上 下
96 / 185

第三十八話 「ハチャメチャな美女と野獣!」

しおりを挟む
次のシーンは、なんとなく、うまくいきました。
次は、お城にとらわれたモーリスを、ベルが助けるシーン。
 
「パパ!」
 
「おぉ、ベル!」
 
「・・・・・・手が冷たいわ。」
 
「そんなことより、早く逃げろ!」
 
「えっ?」
 
「誰だ、そこにいるのは!」
 
振り返ると、野獣姿のジュンブライトが、犬のように、一歩、一歩、歩いて、登場した。
ひぇー、こわーい!
 
「お前の娘か!」
 
頭の上には、チョッパーみたいな、角と耳がついていて、口にはおそろしい牙に、黒いしっぽが、おしりについていて、顔色は、茶色にぬってある。
それに、赤いマントをつけている。
 
「ベル、逃げろ!」
 
「まって!」
 
私は、おそるおそる、ジュンブライトに近づいた。
 
「顔を見せて。」
 
「顔を?お前も、みにくい私の姿を、見てバカにするのか!」
 
「バカにしないわ!さぁ、早く見せてちょうだい!」
 
ジュンブライトは、私に顔を見せた。
 
「いや!」
 
私は、顔を両手でおおった。
 
「ベル!」
 
「これが、私の姿だ。顔だ!」
 
いよいよ、私が一番、ジーンとくるセリフ!
 
「パパをここから出して。」
 
「なんだとぉ?」
 
「私をここに閉じこめて。そして、パパを自由にして。」
 
「よかろう。お前の言う通りにしてやる。」
 
「・・・・・・ゔぅ・・・・・・。」
 
春間真莉亜、我ながら、うまい演技です。
 
「ちょっとまったぁ!」
 
その声は・・・・・・。
 
「ウルフ一郎さん!?」
 
「なんだ、オオカミヤロー。」
 
「真莉亜ちゃん!その、勇気ある行動、したらだめだよ!」
 
はぁ?
 
「おい!話の流れを、止めようとするなっ!」
 
「うるさい!と・に・か・く!真莉亜ちゃん、俺様の言う通りにして!」
 
はぁ・・・・・・なんで、こーなるのぉ~?
 
「オオカミヤロー!貴様は舞台の裏側で、おとなしくしてろ!」
 
「おとなしくしてられっか!真莉亜ちゃんをろうに閉じこめるやつは、ゆるさん!」
 
「いや、これはぁ、台本に書いてある通りなんで・・・・・・。」
 
「台本なんか、ど―でもいい!俺様は、真莉亜ちゃんを守る役目を果たしたいんだ!」
 
「こ、こいつ、ぶっ飛んだかんちがいを、してやがる・・・・・・。」
 
ウルフ一郎さん!これ以上、お芝居をめちゃくちゃにしないでください!
 
「えっ?」
 
「私、そういうウルフ一郎さんが、大っ嫌いです!」
 
(大っ嫌いです、大っ嫌いです、大っ嫌いです、大っ嫌いです、大っ嫌いです・・・・・・・!)
 
「そ、そんなぁ~。」
 
私の言葉が、心の中に響いたのか、ウルフ一郎さんは、石化した。
 
「は―い、おつかれさ―んっと。」
 
ジュンブライトが、石化したウルフ一郎さんを、舞台裏まで運んだ。
これで、一安心です。
 
 

 
 
「あ”-!もう、がまんできない!」
 
「野獣・王子様役をやりたい気持ちが、やまやまになった!」
 
「ん?そうだ!俺、いいこと考えちゃった―ん♡」
 
 

 
 
そして、物語はいよいよ、クライマックスへ。
野獣を退治に来た、ガストンの仲間が追い出され、ガストンは、一人で野獣をたおしに行き、野獣はガストンを追い出して、ベルの元へと行こうとした。が、ガストンは、野獣を短剣でさし、さしたひょうしに、滝に落っこちちゃった。
 
「あなた、大丈夫?」
 
「あぁ。もう、私の命は、それほど長くない。」
 
「バカなこと、言わないで・・・・・・。」
 
「君と出会って、よかった。」
 
ジュンブライトは、私のほっぺに、手を当てた。
 
「うそでしょ?死なないで!」
 
「いい人生だった・・・・・・。」
 
ジュンブライトは、ゆっくり目を閉じた。
 
「あなた、あなた!お願い、目を覚まして!・・・・・・愛してるわ。」
 
私が、ほおずりをして、涙を一粒流した、その時!
ピカーッ!
まぶしい光が、光り出した。
ジュンブライトは、宙に浮かんだ。
赤いマントを体に包んで、浮かんでいる。
そして、ジュンブライトの化け物だった、手が人の手になり、化け物だった足が、人の足になり、しっぽが消え、野獣の顔が、人の顔になった。
ジュンブライトは、宙から舞い降りた。
ジュンブライトは、立ち上がって、自分の手を見て、私の方を振り向いた。
 
「・・・・・・誰?」
 
「ベル、僕だよ!」
 
ジュンブライトは喜んで、私の両手をにぎった。
 
「本当に、あなたなの?」
 
「あぁ。」
 
「あなた!」
 
私は、ジュンブライトにだきついた。
 
「よかった、生きてて・・・・・・。」
 
「魔法が解けて、よかった。」
 
「魔法?」
 
「僕は、10年前、とてもわがままで、自分勝手だったのさ。魔女の呪いで、城全体が呪いにかかり、僕はみにくい野獣の姿に変えられてしまった。」
 
「まぁ、かわいそう・・・・・・。」
 
「そう思うだろ?けど、今の僕は、今までの僕とちがう。本当の自分を見つけたのさ。そして・・・・・・心から愛し合える人も見つけた。」
 
「それって、まさか・・・・・・。」
 
「そう、君だよ、ベル。」
 
ジュンブライトは、優しくほほえんだ。
 
「あなた・・・・・・。」
 
「愛してるよ、ベル。」
 
「私も。愛してるわ、あなた。」
 
私達が、キスをしようとした、その時!
 
「ちょっとまったぁ!」
 
ステージの軸から、声が聞こえた。
見てみると、黒い影が、だんだん、こっちへ向かって来るのが見えた。
ジュンブライトと同じ、茶髪のかつらをかぶっていて、服装は、ジュンブライトと同じ、白い服と黒いズボンを着た、黒いサングラスをかけている、黒いオオカミさん。
 
「ウルフ一郎さん!」 「オオカミヤロー!」
 
一体、どーしたんですか!?
 
「えへ―ん。まだ、衣装が残っていたから、着てみたんだよ。」
 
「ぷっ!」
 
「くおうら!笑うなっ!」
 
「だ・・・・・・だってぇ、お前、おかしーんだもーん!かつらをかぶってさ。」
 
「てめぇ、この俺様をバカにすると、バチが当たるぞ!」
 
ウルフ一郎さん、またじゃましようとするのね。
ウルフ一郎さんは、目をハートにして、両手をグーにして、あごにあてた。
 
「真莉亜ちゅわ~ん♡俺様と、熱~いキス、しよ~♡」
 
そのために衣装を着たんかい!
 
「断りますっ!」
 
「ほーら。真莉亜がいやがってんじゃねぇか。」
 
「勝手に決めつけんな・・・・・・。」
 
「ア―アア―!」
 
ん!?今、天井から、声がしたような・・・・・・。
 
「なんだ、なんだ?」
 
「ターザン?」
 
「まさかぁ。」
 
会場が、ざわついた。
 
「ア―アア―!」
 
声がどんどん聞こえる。
 
「ア―アア―!」
 
一体、誰!?
と、思った瞬間、二人と同じ衣装を着た、男の人が、ひもにぶらさげて、ターザンのようにやって来るように見えた。
あの、かわいい瞳は、ギロさん!?
 
「ア―アア―!」
 
って、行きすぎてる―!
やっぱり、あの天然ぶりは、ギロさんだね。
 
「いったぁ~い。」
 
「お前があんな風に登場するからだろ。」
 
「もっと、ふつーに登場しろよ。」
 
「ところで、どうしたんですか、ギロさん。」
 
すると、ギロさんは真剣な顔になって、ジュンブライトの方に向かって、深く土下座した。
 
「先輩!俺に、野獣・王子様役を、やらせてください!」
 
「ぬわんだとぉ~!?」
 
ジュンブライトが、大きな声で驚いた。
 
「おい、お前、真莉亜のことが、好きなのか?」
 
「いえ、ちがいます。高校の時、やりたかったことが、急にできなくなって、悔しかったです!あれから8年後、それを実現しようとしているのですっ!もう、つらいあの過去とは、おさらばだぁ!」
 
ギロさんは、涙を流している。
よっほど、したかったんだね。野獣・王子様役を。
 
「ちょっとまったぁ!」
 
ウルフ一郎さん!?
 
「貴様、彼女がいるんだろ!その人の前で、真莉亜ちゃんと熱~いキスを、やろうってのか!」
 
「えっ?」
 
ギロさんが、顔をきょとんとしながら、客席の方を見ると、8列目のパイプいすにすわっている、リリアさんを見た。
 
「あ―!リッちゃんがいることを、忘れてた―っ!」
 
「バ―カヤロ―!」
 
ギロさん、天然すぎます。
 
「ま、いっか。」
 
「いいんかい!」
 
「・・・・・・!」
 
リリアさんが怒ってる!
 
「俺が真莉亜と熱いキスをするんだ!」
 
「い―や、俺様だっ!」
 
「ちょっとまって。真莉亜ちゃんに、決めさせるのは、どう?」
 
えぇっ!?
 
「あぁ、それはいいなぁ。」
 
「さっすが、俺の後輩だぜっ!」
 
三人は、私の方を振り向いた。
 
「さぁ、真莉亜!」
 
「真莉亜ちゃん!」
 
「真莉亜ちゅわ~ん♡」
 
「この中から、好きな方を選んで、好きな方の唇に、キスをしてくれ!」
 
え~!?
 
「『花田中文芸会史上、ものすごい展開が始まりました!』」
 
「『ベル役、春間真莉亜さんにキスされた方が、運命の王子様です!』」
 
ちょっ、放送部!勝手に話を変えるなっ!
 
「『果たして、真莉亜さんは、誰を選ぶのか!』」
 
「『真相は、CМの後!』」
 
飛ばしませんっ。
全く、ややしいことになったよぉ。
 
「ちょっとまったぁ!」
 
その声は・・・・・・。
 
「千葉のおじいちゃん!?」
 
「かわいいかわいい孫娘に手ぇ出すなど、ゆるさ―ん!」
 
千葉のおじいちゃん、乱入!
 
「こんな展開があるとは、聞いてないぞ!」
 
「誰だ、じじい。」
 
「私のおじいちゃんなの。」
 
「え~!?真莉亜ちゃんの、おじいちゃん~!?」
 
ギロさん、驚きすぎ。
 
「とにかく、おじいちゃん、じゃましないで。」
 
「いやだねーだ!かわいいかわいい孫娘とキスするなんて、ゆるさん!」
 
だめだ。言うことを聞きやしません。
 
「お父さん。恥をかかせないでくれる?」
 
千葉のおばあちゃん、登場!
 
「誰だ、このババア。」
 
ババア言うな―っ!
 
「私のおばあちゃん。千葉の方のねっ。」
 
「お前、じーちゃんとばーちゃん、何人いるんだよ。」
 
「真莉亜のお芝居をじゃましたら、だめですよ。」
 
「そ、そんなぁ~。」
 
おばあちゃんにひきつられ、おじいちゃんは退場。
これで、演技に集中できる。
私は、三人に顔を向けた。
この中から、私の運命の王子様が決まる。
ギロさんにキスしたら、ギロさんがその、運命の王子様。
ウルフ一郎さんは・・・・・・想像するたび、気持ち悪くなるから、やめとこ。
でも、もし、ギロさんにキスをしたら、リリアさんがやきもちやくから、やめとこ。
私の運命の王子様は、やっぱり、この人しかいない。
私は、ゆっくり歩き始めた。
そして、ある人の前に立って、ゆっくり目を閉じて・・・・・・。
チュッ・・・・・・。
熱いキスをした。
キスをしたのは、ジュンブライトだ。
この人しか、一緒に魔法を解けることが、できない。
ジュンブライトは、それにつられて、目を閉じて、私をギュッとだきしめた。
チュッ、チュッ、チュッ、チュッ、チュッ・・・・・・。
ジュンブライトは、どんどん私の唇に、キスをしてくる。
大好きだよ、ジュンブライト。
 
 

 
 
 
数日後。比奈多さんが、お礼をしにやって来た。
 
「先週は、どうもありがとうございました!」
 
比奈多さんは、ジュンブライトに向けて、お辞儀をした。
 
「おかげで、大好評でしたわぁ。」
 
「いやぁ、それほどでもぉ、アリアリだぜ。」
 
もう、調子に乗っちゃって。
 
「前回は大好評だったので、また、一緒に劇をやりましょう!」
 
え―っ!?
 
「またやんのか?」
 
「えぇ。」
 
はぁ・・・・・・今度はなにをするんだろ。
 
「俺は、『黒魔女さんが通る!!』がいいなっ。」
 
「いいえ。『黒魔女さんが通る!!』では、ありませんわ。」
 
「じゃあ、なんなのさ。」
 
比奈多さんは、にっこり笑った。
 
「『走れメロス』ですわっ。」
 
「メロスだとぉ~!?」
 
「いいじゃない、ジュンブライト。」
 
私は小声で言った。
 
「いいじゃないじゃねぇよ!はぁ、今度は何役なんだ。」
 
「主役ですわ!」
 
「主役だとぉ~!?」
 
ジュンブライト、よかったね。
 
「よかったねじゃねぇよ!ったく、メロスの声の人の声に似ているからか?」
 
「あら、やだ。」
 
「図星かい!」
 
うふふふふ。
 
「はぁ、俺、劇はもうあきたぁ!」
 
ジュンブライトの大きな声が、青空まで響いた。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

結構な性欲で

ヘロディア
恋愛
美人の二十代の人妻である会社の先輩の一晩を独占することになった主人公。 執拗に責めまくるのであった。 彼女の喘ぎ声は官能的で…

車の中で会社の後輩を喘がせている

ヘロディア
恋愛
会社の後輩と”そういう”関係にある主人公。 彼らはどこでも交わっていく…

私は何人とヤれば解放されるんですか?

ヘロディア
恋愛
初恋の人を探して貴族に仕えることを選んだ主人公。しかし、彼女に与えられた仕事とは、貴族たちの夜中の相手だった…

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

処理中です...