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15話
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(よし、これで完璧だわ。
綺麗に髪も結ってあるし薄化粧して貰ってまるで自分ではないみたい。
これならクリストファーだって私を見て言葉をかけてくれるかしら。
綺麗だと思ってくれるよね?)
鏡の前でマリアンヌはにっこりと微笑む。
側にいるエマに視線を注いで礼を述べる。
「ありがとうエマ」
「流石、私のマリアンヌお嬢様です。
溜息が出る程に美しい」
ほうと溜息を洩らすエマにマリアンヌは苦笑する。
「いやだわ、エマったら。
私を喜ばせてどうしたの?」
「私は事実を述べているだけです」と真顔で訴るエマにマリアンヌは更に苦笑する。
「もう、エマ。
本当にありがとうね。
これで自信を持ってクリストファーに会いに行けるわ」
マリアンヌのいじらしい言葉にエマが思わず涙腺を緩ます。
素直で愛らしい、私の自慢のお嬢様。
どうしてもマリアンヌの願いをエマは叶えたかった。
自分を誰よりも綺麗にして欲しい。
クリストファーに告白しに行くからと自分に自信が持てる様に綺麗に装って欲しい、と。
朝起きて直ぐに侍女のエマに真剣な表情で訴るマリアンヌにエマが嬉々としてマリアンヌに告げる。
「クリストファー様が見惚れる程にして差し上げますわ」
「も、もうエマったらまた私を揶揄って。
そんな事、有り得ないでしょう」
と言いつつ恥ずかしげに頬に手を添えるマリアンヌの可憐さにエマは思わず唸ってしまう。
(本当に何処までも鈍いんだから。
側から見てどれだけクリストファー様がマリアンヌ様を愛しているか、皆、気づいているのに、当の本人ったら。
今から装って綺麗なマリアンヌ様を見ればクリストファー様がどんな行動に出るか……)
クリストファー様が何時もマリアンヌ様に骨抜きになっているのに今日のマリアンヌ様を見ればピアッチェ家に帰られない事は確実、監禁生活確定ですねと、ぽそりとエマが恐ろしい言葉を呟いていた事にマリアンヌは気付いていない。
そんなエマの物騒な言動に相反してマリアンヌは意気込んで今からシャンペトル家へと行こうとしていた。
母親のセシリアと一緒に。
(珍しい、お母様が一緒シャンペトル家に行くなんて。
私の事を心配しての事かしら。
私ったらお母様までに心配をかけてしまって……)
セシリアに迷惑をかけてしまったと反省している様子にセシリアが苦笑する。
急にリアナと話がしたくなったのよ、と何時もとは違う雰囲気を醸し出す母親にマリアンヌは一瞬、自分の目を疑う。
何処か弱々しい母親の姿。
もしかして自分の事でお父様と何かあったのでは?と考え込んでしまい自己嫌悪に陥るが、そんなマリアンヌに気づいたのか、違うのよとセシリアはマリアンヌに告げる。
「リアナとただ話したいだけ」
ただその一言をマリアンヌに告げて馬車に乗り込む。
母親の動向に一瞬、戸惑いつつもマリアンヌは母親と一緒にシャンペトル家を向かって行った。
***
馬車の窓から景色を見詰めながらマリアンヌは今朝の一連の出来事を思い出していた。
美人とは言い難い容貌であるが普段の自分とは思えない可憐で綺麗になったと鏡に映る自分を見て称賛する。
淡い栗色が映える若草色のワンピース。
所々に薄紫の薔薇が刺繍されて上品で洗練されたデザイン。
今年の誕生日にクリストファーにプレゼントされたワンピース。
最初箱を開けた時、一瞬、自分の目を疑ってしまった。
意外なプレゼントにただただ言葉を失っていた。
(ど、どうしてこれをプレゼントしてきたのかしら?
今までは花束とか髪飾りとか、綺麗なリボンとかは貰ったけどワンピースなんて)
よく見るとビーズを糸に通して刺繍されている。
光に翳すとキラキラと煌めいてとても綺麗だと、マリアンヌは自然と嘆息を漏らしていた。
(あの時、直ぐに箱から出して身体に当てた時、思わず頬が緩んでしまったわ。
どうしてこんなに綺麗なワンピースを私にプレゼントしてくれたの?
一体、どんな気持ちで選んだのかしら。
クリストファーの真意が知りたくって、でも、知るのが怖くて。
だって自分達は父親同士が勝手に決めた婚約者だからと言う固定観念が何時も心の片隅にあって。
中々素直にお礼を告げる事が出来なかった。
だから決めたの、今日はこれを着る事を。
これを着てクリストファーに告白すると決めていたの)
そう思ったとたん、マリアンヌの頬が自然と赤く染まっていく。
今更ながら自分から告白する事が気恥ずかしくなっている。
大胆な行動に走っていると思いながらも、今、自分の心に素直にならないとクリストファーの気持ちを確かめる事が出来ない。
クリストファーの本心を知りたい。
本当にクリスティーナ様を愛しているのか。
それとも本当は私の事をを愛している?
あの激情を孕んだキスがクリストファーの本心なのか。
つい、指先を唇に弧を描く様に触れていって。
ぼぼぼ、と一気に湯気が出る位に頬に熱が籠っていく。
(ああん、マリアンヌ。
何を思い出しているの、は、恥ずかしい。
……。
あれはじ、事故だったのよ。
クリストファーの気の迷いだったのよ。
そう、それだけよ。
それよりも今からの事に気持ちを集中させて。
今日、クリストファーからプレゼントされたワンピースを着て、勇気を振り絞っているんだから!
こ、これを絶対に着たかったの。
だって一番のお気に入りだから。
あの時、恥ずかしくて素直にお礼を言えなかったが、本心では嬉しかったとクリストファーに伝えたかった。
本当はあの場でクリストファーに見せたかった。
このワンピースを綺麗に着こなした自分を)
愛されてもいないのに、でも、見せたかった。
一瞬、過った言葉にずきりと胸に痛みが走る。
でも、今日でこの気持ちに決着をつけるんだから。
うじうじと悩むのもこれでお終い。
どんな結果が出ても悔いを持ちたくない。
自分の気持ちに正直でありたい。
それが今日、このワンピースを着た理由だから。
クリストファーに素直に自分の気持ちを伝えるの。
貴方が好きだって。
愛のない婚約をしていても関係ない。
私が貴方を愛したきっかけが父親同士が決めた婚約者だからと言って、それが理由では無い。
クリストファー。
貴方だから好きになった。
貴方だから私は愛を抱いたの、と。
綺麗に髪も結ってあるし薄化粧して貰ってまるで自分ではないみたい。
これならクリストファーだって私を見て言葉をかけてくれるかしら。
綺麗だと思ってくれるよね?)
鏡の前でマリアンヌはにっこりと微笑む。
側にいるエマに視線を注いで礼を述べる。
「ありがとうエマ」
「流石、私のマリアンヌお嬢様です。
溜息が出る程に美しい」
ほうと溜息を洩らすエマにマリアンヌは苦笑する。
「いやだわ、エマったら。
私を喜ばせてどうしたの?」
「私は事実を述べているだけです」と真顔で訴るエマにマリアンヌは更に苦笑する。
「もう、エマ。
本当にありがとうね。
これで自信を持ってクリストファーに会いに行けるわ」
マリアンヌのいじらしい言葉にエマが思わず涙腺を緩ます。
素直で愛らしい、私の自慢のお嬢様。
どうしてもマリアンヌの願いをエマは叶えたかった。
自分を誰よりも綺麗にして欲しい。
クリストファーに告白しに行くからと自分に自信が持てる様に綺麗に装って欲しい、と。
朝起きて直ぐに侍女のエマに真剣な表情で訴るマリアンヌにエマが嬉々としてマリアンヌに告げる。
「クリストファー様が見惚れる程にして差し上げますわ」
「も、もうエマったらまた私を揶揄って。
そんな事、有り得ないでしょう」
と言いつつ恥ずかしげに頬に手を添えるマリアンヌの可憐さにエマは思わず唸ってしまう。
(本当に何処までも鈍いんだから。
側から見てどれだけクリストファー様がマリアンヌ様を愛しているか、皆、気づいているのに、当の本人ったら。
今から装って綺麗なマリアンヌ様を見ればクリストファー様がどんな行動に出るか……)
クリストファー様が何時もマリアンヌ様に骨抜きになっているのに今日のマリアンヌ様を見ればピアッチェ家に帰られない事は確実、監禁生活確定ですねと、ぽそりとエマが恐ろしい言葉を呟いていた事にマリアンヌは気付いていない。
そんなエマの物騒な言動に相反してマリアンヌは意気込んで今からシャンペトル家へと行こうとしていた。
母親のセシリアと一緒に。
(珍しい、お母様が一緒シャンペトル家に行くなんて。
私の事を心配しての事かしら。
私ったらお母様までに心配をかけてしまって……)
セシリアに迷惑をかけてしまったと反省している様子にセシリアが苦笑する。
急にリアナと話がしたくなったのよ、と何時もとは違う雰囲気を醸し出す母親にマリアンヌは一瞬、自分の目を疑う。
何処か弱々しい母親の姿。
もしかして自分の事でお父様と何かあったのでは?と考え込んでしまい自己嫌悪に陥るが、そんなマリアンヌに気づいたのか、違うのよとセシリアはマリアンヌに告げる。
「リアナとただ話したいだけ」
ただその一言をマリアンヌに告げて馬車に乗り込む。
母親の動向に一瞬、戸惑いつつもマリアンヌは母親と一緒にシャンペトル家を向かって行った。
***
馬車の窓から景色を見詰めながらマリアンヌは今朝の一連の出来事を思い出していた。
美人とは言い難い容貌であるが普段の自分とは思えない可憐で綺麗になったと鏡に映る自分を見て称賛する。
淡い栗色が映える若草色のワンピース。
所々に薄紫の薔薇が刺繍されて上品で洗練されたデザイン。
今年の誕生日にクリストファーにプレゼントされたワンピース。
最初箱を開けた時、一瞬、自分の目を疑ってしまった。
意外なプレゼントにただただ言葉を失っていた。
(ど、どうしてこれをプレゼントしてきたのかしら?
今までは花束とか髪飾りとか、綺麗なリボンとかは貰ったけどワンピースなんて)
よく見るとビーズを糸に通して刺繍されている。
光に翳すとキラキラと煌めいてとても綺麗だと、マリアンヌは自然と嘆息を漏らしていた。
(あの時、直ぐに箱から出して身体に当てた時、思わず頬が緩んでしまったわ。
どうしてこんなに綺麗なワンピースを私にプレゼントしてくれたの?
一体、どんな気持ちで選んだのかしら。
クリストファーの真意が知りたくって、でも、知るのが怖くて。
だって自分達は父親同士が勝手に決めた婚約者だからと言う固定観念が何時も心の片隅にあって。
中々素直にお礼を告げる事が出来なかった。
だから決めたの、今日はこれを着る事を。
これを着てクリストファーに告白すると決めていたの)
そう思ったとたん、マリアンヌの頬が自然と赤く染まっていく。
今更ながら自分から告白する事が気恥ずかしくなっている。
大胆な行動に走っていると思いながらも、今、自分の心に素直にならないとクリストファーの気持ちを確かめる事が出来ない。
クリストファーの本心を知りたい。
本当にクリスティーナ様を愛しているのか。
それとも本当は私の事をを愛している?
あの激情を孕んだキスがクリストファーの本心なのか。
つい、指先を唇に弧を描く様に触れていって。
ぼぼぼ、と一気に湯気が出る位に頬に熱が籠っていく。
(ああん、マリアンヌ。
何を思い出しているの、は、恥ずかしい。
……。
あれはじ、事故だったのよ。
クリストファーの気の迷いだったのよ。
そう、それだけよ。
それよりも今からの事に気持ちを集中させて。
今日、クリストファーからプレゼントされたワンピースを着て、勇気を振り絞っているんだから!
こ、これを絶対に着たかったの。
だって一番のお気に入りだから。
あの時、恥ずかしくて素直にお礼を言えなかったが、本心では嬉しかったとクリストファーに伝えたかった。
本当はあの場でクリストファーに見せたかった。
このワンピースを綺麗に着こなした自分を)
愛されてもいないのに、でも、見せたかった。
一瞬、過った言葉にずきりと胸に痛みが走る。
でも、今日でこの気持ちに決着をつけるんだから。
うじうじと悩むのもこれでお終い。
どんな結果が出ても悔いを持ちたくない。
自分の気持ちに正直でありたい。
それが今日、このワンピースを着た理由だから。
クリストファーに素直に自分の気持ちを伝えるの。
貴方が好きだって。
愛のない婚約をしていても関係ない。
私が貴方を愛したきっかけが父親同士が決めた婚約者だからと言って、それが理由では無い。
クリストファー。
貴方だから好きになった。
貴方だから私は愛を抱いたの、と。
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