「貴方に心ときめいて」

華南

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閑話16

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ぽつんぽつん。

水音が聞こえる。
身体を包む温かい感触。
仄かに薫るラベンダーの香り。

手を動かすとちゃぽん、と水が弾く。
身体が固定されて背中に誰かの体温を感じて。

(あ、身体から温もりが離れていく)

一瞬、身体を纏っていたラベンダーの香りが離れていく。
誰かに抱き上げられて。
そこからまた、意識が遠のく。

守られている。
誰かに大切に抱き締められている。
その優しさに涙が滲んで。
私の涙に気付いたその人が涙を唇で拭う。
そしてまた私をぎゅっと抱き締める。
優しい抱擁。
その優しい温もりに包まれながら私はまた、深い眠りに落ちた。

***

(ここは、何処なの?)

薄らと目を開くと周りは薄暗くて。
仄かな光が部屋を照らしている。

(寝室、かな?
今、何時なの……)

頭がぼんやりする。
喉が少し渇く。
水が飲みたい。

「目が醒めたか?」

(身近に感じるこの声は?)

「保科、さん?」

背後から保科さんの声が聞こえる。
私の腹部に腕を回して背中に肌の熱が直に感じて。

「私?」

「ああ、やっと身体の体温が戻ったか。
俺がお前を見つけた時、雨にずぶ濡れで立っていて心臓が止まるかと思った。
お前は俺の寿命を縮めるつもりか」

苛立ちと怒りを滲ませた声音に、身体がびくん、と震える。
グッと身体が密着する。
背後から回される保科さんの腕の力が強くなって。

そして今の状況をありありと気付かされてしまう。
お互いが裸だって事に。

「ほ、保科さん!
な、ど、どうしてわたし、は、裸」

かああと全身が一気に赤く染まる。
こんな、こんな事って一体何があったの?

「ずぶ濡れになっていたお前を暖めるにはこれが一番の得策だった。
身体が温もっただろう?紗雪」

「……」

(こ、答えられる訳無いでしょう?
お互いが裸で、理由が理由でも……)

一瞬、屋上での言葉が脳裏に過る。
あっちの具合が良くて、気に入られたのかと言う。

「紗雪?」

「あ、ありがとうございます。
もう、充分に温もったので離して下さい……」

最後の言葉は唇が震えて声が小さくなる。
こんな恥ずかしい状態でマトモに話せる程、私は平常ではいられない。
経験値が無い私がどうして身体で保科さんを落とせるのと思えるのかしら。
女として魅力が無いと思っている私がどうして。

「……」

「お願い、保科さん……」

「紗雪」

保科さんの手が私の乳房に触れる。
不埒に乳房を掴む手は明らかに私の官能を引き出そうとしている。

「だ、だめです、保科さん。
わ、私は……」

「俺に全てを委ねろ。
俺が忘れさせてやる」

「……」

「愛している、紗雪」

「わたし、は」

それ以上は紡げない。
頸に保科さんの唇の感触が舌の感触が私にそれ以上の言葉を紡がせない。
いやいやとかぶりを振って抵抗しても臀部に感じる熱が私を萎縮させる。

「紗雪、もう我慢が出来ないんだ。
お前が欲しい」

身体を反転させられ仰向けになった私に噛み付く様にキスをする。
上手く息継ぎが出来ない。
余りに激しい口付けに苦しくなって保科さんの胸を押そうしても手に力が入らない。

「や、ああ、く、苦し」

キスの合間に呟く私に気付いた保科さんが唇を離す。
一瞬、大きく息を吸って保科さんを見詰める。
熱に浮かされた保科さんの顔。
欲情に濡れた目で私を見ていて。

「紗雪」

もう一度、唇を奪われる。
今度はゆっくりと互いの舌を絡ませてながら。

「あ、んん」

シーツを強く握っている。
こんなの間違っていると頭では理解しても感情が伴わない。
どこかこのまま流されたいと思う気持ちもあって。

(ふふふ、屋上で言われた言葉は強ち嘘とは言い切れない。
好きでも無い人と事に及ぼうとしている。
簡単に身体を許そうとしている。
身体を武器にして仕事を貰ったと言われても否定できない)

無意識に涙が零れる。
自分が惨めで情けなくて。
何故、あんな事を言われないといけないの?
そんなに私は女として魅力が無いの?

確かにヒロインにはなれない、只のモブキャラ。
モブ人生もいいとこ。
誰かを好きになっても自分に自信が無くて。
何か一つでも取り柄が有れば救われるのに、取り柄なんて何にも無い。
料理だってそこそこ、女らしい趣味も無いし、仕事だってそこそこで特に優秀とは言い難い。
目立つ容姿でも無く、普通以下の容姿で。

そんな私が保科さんに求められている。
一人の女として。
愛を囁かれ身体を求められて。

「紗雪……」

ちゅっちゅっと顔中にキスされる。
額に、頬に、眦に。
涙を拭われじっと見詰める保科さんの瞳に私は釘付けになる。

(目の色が水色?)

今まで気付かなかった。
もしかして隠していた?
彫りの深い整った顔立ちだと思っていたけど、気の所為では無いわよね。

(あれ?
何処かで見た事がある?)

何処か懐かしい感覚。
綺麗なアクアマリンの瞳。

ううん、違う。

澄み切った空の様にキラキラと輝いている。

「保科さんの目、とても綺麗。
まるで晴れた日の澄み切った空の様にキラキラと輝いている」

自然と出た言葉に、一瞬、保科さんの目が大きく見開き。

「……」

綺麗、と手を伸ばそうとした私の手を掴み指を絡ませて。

そこからはただただ保科さんの激情に翻弄されて甘い嬌声をただひたすらあげていた。
甘美な夢に囚われて快楽の淵に落とされて。

「紗雪、紗雪っ」

何度も何度も名前を呼ばれ至る場所に痕を刻まれて。

「ああん、いや、いやああ!
こ、怖いよおお。
いや、変になるのお……」

「もっと善がれ、紗雪。
ああ、変になればいい。
俺無しではいられない身体に、もっと落としてやる!」

「ああん、もお、やめてっ……」

何度も何度もイカされて。
でも、まだ初めては奪われていない。
燻られた熱をどうにかして欲しい。

(こ、こんなの、いやああ……。
蠢く中を満たして欲しい)

「保科さあ、ん」

「祥吾、だ」

「あ、ああん、祥吾さあ、ん。
ほ、欲しい、のお……」

「っ」

快楽に何度も落とされて涙がとめどなく溢れて止まらない。
これは悦びの涙であって哀しい涙では無い。

ただひたすら保科さんの愛撫に善がって喘いで。

身体中が熱に浮かされて。
無意識に強請っていた。
保科さんと一つになる事を。

大きく脚を開かれて。
中に保科さんの熱量を感じて。
痛みが現実に引き戻す。
あれだけ快楽に浸っていた私の全身に引き裂く様な痛みが生じる。

(い、痛い。
こ、こんなの)

痛みで顔が歪み叫びそうになる唇を保科さんに塞がれ、一気に中を貫かれる。
じりじりと痛みが下肢に広がり、たらりと鮮血が流れる。

女になった瞬間。

その事を感じるのも一瞬の事。

身体を揺さぶられ、最初、痛みだけを拾っていた下腹部がだんだんと保科さんに絡みつき。
強烈な快感が脳髄を貫く。
喘ぎが止まる事なく口元から漏れて。

ぬちゃぬちゃと中を行き来する保科さんの楔にトロトロと流れる鮮血と愛液と。
乱され腰が揺れる。

何も考えられない。
一柳さんに振られた事も。
ううん、最初から相手にされていなかった事も、彼女がいた事も、傷付く言葉を二人で交わしていた事も、何もかもを忘れていた。

ただただ保科さんの与える快楽が私の思考を身体を奪っていた。
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