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19話

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吐息が絡み、身体が燃えるように熱い。
自然とクリストファーの首に腕を絡ませて互いの額を寄せて見つめ合う。
紫水晶の様な神秘的なクリストファーの瞳に宿る妖艶な輝きに魂ごと囚われてしまう。
つい、甘い吐息を含んだ声でクリストファーの名を呼ぶ。

「クリストファー……」

強請る様に唇を薄く開かせるとクリストファーの舌が口内を弄り私の舌を絡め出して。
ざらりとした舌の感触がリアルに伝わってくる。
どくどくと身体中の血が沸騰しそうなくらい興奮している。

(わ、私……。
こんなの恥かしいのに)

息が弾んで上手く息継ぎが出来ない。
密着した身体にクリストファーの火照りが伝わり頬が自然と赤らんでくる。
ぎこちない私の舌の動きに酒気を帯びたクリストファー目は蕩ける様に甘やかで。

(や、やだ、そんな顔で私を見ないで。
恥かしくて恥かしくて堪らないのに、そんな目で見詰められたら、私……)

クリストファーにキスを強請る大胆さに今更ながら羞恥で息が止まりそうなのに。

自分でも驚いている。
一連の出来事に。
こうしてクリストファーの首に腕を絡ませて大人のキスを自ら応じている。

(だ、だって、クリストファーが欲しいんだもの……)

心が身体がクリストファーを求めている。
こんな感情、初めて。

「マリアンヌ………」

囁かれるクリストファーの声に身体の奥が蠢く様に疼いていて。
初めての感覚。

これは、なに?

「あ、ん」

互いの唾液が混ざり合い首筋を伝って流れて。
ふわりと漂う官能的な薔薇の薫り。
脳髄まで蕩かせる甘くてセクシュアルな薔薇の薫りに魅了され更に深く互いの舌を求めて激しく絡ませる。

「マリアンヌ」

キスの合間に名を呼ばれる。
何時もより深みのあるクリストファーの声。
淡々とした声音しか知らなかった、クリストファーの。

すう、とクリストファーの唇が離れていく。
無我夢中でクリストファーとの唇を求めていたから解かれる事に切なさを抱いてしまう。
身体の一部と化していた、クリストファーの唇が……。 

(クリストファー……)

熱に浮かされ潤んだ目でクリストファーを見ると、するりと髪が解かれクッションに広がっていく。

くすり、と何処か楽しげに微笑むクリストファーの唇が濡れていて。
激しく互いを求め合った名残を告げる艶かしい唇に目を奪われてしまう。

とくんと鼓動が跳ねる。

あの唇が私に触れた。
互いの熱を求め合って一つに溶けていって、そして今も。

「髪を靡かせているマリアンヌが好きだ」

「クリストファー」

私の髪の毛を一房手に取り、口元に寄せる。
口元から髪の毛に伝わるクリストファーの息遣い。
身体が粟立ちプルプルと震えてしまう。

「僕が怖い?」

一瞬、問われる言葉に目を大きく見開いてしまう。
震えが走った肌に気付いたクリストファーが少し寂しげに微笑んでいる。

「夢の中まで君に拒まれるのは正直、堪えるよ。
君に嫌われるのは辛いな……」

ぽろりと呟く言葉にマリアンヌは呆然した顔でクリストファーを見てしまった。

(そ、そんな風にずっと思っていたの?
私に嫌われていると思って口を噤んでいたの?
無口も無表情も全て私がクリストファーを嫌っていると思っての事なの?)

「僕がだから君に触れるのが怖くて、君にどう接すればいいのか分からなかった。
君と話すと君に対する想いが止めどなく溢れてしまって抑える事が出来なくて……。
ふふふ、情けないよね、僕は。
君が好き過ぎて愛しくて堪らなくて。
愛を抑える術なんて持ち合わせて無かったよ。
……。
マリアンヌ、僕はね。
君が婚約者だと紹介された時、嬉しさの余り緊張して上手く言葉を紡ぐ事が出来なかった。
だって君は魅力的な女の子で僕は一目で君に恋をした。
君は眩いばかりの笑顔で僕に挨拶してね。
僕は屈託ない君の笑顔に釘付けになってしまって、自然と赤らむ頬を止める事なんて到底出来なかった。
そんな僕の恥じらいと照れている気持ちを君に悟られたくなくて、つい、無言で接してしまった。
ドキドキと心臓の音が煩くて鎮めるのに必死だったのに、意中の君は僕の事を心の中では苦手だと気付いてしまって。
一瞬、鈍器で頭を殴られた様な衝撃が全身に駆け巡った。
それも僕の事を知ってではなく、僕の顔が苦手だと。
母親に似た僕の顔が嫌いだと知って、その日、僕はずっと落ち込んでいた。
好きになった女の子が僕の事を嫌っている、それも僕の顔が原因だと知って心が張り裂けそうに痛くなって、一日中、ベッドに蹲ってしくしくと泣いていたよ」

クリストファーの衝撃的な告白にマリアンヌは空いた口が塞がらない。

(え、く、クリストファーはそれが原因で私との会話を拒んでいたの?
確かにおば様似の完璧な美貌に畏れを抱いてたわよ。
だって自分よりも綺麗すぎる男の子って、幼い私にとって自分の容姿にコンプレックスを抱かさせるには十分な要素ではないの。
私だってあの日は少なからず落ち込んだわよ。
これから先、ずっと顔面格差を意識しながら付き合っていかないといけない、だけど、えええええ!)

「く、クリストファー?」

マリアンヌの呼びかけにクリストファーは視線は何処か彷徨っており、焦点の定まらない様子にクリストファーの意識は過去へと向かっていた。

クリストファーの独白にマリアンヌは、官能に酔いしれていた思考がはっきりと覚醒してしまった。

(こ、これってどう思えばいいの?
わ、私が原因だったと思わないといけないの?
ど、どうしてクリストファーも言ってくれなかったのよ!
ずっとクリストファーに嫌われていると思って散々悩んで。
愛のない婚約を強いられたと悲劇のヒロインの様に自分を慰めていたけど、これってどう見ても……)

クリストファーの方が悲劇のヒロイン?ううん、ヒーロー?
ちょ、ちょっと待ってよ、マリアンヌ、落ち着いて!

何処で私達はすれ違ったの?
確かに顔は苦手だけど、でも、それが全てでは無いでしょう?
クリストファーもどうして私の事を愛しているのなら口にしないのよ!
態度で示さないのよ!
全然そんな素振りなんて見せなかったじゃ無いの!
いつも素っ気ない、無言、無表情、時折不機嫌さを醸し出して、その都度どれだけ心を痛めたと思っているのよ!

(な、なんか無性に腹が立ってきた!
く、クリストファーの馬鹿!
何を一人で夢見がちに語っているのよ!
私を愛しているのなら夢ではなくて、現実で語ってよ!
正気に戻って私に面と向かって告白しなさいよ!)

余りの腹立たしさにマリアンヌはクリストファーの身体を押して起き上がり、テーブルに置かれている水が入ったビッチャーを掴み。

一瞬の出来事にクリストファーの彷徨っていた目がマリアンヌを見詰め出して。

「これで目を覚ましなさい、クリストファーっ!」とマリアンヌはクリストファーの顔にパシャリと水を掛けてしまった。
はあはあと憤りで興奮したマリアンヌとは対象的にぼんやりとしたクリストファーは頭から冷たい水が滴り落ち。

一瞬の静寂が2人を包む。

最初に口を開いたのは、クリストファーであり。

「ま、マリアンヌ?」

気が抜けた様なクリストファーの声に、怒りに身体をブルブル震えさせるマリアンヌがクリストファーに。

ぱしん、と小気味良い音にクリストファーの頬が赤く染まっていき。

「これでスッキリしたでしょう、クリストファー!
夢の中では無くて、今、ここではっきりと言って!
面と向かって私に告白しなさい」
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