上 下
140 / 185

第五十一話 「ウルフ一郎さんとサングラスの秘密」

しおりを挟む
う、う~ん。あれっ?ここはどこだ?
誰もいねぇ、工場みてぇだけど・・・・・・ん!?
か、体が動かねぇ!
一体、どうなってんだ!?
俺様が体を動かそうとしても体は全く、動かない。
う~ん、う~ん!だめだ、ビクともしない。
ん!?体を縄で縛られている!
そうか!こいつのせいで、体が全く、動かないんだ!
早くしねぇと、みんながまってる!
俺様は、縄をほどこうとした。
 
「やぁ坊や、逃げる気かい?」
 
!?
あの、きつねのおっさんは・・・・・・。
 
「さっきのおっさん!」
 
一体、何したんだ!
 
「なにって、君をゆうかいしたのさ。」
 
おっさんは、ニヤッと笑った。
家族のところへ返せ!
俺様が大きな声でさけぶと、おっさんは、俺様の方へ歩き始め、俺様のおでこに、銃を当てた。
!?
 
「だまってねぇと、殺すぞ。」
 
と、こわい顔で、俺様を見つめた。
誰か、助けに来てくれ!
と、そう思った、その時!
ブォーン、ブォーン!
ん!?あのバイクの音は!
 
「なんだなんだ?」
 
おっさんが、俺様のおでこに銃を当てるのをやめ、外の方をくるりと振り向いた。
ブォーン、ブォーン!
だんだん、近づいて来る。
 
「ええい!誰だ!クソバイクに乗っているのはぁ!」
 
おっさんがそう、大きな声で言うと、一台のバイクが入って来た。
あ、あれは!
 
「父ちゃん!」
 
う、うそだろ?父ちゃんが、助けに来るなんて・・・・・・。
 
「父ちゃん、危ない!やつは銃を持っている!」
 
ブォーン、ブォーン!
 
「ちっ、クソガキの親父が現れたかぁ。」
 
バイクはだんだん、おっさんとの距離を、縮んでゆく。
ブォーン、ブォーン!
 
「父ちゃーん!」
 
ドッ!
 
「うわぁ!」
 
おっさんがバイクにはねられて、その場でばたりとたおれ、そのまま気絶した。
そして、バイクは俺様の前でとまり、父ちゃんはヘルメットを外し、バイクに降り、俺様のところへ駆けつけた。
 
「父ちゃん!」
 
「ウルフ一郎!大丈夫か!?」
 
あぁ。大丈夫だ。
 
「今、縄をほどいてやるからな!」
 
父ちゃんが、ポケットの中から、ライターを取り出し、カチッとライターを押して、火を縄に付けた。
あ、あちっ・・・・・・。
 
「がまんしろ。」
 
う、うん。
そして、縄がほどいた。
うわぁ~。父ちゃん、ありがと―う!
俺様は、父ちゃんにだきついた。
 
「えへへへへ。どういたしまして。」
 
やっぱ父ちゃんは、俺様の世界一の父ちゃんだぁ!
 
「えへへへへ。そう言われると、照れるなぁ~。」
 
アハハハハ!
 
「さぁ、早く家に帰ろう。今日の晩飯は、みんなが大好きな、メンチカツだ・・・・・・。」
 
バァァァァァァン!
!?
父ちゃんは、そのまま後ろから、ゆっくりたおれた。
 
「父ちゃ―ん!」
 
俺様は、父ちゃんのところへ駆けつけた。
ピーポー、ピーポー。
パトカーの音が、遠くから聞こえてきた。
 
「や、やべ!」
 
おっさんは、工場の裏口から出て行った。
 
「父ちゃん、大丈夫か!?」
 
「あ、あぁ。大丈夫だ。」
 
胸から血が出ている・・・・・・。
 
「はぁ、はぁ。もう、終わりだな、俺は。」
 
バカなこと、言わないでよ!
俺様の目から、涙が出てきた。
 
「人はいずれ、死ぬ時もあるんだ。ウルフ一郎。」
 
父ちゃんは人間じゃねぇだろ!
なぁ、死なないでくれよぉ、父ちゃん!
 
「はぁ、はぁ。ウルフ一郎の花婿姿、見たかったなぁ。」
 
父ちゃん!バカなこと、言わないでくれよぉ!
 
「ウルフ一郎・・・・・・。」
 
父ちゃんは、俺様のほっぺを、左手でさわって、にこっとほほえんだ。
 
「母ちゃんとウルフ次郎とウルフ三郎のこと、よろしく頼むぞ・・・・・・。」
 
父ちゃんはそう言って、目をゆっくり閉じ、左手をゆっくり下ろした。
う・・・・・・うそだろ?俺様の父ちゃんが死ぬなんて・・・・・・。
あの父ちゃんが、ポックリ、逝っちまうなんて・・・・・・。
ポタポタポタポタ。
俺様の涙の雨が、床にたくさん落ちてゆく。
ゔ・・・・・・ゔ・・・・・・!
 
「父ちゃ―ん!」
 
俺様は、大きく泣きさけんだ。
俺様、本気で泣いたの、初めてだ・・・・・・。
目の前で、大切な人が死ぬなんて・・・・・・。
 
 

 
 
父ちゃんが亡くなって3日後。
俺様は、父ちゃんの遺影の前に立った。
遺影の横には、父ちゃんがかけていた、黒いサングラスがあった。
・・・・・・父ちゃん、俺様、決めたよ。
父ちゃんの分まで生きる。父ちゃんみてぇな男になるって。
だから、天国で見守ってくれよな。
俺様は、黒いサングラスをかけた。
新生・俺様の誕生だぁ!
 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

拝啓、婚約者さま

松本雀
恋愛
――静かな藤棚の令嬢ウィステリア。 婚約破棄を告げられた令嬢は、静かに「そう」と答えるだけだった。その冷静な一言が、後に彼の心を深く抉ることになるとも知らずに。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

処理中です...