば、それは既に神の領域だと思い始めるクリストファーも存在していて。
青少年の健全なる性欲を妨げる事が果たして正しい事柄なんだろうか、とクリストファーは己に問う。
マリアンヌと身も心も一つに結ばれたいと願うクリストファーの思考回路は既に破綻していた。

そんなロベルトとクリストファーを見詰めながら、マリアンヌの母親であるセシリアの心境は複雑だった。
マリアンヌとクリストファーの外泊云々では無い。
セシリアは2人の外泊に関しては寛大である。
クリストファーとの愛を育む為に望むのならセシリアはマリアンヌの気持ちを第一に考え尊重した。
だが、夫であるロベルトが感情を露わにしてクリストファーに絡んでいる、この事にセシリアは衝撃を受けていた。

対なる君であるセシリアしか興味を示さないロベルト。
娘であるマリアンヌもセシリアを縛る枷と思い出産させ、マリアンヌにも表面上、愛情を与えているとしか思っていなかった。
いや、今でもそう思っている。
だが、今のロベルトは……。

かぶりを振りセシリアは否定する。
自分の思い違いだと。
狂気を孕んだ目で常に監視され自由を奪うロベルトに、人としての、親としての感情など持ち合わせていない。
もし、仮に多少なりに親としての感情が芽生え始めているとしても自分の気持ちは揺るがない。

愛のない結婚ほど苦痛なものは、無い。
過ぎ去った愛に未だ心が乱されるセシリアには、ロベルトの愛は届く事は無かった……。
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