「貴方に心ときめいて」

華南

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7話

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仄かに暗い寝室に響き渡る、女の喘ぎ声。

それに伴いぱんぱんと肌と肌が激しくぶつかる音も響いている。
男が背後から貫き何度も何度も激しく行き来する。
激しい交接に互いの愛液が混ざり合いシーツに染みを作る。

「も、もう駄目……。
お願い、許しって」

女性の声を打ち消すかの様に、男は更に激しい攻め苦を与える。
女性の口から一際甲高い声が零れる。
膝が崩れ身体をシーツに沈める女に重なる様に、男も同時に倒れ込む。
荒い吐息の中、耳許で囁かれる睦言。

ゾッとする程の美ボイス……。

思わず、きゃあああと叫んでしまった。

ああ、私が観たかったのは、こんなシーンだったのよ……。
画面を血走った目で食い入る様に見詰めている。
ふんふんと鼻息を荒くしながら私は画面に向かって思いっ切り叫んでいた。

***

「何て言う夢を朝から見ているの、私。
まるで欲求不満だと言っているみたい」

目覚めた時、余りにリアルなピンクの世界に夢の中の私は激しく興奮していた。
その余韻が今も残っているのか。
下腹部がビクビクと蠢いている。
夢に反応している。

なんとも言えない微妙な気分。

「貴方に心ときめいて」のキャラの絡みと思うのだけど、どのキャラ達のそう言うシーンから、靄がかかっていて解らない。
そして背筋をゾゾゾとさせる美ボイス。

一体、誰の声なのー!

え、王太子のラルフか、第2王子のルーファンか。
それとも王弟のギランか、宰相の令息ユーリックか、もしくは騎士団長のライオネル?
もしかして隣国の国王トリスタンか。

解らない……。
夢の中での美ボイスまで、フィルターがかかって全くもって解らない。

もう鼻血ものかと思うくらい興奮した。
夢の私だけど。

ハッキリ言って、今の私、エレーヌでは断じて無い。
そんな、破廉恥な夢を見るって……。

だけど悲しい事にエレーヌの身体が反応している。
ビクビクと……。

もしかして寝言で叫んではいないよね?
顔が一気に蒼ざめていく。
もし、私の叫び声が寝室から漏れていたら、グーベルト家でまた人騒動、起きてしまう。

今はオリバー兄様が帰郷しているから尚更だわ。
お兄様の過保護っぷりは類を見ないものだから。
両親もアルフォンソ兄様も私を眼に入れても痛く無い程の溺愛ぶりだけど、オリバー兄様は……。

少しでも体調を崩した素振りを見せたら最後。
良くなるまで一歩も部屋から出さしてくれない。
まあ、それが当たり前なのは解っているのだけど、やり方が半端ないのよね。
四六時中、部屋の外には侍女を控えさせ、寝ずの番をさせるのだから。
そんなの止めて欲しいのだけど、お兄様の鬼気迫る顔の前では何も反論出来ません。

妙に整っているからね、顔が。
私と同じくスチル無しのモブキャラ設定なのに、何故か、美形の部類に入る。
まあ、メインキャラ達の煌びやかさには敵わないけど。

切れ長の琥珀の瞳に、サラサラヘアの明るい茶色の髪。
そして私にとっては、反則だもん。
オリバー兄様の声は……。

声が、一柳さんにそっくりだもの。
あの声で言われたら、私、逆らえると思う?

数年前、声代わりのオリバー兄様の声に、思わず言葉が詰まってしまった。
感情が昂り、涙がポロポロと溢れて止まらなくて。
そんな私を見たお兄様の蒼白した顔とオロオロする声に拍車がかかり、私は涙を止める事が出来なかった。

だから、オリバー兄様は私にとって、少し、「特別」

久保紗雪にとって、オリバーと言うキャラは、「貴方に心ときめいて」では対象外キャラだけど、特別なの……。

ああ、どうしてこんな夢見たのかな、私。

一瞬、首を傾げ考え込み、そしてポンと手を叩き納得した。

(ああ、そっか。
今日で16歳になったんだ、「私」)

今日、私は16歳の誕生日を迎えたんだ……。
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