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23話
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互いの指を絡ませながら今、私とクリストファーは街を歩いている。
(あああ、し、視線が突き刺さる様にい、痛いわ……)
これも全ては隣に居るクリストファーの所為。
クリストファーの輝くばかりの美貌が周りの人達、特に女性達の視線を釘付けにして。
通り過ぎる女性達のひそひそと囁かれる嫌味がちくちくと胸に刺さってくる。
「ま、まあ、ご覧になって、あの方を!
何て麗しい方なの!
嘆息しか出ない……」
「あの方はシャンペトル家の御子息であるクリストファー様だわ。
輝く様な金髪に紺碧の瞳は理知的で、ああ、何て素敵なの!」
「ねえ、あのクリストファー様の隣にいる女性。
ま、まあ、手を絡ませているわ……。
な、何て恥知らずなのよ、あの女は!
由々しき事だわ!」
「あの方がクリストファー様の不釣り合いな婚約者なのね。
全く厚顔無恥とはあの方の為にあるお言葉ね。
社交界での噂が事実だったと見て、思わず嗤ってしまうわ」
クリストファーには気付かせない様に言う辺り、あっぱれと思ってしまう。
通りすがりに己にだけぽそりと聴こえる様に悪口を言う技術を教えて欲しいとマリアンヌはつい口元が滑りそうになるのを必死に抑えていた。
(予想はついていたけど、でも、これは……。
うううう、そんなに言わなくてもいいじゃない。
分かってるわよ、クリストファーに相応しい美貌とは到底言い難いって!
不釣り合いな出来損ないだと常々、思っているわよ!
で、でも、私はクリストファーの事が好きだもの!
く、クリストファーも私の事を好きだって言ってくれている、だから)
「マリアンヌ」
クリストファーから指をぎゅっと強く握られる。
気持ちの動揺が伝わっのだろうか?クリストファーにと、マリアンヌは上目遣いでクリストファーの顔を見る。
「クリストファー?」
マリアンヌの呼び掛けにクリストファーはふわりと微笑みマリアンヌに告げる。
「今日のマリアンヌも素敵だよ。
誰よりも綺麗だ」
愛しさを込めた目で真摯に訴えるクリストファーにマリアンヌは心を熱くさせる。
「ありがとう、クリストファー……。
凄く嬉しい」
自然と笑みが零れる。
周りの野次なんて気にしない、だって。
クリストファーが私を求めてくれるから。
クリストファーに愛されていると信じて疑っていないから、だからいいの。
「ね、ねえ、クリストファー。
向こう側の雑貨店に行きたいの、いいでしょう?」
以前からずっと気になっていた雑貨店。
諸外国からの輸入品を取り扱っていて珍しい雑貨や令嬢達の心を掻き立てる可愛らしいアクセサリーも取り揃えてある、今、一番、注目しているお店。
アクセサリーは勿論の事だけど、マリアンヌが特に気になっているのは外国の紅茶。
ここしか取り扱っていない珍しい茶葉があるとエマが侍女達の交流会で得た情報を私に教えてくれて、是非、手に入れたいと思ってクリストファーとのデート先に選んだ場所の一つ。
クリストファーも紅茶に目が無い様子なので、一緒に選んでほしいと思って。
「マリアンヌが好きそうな店だね」
そう言ってふっと笑う。
何気ない一言がマリアンヌの心を騒がせる。
クリストファーの一言一言がマリアンヌの琴線に触れて。
(もう、どうしてこうも私の心を乱すの?
クリストファーの一挙一動が私の心を掴んで離さない)
「クリストファーの……」
最後の言葉がクリストファーに聴こえなくて良かった。
だって知ればきっと笑ってしまう。
クリストファーの事が好き過ぎて気持ちが溢れそうって、こんな事を知ったら。
薄らと耳朶を赤くさせて急に俯くマリアンヌの姿にクリストファーは膨れ上がる欲望を必死に抑えていた。
クリストファーの心を掴んで離さないマリアンヌ。
マリアンヌはきっと気付いていない。
幼い頃からマリアンヌの全てが欲しいと願っている事を。
性を意識する前からクリストファーはマリアンヌに触れたくて仕方が無かった。
余りに強い欲情をマリアンヌに気付かれたく無くて、ある時期からクリストファーがマリアンヌに距離を置いた事も事実である。
無口、無表情でマリアンヌに接する事で己を律してきたと言えば聞こえがいいが、実際はそんなに綺麗事では無い。夢の中で何度もマリアンヌを穢してきた事か。
マリアンヌの痴態を想像し何度も欲望を満たしてきた。
今回の事もそうだ。
泥酔しマリアンヌを欲望のまま欲した事がマリアンヌに気付かれた時の動揺。
果てしないマリアンヌに対する欲情。
これが対なる君を求めての事か、それとも本来の己の願望か。
(後、1年半か……。
長いなあ)
心の中で嘆息を洩らす。
この国では男性は20歳では無いと婚姻を結ぶ事が出来ない。
女性は婚姻を結ぶまでは処女である事が重要視されている。
マリアンヌが自分を正気にしてくれた事にクリストファーはマリアンヌに感謝はしていたが、心情は中々複雑だった。
マリアンヌの処女を穢す事態にならなかった事への安堵と、結ばれる事が出来なかった事への落胆と。
正気を失う迄、酒に溺れた自身の脆弱さに呆れ果ててはいたが、これが全てマリアンヌに起因していると思うと己のマリアンヌに対する想いが計り知れないと感じ入ってた。
これが対なる君の呪いか、いや違う。
そんな理由で欲しいのでは無い。
マリアンヌが愛しいから。
マリアンヌだから求めるし一つに結ばれたいと願ってしまう。
(マリアンヌが知ったら軽蔑するかな。
僕がこんなにも君が欲しくて仕方が無いと知ったら……)
ふと深い溜息が零れてしまう。
そして心の中で悪態を吐く。
どうして男性の婚姻が20歳では無いと認めないのか、そして婚姻を結ぶ迄は処女では無いと世間に非難されるのか。
(はああ…)
魅力的なマリアンヌに対し己は何て無力な存在なんだ……。
悩めるクリストファーの深い嘆きの声であった。
(あああ、し、視線が突き刺さる様にい、痛いわ……)
これも全ては隣に居るクリストファーの所為。
クリストファーの輝くばかりの美貌が周りの人達、特に女性達の視線を釘付けにして。
通り過ぎる女性達のひそひそと囁かれる嫌味がちくちくと胸に刺さってくる。
「ま、まあ、ご覧になって、あの方を!
何て麗しい方なの!
嘆息しか出ない……」
「あの方はシャンペトル家の御子息であるクリストファー様だわ。
輝く様な金髪に紺碧の瞳は理知的で、ああ、何て素敵なの!」
「ねえ、あのクリストファー様の隣にいる女性。
ま、まあ、手を絡ませているわ……。
な、何て恥知らずなのよ、あの女は!
由々しき事だわ!」
「あの方がクリストファー様の不釣り合いな婚約者なのね。
全く厚顔無恥とはあの方の為にあるお言葉ね。
社交界での噂が事実だったと見て、思わず嗤ってしまうわ」
クリストファーには気付かせない様に言う辺り、あっぱれと思ってしまう。
通りすがりに己にだけぽそりと聴こえる様に悪口を言う技術を教えて欲しいとマリアンヌはつい口元が滑りそうになるのを必死に抑えていた。
(予想はついていたけど、でも、これは……。
うううう、そんなに言わなくてもいいじゃない。
分かってるわよ、クリストファーに相応しい美貌とは到底言い難いって!
不釣り合いな出来損ないだと常々、思っているわよ!
で、でも、私はクリストファーの事が好きだもの!
く、クリストファーも私の事を好きだって言ってくれている、だから)
「マリアンヌ」
クリストファーから指をぎゅっと強く握られる。
気持ちの動揺が伝わっのだろうか?クリストファーにと、マリアンヌは上目遣いでクリストファーの顔を見る。
「クリストファー?」
マリアンヌの呼び掛けにクリストファーはふわりと微笑みマリアンヌに告げる。
「今日のマリアンヌも素敵だよ。
誰よりも綺麗だ」
愛しさを込めた目で真摯に訴えるクリストファーにマリアンヌは心を熱くさせる。
「ありがとう、クリストファー……。
凄く嬉しい」
自然と笑みが零れる。
周りの野次なんて気にしない、だって。
クリストファーが私を求めてくれるから。
クリストファーに愛されていると信じて疑っていないから、だからいいの。
「ね、ねえ、クリストファー。
向こう側の雑貨店に行きたいの、いいでしょう?」
以前からずっと気になっていた雑貨店。
諸外国からの輸入品を取り扱っていて珍しい雑貨や令嬢達の心を掻き立てる可愛らしいアクセサリーも取り揃えてある、今、一番、注目しているお店。
アクセサリーは勿論の事だけど、マリアンヌが特に気になっているのは外国の紅茶。
ここしか取り扱っていない珍しい茶葉があるとエマが侍女達の交流会で得た情報を私に教えてくれて、是非、手に入れたいと思ってクリストファーとのデート先に選んだ場所の一つ。
クリストファーも紅茶に目が無い様子なので、一緒に選んでほしいと思って。
「マリアンヌが好きそうな店だね」
そう言ってふっと笑う。
何気ない一言がマリアンヌの心を騒がせる。
クリストファーの一言一言がマリアンヌの琴線に触れて。
(もう、どうしてこうも私の心を乱すの?
クリストファーの一挙一動が私の心を掴んで離さない)
「クリストファーの……」
最後の言葉がクリストファーに聴こえなくて良かった。
だって知ればきっと笑ってしまう。
クリストファーの事が好き過ぎて気持ちが溢れそうって、こんな事を知ったら。
薄らと耳朶を赤くさせて急に俯くマリアンヌの姿にクリストファーは膨れ上がる欲望を必死に抑えていた。
クリストファーの心を掴んで離さないマリアンヌ。
マリアンヌはきっと気付いていない。
幼い頃からマリアンヌの全てが欲しいと願っている事を。
性を意識する前からクリストファーはマリアンヌに触れたくて仕方が無かった。
余りに強い欲情をマリアンヌに気付かれたく無くて、ある時期からクリストファーがマリアンヌに距離を置いた事も事実である。
無口、無表情でマリアンヌに接する事で己を律してきたと言えば聞こえがいいが、実際はそんなに綺麗事では無い。夢の中で何度もマリアンヌを穢してきた事か。
マリアンヌの痴態を想像し何度も欲望を満たしてきた。
今回の事もそうだ。
泥酔しマリアンヌを欲望のまま欲した事がマリアンヌに気付かれた時の動揺。
果てしないマリアンヌに対する欲情。
これが対なる君を求めての事か、それとも本来の己の願望か。
(後、1年半か……。
長いなあ)
心の中で嘆息を洩らす。
この国では男性は20歳では無いと婚姻を結ぶ事が出来ない。
女性は婚姻を結ぶまでは処女である事が重要視されている。
マリアンヌが自分を正気にしてくれた事にクリストファーはマリアンヌに感謝はしていたが、心情は中々複雑だった。
マリアンヌの処女を穢す事態にならなかった事への安堵と、結ばれる事が出来なかった事への落胆と。
正気を失う迄、酒に溺れた自身の脆弱さに呆れ果ててはいたが、これが全てマリアンヌに起因していると思うと己のマリアンヌに対する想いが計り知れないと感じ入ってた。
これが対なる君の呪いか、いや違う。
そんな理由で欲しいのでは無い。
マリアンヌが愛しいから。
マリアンヌだから求めるし一つに結ばれたいと願ってしまう。
(マリアンヌが知ったら軽蔑するかな。
僕がこんなにも君が欲しくて仕方が無いと知ったら……)
ふと深い溜息が零れてしまう。
そして心の中で悪態を吐く。
どうして男性の婚姻が20歳では無いと認めないのか、そして婚姻を結ぶ迄は処女では無いと世間に非難されるのか。
(はああ…)
魅力的なマリアンヌに対し己は何て無力な存在なんだ……。
悩めるクリストファーの深い嘆きの声であった。
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