63 / 185
第二十八話 「ネルさんの、本当の弱点」
しおりを挟む
今年、いっぱい屋台があるなぁ。
「うわ―い!」
子供達は大喜び。
「おいお前ら。まいごになるなよ。」
ジュンブライトが、大きな声で言った。
「じいや、ギロ。ガキ達のめんどーを見れ。」
「かしこまりました。」
「先輩の言うことなら、なんでも聞きますっ。」
二人はそう言って、子供達の方に走って向かった。
「さて、俺らはどーしよーか。」
「あたし、金魚すくい、したーい!去年、全然、とれなかったもん。」
ああ、あれね。
「金魚をとって、食べるんだ!」
クリスさんが、にっこり笑顔で、舌なめずりをした。
「あんた、金魚は食いもんじゃないよ。」
「そうよ。ペットとして、飼われるんだから。食べたらまずいって、話を聞いてるわ。」
「うるさーい!金魚を食べてない人間に、言われたくないわっ!」
だから、まずいって、言ってるでしょ?
すると、ジュンブライトが、ため息をついた。
「しょうがねぇなぁ。クリス、一緒に金魚すくいに行こう。」
「はい♡」
「わっ!うでを組むなっ。」
「いいんじゃないですか。」
「よくなーい!俺には、真莉亜という、かわいいかわいい彼女がいるんだぞ!」
「おじさーん。金魚すくい、やっていい?」
「あっ!お前さんは、あの時の!となりにいるのは、彼氏か?」
「はい♡」
「ちがう、ちが―う!」
あーあ。ジュンブライトと、あーんしたかったなぁ。
「真莉亜、一緒にヨーヨー釣りに、行きましょう。」
うん!
「真莉亜ちゅわ~ん♡かき氷を買って来たよーん♡」
「あっ、釣れた!」
「すごーい。」
「今日の真莉亜ちゃん、シカトするぅ!」
「そりゃそうだろ。ヨーヨー釣りに集中してるから。」
たっくさん、釣れたねぇ。
「次は、くじ引きをしましょう。」
「あっ、『ОNEPICE』のグッズがある~。」
「真莉亜ちゅわ~ん♡一緒にあ―ん、しよー♡」
ごめんなさい。
「ガーン。」
ウルフ一郎さんは、落ちこんだ。
「かき氷って、なんだ?」
誰かがウルフ一郎さんに、話しかけた。
ウルフ一郎さんは、後ろを振り向くと、サングラスの奥に黄色く光る、夜行性の目を、大きく開いた。
「お・・・・・・お前は!ネル!」
「一週間ぶりね。」
久しぶりです、ネルさん!
「ん!?春間真莉亜がいるってことは、ここ、東京か!?」
「そうよ。」
リリアさんがあっさり答えた。
「リリアもいる・・・・・・ところで、かき氷という名の食いもんはなんだ?」
ネルさん、かき氷を知らないんだね。
「かき氷は、氷を細かく削ったり、砕いてシロップなどにかけた、人間界の氷菓よ。」
「ふーん。」
ネルさんは、照れくさそうに、ウルフ一郎さんの顔を見つめた。
「あーん、してくれないか?」
「!?」
「はぁ!?」
これを聞いた私達は、びっくり。
ウルフ一郎さんは、うでを組みながら、横を向いた。
「ふん!誰がお前みたいな女に、あーんするかぶあか!このかき氷はな、真莉亜ちゃんのために、買って来たんだぞ!」
私、自分で買いますから。
「いいからあーんしろっ!」
ネルさんが怒鳴ると、ウルフ一郎さんは、「ちっ。」と、舌打ちをした。
「わかったよ。やればいーんだろ、やれば。」
シャキシャキと、音をたてながら、ウルフ一郎さんは、かき氷をかきまぜて、スプーンですくった。
「はい。あーん。」
「あーん。」
ぱくっ。
「ん~。冷てぇなぁ。」
と、無表情でモグモグ食べながら、言った。
「せっかく、真莉亜ちゃんのために買って来た、かき氷が・・・・・・。」
ウルフ一郎さんが、どんどんなくなってゆくかき氷を見て、がっかりしている。
と、そこへ、ジュンブライトがやって来た。
「お、ネルじゃねぇか。」
ジュンブライトの声に気づいたのか、ネルさんは、後ろを振り向いた。
「ジュ・・・・・・ジュンブライト様!」
(浴衣を着ているジュンブライト様も、ステキだぁ!)
「ビールを買って来たぞ。」
ジュンブライトが、テーブルの上に、冷たいビールを置いた。
「なぁ、クリスは?」
一緒じゃなかったの?
「ああ、あいつね。あいつはとった金魚を一口食べて、食中毒になった。」
あらら。
「バチがあたったねぇ。」
テレサさんは、ビールをゴクゴクと飲んだ。
「ま、あの子らしいじゃない?」
「どこが?」
「あっ、ネル。俺と一緒に、おもしれぇとこ、行かねぇか?」
「おもしろいところ?」
ネルさんは、ビールを持ったまま、首をかしげた。
「そうだ。お化け屋敷だ!」
「!?」
「!?」
その瞬間、リリアさん、ネルさん姉妹は、びっくりした。
「ちょっ・・・・・・ジュンブライト様。あたし・・・・・・。」
「なんだ?不満でもあるのか?」
「い、いいえ!ありません!」
ネルさんは、首を大きく振った。
「そっか。なら、行くぞ!」
ジュンブライトが、ネルさんの手をひっぱった。
「あ―!」
ネルさん、いいなぁ。ジュンブライトと、あんなこと、しちゃって。
「またやきもち、やいているのかい?」
やいていませんっ!
・・・・・・本当は、やいています。
「た・・・・・・大変よ!」
いつも冷静なリリアさんが、あわてている。
「リッちゃーん。一緒に焼きそば、食べる―?」
リリアさんは、ギロさんの方へ、向かって走って、ギロさんの両手を、ぎゅっとにぎった。
「お願い!あの子を止めて!」
???
「あの子って?」
「ネルよ、ネル!」
「え―っ!?ネルちゃんが、来てるのぉ!?」
そこまで驚く必要、ないでしょ。
「どうしたんですか?リリア様。」
「なにか、ヤバイことでも、あったんですか?」
「あたり前でしょ!」
出た。「じぇじぇじぇ!」、「倍返し」、「今でしょ!」、「おもてなし」に負けない、流行語ノミネート大賞予定の言葉。
「ネルが・・・・・・ネルが、お化け屋敷に行ってるの!」
「リリアさん、お化け屋敷に行ったぐらい、なにもないじゃないですか。」
「そうだよ。桜吹雪のネルだから、お化けなんか、ちょちょいのちょいだろ。」
「いーや!あの子は、お化けが苦手なの!」
「え~!?」
あのネルさんが、私と同じ、お化け嫌い!?
「えぇ。」
リリアさんが、うなずいた。
「でもリッちゃん、もう、おそいよ。先輩とネルちゃん、もうとっくに中に入っちゃったよ。」
「うそ―!」
リリアさん、落ち着いて。
すると、お化け屋敷の方から、さけび声が聞こえた。
「い―や―!」
ネルさんの声だ!
「ギャャャャャア!」
ずいぶん、こわがってるねぇ。
本当に、お化けが苦手なんだぁ。
「うわぁぁぁぁぁ!」
すんごい、絶叫を上げてますねぇ。
「おふくろ~!」
お母さんのこと、「おふくろ」って、呼ぶんだぁ。
「恥ずかしい・・・・・・。」
リリアさんが、顔を真っ赤に染めて、両手でおおいでいる。
「大人のくせに・・・・・・。」
ジュンブライトとネルさんが、出口から出て来た。
「ネル、すんげぇおもしろかったなぁ。また行こうぜ!」
「いやですっ!」
ネルさんの体、ぶるぶる震えてるよ。
「お前、楽しんでたじゃねぇか。」
「人間界にこんなおそろしいアトラクションがあったなんて、信じられん!」
「ジュンブライト、ネルはこー見えて、お化けが大の苦手なのよ。」
「なんだとぉ!?」
ジュンブライトはびっくりした。
「なんでそんなこと、最初っから言わなかったんだよぉ!」
「最初っから、言ってましたけど?」
ジュンブライトは、両手をネルさんの前に出して、パンッとたたいた。
「ごめん!そんなことに気づかず、お化け屋敷に連れ出して・・・・・・空気が読めねぇバカ男を、ゆるしてくれ!」
ジュンブライトはネルさんに、必死に謝ろうとしている。
(あんなに、あたしに向かって、謝ろうとしている男なんて、初めて見たぜ!あぁ!ジュンブライト様!あたしを恋愛対象として、好きでいらっしゃるのねぇ~!)
「い、いいですよ。気にしないで。」
「よかったぁ。きられると思ったぜぇ。」
「あたしはあなた以外、誰もきりません♡」
ぶりっ子になってる!
「そもそも、なんでお化け嫌いになったの?」
道華が聞くと、ネルさんは、こぶしをにぎりしめて、口を動かした。
「あれは、ガキの頃だ・・・・・・。」
12年前、リリアさんとネルさんのおじいさんが指導していた、剣道の道場の合宿をしていた。
ある日の夜、おじいさんはみんなにこう言った。
「みんな、つかれたじゃろ。よーし!夕食を食べ終わったあと、ば―っと、肝試しでもしようか!」
「え―っ?」
「俺、お化け、苦手だよ―。」
「ネルなら、大丈夫だよな?」
「あたり前だ。お化けなんか、ちょちょいのちょいだぜ。」
「わしの孫はこの道場のなかで、一番強いじゃからのぉ。お化けが出て来ても、平気、平気じゃ♡」
「うっさい、じじい。」
そして、肝試しが行われた。
順番ずつ、一人一人、暗―い夜道を歩いてゆく。
なかでは、平気な子がいたり、こわくて泣きながら帰って来た子もいた。
「全員、そろったな。」
「先生!ネルがいません!」
「なんじゃとぉ~!?」
「あいつ、方向オンチだから、まいごになってるかもしれねぇ!」
「よし!手分けして探すんだ!」
「はいっ!」
「まっててね、わしのかわいいいかわいい孫娘ちゅわん♡」
「先生、キモイ。」
「じいちゃん!みんな!どこにいるんだよぉ!・・・・・・まいごになっちまった。」
ネルさんは泣きながら歩いていた。
すると!
「う~ら~め~し~や~。」
「!?」
後ろを振り向くと・・・・・・。
「い・・・・・・!」
なんと、本物のお化けが立っていた!
「ギャャャャャア!」
ネルさんは猛ダッシュで逃げた。
「ネルだ!」
「ネ~ル~!」
「先生、いいかげんにしてください。」
「じーちゃーん!こわかったよぉ!」
それから、ネルさんは、お化け嫌いになった。
「あれを思い出すと、ますますこわくなっちまうぜ!」
ネルさんは、頭をかかえている。
「桜吹雪のネルらしくないわね。」
ネルさん、一緒に行きましょう!
「どこに?」
お化け屋敷にです!
「えぇ~!?」
「真莉亜様、それ、本気ですか!?」
あたり前だろ、ですっ。
「俺のまね、すんなっ。」
「でもお母さん。お母さんも、お化けが大の苦手じゃないの?」
だ、だ、だ、だ、大丈夫だよ、きっと。
「その顔、大丈夫じゃなさそうね。」
「はぁ。お化け嫌い同士が、お化け屋敷に行ったら、どーせ、「ギャャャャア!」とか、「い―や―!」とか、「ママ~!」ってわめくだろーだから、着いて行くぜ。」
あのう、私、スネ夫じゃありませんから。「ママ~!」って、さけびませんから。
「お前、心配性なんだな。」
「シャラ―ップ。」
「だまれって言っているです。」
日本語でしゃべれや。
「貴様、この俺様に向かって、なんていう口の態度なんだ!」
「うっせ―。この、変態オオカミ!」
「なんだとぉ?この、変態王子!」
「あんだとぉ?クソサングラス!」
「やっかましい!クソ天パヤロー!」
「あんだとぉ?」
「やんのかオラ!」
「あ―も―!けんかはやめて!」
私が止めると、二人は目をハートにして、ぶりっ子ポーズをしながら、くるりと、私の方を振り向いた。
「はーい♡」
ふぅ。けんかを止めるのは、大変です。
「俺様も行く。だって・・・・・・。」
ウルフ一郎さんは、目をハートにして、私の方を振り向いた。
「俺様は、真莉亜ちゃんのボディーガードだからぁ♡」
「意味わからんこと、言うな。」
☆
「うわ―い!」
子供達は大喜び。
「おいお前ら。まいごになるなよ。」
ジュンブライトが、大きな声で言った。
「じいや、ギロ。ガキ達のめんどーを見れ。」
「かしこまりました。」
「先輩の言うことなら、なんでも聞きますっ。」
二人はそう言って、子供達の方に走って向かった。
「さて、俺らはどーしよーか。」
「あたし、金魚すくい、したーい!去年、全然、とれなかったもん。」
ああ、あれね。
「金魚をとって、食べるんだ!」
クリスさんが、にっこり笑顔で、舌なめずりをした。
「あんた、金魚は食いもんじゃないよ。」
「そうよ。ペットとして、飼われるんだから。食べたらまずいって、話を聞いてるわ。」
「うるさーい!金魚を食べてない人間に、言われたくないわっ!」
だから、まずいって、言ってるでしょ?
すると、ジュンブライトが、ため息をついた。
「しょうがねぇなぁ。クリス、一緒に金魚すくいに行こう。」
「はい♡」
「わっ!うでを組むなっ。」
「いいんじゃないですか。」
「よくなーい!俺には、真莉亜という、かわいいかわいい彼女がいるんだぞ!」
「おじさーん。金魚すくい、やっていい?」
「あっ!お前さんは、あの時の!となりにいるのは、彼氏か?」
「はい♡」
「ちがう、ちが―う!」
あーあ。ジュンブライトと、あーんしたかったなぁ。
「真莉亜、一緒にヨーヨー釣りに、行きましょう。」
うん!
「真莉亜ちゅわ~ん♡かき氷を買って来たよーん♡」
「あっ、釣れた!」
「すごーい。」
「今日の真莉亜ちゃん、シカトするぅ!」
「そりゃそうだろ。ヨーヨー釣りに集中してるから。」
たっくさん、釣れたねぇ。
「次は、くじ引きをしましょう。」
「あっ、『ОNEPICE』のグッズがある~。」
「真莉亜ちゅわ~ん♡一緒にあ―ん、しよー♡」
ごめんなさい。
「ガーン。」
ウルフ一郎さんは、落ちこんだ。
「かき氷って、なんだ?」
誰かがウルフ一郎さんに、話しかけた。
ウルフ一郎さんは、後ろを振り向くと、サングラスの奥に黄色く光る、夜行性の目を、大きく開いた。
「お・・・・・・お前は!ネル!」
「一週間ぶりね。」
久しぶりです、ネルさん!
「ん!?春間真莉亜がいるってことは、ここ、東京か!?」
「そうよ。」
リリアさんがあっさり答えた。
「リリアもいる・・・・・・ところで、かき氷という名の食いもんはなんだ?」
ネルさん、かき氷を知らないんだね。
「かき氷は、氷を細かく削ったり、砕いてシロップなどにかけた、人間界の氷菓よ。」
「ふーん。」
ネルさんは、照れくさそうに、ウルフ一郎さんの顔を見つめた。
「あーん、してくれないか?」
「!?」
「はぁ!?」
これを聞いた私達は、びっくり。
ウルフ一郎さんは、うでを組みながら、横を向いた。
「ふん!誰がお前みたいな女に、あーんするかぶあか!このかき氷はな、真莉亜ちゃんのために、買って来たんだぞ!」
私、自分で買いますから。
「いいからあーんしろっ!」
ネルさんが怒鳴ると、ウルフ一郎さんは、「ちっ。」と、舌打ちをした。
「わかったよ。やればいーんだろ、やれば。」
シャキシャキと、音をたてながら、ウルフ一郎さんは、かき氷をかきまぜて、スプーンですくった。
「はい。あーん。」
「あーん。」
ぱくっ。
「ん~。冷てぇなぁ。」
と、無表情でモグモグ食べながら、言った。
「せっかく、真莉亜ちゃんのために買って来た、かき氷が・・・・・・。」
ウルフ一郎さんが、どんどんなくなってゆくかき氷を見て、がっかりしている。
と、そこへ、ジュンブライトがやって来た。
「お、ネルじゃねぇか。」
ジュンブライトの声に気づいたのか、ネルさんは、後ろを振り向いた。
「ジュ・・・・・・ジュンブライト様!」
(浴衣を着ているジュンブライト様も、ステキだぁ!)
「ビールを買って来たぞ。」
ジュンブライトが、テーブルの上に、冷たいビールを置いた。
「なぁ、クリスは?」
一緒じゃなかったの?
「ああ、あいつね。あいつはとった金魚を一口食べて、食中毒になった。」
あらら。
「バチがあたったねぇ。」
テレサさんは、ビールをゴクゴクと飲んだ。
「ま、あの子らしいじゃない?」
「どこが?」
「あっ、ネル。俺と一緒に、おもしれぇとこ、行かねぇか?」
「おもしろいところ?」
ネルさんは、ビールを持ったまま、首をかしげた。
「そうだ。お化け屋敷だ!」
「!?」
「!?」
その瞬間、リリアさん、ネルさん姉妹は、びっくりした。
「ちょっ・・・・・・ジュンブライト様。あたし・・・・・・。」
「なんだ?不満でもあるのか?」
「い、いいえ!ありません!」
ネルさんは、首を大きく振った。
「そっか。なら、行くぞ!」
ジュンブライトが、ネルさんの手をひっぱった。
「あ―!」
ネルさん、いいなぁ。ジュンブライトと、あんなこと、しちゃって。
「またやきもち、やいているのかい?」
やいていませんっ!
・・・・・・本当は、やいています。
「た・・・・・・大変よ!」
いつも冷静なリリアさんが、あわてている。
「リッちゃーん。一緒に焼きそば、食べる―?」
リリアさんは、ギロさんの方へ、向かって走って、ギロさんの両手を、ぎゅっとにぎった。
「お願い!あの子を止めて!」
???
「あの子って?」
「ネルよ、ネル!」
「え―っ!?ネルちゃんが、来てるのぉ!?」
そこまで驚く必要、ないでしょ。
「どうしたんですか?リリア様。」
「なにか、ヤバイことでも、あったんですか?」
「あたり前でしょ!」
出た。「じぇじぇじぇ!」、「倍返し」、「今でしょ!」、「おもてなし」に負けない、流行語ノミネート大賞予定の言葉。
「ネルが・・・・・・ネルが、お化け屋敷に行ってるの!」
「リリアさん、お化け屋敷に行ったぐらい、なにもないじゃないですか。」
「そうだよ。桜吹雪のネルだから、お化けなんか、ちょちょいのちょいだろ。」
「いーや!あの子は、お化けが苦手なの!」
「え~!?」
あのネルさんが、私と同じ、お化け嫌い!?
「えぇ。」
リリアさんが、うなずいた。
「でもリッちゃん、もう、おそいよ。先輩とネルちゃん、もうとっくに中に入っちゃったよ。」
「うそ―!」
リリアさん、落ち着いて。
すると、お化け屋敷の方から、さけび声が聞こえた。
「い―や―!」
ネルさんの声だ!
「ギャャャャャア!」
ずいぶん、こわがってるねぇ。
本当に、お化けが苦手なんだぁ。
「うわぁぁぁぁぁ!」
すんごい、絶叫を上げてますねぇ。
「おふくろ~!」
お母さんのこと、「おふくろ」って、呼ぶんだぁ。
「恥ずかしい・・・・・・。」
リリアさんが、顔を真っ赤に染めて、両手でおおいでいる。
「大人のくせに・・・・・・。」
ジュンブライトとネルさんが、出口から出て来た。
「ネル、すんげぇおもしろかったなぁ。また行こうぜ!」
「いやですっ!」
ネルさんの体、ぶるぶる震えてるよ。
「お前、楽しんでたじゃねぇか。」
「人間界にこんなおそろしいアトラクションがあったなんて、信じられん!」
「ジュンブライト、ネルはこー見えて、お化けが大の苦手なのよ。」
「なんだとぉ!?」
ジュンブライトはびっくりした。
「なんでそんなこと、最初っから言わなかったんだよぉ!」
「最初っから、言ってましたけど?」
ジュンブライトは、両手をネルさんの前に出して、パンッとたたいた。
「ごめん!そんなことに気づかず、お化け屋敷に連れ出して・・・・・・空気が読めねぇバカ男を、ゆるしてくれ!」
ジュンブライトはネルさんに、必死に謝ろうとしている。
(あんなに、あたしに向かって、謝ろうとしている男なんて、初めて見たぜ!あぁ!ジュンブライト様!あたしを恋愛対象として、好きでいらっしゃるのねぇ~!)
「い、いいですよ。気にしないで。」
「よかったぁ。きられると思ったぜぇ。」
「あたしはあなた以外、誰もきりません♡」
ぶりっ子になってる!
「そもそも、なんでお化け嫌いになったの?」
道華が聞くと、ネルさんは、こぶしをにぎりしめて、口を動かした。
「あれは、ガキの頃だ・・・・・・。」
12年前、リリアさんとネルさんのおじいさんが指導していた、剣道の道場の合宿をしていた。
ある日の夜、おじいさんはみんなにこう言った。
「みんな、つかれたじゃろ。よーし!夕食を食べ終わったあと、ば―っと、肝試しでもしようか!」
「え―っ?」
「俺、お化け、苦手だよ―。」
「ネルなら、大丈夫だよな?」
「あたり前だ。お化けなんか、ちょちょいのちょいだぜ。」
「わしの孫はこの道場のなかで、一番強いじゃからのぉ。お化けが出て来ても、平気、平気じゃ♡」
「うっさい、じじい。」
そして、肝試しが行われた。
順番ずつ、一人一人、暗―い夜道を歩いてゆく。
なかでは、平気な子がいたり、こわくて泣きながら帰って来た子もいた。
「全員、そろったな。」
「先生!ネルがいません!」
「なんじゃとぉ~!?」
「あいつ、方向オンチだから、まいごになってるかもしれねぇ!」
「よし!手分けして探すんだ!」
「はいっ!」
「まっててね、わしのかわいいいかわいい孫娘ちゅわん♡」
「先生、キモイ。」
「じいちゃん!みんな!どこにいるんだよぉ!・・・・・・まいごになっちまった。」
ネルさんは泣きながら歩いていた。
すると!
「う~ら~め~し~や~。」
「!?」
後ろを振り向くと・・・・・・。
「い・・・・・・!」
なんと、本物のお化けが立っていた!
「ギャャャャャア!」
ネルさんは猛ダッシュで逃げた。
「ネルだ!」
「ネ~ル~!」
「先生、いいかげんにしてください。」
「じーちゃーん!こわかったよぉ!」
それから、ネルさんは、お化け嫌いになった。
「あれを思い出すと、ますますこわくなっちまうぜ!」
ネルさんは、頭をかかえている。
「桜吹雪のネルらしくないわね。」
ネルさん、一緒に行きましょう!
「どこに?」
お化け屋敷にです!
「えぇ~!?」
「真莉亜様、それ、本気ですか!?」
あたり前だろ、ですっ。
「俺のまね、すんなっ。」
「でもお母さん。お母さんも、お化けが大の苦手じゃないの?」
だ、だ、だ、だ、大丈夫だよ、きっと。
「その顔、大丈夫じゃなさそうね。」
「はぁ。お化け嫌い同士が、お化け屋敷に行ったら、どーせ、「ギャャャャア!」とか、「い―や―!」とか、「ママ~!」ってわめくだろーだから、着いて行くぜ。」
あのう、私、スネ夫じゃありませんから。「ママ~!」って、さけびませんから。
「お前、心配性なんだな。」
「シャラ―ップ。」
「だまれって言っているです。」
日本語でしゃべれや。
「貴様、この俺様に向かって、なんていう口の態度なんだ!」
「うっせ―。この、変態オオカミ!」
「なんだとぉ?この、変態王子!」
「あんだとぉ?クソサングラス!」
「やっかましい!クソ天パヤロー!」
「あんだとぉ?」
「やんのかオラ!」
「あ―も―!けんかはやめて!」
私が止めると、二人は目をハートにして、ぶりっ子ポーズをしながら、くるりと、私の方を振り向いた。
「はーい♡」
ふぅ。けんかを止めるのは、大変です。
「俺様も行く。だって・・・・・・。」
ウルフ一郎さんは、目をハートにして、私の方を振り向いた。
「俺様は、真莉亜ちゃんのボディーガードだからぁ♡」
「意味わからんこと、言うな。」
☆
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら……
という、とんでもないお話を書きました。
ぜひ読んでください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる