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第二十八話 「ネルさんの、本当の弱点」

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今年、いっぱい屋台があるなぁ。
 
「うわ―い!」
 
子供達は大喜び。
 
「おいお前ら。まいごになるなよ。」
 
ジュンブライトが、大きな声で言った。
 
「じいや、ギロ。ガキ達のめんどーを見れ。」
 
「かしこまりました。」
 
「先輩の言うことなら、なんでも聞きますっ。」
 
二人はそう言って、子供達の方に走って向かった。
 
「さて、俺らはどーしよーか。」
 
「あたし、金魚すくい、したーい!去年、全然、とれなかったもん。」
 
ああ、あれね。
 
「金魚をとって、食べるんだ!」
 
クリスさんが、にっこり笑顔で、舌なめずりをした。
 
「あんた、金魚は食いもんじゃないよ。」
 
「そうよ。ペットとして、飼われるんだから。食べたらまずいって、話を聞いてるわ。」
 
「うるさーい!金魚を食べてない人間に、言われたくないわっ!」
 
だから、まずいって、言ってるでしょ?
すると、ジュンブライトが、ため息をついた。
 
「しょうがねぇなぁ。クリス、一緒に金魚すくいに行こう。」
 
「はい♡」
 
「わっ!うでを組むなっ。」
 
「いいんじゃないですか。」
 
「よくなーい!俺には、真莉亜という、かわいいかわいい彼女がいるんだぞ!」
 
「おじさーん。金魚すくい、やっていい?」
 
「あっ!お前さんは、あの時の!となりにいるのは、彼氏か?」
 
「はい♡」
 
「ちがう、ちが―う!」
 
あーあ。ジュンブライトと、あーんしたかったなぁ。
 
「真莉亜、一緒にヨーヨー釣りに、行きましょう。」
 
うん!
 
「真莉亜ちゅわ~ん♡かき氷を買って来たよーん♡」
 
「あっ、釣れた!」
 
「すごーい。」
 
「今日の真莉亜ちゃん、シカトするぅ!」
 
「そりゃそうだろ。ヨーヨー釣りに集中してるから。」
 
たっくさん、釣れたねぇ。
 
「次は、くじ引きをしましょう。」
 
「あっ、『ОNEPICE』のグッズがある~。」
 
「真莉亜ちゅわ~ん♡一緒にあ―ん、しよー♡」
 
ごめんなさい。
 
「ガーン。」
 
ウルフ一郎さんは、落ちこんだ。
 
「かき氷って、なんだ?」
 
誰かがウルフ一郎さんに、話しかけた。
ウルフ一郎さんは、後ろを振り向くと、サングラスの奥に黄色く光る、夜行性の目を、大きく開いた。
 
「お・・・・・・お前は!ネル!」
 
「一週間ぶりね。」
 
久しぶりです、ネルさん!
 
「ん!?春間真莉亜がいるってことは、ここ、東京か!?」
 
「そうよ。」
 
リリアさんがあっさり答えた。
 
「リリアもいる・・・・・・ところで、かき氷という名の食いもんはなんだ?」
 
ネルさん、かき氷を知らないんだね。
 
「かき氷は、氷を細かく削ったり、砕いてシロップなどにかけた、人間界の氷菓よ。」
 
「ふーん。」
 
ネルさんは、照れくさそうに、ウルフ一郎さんの顔を見つめた。
 
「あーん、してくれないか?」
 
「!?」
 
「はぁ!?」
 
これを聞いた私達は、びっくり。
ウルフ一郎さんは、うでを組みながら、横を向いた。
 
「ふん!誰がお前みたいな女に、あーんするかぶあか!このかき氷はな、真莉亜ちゃんのために、買って来たんだぞ!」
 
私、自分で買いますから。
 
「いいからあーんしろっ!」
 
ネルさんが怒鳴ると、ウルフ一郎さんは、「ちっ。」と、舌打ちをした。
 
「わかったよ。やればいーんだろ、やれば。」
 
シャキシャキと、音をたてながら、ウルフ一郎さんは、かき氷をかきまぜて、スプーンですくった。
 
「はい。あーん。」
 
「あーん。」
 
ぱくっ。
 
「ん~。冷てぇなぁ。」
 
と、無表情でモグモグ食べながら、言った。
 
「せっかく、真莉亜ちゃんのために買って来た、かき氷が・・・・・・。」
 
ウルフ一郎さんが、どんどんなくなってゆくかき氷を見て、がっかりしている。
と、そこへ、ジュンブライトがやって来た。
 
「お、ネルじゃねぇか。」
 
ジュンブライトの声に気づいたのか、ネルさんは、後ろを振り向いた。
 
「ジュ・・・・・・ジュンブライト様!」
 
(浴衣を着ているジュンブライト様も、ステキだぁ!)
 
「ビールを買って来たぞ。」
 
ジュンブライトが、テーブルの上に、冷たいビールを置いた。
 
「なぁ、クリスは?」
 
一緒じゃなかったの?
 
「ああ、あいつね。あいつはとった金魚を一口食べて、食中毒になった。」
 
あらら。
 
「バチがあたったねぇ。」
 
テレサさんは、ビールをゴクゴクと飲んだ。
 
「ま、あの子らしいじゃない?」
 
「どこが?」
 
「あっ、ネル。俺と一緒に、おもしれぇとこ、行かねぇか?」
 
「おもしろいところ?」
 
ネルさんは、ビールを持ったまま、首をかしげた。
 
「そうだ。お化け屋敷だ!」
 
「!?」
 
「!?」
 
その瞬間、リリアさん、ネルさん姉妹は、びっくりした。
 
「ちょっ・・・・・・ジュンブライト様。あたし・・・・・・。」
 
「なんだ?不満でもあるのか?」
 
「い、いいえ!ありません!」
 
ネルさんは、首を大きく振った。
 
「そっか。なら、行くぞ!」
 
ジュンブライトが、ネルさんの手をひっぱった。
 
「あ―!」
 
ネルさん、いいなぁ。ジュンブライトと、あんなこと、しちゃって。
 
「またやきもち、やいているのかい?」
 
やいていませんっ!
・・・・・・本当は、やいています。
 
「た・・・・・・大変よ!」
 
いつも冷静なリリアさんが、あわてている。
 
「リッちゃーん。一緒に焼きそば、食べる―?」
 
リリアさんは、ギロさんの方へ、向かって走って、ギロさんの両手を、ぎゅっとにぎった。
 
「お願い!あの子を止めて!」
 
???
 
「あの子って?」
 
「ネルよ、ネル!」
 
「え―っ!?ネルちゃんが、来てるのぉ!?」
 
そこまで驚く必要、ないでしょ。
 
「どうしたんですか?リリア様。」
 
「なにか、ヤバイことでも、あったんですか?」
 
「あたり前でしょ!」
 
出た。「じぇじぇじぇ!」、「倍返し」、「今でしょ!」、「おもてなし」に負けない、流行語ノミネート大賞予定の言葉。
 
「ネルが・・・・・・ネルが、お化け屋敷に行ってるの!」
 
「リリアさん、お化け屋敷に行ったぐらい、なにもないじゃないですか。」
 
「そうだよ。桜吹雪のネルだから、お化けなんか、ちょちょいのちょいだろ。」
 
「いーや!あの子は、お化けが苦手なの!」
 
「え~!?」
 
あのネルさんが、私と同じ、お化け嫌い!?
 
「えぇ。」
 
リリアさんが、うなずいた。
 
「でもリッちゃん、もう、おそいよ。先輩とネルちゃん、もうとっくに中に入っちゃったよ。」
 
「うそ―!」
 
リリアさん、落ち着いて。
すると、お化け屋敷の方から、さけび声が聞こえた。
 
「い―や―!」
 
ネルさんの声だ!
 
「ギャャャャャア!」
 
ずいぶん、こわがってるねぇ。
本当に、お化けが苦手なんだぁ。
 
「うわぁぁぁぁぁ!」
 
すんごい、絶叫を上げてますねぇ。
 
「おふくろ~!」
 
お母さんのこと、「おふくろ」って、呼ぶんだぁ。
 
「恥ずかしい・・・・・・。」
 
リリアさんが、顔を真っ赤に染めて、両手でおおいでいる。
 
「大人のくせに・・・・・・。」
 
ジュンブライトとネルさんが、出口から出て来た。
 
「ネル、すんげぇおもしろかったなぁ。また行こうぜ!」
 
「いやですっ!」
 
ネルさんの体、ぶるぶる震えてるよ。
 
「お前、楽しんでたじゃねぇか。」
 
「人間界にこんなおそろしいアトラクションがあったなんて、信じられん!」
 
「ジュンブライト、ネルはこー見えて、お化けが大の苦手なのよ。」
 
「なんだとぉ!?」
 
ジュンブライトはびっくりした。
 
「なんでそんなこと、最初っから言わなかったんだよぉ!」
 
「最初っから、言ってましたけど?」
 
ジュンブライトは、両手をネルさんの前に出して、パンッとたたいた。
 
「ごめん!そんなことに気づかず、お化け屋敷に連れ出して・・・・・・空気が読めねぇバカ男を、ゆるしてくれ!」
 
ジュンブライトはネルさんに、必死に謝ろうとしている。
 
(あんなに、あたしに向かって、謝ろうとしている男なんて、初めて見たぜ!あぁ!ジュンブライト様!あたしを恋愛対象として、好きでいらっしゃるのねぇ~!)
 
「い、いいですよ。気にしないで。」
 
「よかったぁ。きられると思ったぜぇ。」
 
「あたしはあなた以外、誰もきりません♡」
 
ぶりっ子になってる!
 
「そもそも、なんでお化け嫌いになったの?」
 
道華が聞くと、ネルさんは、こぶしをにぎりしめて、口を動かした。
 
「あれは、ガキの頃だ・・・・・・。」
 
12年前、リリアさんとネルさんのおじいさんが指導していた、剣道の道場の合宿をしていた。
ある日の夜、おじいさんはみんなにこう言った。
 
「みんな、つかれたじゃろ。よーし!夕食を食べ終わったあと、ば―っと、肝試しでもしようか!」
 
「え―っ?」
 
「俺、お化け、苦手だよ―。」
 
「ネルなら、大丈夫だよな?」
 
「あたり前だ。お化けなんか、ちょちょいのちょいだぜ。」
 
「わしの孫はこの道場のなかで、一番強いじゃからのぉ。お化けが出て来ても、平気、平気じゃ♡」
 
「うっさい、じじい。」
 
そして、肝試しが行われた。
順番ずつ、一人一人、暗―い夜道を歩いてゆく。
なかでは、平気な子がいたり、こわくて泣きながら帰って来た子もいた。
 
「全員、そろったな。」
 
「先生!ネルがいません!」
 
「なんじゃとぉ~!?」
 
「あいつ、方向オンチだから、まいごになってるかもしれねぇ!」
 
「よし!手分けして探すんだ!」
 
「はいっ!」
 
「まっててね、わしのかわいいいかわいい孫娘ちゅわん♡」
 
「先生、キモイ。」
 
「じいちゃん!みんな!どこにいるんだよぉ!・・・・・・まいごになっちまった。」
 
ネルさんは泣きながら歩いていた。
すると!
 
「う~ら~め~し~や~。」
 
「!?」
 
後ろを振り向くと・・・・・・。
 
「い・・・・・・!」
 
なんと、本物のお化けが立っていた!
 
「ギャャャャャア!」
 
ネルさんは猛ダッシュで逃げた。
 
「ネルだ!」
 
「ネ~ル~!」
 
「先生、いいかげんにしてください。」
 
「じーちゃーん!こわかったよぉ!」
 
それから、ネルさんは、お化け嫌いになった。
 
「あれを思い出すと、ますますこわくなっちまうぜ!」
 
ネルさんは、頭をかかえている。
 
「桜吹雪のネルらしくないわね。」
 
ネルさん、一緒に行きましょう!
 
「どこに?」
 
お化け屋敷にです!
 
「えぇ~!?」
 
「真莉亜様、それ、本気ですか!?」
 
あたり前だろ、ですっ。
 
「俺のまね、すんなっ。」
 
「でもお母さん。お母さんも、お化けが大の苦手じゃないの?」
 
だ、だ、だ、だ、大丈夫だよ、きっと。
 
「その顔、大丈夫じゃなさそうね。」
 
「はぁ。お化け嫌い同士が、お化け屋敷に行ったら、どーせ、「ギャャャャア!」とか、「い―や―!」とか、「ママ~!」ってわめくだろーだから、着いて行くぜ。」
 
あのう、私、スネ夫じゃありませんから。「ママ~!」って、さけびませんから。
 
「お前、心配性なんだな。」
 
「シャラ―ップ。」
 
「だまれって言っているです。」
 
日本語でしゃべれや。
 
「貴様、この俺様に向かって、なんていう口の態度なんだ!」
 
「うっせ―。この、変態オオカミ!」
 
「なんだとぉ?この、変態王子!」
 
「あんだとぉ?クソサングラス!」
 
「やっかましい!クソ天パヤロー!」
 
「あんだとぉ?」
 
「やんのかオラ!」
 
「あ―も―!けんかはやめて!」
 
私が止めると、二人は目をハートにして、ぶりっ子ポーズをしながら、くるりと、私の方を振り向いた。
 
「はーい♡」
 
ふぅ。けんかを止めるのは、大変です。
 
「俺様も行く。だって・・・・・・。」
 
ウルフ一郎さんは、目をハートにして、私の方を振り向いた。
 
「俺様は、真莉亜ちゃんのボディーガードだからぁ♡」
 
「意味わからんこと、言うな。」
 
 

 
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