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07 サヤ
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『サヤ』とは、片桐が大学に入ってすぐの頃に出会った。授業が終わった後、人間を嫌って近くの公園で暇を潰していると、いつも何処からともなく銀と白との毛並みに包まれた麗しいサバトラ猫が現れてきて、片桐に甘えてくるようになったのだ。
当初から首輪をしていなかったから、飼い猫ではないハズだった。にも拘らず、カノジョはとても人懐っこく、ベンチにいる片桐の膝の上に遠慮もなく乗ってきてはそのまま眠り込んでしまうことが多々あった。
はじめの時期こそ戸惑ったものの、その裏表もなく自分を信頼してくれる姿に愛着を覚え、いつしか公園に通うのは片桐の日課となっていた。駄目とは知りつつ、こっそりエサをやったのも一度や二度ではない。
その公園の端にはいつも、お洒落な格好をした老人がひとりいて、フルートやオカリナ等を吹いては人々の耳を楽しませていた。それらの調べは『サヤ』にとってもお気に入りだったと見え、片桐の膝の上という特等席で、演奏に合わせてご機嫌そうに尻尾を振る姿は特に印象的だった。
片桐自身も、膝の上のカノジョと一緒に聴き惚れて眠ってしまい、眼が覚めると知らぬ間にそのカノジョは姿を消していることが多かった。そうしてついぞ、連れ帰って飼うことは叶わなかった。
そんな幸せな日々も、ひと月前に終わりを迎えた。
大学に向かっていたある日のこと。公園の前を通りがかった片桐は警察が張った規制線と、それに群がる野次馬の姿を目撃した。胸騒ぎを覚えて駆けつけると、変質者の仕業と思われる猫殺しが起きたとのことだった。
現場は、片桐がカノジョと一緒にいつも腰掛けていた、あのベンチの傍で。血塗れの変わり果てた姿で地面に転がっていたのは、一匹のサバトラ猫だった。
あの美しい、宝石のように輝く青い瞳は二度と見開かれることはなく。
それから自分がどんな行動を取ったのか、片桐は殆ど全く覚えていない。
後に聞こえてきたのは、公園の野良猫相手に『無責任なエサやりをする人間』がいたということ、結果として野良猫が変質者を警戒できずに犠牲になったのではないかということ。そうした世間の噂話だった。
片桐が深刻な不眠の症状に悩まされるようになったのは、それから間も無くのことだった。
当初から首輪をしていなかったから、飼い猫ではないハズだった。にも拘らず、カノジョはとても人懐っこく、ベンチにいる片桐の膝の上に遠慮もなく乗ってきてはそのまま眠り込んでしまうことが多々あった。
はじめの時期こそ戸惑ったものの、その裏表もなく自分を信頼してくれる姿に愛着を覚え、いつしか公園に通うのは片桐の日課となっていた。駄目とは知りつつ、こっそりエサをやったのも一度や二度ではない。
その公園の端にはいつも、お洒落な格好をした老人がひとりいて、フルートやオカリナ等を吹いては人々の耳を楽しませていた。それらの調べは『サヤ』にとってもお気に入りだったと見え、片桐の膝の上という特等席で、演奏に合わせてご機嫌そうに尻尾を振る姿は特に印象的だった。
片桐自身も、膝の上のカノジョと一緒に聴き惚れて眠ってしまい、眼が覚めると知らぬ間にそのカノジョは姿を消していることが多かった。そうしてついぞ、連れ帰って飼うことは叶わなかった。
そんな幸せな日々も、ひと月前に終わりを迎えた。
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